「正義のせぇは、世界のせ〜♪ 正義のいぃは、いっぱいのい〜♪ 正義のぎぃは……………ぎ、ぎ………?
義理人情のぎ〜♪」
などと歌を歌いながらパチャパチャ歩く可愛らしい少女。雨の日に水たまりの上を跳ねて遊ぶ子供のような………実際子供なのだが。
ただし飛び跳ねる水たまりは水たまりではなく血溜まり。
「ガ、【ガネーシャ・ファミリア】…………【
燃え盛る炎のような灼眼に凍りついた湖のような蒼の瞳。可愛らしさの中に確かな美しさを携えた少女に叫ぶ
「な、何の真似だよ! 俺達が、何でこんな目に!!」
「? キラーアントを故意に殺しかけて、他の冒険者にけしかけたり、サポーターをモンスターの囮に使うのは禁止されているデスよ」
職場での義父の口調を真似ようとした不可思議な敬語を使う少女。【ガネーシャ・ファミリア】所属のLv.5にして【
真珠のような白い肌とその名をとって一部には真珠姫などと呼ばれる将来有望な冒険者だ。彼女は実の両親が居ない。
「だ、だったらそっち助けに行けよ! そんなに、殺すことを優先したいか!?」
「問題ねーデス。向かった人があの程度切り抜けられそうデスのです」
ウンウン、と感心したように頷くパール。つまり、カヌゥが殺そうとしたサポーターは生きているという事。
不味い。非常に不味い。
昨今サポーター制度の見直しが行われ、カヌゥが行ったことは投獄されるレベルの罪。サポーターを殺そうとしただけでそんな理不尽な!
でも、と目の前の少女を見る。
「………?」
第一級。勝ち目はない。他の奴等みたいに死ぬぐらいなら…………!
「わ、解った。俺が悪かった!」
「おお! 反省するとは殊勝な悪なのデス!」
「そ、その前に聞いてくれ!」
「告解と言うやつデス? 正義の味方として、悪の戯言にも向き合うマス!」
ふふん、と得意げな少女。所詮は子供で、良い行いをしろなんて言うアマちゃん。才能に恵まれたからそんな余裕があるんだと怒りを向けながらも、カヌゥは弁明する。
物心つく前からファミリア所属にされ、金を集めなければ親にも殴られる日々。暴力から逃げるためには暴力を振るう側に回る必要があり、何時しか染まってしまった。それでも金をためて何時かファミリアから抜け出したいと。
勿論嘘である。【ソーマ・ファミリア】が現体制になったのは此処数年。そうじゃ無ければヘラ辺りに「目障り」の一言で滅ぼされていた。
カヌゥは現体制になる前から所属しており、ザニス派の人間とも言える。適当に思いついた話だが、子供なら信じてくれる筈!
「俺は何時しか腹の底まで真っ黒になっちまった。けど、俺だって真っ当に生き直したいんだ! だからじ──」
ヒュン、と空を切る音が響く。
「心配ないデス」
景色が左右に分かれていく。
「悪人も善人も、割ってみれば中身は真っ赤。生き直すまでもなく黒くなんてないデスよ」
ブイ、と指を2本伸ばしニコリと笑うパール。ドチャリと左右に肉の塊が倒れる。パチャパチャと血溜まりを歩きながら鍵を手に取るパールはそのまま歩き出す。
サポーター、リリルカ・アーデは物心ついた時からファミリアの一員。金のために恩恵を刻まれ、酒のために金は使われた。
両親にとってリリは金を稼ぐための道具で、愛を注ぐ相手ではなかった。
金を貯め酒を買う。酒のために金を求め、身の程に合わぬ階層に向かいあっさり死んだ両親の事なんて、今でもザマァ見ろとしか思えない。
むしろ恩恵が刻まれたままのせいで逃げることも出来ない首輪を嵌められてしまったことを恨んでいる。でも、恨んでいる暇なんてない。
酔いから覚めて身の丈に合った行動で稼いでもその日の金すら奪われて、サポーターなんかに金を払うかと、それどころか暴力を振るわれる。
