臆病な転生ルーク   作:掃き捨て芥

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 今回から人との戦闘描写。殺人描写があります。苦手な方はご注意下さい。


第7話 艦上での戦い

 和平に協力すると約束したため、俺達に対する警戒は解かれ武器も返して貰えた。

 

「ルーク。和平への協力、感謝します。」

 

 解放されて自由になった俺にイオンが話しかけてきた。今は公式の場ではないのでフランクに対応する。

 

「お礼なんかいーよ。イオン。誰だって戦争が起きるのなんて嫌だろ。それに俺には公爵子息って身分もあるからな、“公爵子息が和平の協力を断った”ってなると又ややこしいことになるし」

 

 そうやって話し合っていると不意にイオンが扉の方を向いた。

 

「難しい話が続いて疲れましたね。少し外に出て風に当たってきます」

 

 そう言って船室の外に出て行こうとするイオン……と全く付いて行こうとする様子がないアニス。

 

「ちょっと待ったイオン。それとタトリン奏長……だったか。さっき言った事をもう忘れているぞ。護衛はちゃんと連れて行かないと。タトリン奏長。貴方は導師イオンの護衛役でしょう? いついかなる時も導師のお傍を離れないようにしなければいけない立場でしょう?」

 

 イオンをたしなめると同時にアニスの職務怠慢ぶりも責める。

 

「あ、はわわぁ。すいませんでしたイオン様」

 

「いえ、いいのです。僕も不注意でした」

 

 不注意でした。じゃなくてだな、ちゃんと叱らないといつまで経っても覚えねーぞ!

 

「どうせなら俺達も一緒に行きましょうか。俺も風に当たりたいですし。それに艦内とはいえ万が一という事もありますから」

 

 この後の展開が分かっている俺はそう言ってしれっと二人に同道した。もちろんティアも。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 甲板に出てビュウビュウと吹く風に当たりながら世間話をする。と言っても俺に出来る話なんてあの狭い屋敷の話だけどな。土いじりが好きで花をたくさん育てているペールや、音機関(譜業)が好きな使用人のガイ。執事やメイド、白光騎士団達との触れあい。剣術稽古の内容などを語った。同じくダアトの教会から中々外に出ることが出来ないイオンは興味深そうに聞いていた。

 しかし俺は話しながらも緊張していた。原作知識が確かならこの後に神託の盾(オラクル)騎士団が襲撃をかけてくる筈なのだ。俺はそれに備えていなければならない。

 

「ルークのお屋敷は楽しそうな事ばかりですね」

 

 笑いながら話すイオン。だけど俺にはそんな余裕はねーってばよ。傍には俺からジェイドに言って付けて貰った二人のマルクト兵士もいるが不安はぬぐえない。

 ……その時だった。甲板に警報が鳴り響いたのは。ビーッビーッと甲高い音で鳴り響く警報は、俺が想定していた敵の襲撃があった事を意味していた。

 

「これは、警報!?」

 

 ティアとアニス、二人のマルクト兵は突然の警報に対して臨戦態勢を取る。

 

「イオン、急いで艦内に戻ろう。カーティス大佐の元に……っ!」

 

 俺がそう言った時に、船が大きく揺れた。まるで巨大な何かにぶつかったかの様な音が響く。立っていられない程ではないがバランスを崩しそうになる揺れがやっかいだ。それと同時に空から神託の盾騎士団の軍服を着た兵士がグリフィンという空を飛ぶ魔物につかまって登場した。又、大きな体躯を持つライガが同じく兵士を背中に乗せて甲板に上がってきた。

 

(甲板に上がって来た!? まさかこのライガ、地面からタルタロスの壁を駆け上って来たのか!? なんてこった)

 

 驚いている暇は無かった。敵はこちらに導師イオンの姿を確認すると、着地もそこそこに襲いかかってきたのである。

 

「導師イオンを渡して貰う!!」

 

(まずい、まずい、まずい、まずい。敵はグリフィン一体、ライガ二体、オラクル兵二人。この陣容で襲われたら……)

 

 俺の背中に冷たい汗が流れた。原作ではイオンもアニスも無事だったので安全を過信していたのだ。彼我の戦力では……負ける事もありうる。負ける。死ぬ。俺が、死ぬ?

 

(……やらせるかっ!!)

 

 俺は左手で背中に吊した剣を抜くと体の前に構えた。神託の盾兵二人は味方のマルクト兵と向かい合っている。ライガ二体とグリフィンが野放しになっている。

 

「タトリン奏長はイオンの元を離れるな! ティアさんは【ナイトメア】でライガを、俺はグリフィンを狙う!」

 

 素早く指示を出すと俺はライガの攻撃が届かない位置取りをしてグリフィンを迎え撃った。今一番やっかいなのは空を飛べるこいつだ。今万が一にも死んではいけない人物。それはイオンだ。神託の盾兵はイオンに攻撃しないだろうが、この魔物は分からない。大丈夫かも知れないが、“大丈夫だろう”と安心していてイオンを攻撃されたら目も当てられない。

 俺はこちらに向かって飛んでくるグリフィンの速度を測ると両足に力を込めて飛び上がった。

 

