女………レヴィスは兜で顔を隠した目の前の男を殺すつもりである。
ただ、騒ぎを起こすのは面倒なのでなるべく人気が無い場所が望ましい。
人目がある場所でいきなり殺すのは不味い。と、クロノは思った。
リヴィラの街は自治組織。ギルドの支配を受け付けないが、全くの無関係というわけでもない。リヴィラで起こった犯罪はギルドに報告される。
本来ギルドが手を出せない地の底にある街に、クロノという戦力を手に入れたロイマンが調子に乗ってクロノにも相談せずクロノをリヴィラの街の支配者にしようとした過去もありあまり好かれていないクロノが問題を起こせばここぞとばかりに騒ぐだろう。
向こうが殺気を向けてきてるし『精霊』の関係者でもあるのだろうが、それを説明するわけにもいかない。理由なんて後で幾らでもつけられるがなるべく軋轢を減らさないと仕事と趣味で、趣味が強く前に出ることになる。
「おい、聞いているのか」
街を出て一人になったところを狙わせるか、とクロノは判断した。と、その時……
「なんだねぇちゃん、金に困ってんのか? なら俺が買ってやるよ」
酒臭い息を吐きながら冒険者が女に馴れ馴れしく肩を組んだ。瞬間殴り飛ばされた。
Lv.2の頭が弾け飛ぶ。
フードで顔を隠していた女は血のように赤い長髪を顕に、美しい顔を晒す。はて、とクロノは首を傾げる。
「お前、
その身はヒューマン。だが中身が違う。肉体を乗っ取る
どのみち、簡単に殺すわけには行かない理由が増えた。
「て、てめぇ等! 何を!」
街の住民が叫び、騒ぎが大きくなる。女は忌々しげに顔を歪めて草笛を吹こうとして、その指が切り落とされる。
「っ!!」
「仲間を呼ぶか。させねぇよ」
まあこの騒ぎ。異変に気付いてすぐに駆けつけるだろう。甚振るなら街の外にしないと被害が出る。公務員として、呼ばせるなら街の外だ。
「………ん」
と、切り落とした女の指を掴み取り女の目に突き刺してやろうと構えれば、女の指が新しく生えていた。
「
女はますます忌々しそうな顔をする。
「来い!」
その叫びと共に街の外から咆哮が響く。現れるは食人花の群。人間ではなくモンスターで、与えられた役割を全うするだけの恐怖も感じない精霊の触手にクロノはやる気が失せていく。
視線が他所に向いた瞬間女はクロノに殴りかかっていたが斬られた。
「…………!?」
自分が早く動き、疾く殴りかかった筈。後から動いた遅い剣に斬られた。
見えていた筈なのに反応出来なかった。
「不思議だろう?」
続いて足を切り落とされる。即座に地面を殴り距離を取り睨みつけようとすると女より先に移動していたクロノが頭を踏み付ける。
「意識と体のズレをうまく突くと、何もさせないまま斬る過程を味わわせられるんだ。ある程度強い相手じゃないと使えないけどね」
意識と肉体のズレをついた斬撃は常人離れした動体視力とそれに振り回されないだけの時間間隔を持つ者に使える、実際はそこそこの速度で斬るクロノの拷問技の一つ。
「!!」
剣が皮膚を裂き肉を分け骨を削る感覚を味わわされた女は睨みつけようとするが、首を動かせない。
「ちょうどいい。お前達の目的を聞かせてもらおう」
「話すと思うか?」
「? 話させるのを拷問という」
と、無数の棘が生えた氷の杭を生み出すクロノ。と、不意に顔を上げる。
漆黒の雷霆が炎とぶつかり合う。
「………………Lv.7。面倒なのがいるな」
と、雷霆が飛んできた方向から飛んでくる大きな影。芋虫? 変な液体を吐き出す。触れた屋根がジュウと音を立て崩れたのを見逃さない
「……………今は仕事優先、と」
女に一応氷の杭を刺しておき、屋根に駆け上がる。大量に吹き飛ばされてくる芋虫の大群に氷の義手を向け、18階層が一瞬で凍土に覆われた。
凍りついた芋虫は何の液体を流すこともなく地面に落ちて砕ける。女を拘束した場所を見れば、肉を抉って逃げたようだ。
「エルダー氏」
「お、おう!? って、お前は!」
そのままクロノは街の代表であるボールスの元に向かう。兜を取り素顔を見れば顔を引き攣らせるボールス。
「ギルドより通達。ある冒険者を指名手配してください。特徴は………」
ギルド職員として、不審者情報は伝えなくては。金に目がくらみ殺されに行ってくれれば復讐相手を見つけられない女から此方に移してくれる玩具も現れるかもしれないし。