臆病な転生ルーク   作:掃き捨て芥

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第26話 ロニール雪山、アブソーブゲート

 次のセフィロトはロニール雪山となる。雪山だし出る魔物も強いというので、俺達はいつもより入念に準備をする事にした。防寒着を着込み、戦闘の為に兵士の皆さんにも出張って貰う。マルクト領なのでマルクト兵だ。アルビオールでは雪のある場所に直接降りられないので、俺達は雪の街ケテルブルクに寄る事となった。

 

「思い出すか? ジェイド」

 

 宿を取ったホテルで窓の外を眺めていたジェイドに声をかける。

 

「いえ……そうですね。貴方には全て知られているのでしたね」

 

「そうなるな、申し訳ないけど」

 

 沈黙がおりる。俺は原作知識があるのでジェイドの事情をほぼ全て把握している。ジェイドがそれをどう思ってるかは分からない。未来の知識を持つ俺でも、この他人の心情は絶対に分からない。

 ふと、俺はある事に気づいたのでジェイドに言ってみる事にした。

 

「そうだジェイド。思い出したんだけどな」

 

「何ですか?」

 

「あー、えーと、これ言っていい事なのか判別がつきにくいけど、一応言っておく。お前が最初に作った生物レプリカだけどな……生きてるぞ」

 

「……!?」

 

「老マクガヴァンさん、元・元帥のあの人が現役を引退するきっかけになった譜術士(フォニマー)連続死傷事件、あれをやったのもそいつだ。自分に足りない音素(フォニム)を補填しようとしてな」

 

「…………」

 

「今はとある場所に封印されている。俺の知る未来の知識ではその封印を解いて完全に倒す、消滅させていたんだ。……お前が望むなら同じ様に倒す事も出来るぜ」

 

「私は……」

 

「まあ今すぐ結論を出さなくてもいいけどな。ゆっくり考えればいい。ただ俺は封印されているという状態は好ましくないと思っている。封印なんていつかは解けるもんだ。十年後か二十年後か五十年後になるかは分からないけどな。でもその未来の誰かが苦労するくらいなら、今の時代で倒してしまうのが一番良いと俺は思う」

 

 俺は一方的にジェイドに言葉をぶつけると、その場を後にした。あとはジェイドが考える事だ。勝手かも知れないがな。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「あ!?」

 

「どうしたルーク?」

 

 ロニール雪山での道行き、雪道をえっさらほいさと歩っていた時だ。俺は重要な事に気づいた。

 

「重大な事に気づいた」

 

「どうしたの?」

 

 ティアが聞いてくる。

 

「アッシュの事を……忘れてた」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 俺がそう言うと、場には沈黙がおりた。そーだよ六神将のスパイをさせていたアッシュはもう六神将を倒したんだから帰ってきていいじゃないか。いや、このメンバーに加わってもやる事は俺の超振動でリング操作するのを代わるしかないけどさ。でも一緒に行動出来るじゃないか。

 

「ルーク……」

 

 皆はアッシュの事を忘れていた俺を、しょーがない奴、とでもいう風に見ている。なんだよーみんなだってアッシュの事忘れてたじゃんかよー。

 

「今回のリング操作が終わったら手紙出さないとな」

 

 そう言いつつも、あの捻くれ者が素直にメンバーに加わってくれるのかね、などと俺は思っていた。

 

 

 

 吹き抜ける風が強い。防寒着を着込んできて正解だったなこりゃ。凍った木々すら強い風に揺られている。

 

「以前六神将がここに来た時は、魔物だけでなく、雪崩で大勢の神託の盾(オラクル)兵が犠牲になったそうです」

 

「雪崩は回避しようがないからな」

 

 イオンの説明に、ガイが難しい顔をする。

 

「必要以上に物音を立てない様に。いいですね」

 

 ジェイドが注意する。皆自分の命に関わる事なので素直にうなずいた。確かここでは原作だと六神将三人が襲ってくるんだっけか。あの戦闘はきつかったなぁ。そんな事を考えていると、ダアト式封咒を発見した。恒例となったイオンの鍵開けタイムである。

ふと、今はバチカルの屋敷にいるフローリアンを思い出した。彼にはダアト式譜術を操る力は無いよな? もしあったらわざわざ護衛されているイオンを攫ってまでダアト式封咒を開けさせようとしないもんな、ヴァン一味も。

 パッセージリングはダアト式封咒のすぐそばにあった。俺もいつもの様に超振動を照射する。後は全てのセフィロトをアブソーブゲートとラジエイトゲートに連結して……っと。

 

「これで終わりだ。寒いからさっさと引き上げようか」

 

