臆病な転生ルーク   作:掃き捨て芥

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第22話 世界を一つに

 イオンがなにやら考えがあると言うので、俺達は正面からバチカルに行く事にした。ナタリアを連れてバチカルに入ると、警備の兵士達は皆呆然とした。あっけに取られる者や困惑する者など、反応は千差万別だ。だが捕らえようと武器を構えてくる奴はいなかった。そして王城の前に辿り着いた。

 

「ナタリア殿下……! お戻りになるとは……覚悟は宜しいのでしょうな!」

 

 城門前の兵士はいきり立つ。その時イオンが前に進み出た。

 

「待ちなさい。私はローレライ教団導師イオン。インゴベルト六世陛下に謁見を申し入れる」

 

「……は、はっ!」

 

「連れの者は等しく私の友人であり、ダアトがその身柄を保証する方々。無礼な振る舞いをすれば、ダアトはキムラスカに対し、今後一切の預言(スコア)を詠まないだろう」

 

「導師イオンのご命令です。道を開けなさい」

 

 ここぞとばかりにアニスが強気でものを言う。兵士達はゆっくりと道を開けた。

 

「行きましょう。まずは国王を戦乱へとそそのかす者達に厳しい処分を与えなければ」

 

 モースか。あのタル豚野郎。

 

「ナタリア、行こう。今度こそ陛下を説得するんだ」

 

「ええ!」

 

 

 

 城の中を移動して国王陛下の私室へやってきた。

 

「お父様!」

 

「ナタリア!!」

 

 部屋に堂々と入ってきた俺達に陛下は驚愕している。

 

「へ、兵達はなにを……」

 

 部屋には他にアルバイン内務大臣が居た。執務でもしていたのか?

 

「陛下! ここに兵は必要ない筈です。ナタリアは貴方の娘だ!」

 

 陛下に対する説得には力を入れないとな。和解できなかったらシャレにならん。

 

「……わ、私の娘はとうに亡くなった……」

 

「違う! ここに居るナタリアが貴方の娘だ! 十七年の記憶がそう言ってる筈です!」

 

 陛下は俺の言葉に少し押された様だった。

 

「記憶……」

 

「突然誰かに本当の娘じゃないって言われても、それまでの記憶は変わらない。親子の思い出は、二人だけのものだ!」

 

 更に追い込む様に言葉を重ねていく。

 

「……そんな事は分かっている。分かっているのだ!」

 

 陛下は認められない事に苛立つ様に言葉を吐く。

 

「だったら!」

 

「いいのです。ルーク」

 

 言葉を重ねる俺をナタリアが止める。

 

「お父様……いえ、陛下。わたくしを罪人と仰るなら、それもいいでしょう。ですが、どうかこれ以上マルクトと争うのはおやめ下さい」

 

 そこでイオンが口を挟んだ。

 

「あなた方がどの様な思惑でアクゼリュスへ使者を送ったのか、私は聞きません。知りたくもない。ですが私は、ピオニー九世陛下から和平の使者を任されました。私に対する信を、あなた方の為に損なうつもりはありません」

 

 イオンがそこまで言った時だ、後ろにいたジェイドが口を進み出た。

 

「恐れながら陛下。年若い者に畳み掛けられては、ご自身の矜持が許さないでしょう。後日改めて、陛下の意思を伺いたく思います」

 

「ジェイド! 兵を伏せられたらどうするんだ!」

 

 キムラスカに信用のないガイが叫んだ。

 

「その時は、この街の市民が陛下の敵になるだけですよ。しかもここには導師イオンが居る。いくら大詠師モースが控えていても、導師の命が失われればダアトがどう動くかお分かりでしょう」

 

「……私を脅すか。死霊使い(ネクロマンサー)ジェイド」

 

「この死霊使いが、周囲に一切の工作無く、この様な場所へ飛び込んでくるとお思いですか」

 

 ジェイドと陛下の間で応酬が続く。でもジェイドは自分達は工作してきてるよーとにおわせているけど、実際はブラフなんだよなぁ。工作なんてする暇無かったし。俺は陛下に近づくと跪き、両手で書状を差し出した。

 

「この書状に、今、世界に訪れようとしている危機についてまとめてあります」

 

 陛下は……それを受け取ってくれた。

 

「……これを読んだ上で、明日、謁見の間にて改めて話をする。それでよいな?」

 

 よし! ここまで来れば九分九厘やったも同然だ!

