外道がギルド職員なのは間違っているだろうか?   作:社畜

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英雄とは

 レオンに案内されるまま訪れた教室に入ると沢山の視線が出迎える。

 

「レオン先生、そちらの方は?」

「オラリオから派遣されたクロノ・クロウだ。私の個人的な友人でもある」

「クロノ・クロウです。皆さん、よろしく」

 

 ニコリと微笑むとぽぉ、と認める女子達。

 オラリオからと聞いて物珍しげに見る生徒も多い。中には明らかな敵意………いや、嫌悪を向ける者もいるようだが。

 

「ク、クロノ・クロウって………Lv.7の【深き闇(タルタロス)】!」

「レオン先生と同格の………」

「でも、所詮は戦いから逃げたギルド職員だろ」

 

 尊敬、畏怖、やっぱり嫌悪。色んな視線を向けられる。

 

「ギルド職員がなんのようですか? 冒険者候補でも探しに来たんですかねえ?」

 

 そう問いかけてくるのは灰髪の少年。この中ではそこそこ強い。それは振る舞いから感じ取れる自信や、周りの生徒からの反応でよく解る。

 

「私にその権限はありませんし、今この教室にいる生徒達の中にすぐにでも勧誘するような魅力的な眷属は居ないので()()()()()()()()()()()()

 

 早速か、と言わんばかりにレオンは肩を竦めた。

 

「っ! い、言ってくれますね!」

「まあ、Lv.2は世間的に大したものでもオラリオの半数よりは下ですし、なんならダンジョン内ではLv.1より役に立たないこともありますからね。地上で戦えた、とダンジョンでも戦えるは別ですので、冒険者を目指すなら例え相手がレベル下でも先達の言う事を聞くことをお勧めします」

 

 なにせ無限にモンスターが生まれ、時には環境そのものが攻撃してくるダンジョンの経験がまるでないのだから。

 Lv.2のリーダーがいればリヴィラを行き来できるパーティーのLv.1と『学区』のLv.2、どちらを連れてくと聞かれれば冒険者は間違いなくLv.1を選ぶ。

 

「そんなに強いなら、何で4年前、都市が落ちかけた」

「敵が強かったからですね」

「そんな言い訳! 強い敵なら、学区だって戦った! 俺達だって………!」

「でも4年前、学区にはレオンが居て、外の闇派閥には覇者が居なかった。それだけですよ。というか貴方、参加してないでしょう?」

「戦争にだって参加したこともある!」

「その戦争にLv.7がいたとでも? ああ、居ましたね。あの時の闇派閥(イヴィルス)と同じく、自分の勢力に」

 

 強者の影で、英雄の率いる兵の一人程度でありながら自分も英雄の資質があると勘違いした幼い少年。クロノは彼が好きになった。

 

「だいたい、何であんたはギルド職員なんかやってるんだ。戦うのが怖いのか!? 俺なら…………!」

「俺ならやれる、そう思うなら是非オラリオへ。そして何も出来ぬ無様を晒して、こんな筈じゃない、俺はもっと出来る筈だと言い訳する姿を見せてくれると幸いです」

「なっ!」

「そういう冒険者の顔を一つでも多く見るために、私はギルド職員をやっていますので」

 

 最初は都市の憲兵たる【ガネーシャ・ファミリア】で現実に打ちひしがれて暴れる輩をいじめるつもりだったが、中々どうしてギルド職員はクロノの天職であった。

 

「ル、ルークはそんな事になりません! ルークは、凄くて………」

「都市の外で凄いのと、オラリオでやっていけるかは別ですよ?」

 

 何で毎回そんな事も解らないんだろうとでも言いたげなクロノの態度に教室の空気は張り詰めていく。

 

「だったら、少しは都市の外に目を向けろよ!」

「都市の外?」

「オラリオの外が…………世界が今どうなっているのか、あんた達は知ってるのかよ!」

「え、知ってますよ? 私を誰だと思っているんですか」

 

 オラリオの冒険者と外を繋ぐギルド職員だぞ。ロイマンの主張にも付き合わされるギルド最強戦力で、実質的なギルドのNo.2。

 

「ならなんで、そんな悠長に……!」

「ん〜?」

 

 悠長………まあ、【ゼウス】や【ヘラ】に比べれば歩みは遅いだろうが、それでも【ロキ】も【フレイヤ】も一応は進んでいる。ゆっくりでも立ち止まってはいない。

 

