臆病な転生ルーク   作:掃き捨て芥

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第17話 偽姫騒動

 今俺はバチカルに戻って来ていた。あれだけの事を言っていたのになんでバチカルに帰ってるんだ! と思われるだろうがこれにもちゃんと理由があるのだ。とりあえず皇帝達との話し合いにまで話を戻そう。

 

 

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 ユリアシティへの見学隊やアクゼリュスの調査隊が組織され始めた頃、俺はまた皇帝と話をする事になった。

 

「セントビナーが、落ちる?」

 

「はい。俺の想定する様にアクゼリュスのパッセージリングを破壊し、周辺の大地を崩落させると、連動してセントビナーが落ちるのです」

 

 俺は身振り手振りを交えながら説明した。

 

「四本足のテーブルを想像してみて下さい。そのテーブルの足を一人一人が持って持ち上げる図を。誰か一人が急に手を離したとします。他三人に一気に負担がかかるのは簡単に想像がつくと思います。それと同じです。アクゼリュスのセフィロトツリーが消滅すると、大陸を持ち上げる浮力がその分失われるので、隣にあるセントビナー周辺の土地が崩落を始めるのです」

 

 原作ではレプリカ・ルークがヴァンに操られて行ったアクゼリュスの崩落、だがこの世界ではまだアクゼリュスは崩落していない。……アクゼリュスの住民も死んでいない。それは喜ばしい事であると同時に原作と違った展開になると修正作業が大変なのだ。だが目指すは全ての大陸を無事に降下させる事だ。

 

「セントビナーが危ない……か。しかしそれにも対策はあるんだろう?」

 

「はい。アクゼリュスのパッセージリングを破壊できれば、セントビナー周辺の土地を支えるセフィロト、セントビナーの東にあるシュレーの丘という場所ですが、そこのパッセージリングを操作出来る様になります。なのでシュレーの丘のリングを操作してセントビナー周辺の土地だけ先に降下させます。その俺の想定通りに事が運ぶのなら、セントビナーの住民は先に避難させた方が良いですね」

 

 原作では崩落が始まってから避難し出していたが、俺の知識があるこの世界ではあらかじめ避難する事が出来る筈だ。……皇帝が俺の言葉を信じてくれれば、の話だが。

 

「セントビナーの住民を避難させる、か。そりゃ大事だな」

 

「加えて、です」

 

「ん?」

 

「アクゼリュスの崩落は話した様にローレライ教団の秘預言(クローズドスコア)で、キムラスカ上層部が待ち望んだ事です」

 

ND2018。ローレライの力を継ぐ若者、人々を引き連れ鉱山の街へと向かう。そこで若者は力を災いとし、キムラスカの武器となって街と共に消滅す。しかる後にルグニカの大地は戦乱に包まれ、マルクトは領土を失うだろう。結果キムラスカ・ランバルディアは栄え、それが未曾有の大繁栄の第一歩となる。

 

「アクゼリュスはキムラスカの武器となって消滅する。そしてルグニカの大地は戦乱に包まれる……か」

 

「ええ。キムラスカは未曾有の大繁栄を引き起こしてくれるその戦争を心待ちにしているのです。その為アクゼリュスのパッセージリングを破壊したら、すぐにキムラスカとの戦争について準備しなければなりません」

 

「ふっ。キムラスカの王族である貴君からそう言われると複雑な気分だな」

 

 戦争は止められない。マルクトがやりたくなくてもキムラスカが仕掛けてくるのだから。そして原作知識を持つ俺であろうと戦争を起こそうとするキムラスカは止められない。どうしようもないのだ。

 

「しかし、対策はあります。ケセドニアの南東にあるザオ遺跡、そこにあるパッセージリングを操作して降下作業を行います。ケセドニア、ローテルロー海、エンゲーブ、カイツールまで降下させれば、さすがに戦場そのものが魔界(クリフォト)へ降下してしまえば、キムラスカとて戦争をやめざるをえません。」

 

「戦場を魔界へ降下させる事で無理矢理戦争を止める……か。そりゃ無茶な手だな」

 

 ピオニー陛下はそう言って笑った。

 

「で、ですね。これだけの事を言っていて何ですが……俺、バチカルに帰ってもいいですか?」

 

 

