それでも良ければドゾー。
チーグルの森の入り口、少し入り込んだ場所でやっとイオンに追いついた。
「一人でチーグルの森へ来るなんて無茶しましたね。導師」
「チーグルは我が教団の聖獣です。人に害をなすなんて何か事情がある筈です。チーグルに縁がある者としては放っておけません。」
筋金入りの頑固者だな。こりゃ。
「仕方ありませんね。私たちもついて行きましょう」
「何を言っているの!? イオン様を危険な場所にお連れするなんて!!」
「だったら彼をどうするんです? 村へ送って行った所で、また1人で森へ来るに決まってる」
その後も止めようとするティアと残ろうとするイオン、イオンに賛成する俺の3人で侃々諤々と意見をかわしたが、2人に押し切られる形でティアもついてきた。
森をだいぶ進んだ先に大木があり、その周囲には焼き印の入ったリンゴが散乱していた。
「エンゲーブの焼き印……やはりチーグルが犯人で間違いない様ですね」
「この木の中から獣の気配がするわ」
「恐らくチーグルでしょう。木の幹が住み処になっているのですね」
そう言うとイオンはスタスタと歩いて開かれた大木の幹、その中に入って行く。その姿を見た俺達二人も慌ててイオンを追った。
大木の中には数え切れない程のたくさんのチーグルが居た。それぞれにミュウミュウと泣いてやかましい事この上ない。ティアは一人かわいい、とかつぶやいては身悶えている。放っておこう。
「ここまでやって来たはいいですが、相手は魔物ですよ。言葉が通じないのでは?」
「チーグルは教団の始祖であるユリア・ジュエと契約し、力を貸したと聞いていますが……」
そんな話をしていると大勢のチーグルが左右に分かれて、奥からしわがれた声が聞こえてきた。
「……ユリア・ジュエの縁者か?」
「魔物が喋った!?」
ティアが驚いた声を上げる。
「ユリアとの契約で与えられたソーサラーリングの力だ」
「僕はローレライ教団の導師イオンと申します。貴方はチーグル族の長とお見受けしましたが」
「いかにも」
「長さん。俺はルークだ。あんたらエンゲーブの村から食料を盗んだだろう」
自己紹介もそこそこに盗難事件について問いかける。
「なるほど、それで我らを退治に来たという訳か」
盗んだ事は否定しないのか。
「チーグルは草食でしたね。何故人間の食べ物を盗む必要があるのですか?」
「チーグル族を存続させる為だ」
答えになってないぞ長よ。さっさとキリキリ話さんかい!
「我らの仲間、まだ子供なのじゃが北の森で火事を起こしてしまった。その結果、北の一帯を住み処としていたライガがこの森に移動してきたのだ。我らを餌とするためにな」
「では村の食料を奪ったのは、仲間がライガに食べられない為なんですね」
「……そうだ。定期的に食料を届けぬと、奴らは我らの仲間を攫って喰らう」
「ひどい……」
イオンはチーグルに同情的な様だ。んがしかし
「そうかな? 単にチーグルの自業自得ではないですか? ライガにとっては自分の住処を突然燃やされたのですからね。怒髪天を突くでしょう。それを考えればむしろライガの対応は温厚とさえ言える」
「確かにそうかも知れませんが、本来の食物連鎖の形とは言えません」
いや確かにそうなんだけどさ、最初にそうしたのはチーグルだろ? って話だよ。
「それで? 事件の真相が分かった訳ですが。導師、あなたはどうなされるおつもりですが?」
「ライガと交渉しましょう」
「魔物と……ですか?」
ティアが驚いた顔をして呟く。
「なるほど、ソーサラーリングを持ったチーグルを一匹連れて行くと言う訳ですね」
それは分かったが……ここで強く言っておくか。俺は勢いよく手を上げるとイオンに向かって言った。
「すみません! 導師、貴方は交渉するとおっしゃいましたが……具体的にライガにどの様な条件を出されるおつもりで?」
「条件……ですか? 僕はただ、この森から出て行って貰う様にお願いしようかと」
やっぱりな。そんなことだろーと思ったよ。俺は呆れながら言葉を押し出した。
「あのですね……導師、それは交渉とは言えません。ただの伝達です。しかも言っている内容が酷すぎる。分かりやすく人間で例えてみましょうか。一組の親子が居たとします。その子供が火遊びをしていて他人の家に火をつけて全焼させてしまいました。家を燃やされたその他人は怒り狂います。そして親子達に『自分の家が焼けてしまったのだ。お前の家に住まわせろ』と言います。親子達は了承し、家の中の一室を間借りさせます。次に他人は『自分の家に置いておいたお金、生活用品、食料。全て燃えてしまった。弁償しろ』と言います。するとその親子達はあろう事か第三者の家からお金や物や食料を盗んできてそれを他人に上げるのです。そこに導師が登場します。導師はこう言います『親子達が盗みを働くのをもうやめさせるつもりです。これ以上親子達は貴方に弁償しませんから。あ、あと間借りしている部屋も出て行って下さいね。早急に。代わりの住む家や部屋? 無いですよそんなものは。何故私や親子達が代わりの住む場所を探さないといけないのですか? 自分で探して下さいね』……これを言われた他人の気持ちが導師には分かりますか?」