「今無駄死にしたところで、次こそ詰むだけですし。ロキとフレイヤの代わりは、残念ながら居ないでしょう」

 

 昔日の最強の代わりには程遠いが、しかし同時に彼等が落ちた時代わりの最強は今の最強に追いつく事すら倍の年月がかかるだろう。

 

 ガネーシャは治安維持に戦力を割き、イシュタルは最強の座に君臨できたらもう何もしないだろうし。

 

 とはいえ、レオンが心配しつつも価値観を矯正しないわけだ。現実が見えていないことを除けば彼の義憤は正しく、他者を思う高潔なものなのだから。

 

 レオンが否定してしまえば、その正しさは崩れてしまう。飴と鞭の鞭役を押し付けたというわけか、とレオンを見ると申し訳なさそうに笑う。まあ個人的に鞭は好きだから良いけど。

 

「だから、今は人がどれだけ苦しもうが関係ないってか!?」

「ええ」

「「「!?」」」

 

 ギョッと教室の空気が固まる。そこまで尋ねられるとは思わなかったのかレオンが頭を押さえる。素直に答えたことにではない、此奴は絶対答えると確信していた。

 

「今可哀想な誰かを助けるために竜の谷へ乗り込み全滅すれば、後はただただ滅びるだけですからね」

「親を殺された子供の気持ちを考えたことはあるのか!?」

「ああ、私、正にそれです」

「っ!! こ、恋人を殺された男の人は………」

「一応、婚約者もいましたね。殺されましたけど」

「こ、故郷を失って家族と泣くしか出来ない人を………」

「運が良いですね。私は唯一の生き残りでしたよ」

 

 さて、そんな自分が、他にも同じような思いをしている人間に何を思うか………………特に何も。だって目の前にいるわけじゃないし。

 

「何で、何も思わないんだよ!? あんたと同じように、怪物に、竜に故郷を滅ぼされた人が沢山居るのに」

「怪物じゃなくても故郷は滅びますよ。私の故郷は人の手でしたね。エルフが杖を振るうと、こう、炎が村を覆って」

 

 お、良い顔してるなあのエルフ。

 レオン曰く有望なエルフの魔導師も居たらしいが、クラスが違うようで残念だ。自分の魔法が誰かの故郷を焼けると知った時の顔を見てみたかったのに。

 

「それでも、何もしない理由にはならないはずだ!」

「? 何を当たり前のことを」

 

 クロノ自身は世界を救う気はないが、世界を救ったと言う名声が欲しいフィンや、女神の眷属が最強であることを示したいオッタル、怪物を殺し尽くして『怪物に殺される人間』を無くしたいアイズなどは、世界を救う為にもう少し頑張るべきだろう。

 

「だから、俺がやってやる! 世界をそうやって軽く見るあんた等の代わりに俺が英雄になってやる!!」

「え、無理だろお前才能ないもん……………おっと、夢見ることは良いことですね」

 

 数多の冒険者を見てきたクロノはうっかりといったふうに素の声を出してしまい、慌てて口を押さえる。レオンはわざとだと確信した。

 

「クロノ、この辺で…………いや」

 

 しかし、言い方は悪いが身の程を知らない生徒が増えているのは事実。勿論レオンは、正しく彼等が導かれれば英雄になると信じている。しかしレオンもクロノも、今の彼等が正しく導こうとする先達の言葉に耳を貸すとは思っていない。

 

「おほん………私が世界を軽く見てると言ってましたね。まあ否定はしませんが、貴方も世界を安く見過ぎです」

「なんだと!?」

「『自分はこんなに頑張っている』『こんなに真面目に世界を思っている』………その程度に『付加価値』を付けて、値上げしても意味ありませんよ。貴方程度が命を懸けたところで救えるほど世界は安くない。貴方より遥かに強く、偉大な英雄達が命を賭けて行えたのは、世界の維持と人類の再興なのですから」

 

 そして、そんな英雄達の眩い威光が地獄に花道を彩り目が眩んだ者達が続き苦しむ。今正に目の前の少年のように。

 つまり、やはり英雄は素晴らしいということだ。

 

「英雄とは、それだけ偉大な存在です。多くの兵を奮い立たせる力がある。ただ子供のように叫び戦う者達を不甲斐ないと叫ぶだけの貴方に世界が救えると本気で思うなら、()()()()()()()()ですよ」

 

 お、良い顔。




こういうのが現れるからクロノは英雄が大好きです。
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