全ての面倒事を終わらせた俺は大人しく屋敷で静養する日々を送っていた。……実はまだネビリム戦でのダメージが抜けていないのだ。まあこれはガイも同じだが。そんな安穏とした日々を送っていた所、ナタリアがある知らせを持ってやってきた。
メイドに呼ばれて応接室に入ると、ナタリアとガイ、父親と母親が揃っていた。
「ルーク! 喜べ! お前にランバルディア至宝勲章が与えられる事になったぞ」
おお、この父親のこんな声初めて聞いたな。浮かれている様だ。……にしてもこのイベントか。
「お父様がお決めになったのです。素晴らしい事ですわ!」
「大変な名誉だぞ」
ガイも弾んだ声で喜んでくれている。
「おめでとう、ルーク」
母親のシュザンヌもいつになく嬉しそうだ。そして勲章に関して説明してくれた。
「ランバルディア至宝勲章はこの国で一番栄誉ある勲章です。兄上様はお前の偉業に報いる為、この勲章を下さるのですよ」
「それと、まだ正式に社交界へ出ていないお前だが、特別に陛下が爵位を下さるそうだ。いずれ世界が落ち着いたら盛大にお披露目をせねばならぬな」
「だけど俺はレプリカで……」
俺はレプリカを理由に一応断ってみようとする。
「またそんな事を……。貴方もファブレ家の一員です」
「もちろん陛下は、もう一人のルークにも爵位を授けて下さるだろう。しかし今回の勲章と爵位はお前の働きによるものだ。胸を張って受け取りなさい」
おお、この父親が微笑んでるよ。ここまで言われると断りづらいな。仕方ない。受け取っておくか。
そうして後日、式典が催される事となった。
「窮屈だな」
俺は家で仕立てられた礼服を着ていた。原作でもあった衣装だ。
「ははは。一応王子みたいなもんだからな。似合ってるぞ」
ガイが茶化してくる。ちくしょー顔が笑ってるぞ。
「それなりに着こなせていますわね」
ナタリア、お前も顔がピクピクしてんぞ!
「……ふん。だからこんなカッコするの嫌だったんだよ。しかし勲章か……俺は自分が生き残りたいだけで、世界を救うのなんてついでだったんだけどな。こんなんで勲章を貰ったりしていいのかな?」
「いいじゃないか。お前は頑張ったと思うぜ」
「そうですわ。お父様はルークにお詫びをしたいのだと思います。あなたを見殺しにしようとしたのですから……」
アクゼリュスか、確かにあれはきつかったな。自分の死を望んでいる人が居るというのは予想以上にストレスになった。
「うん。分かったよ」
俺が勲章を貰う事で気がすむ人がいるのなら貰っておこう。
そして式典が始まった。うーむ、俺、ただの一市民だった筈なんだけどなぁ。何を間違ったか王族になって勲章まで貰っちまったよ。どうすんの。
「ただ今より、ファブレ公爵家長子ルークへのランバルディア至宝勲章、及び爵位の授与を執り行う」
アルバイン内務大臣の声が謁見の間に響く。この人とも一時は敵対してたんだよなぁ。赤い絨毯の両脇には大勢の人々が並んでいる。両親はおろか執事のラムダスもいる。インゴベルト陛下が玉座から降りて俺の方に歩いてくる。陛下は俺の胸に勲章を着けると握手してきた。
「ルーク。よい働きをしてくれたな」
「いえ」
陛下が玉座に戻るとアルバインがもう一度声を響かせる。
「王国はルーク・フォン・ファブレを子爵に叙するものである」
「おめでとう、ルーク。いや、これからはファブレ子爵かな」
陛下は笑ってそう言う。……子爵、かぁ。
「ふふ。おめでとう、ファブレ子爵」
ナタリアからも祝いの言葉を貰う。
「ありがとうございます」
「そちが働いてくれたからこそマルクトと和平を結ばれ、世界は救われた。感謝するぞ。そちは我が国の英雄だ」
「……いえ、俺は英雄なんかじゃありません」
いつかヴァンの奴が言っていた英雄。それに俺は“なっちまった“んだなぁ。
