臆病な転生ルーク   作:掃き捨て芥

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 この話は本編とは何ら関係ないIF話です。もし転生ルークがカイツールの軍港へ行っていたら、というもしもの可能性の話です。いつもよりクオリティが低いです。駄文です。ほとんど会話劇になります。
 それでも良ければドゾー。
 又、活動報告のEDの解釈にコメントを寄せて頂いた方、ありがとうございました。それに対する私の返信を投稿してあります。良ければ見て下さい。



第10.5話 IF話 原作エピソード消化 カイツールの軍港

 その現状は酷いものだった。施設が破壊され、兵士は血に塗れて倒れている。倒れているのは兵士だけではなく、魔物のライガもいる。炎が舞い、血と煙でむせかえる臭いが立ちこめている。

 

「やっぱり来たのね、妖獣のアリエッタ」

 

 ティアが杖を構えながら言う。

 

「なになに? 根暗ッタと何かあったの?」

 

 ……なぁアニス。俺はお前の事は嫌いじゃないが、その自分より役職も年も上の人間を根暗と呼ぶのはどうにかならんのか。何というか、お前の性格の悪さがにじみ出ているようで良くないぞ。

 

「フーブラス川でも襲ってきたんだよ。その時はあの子、障気にやられて倒れちまったんだが……」

 

 ガイが説明する。フーブラス川で一度相対したが、地震が起きて障気が噴出したのだ。それによってアリエッタは倒れたのだが……。

 

「僕がお願いして見逃して貰ったんです」

 

 イオンの表情は暗い。そりゃそうだろう。あそこで見逃したせいで今ここで死人が出ているのだから。

 

「こうなる事は分かっていたんですが、過ぎた事ですし、その件はもういいでしょう」

 

 ジェイド、死人が出ているこの状況で過ぎた事ってのはどうなんだ。まあお前からしたらキムラスカの施設や人が破壊されようがどうでもいいのかも知れないけれど。

 

(イオンが止めたとしても殺しておくべきだったか)

 

 物騒な事を考えながら、港の埠頭へ足を進める。

 

「アリエッタ! 誰の許しを得てこんなことをしている!」

 

 埠頭で少女に剣を向けているのは俺の師匠(せんせい)にして主席総長のヴァン・グランツだ。剣を向けられた少女は少し不気味なぬいぐるみをきゅっと抱きしめている。

 

 俺達の姿を確認したヴァンは、お前達か、と言って剣を鞘に収めた。おいおいおいおい、なんで剣を収めるんだ。そこは部下だろうが何だろうが斬りかかるべき所だろ。

 

「総長……ごめんなさい……。アッシュに頼まれて……」

 

「アッシュだと……?」

 

 ヴァンはいつになく驚いた様子だった。そりゃそうだろうな。この行動は俺の知識が正しければアッシュの独断の筈だ。そう思っていると空から飛んできた魔物がアリエッタの体をさらう。

 

「船を修理出来る整備士さんはアリエッタが連れて行きます。返して欲しければ、ルークとイオン様がコーラル城へ来い……です。二人が来ないと……あの人……殺す……です」

 

 アリエッタはたどたどしく言葉を紡ぐと、自分を掴んだ魔物によって空の彼方へ飛び去った。アリエッタと共に魔物達も去ったのだろう、それまで続いていた戦闘の音が消える。

 

「ヴァン謡将、船は?」

 

 ガイが尋ねる。

 

「すまん。全滅の様だ。機関部の修理には専門家が必要だが、連れ去られた整備士以外となると訓練船の帰還を待つしかない」

 

「アリエッタが言っていたコーラル城というのは?」

 

「私の所、ファブレ公爵家の別荘ですよ。前の戦争で戦線が迫ってきて放棄したそうです。更にいうならば七年前に誘拐されて行方不明になった私が発見された場所でもありますね。……もしかして直接その場所を見れば何か思い出すかも知れません」

 

 ジェイドの質問に答え、加えて七年前の誘拐についても教えてやる。

 

「行く必要はなかろう。訓練船の帰港を待ちなさい。アリエッタの事は私が処理する」

 

 処理……処理ね。出来る事なら殺して欲しい所なのだが。

 

「……ですが、それではアリエッタの要求を無視する事になります」

 

「今は戦争を回避する方が重要なのでは?」

 

 イオンがややムキになりながら反論したが、ヴァンの正論で抑えられてしまった。

 

「ルーク。イオン様を連れて国境へ戻ってくれ。ここには簡単な休息施設しかないのでな。私はここに残り、アリエッタ討伐に向かう」

 

 言ってる事はそこまで間違っちゃいない。けどな、お前が仕切るなよ。ヴァン。

 

「ヴァン謡将。国境へ向かう前に私はここの軍責任者に事情の説明をしていきます。あなたはダアトの人間だ。私はキムラスカの貴族として軍責任者に説明する責務があります」

 

「……分かった」

 

 おい何だその間は。俺に反論されるとは思ってもみなかったのか? 生憎俺はあんたの操り人形でも何でもねーぞ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 軍港の責任者であるアルマンダイン伯爵に簡単に事情を説明し終わり、国境へ向けて軍港を後にしようとした時だ。

 

「お待ち下さい! 導師イオン!」

 

 二人の男……多分ここの整備士だろう。俺達の行く手を塞ぐように立ち止まった。

 

「導師様に何の用ですか?」

 

 アニスがイオンの前に出て問う。おお、実に護衛っぽいぞアニス。

 

「妖獣のアリエッタに連れ去られたのは我らの隊長です! お願いです! どうか導師様のお力で隊長を助けて下さい!」

 