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 そうして俺はグランコクマからケセドニアに船で移動し、ケセドニアからバチカルへ戻って来たという訳だ。何故俺が世界の危機に瀕している時にバチカルに戻るのかというと

 

「聞いているのですか、ルーク!」

 

 この人がいるからだ。ナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルディア。原作知識通りならもうすぐこの人の偽姫騒動が起きる。そして偽姫騒動が起きるという事はこの人に自殺を促されるという事だ。この人は決して死なせちゃいけない。でないとキムラスカ国王インゴベルト陛下との和解が行われないし、キムラスカとマルクトの和平も結ばれない。

 この辺りについては結構考えた。別にキムラスカが和平を結ばなくても降下作業を強行してしまえば世界は救えるんじゃないかと。俺の理想は世界滅亡の預言(スコア)を回避する事だ。そうしないと自分が死んでしまうからな。でも世界を救う為にキムラスカの改革は必要なのか? ……と考えるとそこまで必要じゃない気がして。そりゃー協力してくれた方が助かるんだろうが、協力がなくても何とかなりそうではあるんだよなぁ。

 しかし目の前のこの人が死ぬと分かっているのに、動かないのはなぁ。精神衛生上よくないというか何というか。

 それ以外にも、俺はアクゼリュスの親善大使として命じられた訳だから、アクゼリュスの救援が終わったら帰らなければいけないという事情もあったのだ。グランコクマへ行くときも、救援隊の隊長から「救援が終わったのに帰らないのですか!?」と言われたしなぁ。まあグランコクマ行きは「アクゼリュスの住民がちゃんと首都に搬送されるのを確認する為」という理由で何とか理屈づけたけど。それでもバチカルに帰国後、何故すぐに帰らなかったと責める様に言われたしなぁ。

 

 今キムラスカ上層部は揺れている。俺がアクゼリュスの救援・親善をちゃんとこなして帰って来てしまったからだ。俺としては

 

「――『ND2000。ローレライの力を継ぐ者、キムラスカに誕生す。其は王族に連なる赤い髪の男児なり。名を聖なる焔の光と称す。彼はキムラスカ・ランバルディアを新たな繁栄に導くだろう。ND2018。ローレライの力を継ぐ若者、人々を引き連れ鉱山の街へと向かう。そこで……』この先は欠けています」

 

 ユリアの預言? その通りに人々を引き連れて鉱山の街へ向かいましたが何か? とすっとぼければいい。向こうは「キムラスカの武器となって街と共に消滅す」という部分を意図的に隠したのだ。俺は隠されているその部分を知らないという状態の筈なのだから、その預言の通りに行動しなくても文句を言われる筋合いはない。預言通りに人を引き連れて鉱山の街へ行ってきましたよーってなもんだ。

 しかしそれを快く思わない者がいる。大詠師派を中心としたローレライ教団だ。ローレライの力を継ぐ若者が鉱山の街へ行けば預言の通りアクゼリュスが消滅して戦争が始まると思っていたのに、ローレライの力を継ぐ若者はひょっこり戻って来てしまった。ユリアの預言は絶対な筈なのに。

 今のキムラスカ上層部は預言通り戦争を起こそう派が追いやられ、預言の通りにして良いのか派が力を得ている筈だ。そして上層部全体からローレライ教団……主にモースが責められている筈だ。お前の言う通りにしたのに預言の通りにならないじゃないか! と言ってな。

 

 この緊張状態……奴がいつ偽姫騒動を起こしても不思議じゃない。マルクトの方は心配いらない。ユリアシティへの見学隊、アクゼリュスへの調査隊、そして俺が進言した通りならキムラスカの職人の街 シェリダンへも軍を派遣している筈だ。アクゼリュスが崩落しなければセントビナーも大丈夫だし……。

 

「ルーク! いい加減になさいまし! わたくしが居るというのに帳面(ノート)ばかり見て!」

 

 おっと。ナタリア姫がおかんむりだ。しまったな。

 

「悪い悪い。ちゃんと話は聞いてるよ」

 

「全く。ルークといいお父様といい……」

 

 憤懣やるかたないというご様子だな。そりゃ今のキムラスカ上層部は秘預言(クローズドスコア)の内容で揉めているんだろうから、秘預言を知らされない彼女としては自分がつまはじきに合った様に感じているのだろう。

