正義の派閥【アストレア・ファミリア】。
眷属を失い深く傷ついたのかアストレアはオラリオから出ていった。当初ギルドは渋ったが、唯一生き残ったLv.4、【疾風】がオラリオに残るならばと受け入れた。
同じ様な期間に【ヴィーザル・ファミリア】でも似たようなことがあった。違いは、その後だろう。
【疾風】は何処の派閥にも属する事なく姿を眩ませ、すぐに
否、
彼等に繋がりのあった商人、情報提供をしていた一般人、ギルド職員、正規派閥の破落戸が襲われる。殺される。
犯人は【疾風】。正義なんてものでもなく、疑わしい、それだけで襲う彼女のそれは復讐と呼ぶには八つ当たりが過ぎ、八つ当たりと言うには過激が過ぎた。ギルドとしては
となれば彼が動くのは必然であった。
「久し振りだな、リオン」
雨の中何時もと変わらぬ笑みを浮かべ声をかけてくるクロノ。最早その関係は冒険者とギルド職員ではなく、故に敬語は使われない。
「私を、殺しに来ましたか」
「そうしたかったけど、上はお前を生かしたいらしい」
上? ロイマンだろうか。いや、彼はあれで非情な判断を下せるし、クロノとて今回は完全にリューがやらかしているので上の命令だろうとロイマン程度なら説き伏せるぐらいは出来るはず。
「神ウラノスの方針だ。今日までオラリオの為に戦っていた君達への、せめてもの恩義を返したくてね」
と、闇から滲み出るように現れたのは黒衣の人物。男か女かも不明。
「むろん、ただとは言わない。貴方達が遭遇したジャガーノート………あのモンスターの事を決して口外しないと約束して欲しい」
「ジャガーノート………? あの、モンスター!? 貴方達は、あれを知っていたのか!!」
【アストレア・ファミリア】を全滅に追いやった未知のモンスター。それを既知であるかのように語る黒衣の人物に思わず叫ぶ。
「特定の条件さえ満たせば誰でも簡単に呼び出せるダンジョンの機構。魔法反射に破爪、敏捷と中々厄介なモンスター。具体的には修復を上回る大規模破壊に対して要因の排除の為のダンジョンの抵抗だな」
「それが………それを伝えていれば、アリーゼ達は!!」
「…………誰でも行えると言ったろう。ともすれば、事前準備が必要だった1年前の『悪夢』をより惨憺に繰り返されていた」
それも
「普通ダンジョンの階層を破壊してやろう、なんて考える奴が現れるとは想定していなかったからな」
と、黒衣の人物は顔をクロノに向ける。
「いい悲鳴をあげるよな、ダンジョンって。弱いものを沢山生んでくれるけど強いものもそこそこ産むダンジョンはあまり好きではなかったけど、あの悲鳴のおかげでリド達の母を好きになれた」
よくわからないが、たぶん彼を理解することなど一生かかっても出来ないのだろう。
「………解りました」
「感謝するよ、【疾風】。可能な限り君の情報が暗殺者や賞金稼ぎの手に渡らないよう便宜を図ろう」
クロノはふと、多くの命を奪った女がそれでも守ろうとしていた子供がいる可能性が高い方向を教えようかと思った。
怒りに任せ何の罪もない子供を襲った彼女が冷静になった時、悪に走る可能性を考えたからだ。でも多分オラリオに戻ってこないだろうからやめた。
さて、そんな獲物を逃がした翌日。
休日なので本屋に訪れ新しい英雄譚でも探していると、小さな手と重なる。
此方をじっと見つめるクリクリとした瞳と目が合う。アマゾネスの少女だ。
「…………お兄さんも英雄譚好きなの?」
「ああ、好きだよ」
英雄譚には必ず苦しむ弱者が存在するから。
少女はじゃあ、と本を差出す。少女の手が下にあった。つまり、少女の方が先に手を伸ばしていたのだ。
「いいのかな?」
「うん!」
「いい子だね。飴を上げよう」
「わーい!」
元気で明るい子だ。そしてとても濃い血の匂いがする。モンスターではなく、人類のものだ。と………
「ティオナ! てめぇ勝手にどっか行ってんじゃねえよ!」
「あ、ティオネ!」
本屋から出るとアマゾネスの少女が駆け寄ってくる。よく似ている。姉妹だろうか?
「また妙なのに絡まれてアタシ一人で……………あぁ?」
と、ティオネと呼ばれたアマゾネスの瞳がクロノを捉えると嫌悪と憎悪に歪む。次の瞬間、路面が砕けるほどの加速で蹴りかかる。
「ティオネ!?」
「此奴に近づくんじゃねえ!!」
「ちょ、ちょっと!? どうしたのさいきなり!」
蹴りを受け止められ、彼我の差は解っただろうに吠えるアマゾネス。随分と嫌われたようだ。
「てめぇからは臭うんだよ! アルガナと同じ臭いだ! 血に酔い、殺戮に溺れるクズの臭いだ!」
「失礼なやつだな。血に酩酊するような効果はないぞ? 仮にあっても、俺は節度は弁えている」
ちゃんと人に迷惑をかけないように酒に酔う。クロノは飲み会ではそうしている。
「そもそも、そこまで血の匂いを漂わせておいて血の匂いで責められてはたまらない」
「っ!! ぶっ殺す!!」
と、飛び出してくるティオネの腕を躱し膝と肘で伸ばされた腕の関節を砕く。
「あぎっ!?」
それでも闘志が衰えぬ少女に拳を叩き込む。音は一撃。衝撃は3つ。
肺と胃と三半規管を揺らされ息と胃の内容物を吐き出し立ち上がれずコヒュコヒュと荒い息を繰り返すティオネ。
「あ、最近ウワサのアマゾネス姉妹」
と、不意に思い出すクロノ。都市外からやってきた見目麗しいLv.3のアマゾネスの姉妹。様々な派閥が欲しがる有望株。現在
ファミリアの恩恵もギルドの恩恵も受け取れない神の眷属が、明確な犯罪行為をしてきた。クロノは感謝しながら彼女の頭を踏みつけようとする。
「おっと、危ないよ?」
ティオナが割り込んできた。交差させた腕を圧し折りそのまま頭蓋にヒビを入れる所だったがギリギリ止める。
「下がっていなさい。おじさんは犯罪者を【ガネーシャ・ファミリア】に引き渡す前に、ちょっと玩具にするだけだからね」
悲鳴もあげられないティオナを横にどけ、改めてティオネに蹴りを放つクロノ。が、また止められた。今度は槍だ。
「そこまでだよ、クロノ」
「ディムナ氏」
「彼女は僕達が預かる」
「そうですか。それは何より。ギルドとしても、【ロキ・ファミリア】の戦力が増えるのを歓迎します」
あっさりと引き下がるクロノ。弱いものいじめをしたいが彼は秩序側の人間であり、ギルドの職員。【ロキ・ファミリア】がそうすると言うなら従うまでである。
「せっかくの凶暴な性格ですから、あまり躾せずにいれば個人的には助かります」
「そうならないよう気をつけるよ」
帰ったらギルド長に叱られた。給料には影響はなかったが。
おまけ
もしクロノがリューに闇派閥の女の子供の事を話していた場合、憎しみに曇ったリューは村を探して見つけるもそこで力尽きて白髪の少年(一桁)と出会い初恋泥棒して初恋してショタコンエルフが誕生してた。