「謙遜するな。ルークよ、本当にありがとう。わしは今日という日の事を一生忘れまいぞ」
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勲章を貰って屋敷に帰って来た時だ、あるものが俺の目に止まった。すると俺の視線を意識したのだろう、父親の視線もそちらに移動した。
「父上! その剣は……」
「ルーク。……それにガイも。怨んでいるだろうな。父親の形見の品が仇の家で飾られているなど」
俺の視線の先にあったのは、ホドのガルディオス家に伝えられていた剣だ。父親がガルディオスに攻めいった後、ガルディオス伯爵の首とともに持ち帰って来たのだ。
「怨んでいないと言えば嘘になります。でも、私はルークに教えられましたから。いつまでも過去に囚われているだけでは駄目なのだと」
「ガイ! でもそれは……」
俺が、原作知識で知っていたから言った言葉なんだ。原作のルークの様に真実その身から出た言葉じゃないんだ。
「ルークが?」
「ええ」
公爵にガイがうなずく。
「ルークはこう言ったのです。『昔の事ばかり見ていても前に進めない』過去に囚われていた俺には、正直、不愉快な言葉でした」
「それが何故……」
「その時思ったんですよ。賭けをしてみようと。最も憎むべき仇の息子が、自分の忠誠心を刺激する様な人間に成長したら、その時は復讐する気持ちも失われてしまうんじゃないかって」
その賭けは、原作の様に正当な賭けじゃないんだ。俺がズルをしていた事の上に成り立った賭けなんだ。
「そうか、思い出したぞ。ルークが誘拐から無事戻ってきて暫くしてからだったか、剣を捧げるに値する大人になれるかガイと賭けをしたと言っていた」
「ええ。そしてルークは賭けに勝ってくれました」
違う、違うんだよ。ガイ。
「すると、お前はルークがそれだけの価値のある人間に成長したと思っているのか」
「そうあろうと努力している……と思います」
努力、努力か。確かにしてきた。でもそれは立派な人間になろうとかそういう類いの努力じゃない。
「それだけで、俺には充分だ。ルークは世界を変えようとした。それなら……」
「お前も変われる、か」
父親はガイの事を認めてくれるのだろうか。
「ならば、この剣を取れ。そしてルークに永遠の忠誠を……いや、友情を誓ってやってくれまいか」
「父上!」
そんな事言い出さなくていいって!
「この子には父親がいない。レプリカだからではないぞ……父親である私が、
「アクゼリュスと共にルークが死ぬと詠まれていた、あの預言ですね」
「私はずっと息子から逃げていた。いつか死ぬ息子を愛するのは無意味だと思っていたのだな」
父親はじっとガイを見つめた。
「そんな私に比べて、お前はよくルークの面倒を見てくれた。お前はルークにとって兄であり父であり、かけがえのない友であろう」
確かに、記憶を失ったという体の俺をガイは面倒見てくれた。ガイは確かに兄の様な、父親の様な友達だ。
「……分かりました」
ガイは俺の前に跪いた。
「おいちょっと待て! 俺は忠誠の儀式とかそんなのしないぞ。俺とガイは今まで通りで……」
俺はそれを慌てて止めた。ただでさえガイに負い目があるというのに、これ以上は勘弁して欲しい。
「それより父上、その剣はガイに返して下さい。これはガイの父上のものなんでしょう?」
「うむ、そのつもりだ。ガイ、その剣は主の元へ返そう……すまなかった」
「……公爵……」
「良かったですわね、ガイ。お父様の形見が戻ってきて」
それまで少し離れた位置で見守っていたナタリアが言った。
「ああ。それに公爵が実は慈悲の心を持っている事も分かったしな」
ガイにとって父親は、怨むべき仇だったのだろう。それが少しでも変わったのだろうか?
