「クロウ! 準備しろ!」
「はあ、どうしました?」
何やらロイマンの機嫌が良い。文句を言えても処罰、減給出来ない程度の問題行動が足らなかったのだろうか?
ちょっと加減を間違えると面倒事になるアマゾネス姉妹で遊んでロイマン遊びがおろそかになってしまったのだろう。反省しなくては。
「【イシュタル・ファミリア】に虚偽申告の脱税の疑いがかかった!」
「【イシュタル・ファミリア】?」
美の女神イシュタルの派閥で、歓楽街の支配者だ。
美と愛の神は性に奔放で、歓楽街の神々は基本的に愛の神。そして女神とは大抵嫉妬深い。
冒険者同士の諍いはギルドも介入する権利を持たず、やり過ぎと判断されない限りはクロノも静観。
現場に赴き笑顔で手を振ってやれば勝手に屋根から落ちて怪我したり魔法を避けそこなって燃えたりもつれ合って骨を折ったりして、見る分には楽しい。
そんなはた迷惑な女神達が起こす騒動の
因みにオッタルに並ぶLv.7としてよく美の女神がクロノを誘惑しにくるが基本的に無視してる。うっかり愛させた結果、『魅了』による命令を刷り込む前に一柱天に還してしまったらしく、それ以来魅了は使われていないが。
ウラノス曰く神の魅了を以て愛させると『この世の何よりも弱いもの』と認識、かつ自分がそこまで愛することは魅了=違法行為を行った相手と認識して反射的にいじめ抜こうとするらしい。
最適解は遠距離から声による魅了。それも生半可な魅了ではクロノの中で苦痛に喘ぐ魂の断末魔に邪魔されるのだとか。
それを知ってかイシュタルから勧誘を受けたことはない。彼女もギルドまで敵に回す気はないのだろう。あの女はその辺りを考えて動く。
そんなイシュタルがギルドに虚偽報告?
「………………」
資料に目を通す。複数の女神から複数の冒険者の強さが申告と合わないと報告されたと書かれている。しかし、これ…………
「………一人ずつ?」
まとめられた目撃証言。Lv.2の
Lv.1の男娼が同じくLv.1の集団を殲滅した。
Lv.3が格下とは言えランクアップ間近のLv.2の息の合ったペアを圧倒した。
何人かの虚偽容疑者。それ等の目撃証言は
「……………………成る程」
種は読めた。【イシュタル・ファミリア】は別に虚偽申告はしていない。このままロイマンを行かせてもギルドが逆に金を払う事になるだろう。ならばギルド職員であるクロノが取るべき行動は……………
「……………………」
魂が抜けたような顔でポテポテ歩くロイマンの背中を眺め、クロノはニコニコツヤツヤ。クロノはちゃんと言った。単純に強化魔法を受けているだけの可能性がある、と。
ランクアップに見紛う強化などそうそう他人にかけられるものか、と相手しなかったのはロイマンだ。クロノはそう考えるに至った理由を教えなかっただけ。ロイマンならこうすると思っていたが、止めなかったことは罪ではない。
その後逆に罰則と罰金を受け弱体化した女神の派閥が【イシュタル・ファミリア】に襲われ【イシュタル・ファミリア】とやり合う程度には力を持っていた多くの派閥が壊滅しロイマンが叫ぶが、面白いので放置した。因みに【イシュタル・ファミリア】はギルド最強戦力であるクロノを要求したりしたが…………。
「私はLv.7です。貴方達の秘匿情報程度が釣り合うわけないでしょう?」
と、丁寧に答えてやったら何人か闇討ちしてきたのでしっかり反撃させてもらった。ちゃんと冒険者を続けられる程度に……まあ雷鳴轟く嵐の日や凍える冬には外に出られなくなってしまった女が何人か現れたが………逆にまた痛めつけて、とやってくるアマゾネスも何人か。
全く、何故喜ばせなくてはならないのか。嫌がって逃げようと、足掻こうとする者を痛めつけるからイジメと呼べるのに。
アマゾネスは常識がなくて困る。
アマゾネスといえば【ロキ・ファミリア】所属になった姉妹のいきなり襲ってきた姉の方はあの後フィンに惚れたらしい。まだクロノを毛嫌いしていたが一応の謝罪はしてきた。
ちゃんと頭を下げた妹と違ってフィンに言われ渋々だが。彼女達は才能がある。いずれ第一級に数えられるだろう。
【ロキ・ファミリア】も場合によっては条件次第で【フレイヤ・ファミリア】とも渡り合えるだろう。真の意味で二大派閥と呼べるようになった。
でも一部が感情で動けばどうとでもなる程よい弱さ。一ヶ月に2、3回は狼とアマゾネスと猫と小人四兄弟を虐められる。それこそが充実した日々だ。
「エイナ・チュールです、よろしくお願いします!」
「ミイシャ・フロットです!」
さて、そんな日々も続き学区が再びオラリオに訪れた時、ギルドにも何人か新入りが入る。
上は成績優秀者のハーフエルフに、筆記成績は超ギリギリなれど容姿と明るさで冒険者の相手を出来るだろうとほぼ顔採用の落ちこぼれ。
教育係に割り振られていく中、ギルド長から呼び出し。ギルド長室に入ると一人の男が居た。
「やあ、久し振りクロノ」
「…………………」
クロノはとても嫌そうな顔をした。獅子色の髪を持つ好青年は気にした様子もない。
「君もあの技に至ったと聞いたよ」
「……………」
「無理に、とは言わない。互いに、喰らい合わないか?」
「あ、無理です」
話はそれだけなら仕事に戻りますね、と扉を閉めようとして…………
「ところで、臨時講師をしてみないかい? 生徒達にオラリオを知ってほしいんだ」
「……………………仕方ないな。てかお前、割と最低だぞ」
「そう返すあたり君も自覚してるんだよなあ。いや、でも実際、あの子達はレベルを忘れオラリオを下に見てるから、必要だとは思っているんだ。やりすぎるようなら俺が止めればいいしね」
俺の相手は嫌だろう? と笑顔で尋ねる男にクロノはチッと舌打ちして頭をかく。
あまり知られていないことだが、彼等はそこそこ仲が良い。何故なら獅子色の男、レオンはよく喧嘩を売られ、戦士として相手するオッタルと違い弱いものに手を出す可能性が限りなく低いからだ。