 

 俺は不謹慎だと思いつつも、偽姫騒動が起きるなら早く起きてくれないかなぁなどと考えていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 それは俺が今までと変わらずに屋敷に軟禁されて、日課の鍛錬をしている時だった。白光騎士団が俺に切羽詰まった様子で報告してきたのだ。

 

「ルーク様。お城のメイドから連絡がありました。ナタリア殿下が軟禁されたとの知らせで……」

 

 来たか。この予想通りの出来事が起きるのにも慣れてきたな。俺は報告してくれた騎士をあしらいつつ、ガイの部屋へ急いだ。

 

「ガイ! ティア! 報告があった。ナタリアが軟禁されたらしい」

 

 既に二人にはこれから起きる出来事は話してある。ティアはマルクトの方でユリアシティの見学隊に欲しがられたが、無理を言ってこちらに引っ張ってきた。俺が軟禁された屋敷を抜け出すのも城で囚われの身となったナタリアを助け出すのもティアが必要になると思ったからだ。

 

「ティア、頼む」

 

 トゥエ レィ ズェ クロア リュオ トゥエ ズェ……

 

 すっかり耳慣れた旋律が響き、屋敷の玄関前を警護している騎士が眠りにつく。

 

「いいのかねぇ。こんな事して」

 

 ガイが気がとがめるのかそんな事を言うが構っていられない。

 

「構っていられるか! ナタリアの所まで一気に行くぞ!」

 

 

 

 城の中に入り、ナタリアの私室を目指す。と、

 

「この先はナタリア殿下の私室となっております。通行はご遠慮下さい」

 

 なーにがご遠慮下さい、だ。軟禁されたって知ってるんだぞ。事前にナタリアのメイドに動いてくれる様、白光騎士団の者を通じて頼んであったんだからな。

 俺達はティアの【ナイトメア】で先を塞ぐ兵士達を眠らせると、ナタリアの私室に入った。

 

「ナタリア!」

 

 俺の目に入ってきたのは。ワインの瓶とグラスだった。――毒!!

 

「てめぇらぁ!!」

 

 俺はティアの【ナイトメア】で眠らせる暇も惜しむ様にそのトレイを持った人物を殴り飛ばしていた。

 

「ナタリア! 大丈夫か!」

 

「あ、ルー、ク。どうして、ここに」

 

「メイドからお前が軟禁されたって聞いてきたんだ。俺、助けだそうと思って」

 

 俺はとにかく行こう、と言ってナタリアの手を引いた。

 

「お待ちになって! お父様に……陛下に会わせて下さい! 陛下の真意を……聞きたいのです」

 

 原作でもあったな。別れ際の会話か。どうする? 原作より味方が少なくて脱出に苦労する状態だぞ。……だけどナタリアと陛下に関しては出来るだけ原作知識通りにした方がいいか。

 

「分かった。一度だけ、陛下と話をしよう。つき合ってくれるか? ガイ、ティア?」

 

「まーかせろ」

 

「ええ、私も大丈夫よ」

 

 

 

 俺達は【ナイトメア】を頼りに謁見の間へと駆け込んで行った。

 

「ナタリア……」

 

 インゴベルト陛下は玉座で酷く頼りない顔をしていた。

 

「逆賊め! まだ生きておったか!」

 

 玉座の前に立っていたモースが吐き捨てる。てめぇが言うなこのクソ野郎が!

 奴の後ろには六神将のディストが居た。原作だと確かここにはラルゴとディストが居るんだったよな。でもラルゴは俺がタルタロスで殺したから居ない……と。

 

「お父様! わたくしは本当にお父様の娘ではないと仰いますの!?」

 

「そ……それは……。わしとて信じとうは……」

 

 言葉に詰まる陛下。その時モースが前に出てきた。

 

「殿下の乳母が証言した。お前は亡き王妃様に仕えていた使用人シルヴィアの娘メリル。そうだな?」

 

 話を向けられたのは、そこに立っていた老婆だ。

 

「……はい。本物のナタリア様は死産でございました」

 

 原作でも思ったけどさぁ、中途半端だよ。意思を持ってすり替えを行ったのなら、最後まで黙ってろよ。ここで告白するぐらいの気持ちなら最初からすり替えなんてやるなよ。

 