 俺は皆に声をかけるとロニール雪山から引き上げるのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ケテルブルクのホテルで暖まり、体の疲れを癒やす。これで残す所あと二つ。アブソーブゲートとラジエイトゲートだ。ラジエイトゲートは最後にやるから、次はアブソーブゲートだな。あのダンジョン面倒だから行きたくないんだよな。まあしばらくはイオンを休ませなければならないので、ケテルブルクで待機だ。俺も最近疲れているからな、アッシュに手紙を出したらゆっくり休もう。

 イオン……か。そういやアリエッタはどうすんのかね。本来の導師イオンの死は受け入れられた様だけど。レプリカのイオンを代わりと思うのか。母親であるライガクィーンの元に戻るのだろうか。ライガクィーンと言えばチーグルだ。俺は考えない様にしていたけれどやはりライガに食われたのだろうか? 今になって通り過ぎてきた事が頭をよぎる。どうにもいかんな。やっぱり疲れているのかね。もうすぐ全てが終わる。全てが終わったら……どこかでゆっくり休みたい。

 

 アブソーブゲートに行く前に、スピノザに頼んだ検証を確認したいとジェイドが言い出したので、ベルケンドへ向かう事となった。ベルケンドの第一音機関研究所を訪ねると、スピノザは俺達を待っていた様に喋り出した。

 

「流石はバルフォア博士じゃ。あれなら上手くいくかもしれん」

 

「って事は、障気は問題なく隔離出来るんだな」

 

 俺がそう言うと、仲間の皆はどういう事だ? という顔をした。

 

「外殻大地と魔界(クリフォト)の間にはディバイディングラインという力場が存在します。そうですね。ティア?」

 

「え、ええ。セフィロトツリーによる浮力の発生地帯です。その浮力で外殻大地は浮いています」

 

 ジェイドとティアの会話にスピノザが口を挟んだ。

 

「正確にはディバイディングラインの浮力が、星の引力との均衡を生み、外殻大地は浮いているんじゃな」

 

「外角大地が降下するという事は、引力との均衡が崩れるという事。降下が始まるとディバイディングラインは下方向への圧力を生む。それが膜になって障気を覆い、大地の下――つまり地核に押し戻します」

 

 ジェイドが詳しく説明してくれる。でも……。

 

「でも、それだと障気は消えない……よな。また発生しないのか?」

 

「障気が地核で発生してるなら、魔界に障気が溢れるのはセフィロトが開いているからです。外殻の降下後、パッセージリングを全停止すれば……」

 

「セフィロトが閉じて……障気は外に出てこなくなる!」

 

 ガイが喜びの声を上げた。

 

「地核の振動は停止しているから、液状化していた大地は急速に固まり始めていますわ。だからセフィロトを閉じても大陸は飲み込まれないのですね」

 

 ナタリアもうなずいている。

 

「障気の問題は解決って訳か!」

 

 俺は原作を知っていても詳しく把握してなかった理屈を実感出来た。

 

「これを思いついたのが物理学専門のわしではなくあんただとは、流石じゃな」

 

「そうはいっても、専門家に検証して貰わなければ確証は得られませんでした」

 

「これで、後はアブソーブゲートのセフィロトをどーにかするだけだね」

 

 アニスがそう言って締めくくった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

ケテルブルクから北東の海上、そこにアブソーブゲートはあった。

 

「すごい音素(フォニム)を感じますね」

 

「ここは最大セフィロトの一つ、プラネットストームを生んでいるアブソーブゲートですからね」

 

 ティアが緊張した面持ちで言うと、ジェイドがそう返した。プラネットストーム、か。昔の人はよくこんな物を作ったよなぁ。

 

「ギンジさん、いつもの事ですがここで待機していて下さい。心細いかもしれませんが……」

 

「おいらは平気です。皆さんもお気をつけ下さい」

 

 ギンジさんに見守られながら、俺達はアブソーブゲートに入った。その入り口で俺は皆を集める。

 

「俺の持つ知識だと、ここでの移動は困難を極めるんだ。それに加えて地震が起きたら通路が壊れる危険性がある。もしも分断されてしまったら、皆は各自下を目指してくれ。あと、ヴァンの手綱はちゃんと握っておいて下さいよ」

 

 原作ではここでパーティーの分割があったからな。事前に注意しておくにこした事はない。特に注意するのがヴァンだ。通路が割れたりして奴が自由になってしまわない様に、捕まえている兵士へ指示を出す。

 

 俺達は慎重に歩を進めた。しかし……。

 

「め、面倒くせぇ」

 

 俺のその言葉通り、アブソーブゲートは面倒臭い作りになっていた。赤や青の音素を集めて並べる必要があったからだ。この音素集めが思った以上に面倒臭い。そして更に、

 

「今度の地震はでかいぞっ! 気をつけろ! 地面が……」

 

 縦揺れの大きな地震が起きて、俺達は分断された。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「大丈夫か?」

 

「ええ」

 

「大丈夫ですわ」

 

 分断された後、とりあえず周囲を確認した俺はうめいた。何でこの二人なんだよ。いや確かにティアもナタリアも分断される前には俺の近くに居たけどさぁ。そっか、近くに居たから分断された後も一緒なのか。アレ? 何か俺錯乱してね?

