FGO × BIOHAZARD RE4 作:ダイアジン粒剤5
「お、おのれぇ……! ゴミ以下の、クソの分際で……!!」
紅黒二人の従者を連れた白髪頭の小男、ラモン・サラザールが怒りのあまり奥歯を噛み締める。
必勝、楽勝、完勝の確信を持って率いてきた、千の軍勢。
にもかかわらず、自軍の半数にも満たぬ浅葱色の羽織を着た英霊たちに敗北しかけている。
「サドラー様に、魔術師を引き渡さなければならない……! このラモンの忠誠を、偉大なる真の父に示さなければらない……!」
ラモンは、背後に侍る二人の従者に向き直る。
「行きなさい、ペサンタ、ヴェルディーゴ! 星見台の魔術師を、此処に連れてくるのです!!」
主の勅命を受けた受けた二人の従者は、前に進み出ると被っていた長いローブを脱ぎ捨てる。
――ローブの下から出てきたのは、黒白の人型の偉業。
黒いローブを纏っていたペサンタの真の姿は、白い肌の人型に昆虫の様な手足を持った異形。
頭頂部の脳が剥き出しになっており、口からは長い触手の様なモノが伸びている。
だが何よりも異形なのは、その腰から先だ。
バッタの下半身の様なモノが突き出しており、その上には長大なワームじみた虫が蠢き猛獣の如き牙を神鳴らしている。
一方の赤いローブを纏っていたヴェルディーゴの真の姿は、ペサンタと比べれば人に近い。
全身が黒い甲殻に覆われており、サソリの尾の如き尻尾を持っている。
殺戮に特化したかの如きその姿は、ともすればペサンタ以上に見るものを恐怖させる。
「行け! 邪魔者どもを皆殺しにし、魔術師を捕らえろ!!」
主君の号令に従い、二体の怪物は戦場へと駆け出す。
その脚力は他の怪物の比ではなく、驚異的な速度で標的が立つ旗へと距離を詰める。
新選組隊士たちがその進撃を止めんと立ち塞がり斬りかるが、剛腕の一振りで空高く跳ね飛ばし、速度を緩める事すら出来ない。
彼らこそ、ラモンが隠し持っていた最強の手駒。
たった二体で戦況を覆しうる、究極の切り札。
ペサンタとヴェルディーゴは一筋の矢の如く突き進み、やがて旗の下への最後の関門の如く仁王立ちする一人の男の前に出る。
重厚な甲冑に身を包み、二刀を構えた偉丈夫。
並の隊士とは格の違う威圧感を放つ男だが、二体の怪物にとっては関係ない。
どれほど鍛えていようと所詮は不完全な人の身、髙き虫の力を得た自分たちの敵ではないと確信して。
しかして確実に処理すべく、最も強力な一撃を放てる尾での攻撃を持って、怪物たちは男を一蹴しようとする。
「ここは通しません!」
だがその攻撃を男――御陵衛士にして新選組最強の一角、服部武雄は容易く弾く。
「!!」
まさか攻撃を弾かれるとは思ってもいなかった怪物たちは驚くが、すぐに思考を切り替え男を殺すべく襲い掛かる。
最強の怪物二体による、同時攻撃。
たとえ英霊の身であっても無事ではすまない猛攻だが、服部は身に着けた甲冑と二刀により、その全てを受けきる。
「我が鎧は砕けん!」
そればかりか手にした二刀を激しく振り回し、二体の怪物の巨体を大きく弾き飛ばした。
「??!!」
たかが人間の予想を超えた力に驚愕し動きを止める怪物たちだったが、服部はそれ以上の追撃をしようとはしなかった。
「私の役目はカルデアのマスターの下に敵が行かないよう、何者をも此処を通さないことです。ゆえに、私は此処を動けません」
服部の言葉を裏付けかのように、二体の怪物が切り開き作った道を伝い、武器を手にした怪物たちが集まってくる。
「なので不本意ですが、その化物たちの相手はあなた方に任せますよ。――斎藤君、永倉君」
