日万凛に負けるつもりは無い。だが、今の状況を楽観視出来るほど余裕が無いのは確かだ。
羽前組長の能力で使役している奴隷…………サイズ的にも見た目的にも醜鬼と考えるのが妥当。
馬鹿兄者が鍛えているというだけあって未熟ながら覇気も習得しているようだ。
能力の発動も間に合わないスピードでの攻撃は正直防ぎようが無い。
ならば…………答えは一つ。
「仕掛けられる前に仕掛けるしかないのう‼︎」
馬鹿兄者から教わった覇気と武術は私様にとって革命だった。
今までは支給された銃でしか戦えなかったのが直接醜鬼を倒せるようになったからだ。
だが、如何に技を極めてもそれはあくまで対人の技術。
人に近いとはいえ相手は異業なのだ。故に醜鬼相手には大技を使うしか無い。
懐に潜り込み、その勢いのまま飛び上がるようにして、掌底を奴隷の顎へと叩き込む。
「グゥッ‼︎」
「優希⁉︎」
ダメージを受けながらも拳を突き出してくる奴隷。中々の根性だが、この距離なら私様の間合いだ。
奴隷の拳を受け流しながら手刀を顔面に目掛けて放つ。奴隷はそれを受けようとするが私様の術中だ。
「これが猛虎硬爬山よ‼︎」
全力の覇気を込めた掌底を打ち込む。クリーンヒットした事で吹き飛ぶ奴隷と日万凛。
「やるわね、確かにあなたは強い。それでも、あなたをぶっ飛ばす‼︎」
「ウォォォォォォォォオ‼︎」
雄叫びを上げながら立ち上がる奴隷と吼える日万凛。その姿に虐められていた弱い日万凛はもう居ないのだと少しだけ、ほんの少しだけ寂しくなる。
「さっきの一撃、かなりの覇気が込められていたわ。既に一回能力を使っている状態ならかなり消耗してる筈‼︎一気に決めるわよ、優希‼︎」
「ほぅ」
流石は日万凛。覇気も能力も今の私様にとって消耗が激しい。
気取られないようにはしていたが、日万凛の見立て通り私様の消耗はかなり激しい。
「確かにそれなりに消耗はしておるが、それで私様との差が埋まる訳でもあるまい」
「そんなもの関係ない‼︎」
母様や兄者が使う覇王色、威圧する覇気とは違うが中々の覇気だ。
日万凛の素養を考えればこの程度序の口。私様を越える才能を持ちながら発揮しきれない愚妹の為に姉の威厳を見せてやらねばなるまい。
スピードが圧倒的に劣っている以上、間合いをとって加速するスペースを日万凛達に与えてはならない。
「よって、私様から仕掛ける‼︎」
懐に潜り込み、掌底で顎を撃ち抜くと見せかける。
先程の猛虎硬爬山の起点となった掌底が頭に残る奴隷は防御を選択。
そこで空いた腹に必殺技をぶち込む‼︎
「くらえ私様の絶招、凶叉‼︎」
両脇腹と腹部に貫通力の高い浸透勁を打ち込み、ガンマナイフの容量で威力を増大させる技とバカ兄者から教わった。
発勁がよく分からぬが、つまり無駄なく力を伝えるという事らしい。
浸透勁というものは今だによう分からぬが、効率の良い力の伝え方を連続で叩き込む技、それに身に付けた武装色を込める事でより大きな破壊力へと繋げる。
技の習得をするばかりか、より発展させるのは私様の才能が成せる技だが、馬鹿兄者も手放しで…………あの阿保は何時も手放しで褒めてくるか。
「優希⁉︎」
「トドメじゃ、烏龍盤打‼︎」
身体ごと回転しながら手刀を叩きつける技。馬鹿兄者から最初に教わった技。
日万凛単体には負ける事はあり得ん、つまり奴隷さえ潰せば私様の勝利‼︎
「この瞬間を待ってたのよ‼︎」
瞬間、鎖から手を離す日万凛。すると奴隷が光る。
「目眩しなぞちょこざいな‼︎」
構えている状態ならいざ知らず技を放った状態からの能力の発動はまだ出来ん。
薄目を開けて前を確認すると日万凛の拳が目の前まで迫っていた。
「しまっ」
「ジャックポットよ‼︎」
日万凛が渾身の覇気を込めた一撃は確かに私様の顔面を捉えた。
能力の発動も間に合わず、私様の意識はそこで暗転した。