「しかし王妃様はお心が弱っておいででした。そこで私は、数日早く誕生しておりました我が娘シルヴィアの子を王妃様に……」

 

「……そ、それは本当ですの、ばあや」

 

 ナタリアの声はか細く、今にも倒れてしまいそうな感じがした。

 

「今更見苦しいぞ、メリル!」

 

「陛下! 本気ですか! そんな話を本気で信じているんですか!」

 

「わしとて信じとうはない! だが……これの言う場所から嬰児の遺骨が発掘されたのだ!」

 

 やっぱり物証があるのは大きいのか。それにナタリアは赤髪の陛下と黒髪の王妃から生まれたのに何故か金髪という事で前々から不義の子ではないかという疑いがあったのも痛い。

 

「もしそれが本当でも、ナタリアはあなたの実の娘として育てられたんだ! 第一、有りもしない罪で罰せられるなんておかしい!」

 

「他人事の様な口ぶりですな。貴公もここで捕らえられるのですよ。アクゼリュスへ行くためにね」

 

 やっぱりそうきたか。アクゼリュスを消滅させる筈の俺だ。一度行って消滅が起きなかったのならもう一度アクゼリュスへ行かせるという話になるんじゃないかと思っていたのだ。

 

「あの二人を捕らえろ!」

 

 その言葉でディストと謁見の間に居た兵士が動き始めた。……ふざけんな。なんでナタリアが責められなければならないんだ。交換された事は罪だろう。だがそれは交換した奴が負うべき罪だ。ただ生まれただけのナタリアに罪なんてあるものか。

 

「ふざけんなああああああああああああああああ!!」

 

 俺は全身に満ちた怒りに任せて力を放った! 自分の立っている場所から謁見の間を縦に割る様に亀裂が伸びる。

 

「な、何ですか!? これは!?」

 

「超振動、だ。お前らがアクゼリュスで使って欲しかった力だよ。追いかけて来てみろ。この力で塵まで分解してやるからな!」

 

 怒りのままに超振動を使ってしまった。パッセージリングの操作もまだだというのに。俺は突然の超振動で呆然とする皆を尻目に、ナタリアの手を取って謁見の間を後にした。

 

「ナタリア。行くぞ! 今は、お前はここにいちゃいけない」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 俺達は城を強引に抜けると昇降機の前までやってきた。そこにはファブレ公爵家の白光騎士団がいる。だがその先頭に居るのは庭師のペールだ。

 

「ルーク様! ご命令通り白光騎士団の者がこの先の道を開いておりますぞ」

 

 屋敷を出る際、自分と懇意にしている騎士団の者にだけ、退路を確保してくれる様に頼んでいたのだった。

 

「ありがとう。だけどペール、あまり無理するなよ!」

 

「お気遣いありがとうございます。ですがここで微力ながら皆様の盾になります」

 

「危険です! お逃げなさい!」

 

 ペールの出自を知らないナタリアが心配して声を上げる。

 

「心配するな。ペール爺さんは俺の剣の師だ。後は頼むぜ、ペール」

 

「ご無事をお祈りしております。ガイラルディア様」

 

 最上層から昇降機を使って下に降りる。下の階層は軍施設だ。だがまだナタリアの捕縛命令が達していないのだろう。特段の抵抗も見せず通り抜ける事ができた。……これは俺が、事が起きてすぐ行動に移したのが功を奏したのか?

 

「待て! その者は王女の名を騙った大罪人だ! 即刻捕らえて引き渡せ!」

 

 その声を発するのは特徴ある髪型をした男、ゴールドバーグ将軍だった。将軍は一小隊を率いてこちらに歩いてくる。だが彼我の距離はまだある。俺は先行するガイとティアに追いつくべく全力でナタリアの手を引いて走った。

 




 偽姫騒動前倒し。原作と違いアクゼリュスが崩落しない → ローレライ教団責められる → 苦し紛れに王家の問題として偽姫の件を持ち出す、という安易な流れです。
 主人公の超振動初披露。原作と違いラルゴがいませんがこちらにもアッシュがいないので相手を足止めする要素として出しました。又アッシュがいないので市民が立ち上がっていません。その分ナタリアが軟禁されてからすぐに動いた事でプラマイゼロっぽくしてあります。

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