 

「どうしたの? ルーク?」

 

「いや、何でもない。それより分断される前に決めた通り下を目指そう。そこで皆と合流できる筈だ」

 

 今は深く考えるのはよそう。先に進むのだ。俺達は狭く立体的な通路を歩いて進んだ。進んだ先に音叉があったのでティアの杖を借りておもっくそぶん殴り鳴らす。シーソーの様に片方が沈むと片方が上がる場所では、片方にティアとナタリアを立たせて音叉を鳴らした。そうして先に進むと青い炎があって通れない場所にでた。これ以上は向こうに行ける人がどうにかしなければならない。俺達は炎の前で待つ事にした。

 

「ルーク! ナタリア!」

 

 待っていると向こう側にガイの姿が見えた。その後ろにはジェイドや兵士達の姿もある。ガイ達は炎の手前にいた魔物に襲われたので戦いになった。ああ、確かあの魔物がキーなんだっけ。ジェイドの譜術で散らされた魔物と同時に、俺達の進路を塞ぐ炎も消えた。

 

「ガイ、ジェイド。サンキュー」

 

 炎の向こう側に出ると、転移する場所があったので下方に向けて転移する。

 

「んっと。まだここじゃないな。もっと先がある筈だ」

 

 転移してもまだパッセージリングが無いので、更に移動できる場所を探す。どこまでもどこまでも下に降りて行く。

 

「あった。やっと見つけたー」

 

 俺はパッセージリングを見つけると気の抜けた声を出した。さ、さすがに疲れたな。移動だけでこんなに疲れたのも久しぶりだ。最近はほとんどアルビオールで移動してたからなー。

 

「さて、さっさと操作を終えちまおうかね」

 

 そう言い、起動したリングに向けて超振動を放つ。両腕の先に意識を集中し、強く強く念じる。俺の全身が光を帯びてきた。そしてどこからかいつか聞いた声が聞こえてきた。

 

――……シュ、ルーク! 鍵を送る! その鍵で私を解放して欲しい!

 

(はぁ!? 解放しろだぁ? ふざけんな今こっちは超振動の微妙な操作中だっつーの)

 

 俺は最後の力で超振動の照射を終えると、ぐらりとその身を崩してしまった。

 

「ルーク? どうしました?」

 

「ローレライが……」

 

 ジェイドが聞いてくるが、力を使い果たしていてとても答えられない。俺はしばらくその場で休憩させて貰った。

 

「ローレライが、自分を解放しろって言ってきたんだ」

 

「ローレライが、解放……ですか」

 

 仲間達は皆一様に頭にハテナマークをつけている。俺だって訳わかんねーよ。でも解放しろって事は何かマズイ事があるんだろうなぁ。とにもかくにも、これでアブソーブゲートの作業は終了だ。残す所はラジエイトゲートでの全外殻大地の降下作業だけだ。

 

「とにかく、ローレライの事は今はおいておこう。地上に帰ろうぜ」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 地上に帰ってきた。ギンジさんや今回はダアト式封咒がなくて出番がなかったイオン達が迎えてくれた。さて、最後にラジエイトゲートに行くわけだが自分達で勝手に行うわけにはいかない。今ある外殻大地が一斉に降下するのだ。各国への周知が必要となる。まあアブソーブゲートに行った時点でほぼ作業は完了してるから、各国とも準備はできているだろうが。

 

「アッシュからの手紙はなし……か」

 

 ローレライからの交信もあるから連絡をとりたいのだが。ローレライからあの交信があったという事は、俺はローレライの宝珠を、アッシュはローレライの剣を受け取っているはずだ。あー、後でジェイドにコンタミネーションのやり方聞いておかないとな。ローレライの宝珠を受け取ったとはいっても、俺はレプリカだからその音素(フォニム)を体の中に取り込んでしまっているのだ。コンタミネーションで取り出さないと。

 

「まだまだ面倒は終わらない……か」

 

 俺は一人、部屋の中でぽつりとつぶやくのだった。

 

 




 本作では既にヴァンと六神将を倒してしまっています。原作の様に逃げられてもいません。なので原作の第三章にあたるレプリカ編には突入しません。障気は復活しませんし、エルドラントは浮上しませんし、プラネットストームも停止しません。崩落編で終了です。最後にローレライの解放だけはやりますがね。

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