臆病な転生ルーク   作:掃き捨て芥

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 今回は原作ゲームの台詞引用がちょっと多いです。感想で指摘されたら直すかも。
 それはそれとして日刊ランキングで13位になっていてびびりました。マジ驚いた。


0話 始まりの日

 『また、体を鍛える日が始まった。』ペンを小さな帳面(ノート)に走らせては帳面を閉じ、ズボンのポケットに入れた。部屋を出ると中庭では今日もペールが土いじりをしているのが目に入る。

 

「おはよう。ペール」

 

「これはルーク様。おはようございます。いい天気でございますな」

 

 簡単な朝の挨拶を交わすと、ペールは黙った。俺がこれから行う事を知っているからだ。既に体を柔らかくするストレッチはベッドの上で行ってきた。よし、と呟くと俺は中庭の外周を走り出す。決して急がず、だけど緩めもしないしっかりしたペースで走り続ける。走る走る走る。存分に走って体が温まったら筋トレだ。腕立て伏せ、腹筋、背筋、スクワット。各100回を2セットずつ行い、体が汗をかく様になったら木刀を取り出し素振りする。1つ、2つと数を数えながら型の確認を行い朝の鍛錬は終了だ。軽い頭痛がした様な気もしたが気のせいだったようだ。

 

 朝食をとった後は昼までひたすら剣術の稽古を行う。するのは主に素振りだが、人形相手に実際に振りもする。昼から夕方にかけては対人訓練の時間だ。使用人のガイや警備の白光騎士団の中から1人借り、木刀で打ち合う。

だが、そろそろだ。そろそろの……はずだ。

 

 昼食をとった後の食休みの間に、帳面を開いて書いてある事を確認する。ND2018年 レムデーカンの月、ナタリアの誕生日の前。これだけだ。これだけが俺に与えられた情報だ。ゲームをプレイしていた時は設定オタクじゃないので厳密な日付までは覚えられていない。ただND2018年というのはゲーム中で何度も出てきた年なので覚えていたし、「その日」が呼び名はわからないけれど1月に当たる月だという事も覚えていた。合わせてパーティーキャラの1人、ナタリアの誕生日が1月で、「その日」の数日後というのもゲーム中に出てきたので覚えていた。

 この世界で暮らす様になって月の呼び名を覚える時に、レムデーカンが1月に当たるという事を知った。またナタリアと会い話をする事で、ナタリアの誕生日がレムデーカンの37の日だという事も分かった……だから今月だ。今月で間違いない筈なのだ。「その日」は。

 

そうして中庭のベンチで食休みを過ごしていると、中庭に1人のメイドが出てきた。

 

「ルーク様、玄関にお客様がいらしてたみたいです」

 

「誰が来てるんだ?」

 

「それがローレライ教団詠師ヴァン・グランツ謡将閣下がお見えです」

 

「え? ヴァン師匠(せんせい)が?」

 

 ついに来たか!? 俺ははやる気持ちを抑えて応接室に向かいたくなるのを必死にこらえた。まずは準備。何をするにも準備が大事だ。俺は急いで部屋へ戻ると引き出しなどから必要な物をとりだした。

 馬車の代金にする宝石。山道を歩いても疲れない服装(原作のヘソ出しではない、赤い色を基調としたものだ)に靴。なにより両親に懸命に頼んで買って貰った本物の剣もだ。準備を終えた俺は急いで応接室へ向かおうとするが……。

 

――ルーク……我がた…………れよ………………声に……

 

「痛てぇ……っ! いつもの頭痛か……っ!?」

 

「どうした、ルーク! また例の頭痛か!?」

 

 使用人のガイ・セシルが頭を抑えてうずくまる自分の側に寄って助け起こそうとする。ちなみに窓から入ってくるなどという奇妙な癖はない。ちゃんとドアから入って来た(これまでの生活で学習させた)。

 

「ガイ……か。……大丈夫。治まってきた」

 

 自分を助け起こしてくれた手をやんわりと離す。

 

「また幻聴か?」

 

「何なんだろーな。ホントに参るよ」

 

「このところ頻繁だな。確かマルクト帝国に誘拐されて以来だから……。もう七年近いのか」

 