服部の言葉に促されたかのように、二人の新選組隊士が現れる。
一人は飄々とした雰囲気を漂わせる二刀流の青年――新選組三番隊隊長、斎藤一。
もう一人は鬼面の如き鉢金を巻いた白髪の青年――新選組二番隊隊長、永倉新八。
共に新選組最強の一角である、幕末を超え明治の世まで生き抜いた猛者たち。
「――――!」
そしてその二人を前に、二体の怪物も前屈姿勢を取り完全な戦闘態勢に移行する。
最早、たかが人間などとは欠片も思わない。
主君の勅命を果たすため、絶対に排除しなければならない敵として全霊を持って殺さんと決意する。
――そして、英雄と怪物の戦いが始まった。
「ク、クソッ……! 端役の分際で、いい気になって……! あなた方の見せ場は終わっているのですよ、私の脚本ではね!!」
切り札である従者を投入したにもかかわらず妨害を受け戦局を好転させられなかったことに、ラモンは髪を掻き毟りながら怒り狂う。
そしてその怒りのまま、足を踏み鳴らして前に出る。
「こうなれば、このラモンみずからが……! 主より与えられた力、この神の力で――――」
そこまで口にした時、ラモンは背後から強烈な危険を察知し振り返る。
既にラモンの本体と化した虫が告げたのだ、後ろに敵がいると。
「お前は……」
「お初にお目にかかります」
ボサボサ頭の剣客、人斬り以蔵。
気配遮断によって戦場を横断しラモンの傍に潜み、厄介な護衛が離れる隙をずっと伺っていたのだ。
「じゃあ……死ね」
そしてラモンの中の虫でも反応出来ないほどの洗練された動きで抜刀し、そのまま必殺の一撃をラモンの青白い細首に叩き込んだ。
「ぎゃああああ!!??」
刃は過たずラモンの首に当たり血が噴き出るが、皮一枚切ったところで止まってしまう。
「ちっ、やっぱりかえ」
刀を握る以蔵の手に伝わってきたのは、巨大な岩に刃を叩き込んだかの如き硬さと重さ。
人間の中身をしていないことは一目見て分かっていたが、あの小娘から聞いていた通り、この小柄な体躯の中に想像を超える程の質量が詰まっている。
「この、無粋で蒙昧な――俗物め……!」
首から刀を抜き、大きく後ろに飛んで距離をとる以蔵。
そんな以蔵をラモンは、厚塗りの化粧の下からでも分かるほど怒りで真っ赤に怒張した顔と血走った目で睨みつける。
「ゴミ以下のクソの分際で……! 許さん……許さん……許さんぞぉぉ!!」
怒声と共にラモンの体全体が膨れ上がり、貴族服を破き、その下に隠され圧縮されていた異形の真体が露となる。
無数の触手が絡まりあって出来たかの如き胴体に、三つに裂けた巨大な口。
そして無数の牙が生えたその口の中には、先ほどまでのラモンの上半身がそのまま生えている。
肌は死人の如く真白で、頭には毛が一本もなく、さらには左目が異様なほど肥大化して側頭部に引っ付いている。
「ぶぁああああ!!」
異形の怪物と化したラモンは、真っ黒は液体を人間だった時の口から吐き出す。
消防車の放水の如き当たれば只では済まない水圧であり、更には明らかな毒物。
素早い反応で、以蔵がソレを躱す。
「はっ、中身にふさわしい姿になったのう。わしもお前みたいな奴は好かん! 何処をどう切ったら死ぬか分からんが、わしは剣の天才じゃ! どんな化け物じゃろうが、此処で始末しちゃる!!」
そう言うと以蔵は刀を大上段に構え、蜻蛉の型をとる。
巨大な化け物を退治する以上、まずは一番攻撃力の高い技からだ。
「天、誅ぅっ!!」
示現流必殺の一撃が、怪物の三つに裂けた大口を切り裂いた。