「はあっ」

 

 飛び上がりつつ斬り上げるジャンプ攻撃で敵の右翼を斬りつける。そのまま頭上まで振り切った剣を返し落下しながら左翼を斬りつけた。

 

「てやぁっ」

 

 両方の翼を斬られて甲板に落ちたグリフィン、ここが狙いどころだ。俺は着地してぐっと曲げた両膝に力を込め、その力を前方に解放した。

 

「瞬迅剣!」

 

 両膝のバネと全身の力を使って前方に飛び出しながら放つ突き。これがとどめとなった。グリフィンの体を剣が貫き、その体が消滅した。よし。

 

「ぐあぁあ!」

 

 悲鳴が上がった。振り返ると敵兵と斬り結んでいるマルクト兵が、後ろから一体のライガに爪を振るわれ背中に傷を負っていた。もう一体のライガは……!? 紫色の音素がまとわりついていた。ティアの【ナイトメア】が効いているようだ。なら俺はあのライガを倒す。背中に傷を負ってもなお敵兵とつばぜり合いをしている兵に声をかける。

 

「俺がライガを倒す! 少しの間だけ持ちこたえてくれ!」

 

 こちらに背中を向けているライガに素早く三回の斬撃を食らわせ、そのまま技に連携させる。

 

「通牙連破斬!!」

 

 左肩の上に引いた剣を振り下ろした後に右手で烈破掌を当て、吹き飛ばすと同時に体の右足付近まで振り下ろした剣を返して飛び上がりながら逆袈裟斬りに斬り上げる。双牙斬と烈破掌を組み合わせた奥義で、敵を大きく吹き飛ばすと同時に斬りつける技だ。

 俺は吹き飛んだライガが起き上がるかもしれないので油断なく構えていた。武道で言う所の残心だな。ちょっとのミスでも死にかねない世界なのだ。油断なんてとんでもない。幸いライガは耐久力以上のダメージを負ったらしく少しして消滅した。それを確認した後、素早く体を返しティアが【ナイトメア】で持ちこたえているライガに向かって行く。先ほどの個体は三連撃と通牙連破斬で撃破できたのだ、余程の個体差が無ければ同じコンボで沈められるはずと思い同じ攻撃を放った。

 よし。ライガ二体は撃破出来た。

 

「ティアさん、神託の盾兵に【ナイトメア】を!」

 

 ティアに声をかけて敵兵へ向かって行く。傷を負って動きが鈍い方のマルクト兵を援護すべく、敵に斬りかかった。ザクッと音がして敵の左腕に切り傷が刻まれる。バランスを崩した敵の隙を見逃さず、相対しているマルクト兵が剣で敵の武器を弾き飛ばした。

 チャンスだ。と思ったのだろう。後から考えれば敵の隙が見えたので反射的に体が動いたのだ。俺は深く思考する事なく敵に向けて突きを放っていた。

 

「ぐふぅ。がぁあ」

 

 俺は……俺は敵の神託の盾兵の胸を剣で貫いていた。先ほどのグリフィンと同じ。だが相手は人間だ。だと言うのに俺はためらう事なく剣を突き出していた。

 古来より、人を暗殺する際は斬ではなく刺をもってせよ。とは前世の時代小説か何かで読んだ知識だったか。人の体を斬ると言うのもそれはそれで大きなダメージになるが確実ではない。一命を取り留める可能性がある。それに比べで刺殺は確実に相手の息の根を止めるのだ。刺した場所が心臓で無くても、どこの臓器だったとしても体の前面から背中まで刃物で貫かれたらそりゃー死ぬわって話だ。その事が頭の片隅にでもあったのか、俺の体は敵を貫く様に剣を押し出していたのだ。

 

 体を刺し貫かれた敵はうめき声を上げながら倒れ込んでいった。俺に助けられた形のマルクト兵は傷を負った体を引きずりつつ最後の敵兵に向かって行く。俺もそちらへ行くべきだ。三対一で相手をするべきだ。と思いつつも体が動かなかった。俺の目は、意識は倒れ込んでいる方の敵兵に釘付けになっていた。

 しばらく後、似た様なうめき声を上げながら最後の敵兵は倒れた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 はぁはぁはぁっ。自分の呼吸がうるさい。俺は……俺は人を殺した。今自分のズボンの中にある帳面(ノート)にはこれから起きる事、それに対する俺の対応などが全て書かれている。その中には人との戦闘も含まれるし、自分が人を殺すことも想定されていたはずだ。

 

(だって言うのにこの有様か。なっさけねえなぁ)

 

「ルーク? どうしたの? 貴方もどこか怪我をしたの?」

 

 負傷したマルクト兵に【ファーストエイド】をかけて治癒しているティアが冷静にこちらに言葉をかけてくる。……畜生。なんでそんなに冷静な顔をしていられるんだ。そういや原作でもここではティアとジェイドがルークに人殺しを強要していたっけ。

 ……ふざけんな。お前らは平気で人を殺せる軍人かもしれないけれど俺は今初めて人を殺したばっかりの人間なんだよ。人の命を奪ったんだから、自分が民間人だから~なんて甘えた事を言うつもりは無い。けれど初めての殺人で動揺するのは普通だろ? それを当たり前みたいな顔で見てくん……。