「はぁーっ。マルクトの奴らのせいで俺、頭がおかしい人みたいだ」

 

「まあ、あんまり気にし過ぎない方がいいさ。それより今日はどうする? 剣舞でもやるか?」

 

「ああ、それはいいな。でも残念。今日はヴァン師匠が来てるんだ」

 

「ヴァン様が? 今日は剣術の日じゃないだろう?」

 

「さあ? 何か急ぎの用事でもあるんじゃないかな? 詳しくは聞いてない」

 

 その時、扉が軽くノックされた。

 

「ルーク様。よろしいでしょうか」

 

「おっとまずい……ここに居るのは秘密なんだ」

 

 メイドがやって来た事に焦るガイ。

 

「そっちのクローゼットにでも隠れてろよ」

 

 扉がもう一度ノックされる。

 

「ルーク様?」

 

「ああ、大丈夫だから入って来てもいいよ」

 

 ガイがクローゼットに隠れるのを横目に扉の前へ行く。扉が開いてメイドが入って来た。丁寧に頭を下げてくる。

 

「失礼致します。旦那様がお呼びです。応接室へお願い致します」

 

「わかった。伝えてくれてありがとう」

 

 出来るだけ優しく返答しながらも気ははやっていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 応接室の扉を開くと椅子に腰掛けた両親とヴァンの姿が見えた。

 

「ただいま参りました。父上」

 

「うむ。座りなさい、ルーク」

 

 ドキドキしながら椅子に座る。そして隣のヴァンの様子をうかがいながら言葉を発する。

 

「師匠。今日は俺に稽古をつけて下さるんですか?」

 

「後で見てやろう。だがその前に話がある」

 

(相っ変わらずうさんくさい髭だな)

 

 そんな不遜な事を考えていると父親の声が聞こえてきた。

 

「グランツ謡将は明日ダアトへ帰国されるそうだ」

 

 やっぱり! ついに来たか!

 

「え? それは何故?」

 

「私がローレライ教の神託の盾(オラクル)騎士団に所属している事は知っているな」

 

「神託の盾騎士団の主席総長であらせられますよね」

 

「そうだ。私の任務は神託の盾騎士団を率い、導師イオンをお護りすることにある」

 

 ヴァンと会話していると、父親の声が割り入ってきた。

 

「そのイオン様が行方不明なのだそうだ」

 

「私は神託の盾騎士団の一員として、イオン様捜索の任につく」

 

「そうですか……導師が行方不明。それは大変ですね」

 

 ローレライ教団はこの世界で覇権を担っている宗教組織であり、導師はその最高責任者だ。現実世界で言うならばキリスト教・イスラム教・仏教全てが合体して1つの組織となっている様なもの。そりゃ権力ありますわって話だよ。導師はその宗教組織の責任者なんだから行方不明になったというのはまさに世界規模の大問題なわけだな。

 

「私がキムラスカ王国に戻るまでは部下を来させよう。ルーク。しばらく手合わせできぬ分、今日はとことん稽古につきあうぞ」

 

「えっ!? でも師匠は一刻も早くダアトに帰国しなければならないのでは? 私の稽古などしている場合ではないのではないですか!?」

 

 何考えてんだこの髭野郎。

 

「ふふっ。連絡船の到着までまだ時間がある。それまでの間稽古を行おう。では、公爵。それに奥方様。我々は稽古を始めますので」

 

「おお、ルーク。くれぐれも怪我のないようにね」

 

「わかっております。母上」

 

 母親は優しい人だが心配性だ。その母をこれから更に心配させる様な事になると思うと気が重いが、これも仕方ない。世界の為だ。

 

(いや、それより何より自分の為……だな)

 

「お前が誘拐されかかってからもう七年……。お前も17歳か。王の勅命とはいえ、軟禁生活で苦労をかけるな」

 

 珍しい。この父親がこんな事を言ってくるとは。いつも必要最低限の事しか自分には言ってこないのに。

 

「大丈夫ですよ。父上。屋敷中でも研鑽はつめますし、勉強も出来ます。ガイやペールがいてくれるおかげで孤独でもありません。なにより父上と母上がいますから」

 

 そう返答すると寡黙な父親は黙ってうなずいた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 背中側に吊した鞘には本物の剣を入れ、木刀を持って中庭にでると、ヴァンとガイが声を潜めて話しをしていた。

