「ありがとう。いい経験………と素直には言えないけど、悪い経験にはしないよ」
明日、学区が再び世界を回る。
オラリオのとある酒場でクロノとレオンは酒を飲んでいた。
「現実を知った。それでも、彼等は立つと思う」
「何人かただ自棄になるだけの奴もいるだろうがな」
勇気を持って立ち上がるのでは無く、己の身の丈を認めぬ為に顔を伏せたまま走る。まあ現実を見ていないという点ではこれまでと変わらないが。
「今の世の中不幸なんてありふれている。身の丈にあった戦場で尊敬を集めれば良いものを」
そうすれば地方英雄程度にはなれるだろうに。
「彼等は尊敬が欲しい訳じゃないよ」
「だとしてもだ。身の丈に合わない戦いに飛び込んだところで死ぬだけ。己の命に意味を見出したいなら、やはり身の程はわきまえるべきだ」
「だが、英雄は身の程を超えてきた」
「そうだな。だから、彼奴等が身の程を超えるというのなら、それはきっと英雄が生まれるってことなんだろう」
少なくともクロノは己の身の丈で生きてきた。
ランクアップの為に試練に挑むこともあったが、それだって身の丈を伸ばす為に仕方なくであり進んで挑もうとは思わない。
「オラリオで俺の次にそれが出来ているのが、よりによって勇敢な者を名乗るのが皮肉が効いていてウケるよな」
「彼は『今』の身の丈を知った上で、『先』に理想を見ていると思うけどね」
「まあ、そうじゃなきゃ種族の光になるなんて言えないか」
言外にフィンの理想を身の程知らずと切り捨てるクロノ。まあ、だからといって否定しているわけではないのだが。
例えフィンが『27階層の悪夢』を罠と知りながら利のために切り捨てようと、全ての同族に未来をと謳いながら自分の理想に続けない弱い同族に目を向けなかろうと、その足掻きをクロノは嗤うのだ。
「今回、なかなかいい案をもらったぞレオン」
「いい案?」
「教導という建前があれば、弱者をいたぶっていいんだ」
「うん、俺のあげた案じゃないね」
「冒険者になりに来ました!」
おや、なんて弱そう。
見るからに才能がなく、覚悟もなく、そのくせ理想と正義感だけは高そうな少年。しかし、何処かで見たような? あれ、もしかしてアルフィアの血縁じゃないだろうか?
キラキラと理想と期待に輝く現実を知らぬ赤い瞳。最低限、農業の手伝い程度でしかつけていない筋肉、精々枝程度しか振ってこなかったであろう足運び。
なんて弱そうなんだ。クロノは一目で彼を好きになった。
残念ながらアドバイザーの要望はエルフのようだ。クロノはヒューマン、仕方ない。エルフが希望しない限りは立候補出来ない。
そして、エルフなら彼女が居る。と、何やらどれだけの期間で死ぬか賭け事をしている一団を見る。
「いいです! それなら私が。彼の担当アドバイザーになります!」
冒険者に訪れるであろう死から目を背けるための賭け事を、ハーフエルフが成立させてしまった。
最低を演じないと死に心を痛める弱い者達………そんな諦観に染まってたまるかと叫ぶ誇り高く若く青いハーフエルフ。
未だ若輩。理想も高く、冒険者の冒険を疎むハーフエルフのエイナ・チュールはカウンターで待つ少年へと向かう。
「それでクラネル氏、その…………実はギルドには教導官をつけることが出来まして」
「教導官?」
「前線を退いた冒険者の方々に、冒険者のノウハウを教えてもらうというものです」
発案者はクロノ。
死に場所を失い、さりとてダンジョンに潜り仲間の足を引っ張ることも出来ない
冒険者は新人に教える為の時間を節約し、新人はいきなりダンジョンという実践に投入されず、生存率は高まり、かつ稼げなくなった老兵が稼ぎを得る。
そしてそこそこの強さを得た新人が生き残ってしまい現実に打ちひしがれ、お前等なんかに教わったからだと恩を仇で返しに教導官に会いに来て、度が過ぎればクロノが相手する。良いことづくめである。
「多少お金は掛かりますから、クラネル氏が所属するファミリアによって受けられるものは変わってきますが」
当然金など使いたくないと受けないのも自由。余計なノウハウは教えないと利用しない派閥もある。【ソーマ】や【フレイヤ】などがそうだ。
「う〜ん。い、一番安いのは…………」
「……………そうなりますと…………冒険者ではなくギルド職員が教導するコースが無料となりますが…………」
無料と飛び込み、そして多くの新人が現実を知るコース。因みにこのコースを受けた新人の生存率は一番高い。何故って、彼等は上層で日銭しか稼げず、危険が少しでも増える可能性を酷く恐れるからね。
「それでお願いします!」