「ガイ……俺は……」
「細かい事は言いっこなしだぜ。ルーク。俺の気持ちはさっき言った通りだ」
俺はずっとガイに負い目を感じていた。意識的にガイを変える言葉を吐いてしまったと思っていたからだ。でも、少しはガイも俺を認めてくれたと思って良いのだろうか? 俺はこれから先のガイと自分の関係に思いを馳せた。
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「アッシュ、街へ出たらこんなものを見つけたよ」
俺はそう言って手に持った紙を差し出した女――漆黒の翼のノワールを見つめた。
「なんだ?」
俺はノワールの差しだした紙を手に取った……!!
『アッシュへ お前が家に帰ってこないと母親のシュザンヌ様が病気で倒れてしまいます。怒っているのは分かるけど素直に家に帰ってきて下さい。母親は倒れそうな程貴方を心配しています。
お前と同じ顔をした出来損ないの屑より』
俺は手に持った紙をぐしゃりと握りつぶした。
「あの……野郎!!!」
「……ねぇアッシュ、あんたが素直になれないのも分かるけどね。ここは一度帰っちゃどうだい。その張り紙は聞いた所によると世界全土の張られているそうだよ」
「屑が!!」
俺はその場にある机を蹴り飛ばしながらあいつを罵る言葉を吐きだした。
「~~~~~!! ~~~~~~~!!!!」
「やれやれ」
俺は今バチカルに帰って来た。ここに来るのはアクゼリュス崩落前に導師を攫った時以来だな。俺は黙って昇降機に乗ると一路屋敷を目指した。
屋敷の前に来ると、玄関前にあの屑野郎が座り込んでいやがった。
「お? おーおーおー。アッシュじゃんか。来てくれたんだな」
てめえがあんな張り紙をしやがるからだろうが!!
「いいからさっと家の中に入れよアッシュ! あ、こんな風に仕切られると腹立つか? まあいいや行こうぜ」
引っ張るんじゃねぇよこの屑が!!
「お前がここに足を踏み入れるとはな……」
久しぶりに会ったガイはそう言った。
「二度とここに戻る事はないと思っていた」
「アッシュ、ローレライはどうだった」
屑がのんきにそんな事を尋ねてくる。
「……ローレライは俺に鍵を送って来た。それで自分を解放しろと……」
「あ、やっぱそうなのか。俺も鍵、つーか宝珠を受け取ったんだよ。俺かお前のどっちかがローレライを解放する必要がありそうだな」
レプリカ野郎と俺が同列に見られているかと思うと反吐が出る。
「ほら、アッシュこっちに来いよ。5分でいいから付き合えって!!」
だから引っ張るなと言っているだろうがこの屑がぁ!!
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ぎゃーぎゃーとうるさいアッシュを引き立てて、俺は両親の寝室に入った。母親は最初同じ顔があるので驚いていた様だが、すぐに気がついたのだろう。アッシュの顔を見つめた。
「ルーク! ……ルーク!?」
ちょうど今は父親も寝室にいてくれた。ナイスタイミングだアッシュ。
「父上。母上。本物のルークを連れてきました」
「貴様! 何を考えて……」
アッシュにこれ以上喋らせると面倒になる。俺は早々に引っ込む事にした。
「俺、庭にいますから!」
「なるほどね。旦那様と奥様にアッシュを会わせてやりたかったのか」
「ああ。あいつは本物だからな」
俺がそう言うとガイは微妙な顔つきになった。
「これはジェイドにも言った事なんだけどな。俺はヴァンやスピノザさんが俺を生み出した事、ジェイドの研究が元で俺が生まれた事に関しては怨むとかそういう感情は一切ないんだ。どんな事があっても生きていられる今は大切だと思うからな。でもルーク・フォン・ファブレの居場所を奪う形にさせられた事は、入れ替えられた事については怨んでいるんだよ。だからアッシュにも居場所を返してやりたいとずっと思っていたんだ」
「……そうか」
俺は自室に行くとローレライの宝珠と、長い旅を共にしてきた剣を手に取った。これから必要になるからな。そうして中庭でしばらく待っていると、アッシュの奴が出てきた。
「……俺はもうルークじゃない。この家には二度と戻らない」
まーだそんな事言ってるよこの人は。知ってるんだぞ。原作の最後の一騎打ちの後にルーク・フォン・ファブレって名乗った事。ホントは戻りたがっているんだ。それを認めさせてやる。俺は剣を構えるとアッシュに言った。
「アッシュ。勝負しないか。純粋な、剣の勝負だ。ヴァンから剣を学んだ者同士、最後は剣で決着をつけようじゃないか」
「ルーク!」
ガイが叫ぶ。が、意識的に無視する。
「お前が勝ったらお前の好きにしたらいい。家に戻らないのも、ルークという名前を名乗らないのも。ただし俺が勝ったらお前は家に戻れ。俺は家から出て行く」
「……てめえ」
「怒ったか? アッシュ。なら剣でこいよ。剣でなら勝負してやるぜ」
同じく意識的にアッシュを挑発してやる。……乗ってこい。アッシュ!