 

「なるほどねぇ。神託の盾の騎士様も大変だな」

 

「だからしばらくは貴公に任せるしかない。公爵や国王、それにルークの……」

 

 二人に近づこうとした時、側に居たペールがまるでタイミングを計ったかのように大声を上げた。

 

「ルーク様!」

 

 ガイとペール。この二人は本当に……本当に。

 

「何しているんだ、ガイ?」

 

「ヴァン謡将は剣の達人ですからね。少しばかりご教授願おうかと思って」

 

 尋ねるとガイは笑いながらそう言った。……隠し事をしているのはお互い様、だな。そしてペールは二人が俺に隠し事をしているのを知っていて、二人に俺が近づいている事を警戒させる為に大声を出したって訳だ。

 

「本当か? そんな感じには見えなかったが」

 

「準備はいいのか? ルーク」

 

 ヴァンの問いかけに木刀を掲げる事で答える。

 

「大丈夫です」

 

 するとガイは中庭のベンチに座った。

 

「それじゃあ俺は見学させてもらおうかな。頑張れよ、ルーク」

 

「ああ」

 

 そして剣術の稽古は開始された。譜業を用いた特殊な人形(何でも聞いた所によるとバチカルにあるとある道場で作っている物らしい)を相手取り、ヴァンから指導を受けて木刀を振るう。

 間合いの調節、基本の攻撃、防御、技、技の連携。一通り鍛錬を行ったら、最後はヴァンと直接打ち合うのだ。

 だが……。

 

(……なんだ? 何かが来る?)

 

 何かを感じた。いつも起きる例の頭痛と少し似ている。ただ痛みも幻聴もない。

 

 トゥエ レィ ズェ クロア リュオ トゥエ ズェ……

 

(来たのか?)

 

 その歌声を聞いた瞬間、頭に鈍痛が襲いかかってきた。と同時に猛烈な眠気も。

 

「これは……!?」

 

「体が動かない……!」

 

「これは譜歌じゃ! お屋敷に第七音譜術士(セブンスフォニマー)が入り込んだか!?」

 

 中庭に倒れながらペールが叫ぶ。ガイも倒れそうになる体を必死にささえて声を荒げた。

 

「くそ……、眠気が襲ってくる。何をやってるんだ、警備兵達は!」

 

 屋敷に居る白光騎士団の皆は、全員が全員床に崩れ落ちて眠りへと誘われていた。全ては歌声の主によって。その時、中庭に新たな人物が現れた。長い灰色の髪をたらし、神託の盾騎士団の特殊な軍服に身をまとい、右手に杖を掲げてヴァンへと近づいてくる。

 

「ようやく見つけたわ。……裏切り者ヴァンデスデルカ、覚悟!」

 

「やはりお前か、ティア!」

 

 ヴァンが切り払った剣を女は後ろに飛び退いて避けた。するとちょうど片膝をついて眠気に耐えていた俺の目の前に女が立つ形になった。女は左手に太ももの辺りに差しておいたナイフを構えると再びヴァンに襲いかかろうとした。

 

「あんたは……いったい何なんだ!」

 

 声を発して自分が居る事をアピールしながら、女に向かって木刀を突き出す。

 

「いかん! やめろ!」

 

 ヴァンは制止しようとするが構うこっちゃない。これは全てにおいて必要な事なんだ! 瞬間、女の構えた杖と俺の持つ木刀が交差した。

 

――響け……ローレライの意思よ届け……。開くのだ!

 

「ぐ……、また声が……」

 

「これは第七音素(セブンスフォニム)

 

 女が何か言いかけていた様だが、何も聞こえなくなっていった。そして…………。

俺達は飛ばされた。

 




 原作開始。作中で主人公が言っている「始まりの日」の覚え方は作者である私の覚え方そのままです。今は小説を書いているので攻略本や公式シナリオブックなどを見ながら情報を得ていますけどね。小説を書く前はホントに「ND2018年 1月 ナタリアの誕生日前」という覚え方をしていました。
 転生ルークが旅に出る為用意した服は原作の「ベルセルク」の衣装称号を考えてもらえれば、大体あんな感じです。さすがにヘソ出しはね。

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