「う、ぐ…………」
「さあ立ちなさい。動けないほど痛めつけてはいないはずですよ」
「いや、でも………つかれ………」
「貴方の体力は初日に把握しています」
否定出来ない。呼吸は荒いがそこまで辛くない、痛みはあるが動けないほどではない。では何故立たないか? 決まっている。痛いのが怖いからだ。
「ぼ、ぼく、冒険者としてやっていけるでしょうか」
「無理ですね。クラネル氏、私が見てきた冒険者の中で一番才能がないですから」
「い、一番…………」
「とはいえ、それは戦士の才能であり冒険者の才能はまた別ですが」
恩恵による魔法やスキル………それも本人の心に作用した時、その出力はまさに神々の言う下界の未知に相応しいものとなる。だからスキルや魔法を加味しない純粋なスペックのみで言えば一生底辺冒険者で過ごして調子に乗ってキラーアント辺りに嬲り殺しにされそうなベルだって強くなれるかもしれない。
「まあ、そんなあり得るかもわからない事に希望を見出している時点で、『あ、此奴やる気ねえな』と判断されそうですがね。恩恵に意思があれば」
そもそも英雄を目指すと言うくせに世界の現状を知らず、精々枝しか振ってこなかっただろうに強くなれるかもと未来を期待するなんて、なんなら学区の『世間知らず』達にも劣る。
「クロノさん、僕にきつくありません?」
「私は誰に対してもこんなものですよ。冒険者たるもの、精神も鍛えなくては」
「精神も…………」
「まあ、私の場合それで傷つく冒険者の皆様の顔を見たくてやっているのですが」
「えぇ……」
とても優しい笑顔で何言ってんだこの人、とベルは思った。人ってあんな日常的な笑みで人を貶められるものなのか。
「プライドの高いエルフや、獣人の氏族の戦士なんかが特にいい顔をしますね」
「エルフですか……………」
ちょっとだけ泣き顔を見てみたいかも、と思ってしまうベル君であった。まあ彼の場合、そんな光景見れば慌てて涙の原因を聞いて力になろうとするのだろうが。
「
ポツリと呟くクロノの言葉を、残念ながらベルが聞くことはなかった。
「まあ良いでしょう。ではクラネル氏、明日よりダンジョンに潜っても問題ないですよ。そうそう死にはしないでしょう」
「は、はい! ありがとうございました!」
「また強くなりたくなったら何時でも来てくださいね」
「遠慮します!」
「……………」
「もにょってしてる!」
数日後、何やらクロノのテンションが低い。ミーシャは珍しい光景に思わず叫んだ。
「クロノ副ギルド長、何かあったんですか?」
「目をつけていた冒険者が、どうにも恩恵との相性が良かったらしい」
「はあ、それは………良かったですね?」
「今の成長速度からすれば、機会に恵まれれば直ぐにLv.4になれる」
早ければ2年で第一級になるだろう。よほどの機会に恵まれなければLv.2は三ヶ月といったところだろうか?
「やだなぁ。強くなっていくのは貴方のおかげですよって、尊敬の目を向けてくるんだろうなあ」
早く強くなろうとも、それでもクロノより弱者であることには変わりない。だが、あの少年は間違いなく人を恨んだりしないタイプで、自己評価が案外低い。実感できるほどの速度で成長すればこれは自分に力を貸してくれる人たちのおかげに違いないと本気で感謝してくる。
泣かない。嫌がらない。怒らない。
殴って蹴って切って転ばして投げて打って叩いて折って潰して、その時は悲鳴を上げ恐怖しても、でも強くなれたと感謝してくる。
「純粋な感謝ほど反吐が出るものはないな」
「なんで?」
「つまりその人は何かを俺に解決してもらったってことだからね」
さて、そろそろ
ああ、モンスターでも逃げ出して街中に悲鳴がこだましないかなあ。
死者が出て、ガネーシャ、フェルズ、ウラノスの悲願が遠のけば良い顔が見れるだろう。ついでにロイマンが胃痛で苦しむ様も見れる。
「というわけでフェルズ、俺のストレス軽減のためにモンスター逃がして良い? 死ぬのはちゃんとグラン・カジノのテリーと繋がってるクズにするから」
「馬鹿かお前は」
「馬鹿? 俺が?」
どのみち実現不可能に近い確率の計画。0.0001%から0.000001%ぐらいなるだけで、Lv.7の戦力がやる気になるというのに。
ガネーシャとギルドに迷惑をかけるのは確かだが、その辺りの対処だって全力でやる準備を終えたのに。
ウラノスは無言で企画書を燃やす。
「クロノ、30階層に向かい、『精霊』の種の回収。および『里』へ補給に向かえ」
「かしこまりました、我が主神」
仕方ない。
『あの女』でも虐めるか。クロノはため息を吐くと祈祷の間の出口向かい歩き出す。
クロノは27階層の悪夢の救援部隊。その際にある存在を確認。調査の結果、とある領域を見つけるも面倒くさそうなので放置。
厄災が出現した際にも救援に向かったそうだよ。その際に………