「隊長は預言(スコア)を忠実に守っている、敬虔なローレライ教の信者です。今年の生誕預言でも、大厄は取り除かれると詠まれたそうで安心しておられました」

 

 二人はどうしても隊長を助け出して欲しいのだろう。懸命に直訴してきた。

 

「お願いします。どうか……!」

 

 イオンはそれに対してゆっくりうなずいた。

 

「……分かりました」

 

 分かっちゃうんだ。それは駄目だと思うけどなぁ。今のイオンには自由に動かせる神託の盾(オラクル)兵がいないんだぜ? 自分の護衛役であるアニスは側を離れさせてはいけないし。そう考えるとこの場に居るティアぐらいか? イオンが自分の裁量で動かせる私兵は。

 

「よろしいのですか?」

 

 イオンの意思を確かめる様にジェイドが発言する。

 

「アリエッタは私に来るよう言っていたのです」

 

 イオンは変わらず堅い口調で答える。するとティアも口を開いた。

 

「私もイオン様の考えに賛同します。厄は取り除かれると預言を受けた者を見殺しにしたら、預言を無視した事になるわ。それではユリア様の教えに反してしまう。」

 

 こーいう所が典型的なローレライ教団の信徒というか大詠師派というか。ただ単に「命の危険に瀕している人を助けたい」でいいじゃねーか。それを預言だの何だのとさぁ。それじゃあ預言で死ぬと詠まれていたら助けないのかよ。大事なのはユリアの教えに反するかどうかじゃないだろうに。

 

「確かに預言は守られるべきですがねぇ」

 

 ジェイド、お前もか。

 

「あのぅ、私もコーラル城に行った方がいいと思うな」

 

 お前は賛同しちゃ駄目だろ護衛役! ここに居るメンバーだけでコーラル城に向かって万が一の事があったらどーするんだ。お前はイオンの身の安全を第一に考えるべきだろーが。

 

「コーラル城に行くなら、俺もちょっと調べたいことがある。付いてくわ」

 

 ガイまでそう言った。あのさぁお前俺の家の使用人で俺の護衛だろ? それが何で主人の意向も聞かずに単独行動しようとしてんの? 馬鹿なの? 死ぬの?

 

「どうやら皆さんの間では行く流れになっている様ですが、私は行きませんよ?」

 

 内心の怒りを押し殺しながら言葉を吐き出す。

 

「アリエッタは貴方にも来るように言っていましたよ」

 

 なんだそりゃ。もしかして俺を非難してるのか? だとしてもそんな言葉や視線なんて全然効かないね。

 

「テロリストの要求には黙って従えと? 残念ながら私は自分の命が惜しいので国境で待っていますよ」

 

 そこまで言った所で場の皆の視線がこちらに向く。

 

「隊長を見捨てないで下さい! 隊長にはバチカルに残したご家族も……」

 

 しつけーぞ整備士。

 

「コーラル城には妖獣のアリエッタと彼女の使役する魔物達、それに彼女以外の六神将……最低でも指示したと言う鮮血のアッシュがいるでしょうね。それで? ここに居るメンバーで向かって全員殺されたらどうするんです? 皇帝の勅命を受けた和平の使者、要請を受けて和平に同行している導師、偶然居合わせたキムラスカの王族。皆死んでしまったらキムラスカ、マルクト、ダアトを巻き込んだ国際問題になるでしょうね。ダアトの人間に和平の死者を殺されたとなればマルクトも黙ってはいないでしょうし、ダアトの人間にキムラスカの王族が殺されたとなればキムラスカとダアトで戦争になるかも知れませんよ?」

 

 戦争が起きる、と脅すと整備士達は目に見えてうろたえた。

 

「貴方達が隊長を大事に思っている事はよーく分かりました。ですが気づいていますか? 貴方達はダアト自治区の代表、ローレライ教団の最高責任者に無防備な状態でテロリストの元へ向かえ、自分達の整備隊長を取り返してこいと言っているんですよ? 貴方達のその不用意な発言で導師が死んでしまったら貴方達はどう責任を取るつもりなんです?」

 

 二人の整備士を責める様に何度も言葉を放つ。

 

「…………」

 

「…………」

 

 二人を黙ったのを確認して俺はイオンに向き直った。

 

「導師イオン、貴方がどうしてもコーラル城に行きたいというなら自由にされるといいでしょう。貴方の行動を止められる個人などこの世界にはほとんどいませんからね。ですが私は絶対に行きませんよ。アリエッタに殺されたくはないですからね」

 

「アリエッタは……っ!」

 

「アリエッタは? 何ですか? 私達を傷つけないとでも? この惨状を見て下さい。カイツール軍港は彼女と彼女の操る魔物によって壊滅していますよ。死傷者も出ています。それでも貴方はアリエッタ一人をかばいますか? この事件で死んだ人やその家族に向かってアリエッタは悪くないとで言うんですか?」

 

 強めの言葉でイオンを制すると、それじゃあ俺は国境へ向かいますから、と言って国境の方角へ歩き出した。

 

 




 原作の中でも中々に酷いカイツール軍港のイベント。制作側はローレライ教団の導師を絶対不可侵の偉い人として描きたいのか、この話の様にそこら辺の整備士に使いっ走りさせられる程度の人物として描きたいのかが分からん。場面によって導師の立場を都合良く変えすぎなんですよね。導師が偉い人だとしたら、ローマ法王に「あそこに立てこもっているテロリストと直接会って交渉してきて下さい」と言う様なもんですからね。アホかと。


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