あー、長く喋って疲れた。でもこれだけ言えばライガとチーグルの関係も少しは理解してくれるだろう。案の定イオンは顔を青白くさせて突っ立っている。
「まあ、だいぶきつい事を言いましたが……解決方法なら一応ありますよ」
「え!? 本当ですか!?」
イオンは俺の言葉に救いを見いだした様で喜んだ。……あんまオススメできる様な良い案じゃないんだが。
「ええ。まず、導師がエンゲーブに行きます。そして導師の権限でもってチーグルが盗んだ全ての作物や肉などの被害総額をダアト……つまりローレライ教団の運営資金でもって弁償します。これでチーグルの罪は帳消しにならないまでもかなり軽減されるでしょう。エンゲーブの住民達も元々作物等は売ってお金にするというか貰うはずだったんです。お金さえ貰えば大抵の人は納得できないまでも妥協するでしょう」
「お金……ですか。でも」
予想通りイオンは渋い表情になった。
「次に、今エンゲーブにある出荷予定の作物等をこれも又買います。そしてその作物等をエンゲーブの人達にチーグルの森へ運んで貰う様にします」
「え!?」
「つまり、他の町やキムラスカ等の他国に売る筈の作物等をダアトがお金を出してチーグルに届けさせるんです。チーグルは森に届いた作物等をライガの元へ運びます。そうすればこの問題は解決します。」
「でもルーク、それって……」
さすがに見かねたのかティアが口を挟んでくる。
「ええ、お金を出すダアトが一方的に損をしますね。お金は出す。でもその対価はダアトに届かない訳ですから。でも……」
そこで一度言葉を切り、ためる。
「でもローレライ教団は、教団が掲げる聖獣チーグルのイメージを守る事が出来ます。今エンゲーブではチーグルの印象は地に落ちているでしょう。そこをさっき言った買い上げで改善するんです。ダアトはエンゲーブにこう言います。チーグルは悪くない。事情があったんだ。だから聖獣チーグルを悪く思わないでくれ。これまでと変わらず『聖獣』と思ってやってくれ……とね。言い方は悪いですがお金で印象を買う。イメージを守るんですよ」
「…………」
「…………」
二人共絶句している。無理もないか。
「ただ問題もありますがね。導師の権限が強いとはいえ、一党独裁ではない。教団にも幹部がいらっしゃる。詠師がそれに当たりますね。教団の運営費を捻出する為には詠師達を説得しなければならない。つまり……今すぐ導師はダアトに帰る必要があります。あなたにそれが出来ますか? マルクト軍の大佐と一緒に居てなにやら用事があるご様子の貴方が」
「僕は……」
「導師! 考え込まないで下さい! ルークの言っている方法は滅茶苦茶です。深く考える必要はありません!」
ティアがイオンに声をかける。まー確かに無茶苦茶な方法だよな。でも……
「しかし、確かにこの方法なら問題は解決できます。でも僕は……」
おっとイオンは意外にもこの方法を認めてくれた様だ。でも無理だろうな。チーグルがライガに殺されない為には今すぐダアトに戻らないといけないが、マルクトの事を考えるとそれは出来ないもんな。
……その後もあーでもないこーでもないと話し合っている所にジェイド大佐と護衛役のアニスが追いついて来た。結局イオンは迷っている間にエンゲーブまで連れ帰される事になった。
作者はミュウが好きです。でもそれはどんな時にもルークの傍についていて心の支えとなり続けた所が好きなのであって、このライガの住み処を燃やしてしまった一件に関してはミュウが悪いと思っています。ミュウがっつーかチーグル族全体が、ですね。子供でも火が吹ける様になるソーサラーリングをちゃんと管理してなかった事も、ライガが食料を要求した時にエンゲーブの人達から盗んだ事も。原作ゲームだと最後までいってもチーグルはエンゲーブの人達に謝ったり補償をしたりしませんからね。盗んでそのままです。エンゲーブの住人からしたらふざけんなって話ですよね。
それと……自分で書いておいてなんですが、この転生ルークすごい気持ち悪いですね。本来であれば起こさない様な行動を、制作者である私の都合で動かしているので書いていてすごい気持ち悪かったです。