次に意識が目覚めたのは治療を受けた後だった。日万凛達の治療は終わっていたようだ。
「私の勝ちよ、八千穂」
「あぁ、私様の負けじゃ」
何処か誇らしそうに笑う日万凛は家にいた頃の弱い日万凛ではなくなっていた。
「日万凛、今のお前なら本家の人間も何も言わんだろうし戻ってこんか?」
「お断りよ」
「な⁉︎………………………」
その言葉を聞いた瞬間、私様の意識は暗転していた。
魔防隊に入ってから様々な任務をこなしてきたが、この一言が最もダメージを受けた。
「さっきの試合、お兄ちゃんとしてどうだった?」
天花さんが俺に話をふる。短い試合時間の割に中々の内容だったと思う。
「まぁ今回は日万凛の作戦勝ちって感じかな。八千穂も能力の使用を控えて優希を狙ったのは悪くない判断だよ。今の日万凛と八千穂なら近づけば八千穂の方が有利だし」
日万凛はデメリット付きの能力をコピーする際は、デメリットの処理が終わらないと次の能力を発動出来ないのに対して、八千穂は構えを取ればスタミナの続く限り発動出来る。
だから八千穂は出来るだけ能力を使わずに優希を処理して、日万凛と決着を付ける作戦を選んだ。
日万凛の勤勉さが能力への理解力を深めた結果の勝利となった。
もう一度戦えば、また違った結果になるだろう。
「次はサハラと朱々ちゃんか。パワー対決って感じ………………………」
唐突な違和感。結界の影響なのかはっきりと感じ取れなかったが、何かしらの違和感を感じた。
すると、天花さんが声をかけてきた。
「どうしたの千景君」
「いや、なんか変な感じがしてさ………………」
「七番組の方で警戒してくれてるみたいだし、千景君も少しは力を抜いたら?」
「そうだね」
「私は八千穂のフォローしてくるら試合の方はよろしくね」
「うん、よろしく」
天花さんはゲートを開きながら八千穂の方へ向かっていった。
七番組の寮から離れた場所、3つの異形の影があった。
「おっとと〜、危うくバレる所だったねぇ」
「柴黒よ、別にコソコソせずとも仕掛ければ良いでは無いか」
大柄な異形が小柄な異形、柴黒へと尋ねる。柴黒の視線は千景へと向いている。
「それもそうなんだけど………あの男が戦う所を見てみたいんだ〜」
「お前は三番組とやらをやったから今回は我がやる」
「うん、そういう取り決めだからね。ただ、仕掛けるタイミングは僕が決めるからね」
「男だろうと組長だろうと廃れ者には変わらん。廃れ者共が我ら神には遠く及ばんという事を照明してやろう」
雷煉と呼ばれる大柄の異形は逸る気持ちを抑えるように腕を組む。
敵である魔防隊の戦力を計りかねている柴黒。味方である雷煉達に被害が出ないように立ち回ろうとしていた。
自分の仲間が揃っていない状態であるのに、攻めっ気が抑えきれていない雷煉。
慎重に、万が一が起こらないように一つずつ段階を踏んでいく。
今回の雷煉の作戦で魔防隊の組長と唯一の男がどれほどの戦力なのかを測るのが柴黒の狙いだ。
ここで2人の組長と唯一の男を倒せるのなら現状の戦力をもって人類を滅する。しかし、負けるような事があれば仲間が全員揃うまで慎重に事を進める。
「ククク、組長とそれに並ぶっていう男がどれ程のものか見物させてもらうよ」
柴黒は自分達が潰そうとしている相手がどれほどの実力なのか楽しみになっていた。
仮にここで負けても仲間が揃うまでの期間は遊び相手になるという事の証明になる。
どう転ぼうと暫くは暇する事は無さそうでワクワクする気持ちが抑えられなくなっていた。
長らくお待たせしました。
中々まとまって時間を取る事が出来ず、ちょこちょこ書いておりました。過去作を色々弄ったりしておりました。
次回以降はもちっと早めに出来るようにしていきます。よろしければコメントなどお待ちしております。また、良さげなバトル漫画やゲームの技など教えてもらえたら嬉しいです。