IF AFTER 1
その城の城主はたいそう気さくで気安い人物だと言う。ほら、今日も……。
「おじさん、リンゴ一つちょうだい」
「おお、城主様。リンゴなんて一つと言わず二つと言わず持っていきなよ」
「いや、一個でいーよ。これお金」
その青年は代金の代わりにリンゴを受け取ると、美味しそうにかじりついた。そのままリンゴを食べ歩きしながら、辺りをきょろきょろと見回して……。
「……! ナタリア……?」
「久しぶりですわね。『ルーク』いえ、ファブレ子爵」
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俺は城に戻ってナタリアをもてなしていた。急に来るんだもんなー。
「評判は聞いていましてよ。キムラスカ、マルクト、ダアト、ケセドニア。全ての場所から人を募っているそうですね」
「ん? まーね。ここは荒れ果てた土地だからさ、でもその分商売のチャンスはあると思ったんだ。エンゲーブの農業、セントビナーの薬、シェリダンやベルケンドの職人、ダアトのローレライ教団、片っ端から呼び込んだ。ここに新しい商売の種がありますよーってね」
「変わりませんのね」
変わらない、か。他人から自分がどう見えてるかなんてあんまり意識してないけど、一緒に行動してた頃と変わらない風に見えたのかね?
「それに、シェリダンとベルケンドに橋を架けましたわね。実際に見てきましたわよ『ルーク橋』」
「あっちゃあ、知られてるのか。その名前言うのやめてくれよ。恥ずかしいんだ」
「何を言うのですか、領地経営で得た資金を個人名で投資したそうではないですか。立派な事です」
「あそこはなー、ベルケンドがファブレ公爵の領地でシェリダンが別の貴族の領地だろう。貴族同士の微妙な力関係があったからなぁ。個人で投資したんだ。橋を架けた理由は……あそこはお互いに技術協力して貰った方がキムラスカの為にも世界の為にも良いと思ったんだよ」
「本当に、変わりませんのね。貴方は世界の為にばかり動いていて」
「んなこたーないよ。あれをやったのは完全な思いつきだって。……まあ思いつきでついやったらシェリダンの人達にやたら喜ばれて橋に名前を付けられちまったんだが」
俺はそんな世間話もそこそこに、用件について切り出してみる事にした。
「それで? 今日はどんな用件でここに?」
「…………」
「……言いづらい事なのか?」
「わたくしの……婚約者の件なのですが」
婚約者? そりゃアッシュだろ? ……え、まさか?
「…………」
そこで沈黙するなよ! えーだってナタリアはアッシュが好きだろー。それが何で俺が出てくるんだよ。俺は試しにアッシュの話をしてみる事にした。
「アッシュ、いや、『ルーク』はどうしてる?」
「王族として、公務に励んでいますわ。ふふ、何でも貴方に対抗して自分もランバルディア至宝勲章を得るのだと張り切っていますわ」
へーそうなのか。公務だけで至宝勲章は無謀だと思うが、あいつらしいっちゃあいつらしいのか。
「彼は……わたくしとの婚約に関しては何も仰いませんの」
はあ、それでどうして俺の話になるんだ?
「貴方は……わたくしとの事をどう考えていますの?」
はいぃぃ? 俺がどう思ってるか? そんなのナタリアはアッシュの嫁としか思ってなかったよ。それに、俺は君の実の父親(ラルゴ)を殺しているんだ。
「いや、前も言った様に俺は生まれた時から自分がレプリカだって自覚があったからさ、プロポーズの言葉も自分でないルークが言った事だって思ってたから。自分はナタリアの婚約者だなんて思った事なかったよ」
「…………」
だからそこで沈黙するなよ! アレ? 俺いつのまにそんなフラグ立てたの?
「ナタリア、あのさ」
「はい」
いや俺もナタリアは嫌いじゃないよ。好きか嫌いかで言えば好きな方だよ。でもそれとこれとは違うだろう。
「…………」
もじもじするなよ。言葉を待つなよ。ど、どどどどうすりゃいいんだ!
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しばらくして、キムラスカにて王女様の結婚式が執り行われたそうです。
その相手の髪の色が朱金だったか真紅だったか、はてさてそれはまた別のお話。
突発的に思いついたから書いた。後悔はしてる、反省はしてない。
リンゴのくだりは原作のあのエピソードを意識しました。二人の再会にちょっとした描写をしたかったので。橋のエピソードは当初入れる予定が無かったのですが、ゲームをプレイしていてそのイベントを発生させたので、突発的に(以下略。