「上等だ! そのへらず口、二度と利けない様にしてやるぜ。行くぞ! 劣化レプリカ!」
アッシュは腰に差したローレライの鍵……剣を抜いた。よし、これでいい。後は俺が勝負に勝てるかどうかだけだ。
俺達は鏡あわせの様に立ち、決闘が始まった。俺の人生最後の勝負だ!
「崩襲脚!」
いきなりそんな技を繰り出してきても当たるかよ。俺はアッシュの繰り出した蹴りを余裕をもって躱すと背後に回り込んだ。
「はぁっ! てやっ! せいっ! はぁっ!」
俺はアッシュに近づくと一瞬の内に四回の剣撃を放った。残念ながら全て剣で受け止められてしまったが。
俺達はそうして戦った。間合いを計り、攻撃し、受け止め、技を繰り出し、だが決着は中々つかなかった。当然か。同じ人物が同じ流派を学んで同じ様に訓練してきたのだ。差がつかなくても不思議ではない。原作において俺、レプリカ・ルークとアッシュは二度戦っている。アクゼリュス崩落直後のユリアシティとラストダンジョンのエルドラントでだ。だがこの戦い、どちらも参考にならない。ユリアシティの戦いは、アクゼリュス崩落直後でルークの精神状態がまともではなかっただろうし、エルドラントでの戦いは
「崩襲脚!」
今度はこちらが技を繰り出す。
「閃光墜刃牙!!」
だから、そんな大技がいきなり当たるかってーの!
「烈破掌!」
と思ったら閃光墜刃牙は見せ技か。突っ込もうとしたら左手で烈破掌を打ってきやがった。俺はとっさに自分の右手で烈破掌を出した。
「烈破掌!」
掌が合わさって気が爆発する。俺達は互いに吹き飛ばし合った。こんどは俺から技を仕掛ける。
「穿衝破!」
するとアッシュも技を合わせてきた。
「穿衝破!」
全くもってアホらしい。俺達は何をやっているんだろうな。同じ人から同じ技を習って同じ様に訓練し、同じ相手に技を振るってる。
「同じ様な技ばかり!」
「てめえがレプリカだからだろうが!」
「いやこれはレプリカ関係ないぞ」
「うるせえ!」
理不尽な奴だな。
「通牙連破斬!!」
大技を多様するなっつーに。
「斬影烈昂刺!!」
「魔神拳!」
「飛燕瞬連斬!!」
「双牙斬!」
最後の技が、決まった。
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「くそ……。
「俺の勝ちだな。アッシュ。さっき言った通り家に戻れよ。ここはお前の家なんだ」
「チィ……くそっ!」
アッシュが手に持っていた鍵を投げ出す。俺はそれを拾うと持っていた宝珠と合わせた。剣と宝珠が合わさり完成された鍵になった。代わりに俺がずっと使っていた剣は庭に差した。
「アッシュ。鍵は俺が持って行くぜ。面倒なローレライの解放も俺がやってやる。だから家に戻りな」
俺はそう言い捨てると、最後の挨拶とフローリアンの事を頼む為、両親の元へと歩み出した。
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屋敷から出た俺はローレライの鍵を背中に差すと、うーん、と伸びをした。
「さーて、これからどこに行こうかねぇ」
これにて臆病な転生ルークは終了となります。登場人物のその後などについては、全体的な後書きにでも書くつもりです。