 がつっと音を立てて自分の頭を殴り飛ばした。その場に居た全員がこちらに目を向けるのを意識しながら深呼吸する。すーっはーっ。動揺してるからってティアに八つ当たりすんな。この馬鹿が。

 

「ル、ルーク? どうしたの?」

 

「いや……すまない。俺はこれが初めての実戦だったからな。少し動揺したんだ。でももう大丈夫。大丈夫だよ」

 

 その後も大丈夫、大丈夫と繰り返し自分に暗示をかけようとする。冷静になれ。ここはほんのちょっとのミスでも死ぬ世界だ。冷静になれ、冷静になれ、冷静になれ。ほら、イオンなんか心配そうにこっちを見てるじゃねーか。

 

「……よし。もう大丈夫だ。そちらの兵士さんの回復が終わったら急いで艦内に入ろう。この艦内で最も強い戦闘力を持つのはカーティス大佐だ。彼の傍に行けば当面は安全なはずだ。」

 

 ええ、そうね。とティアがうなずくと同時に治癒が完了したようだ。治癒術の光が収まっていく。そこで俺は顔を青くして、倒れている死体を見ているイオンに気づいた。

 

「導師イオン……この襲撃、神託の盾騎士団のものの様ですが、まさか大詠師派が?」

 

「…………ええ、恐らくそうでしょう。マルクト軍に協力して和平を行う僕を狙って……」

 

 ティアは自分の上司の名前が出たので不服そうな顔をしたが、今は発言する時ではないと悟ったのか黙っていた。

 

 そうして俺とティア、イオンにアニス、二人のマルクト兵はジェイドを求めて艦内へ入って行った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ジェイドが居るであろう船室に向けて廊下を早足で進んでいると、こちらに背中を向けた巨躯の男が目に入った。……黒獅子のラルゴ!! やはり入り込んでいたか!!

 ラルゴは両手にもった大きな鎌を振るうと自分の前に居た二人の兵士を吹き飛ばした。

 

「荒れ狂う流れよ――スプラッシュ!!」

 

 その一瞬の空白を見逃さず、ジェイドが水の中級譜術を唱える。中級なのは艦内で大規模な譜術が使えないからか? いや前衛の二人だけでは上級譜術を唱える詠唱時間が確保できないと思ったのかも知れない。だがとにかくジェイドの譜術はラルゴを捕らえた。この隙を逃してはならない!

 俺は既に抜刀済みの剣を握りつつ全力で走った。そして、

 

「ラルゴォォォー!!」

 

 大声で名前を叫びつつこちらに注意を向けさせる。スプラッシュに打たれながらも俺に気づいたラルゴは振り返ろうとする。そこにむけてジャンプして剣を振るった。跳躍して落下する位置エネルギーと全身の体重を剣に宿し全力で斬りつける!

 ガギリ、と音がしてラルゴの持つ大鎌の柄に剣がぶつかる。そこへ歌声が響く

 

 トゥエ レィ ズェ クロア リュオ トゥエ ズェ……

 

 ティアの【ナイトメア】だ。あらかじめ艦内に入る前に言っておいたのだ。敵と遭遇したらすぐさまナイトメアを詠唱して欲しいと。

 

「ぐっ」

 

 俺の全力攻撃を受け止めたラルゴの頭に鈍痛と眠気が襲いかかる。……今だ!!

 

「ジェイド!!」

 

 俺が叫ぶよりも早くこちらに動き出していたジェイドは、虚空から取り出した槍でラルゴの体を貫いた。

 

 




 主人公初めての人殺し。原作とはちょっと場面が違いますがね。人としては当然の様に動揺はしますが、七年間の計画段階で人を殺すことも想定していたのでなんとか表面上は平静を取り戻す事に成功した様です。
 今回初めて奥義を使いましたが、5話で主人公が言っている様に彼は原作ゲームでルークが使える技を全て記憶しています。なので基礎がしっかりしていればそれらの技を使うのも可能という訳ですね。
 余談になりますが、私はこのタルタロスでのティアとジェイドのルークに対する態度が大嫌いです。ルークの中の人である声優の鈴木千尋さんはデオ峠~アクゼリュスでルークの態度があまりにも酷いのでゲームを投げそうになったそうですが、私が初めてプレイした時はここでコントローラーぶん投げそうになりました。……お前らが人を殺すのが平気だからってそれを他人に強要してんじゃねーよ、と。あまりにむかついたのでその後のオラクル兵との戦闘でルークを戦わせなかったらあっさり2人とも戦闘不能になっちゃったし。まあそれはおいておくとして、とにかくここの二人の態度はあまりに気にくわないものでした。ですけれど、だからこそこの作品ではそこを突っ込むシーンは入れませんでした。入れてしまうとあまりに自分の感情が文章にのってしまう気がして。
 なお、タイミングや前後の状況で気づいた方もいらっしゃるでしょうが、ジェイドは封印術(アンチフォンスロット)を食らっていません。LV45のままです。

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