 

「失礼致します。……陛下」

 

 最後にナタリアはそう言って頭を下げ、部屋を後にした。

 

 

 

 王城を出る。兵士達はこちらに注目しているが、先ほどのイオンの言葉が効いているのだろう。直接は何も言ってこない。まあナタリアはそもそも人気の高い姫だったからな。

 

「ペールや白光騎士団の皆は大丈夫だったかな……」

 

 父親が何とかしてくれたと思いたいが。さて。

 

「寄って行くか?」

 

 ガイが声をかけてくれる。

 

「いや、父上は陛下の味方だ。今は行かない方がいい。今日の所は街の宿屋に泊まろう」

 

 宿屋に向かって歩きながら話す。

 

「時間をあけた方が揉めるんじゃないか?」

 

 ガイの信用ならないというスタンスを崩さない。

 

「でも、陛下は迷ってらしたわ。ルークとナタリア姫の言葉、きっと届いていると思う」

 

 それに対してティアはフラットな目で見てくれている。

 

「陛下の中でもう答えは出ているでしょう。認める為には後押しが必要なのですよ。その為に作った猶予、です。悪い結果にはならないと思いますよ」

 

 そーだな。俺もそう思うよ。

 

「世界に訪れている危機……それを分かって貰えればきっと……」

 

「まぁ、明日には分かる事です。今は信じてみましょう。ランバルディア王家の器量を、ね。」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 宿屋の中で荷物を下ろし、ほっと一息をつく。するとティアが尋ねてきた。

 

「明日、もしもインゴベルト王が強攻策に出てきたら、どうするつもり」

 

「説得するさ。なんとしてもな」

 

「だが、陛下が簡単に納得するかな」

 

 ガイは一貫して疑うらしい。その言葉を聞いたナタリアが口を開く。

 

「その時はわたくしが城に残り説得します。命をかけて」

 

「ナタリア……!」

 

 多分陛下は和解してくれると思うが、してくれなかった時は仕方ない。許可なく世界各地のリングを操作していくしかない。その時はナタリアも一緒の方がいいのだが……。

 

「愚かでしたわ、わたくし。苦しんでいる人々を助ける事がわたくしの仕事だと思っていました。でも違いましたのね。お父様のお傍で、お父様が誤った道に進むのを諫める事が、わたくしの為すべき事だったのですわ」

 

 前を向いたその言葉に昨日までの迷いは欠片も見受けられない。

 

「ナタリア姫。やっぱり貴方はこの国の王女なのですね」

 

 ティアが感心した様にそう言うと、ナタリアは答えた。

 

「そうありたい……と思いますわ。心から。わたくしは、この国が大好きですから」

 

「まあ、采は投げられたのです。ともかく、明日陛下にお会いしましょう」

 

「ええ」

 

 ジェイドの言葉にナタリアはうなずく。全ては明日だな。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 翌日。俺達はバチカル城の謁見の間に来ていた。玉座にインゴベルト陛下、その傍にはアルバイン内務大臣と大詠師モースが立っている。……だからなんでモース? おまえダアトの人間だろ? いつキムラスカの人間になったんだよ。

 

「そちらの書状、確かに目を通した。第六譜石に詠まれた預言(スコア)とそちらの主張は食い違うようだが」

 

 陛下の質問に俺が答える。

 

「預言はもう役に立ちません。私が生まれた事で預言は狂い始めました」

 

「……レプリカ、か」

 

 これ原作をやってる時から疑問だったんだけど、陛下達はいつ俺がレプリカだって知ったんだろうな。多分ディストかモース辺りから知らされたんだろうけど。

 

「お父様! もはや預言にすがっても繁栄は得られません! 今こそ国を治める者の手腕が問われる時です。この時の為に、わたくしたち王族がいるのではありませんか? 少なくとも、預言にあぐらをかいて贅沢に暮らす事が王家の務めではないはずです!」

 

 ナタリアが強く訴える。

 

「……私に何をしろと言うのだ」

 

「マルクトと平和条約を結び、外殻を魔界(クリフォト)へ降ろす事を許可していただきたいんです」

 

 俺の言葉にアルバイン大臣が反論する。

 

「なんということを! マルクト帝国は長年の敵国。その様な事を申すとは、やはり売国奴どもよ」

 

 この人の見方も偏ってるな~。

 

「騙されてはなりませんぞ、陛下。貴奴ら、マルクトに鼻薬でも嗅がされたのでしょう。所詮は王家の血を引かぬ偽物の戯言……」

 

「黙りなさい。血統だけにこだわる愚か者」

 

 イオンも言うね。

 

「生まれながらの王女などいませんよ。そうあろうと努力した者だけ王女と呼ばれるに足る品格を得られるのです」

 

「……ジェイドの言う様な品性がわたくしにあるのかは分かりません。でもわたくしは、お父様のお傍で十七年間育てられました。その年月にかけてわたくしは誇りを持って宣言しますわ。わたくしはこの国とお父様を愛するが故に、マルクトとの平和と大地の降下を望んでいるのです」

 

 ナタリアが強く言い切った。少しの時間が過ぎる。

 

「……よかろう」

 

 やった! 和平がなった! これで残す問題がほぼ解決したも同然だ!

 

「なりません、陛下!」

 

「こ奴らの戯れ言など……!」

 

 アルバインとモースがうるさいが、陛下が宣言したのだ。もう大勢は決したも同然なのだ。

 

「黙れ! 我が娘の言葉を戯れ言などと愚弄するな!」

 

 陛下が二人を怒鳴りつける。これで奴らの言葉は封じた。

 

「……お父……様……」

 

 娘と言われてナタリアは呆然となった。

 

「……ナタリア。お前は私が忘れていた国を憂う気持ちを思い出させてくれた」

 

「お父様、わたくしは……。王女でなかったことより、お父様の娘でない事の方が……辛かった」

 

「……確かにお前は、私の血を引いてはいないかもしれぬ。だが……お前と過ごした時間は……お前が父と呼んでくれた瞬間の事は……忘れられぬ」

 

「お父様……!」

 

 ナタリアは玉座に座っている陛下の元に飛び込み、膝に顔を預けた。その体を、陛下はぎゅっと抱きしめた。

 

 

 

「よかったな。ナタリア」

 

 謁見の間から退室した所で、俺はナタリアに言葉をかけた。

 

「十数年も同じ時を過ごしたんですもの……。もう、血の繋がりなんて関係ない筈よ」

 

 そうだといいな。

 

「ありがとう。認めて貰う事が、これほど嬉しい事だなんて、わたくし初めて知りましたわ」

 

「いーや。まだまだこれからだぜ。もう一回、親子のやり直しをするんだからな」

 

 ガイも嬉しそうに笑って言う。

 

「モース様はどうしたのかな」

 

 アニスがぽつりとつぶやく。

 

「ダアトに引き上げた様ですね。ひとまず動く事はないと思いますが」

 

「ダアトに……」

 

 アニスはモースの事が気にかかる様だな。出来ればイオンの事とか報告しないでいてくれると助かるんだが。

 

「次はマルクトだな。グランコクマに行こうぜ」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「そうか、ようやくキムラスカが会談をする気になったか」

 

 グランコクマにやってきた俺達は挨拶もそこそこに陛下に和平の取り次ぎをしていた。

 

「キムラスカ・ランバルディア王国を代表してお願いします。我が国の狼藉をお許し下さい。そしてどうか改めて平和条約の……」

 

「ちょ、ちょっと待ったナタリア。それ以上はまずい」

 

 俺は慌ててナタリアの言葉を止める。

 

「ナタリアがそう言うと、キムラスカ王国が頭を下げた事になるんだぞ。和平を結ぼうって時なんだ。言動には注意してくれ」

 

 俺がそう言うとピオニー陛下は笑って対応してくれた。

 

「そうだな。それ以上は言わない方がいい。ここは、ルグニカ平野戦の終戦会議という名目にしておこう。で、どこで会談する?」

 

 陛下がジェイドに会談の場所を聞く。

 

「本来ならダアトなのでしょうが……」

 

 ダアトか。ダアトはまずいな。

 

「今はマズいですね。モースの息の掛かっていない場所が望ましいです」

 

 会談をするなら中立の場所が望ましい。だけどダアトは駄目ってんなら場所は一つしかない。

 

「ユリアシティはどうかな? ティア」

 

「え? でも魔界よ? いいの?」

 

「むしろ魔界の状況を知って貰った方がいいよ。外殻を降ろす先は魔界なんだから」

 

 俺がそう提案するとジェイドも納得してくれた様だ。

 

「悪くないですね。では陛下、魔界の街へご足労いただきますよ」

 

 魔界に行くといえばあまりイメージは良くないよなぁ。でもこの陛下なら……

 

「ケテルブルクに軟禁されてた事を考えりゃ、どこも天国だぜ。行ってやるよ」

 

 

 こうして、キムラスカとマルクトの和平がユリアシティで行われる事となった。

 その際イオンが「ケセドニアの代表者であるアスターも立ち会わせてくれませんか?」と言い出した。ケセドニアは国ではなく自治区なので両国が和平を結ぶ今、蚊帳の外になってしまうのだ。俺達は快く了承し、一路魔界に降りたケセドニアを目指す事となった。

 




 主にバチカルでの会話劇。原作台詞ばかりで半分くらいノベライズみたいな形に……精進します。

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