クロノと言うギルド唯一の戦力が副ギルド長になり待遇が改善されてもやはり破るものは出てくる。そいつらが捕まっても、それはつまりリリが傷ついた後だ。
だからリリは奪う側に回った。
魔石をちょろまかしただろと、実力が足りないくせに自信だけは一丁前に殴ってくる冒険者から魔石を奪った。
金をくすねたと最初から軽い財布しか持ってないくせに蹴ってきた冒険者から財布を奪った。
いざという時は囮にしてやると本気で言っていた冒険者を囮にして荷物を盗んで逃げてやった。
そんな生活の中、ようやく金が貯まり後少しで脱退出来る彼女が最後に選んだ獲物は白髪の冒険者。新人であることが解る装備の中で唯一の高級品であるナイフ。
ヘファイストスブランドのナイフを盗んでやろうとした。一度盗めたが、残念ながらその後邪魔が入った。
それでも機会をうかがっていると、少年がある冒険者に声をかけられているのを見かけた。リリが持つ変身魔法をたまたま目撃し、騙されたことに気付いた男だ。彼に告げ口されたベルはリリを信用しないだろう。
今日が最後のチャンスとナイフを盗みモンスターをけしかける。彼ならあの程度生き残るだろうが時間稼ぎにはなると逃げ、しかし待ち構えていたカヌゥ達に捕まった。
リリの魔法を見た冒険者と手を組み待ち構えていた。よりによって死にかけを使いキラーアントを呼び寄せ死にたくなければ金をよこせと…………換金した宝石を詰めた金庫の鍵を渡せば、しかしリリは囮に使われた。
ここから逃げる力なんてない。すぐにでも食われる彼女を救ったのは、ベルだった。騙されたはずなのに。盗まれたはずなのに、彼はリリを守ってくれた。
何で助けるのかと、これまでの悪事をバラし助けてもらう価値なんてないと言えばリリだから、それだけで助けたかったと、ベルはそう言った。
「感動的な光景デスね。色々聞けて良かったデス良かったデス」
そんな二人に向けてかけられる声。振り返ると佇む少女。子供の
「ひっ!?」
その姿を見てリリが顔を青くする。
「し、知り合いなの?」
「パール・クロウ……【ガネーシャ・ファミリア】の、Lv.5!!」
「ガネーシャって…………都市の憲兵?」
でもどうして怯えて。
「では今からその盗人を殺すので、どいてくださいデス」
「えっ………」
スラリと抜き放たれる剣。パールは声をかけてきた時の笑顔と変わらぬ笑顔でそう言った。
「な、なんで!?」
「ここ最近噂の盗人サポーター。全部貴方デス? 変身魔法……便利デスけど厄介デスね」
「ま、待ってください! リリだって、仕方なく!」
「? 貴方はその子に何もしてないデスよね? 私、お父様と貴方の修行見てたから知ってるデスよ。貴方はいい人デス」
その言葉にリリが俯く。
「扱い次第では報復も認めるデスが、何もしてないのに狙われた人がこうしているデスから疑わしきは罰せよデス。それに、ほら……やるかもしれないからやる、きっとお姉さんとおそろいデス」
「っ!!」
否定できぬ言葉にリリは息を呑む。事実彼女はどうせベルは掌を返すに決まっていると、掌を返す前にベルからナイフを盗んだ。
「僕は気にしてません!」
「? 被害者は貴方だけではないのデス」
ベルが庇うが、ベルにリリの罪の一つを消す権利はあっても全てを許す権利はない。
「その権利を持つのはオラリオではギルドだけデス」
「な、ならギルドに………」
「護送面倒デス。殺したほうが早いデスよ」
「っ! リリは、殺されるようなことなんてしてない!」
「それを決めるのは貴方じゃねーデス。そもそも私、犯罪者生かす必要感じねーデス」
ニコニコととんでもないことを言う少女にベルが声を詰まらせる。
「絶対正義の名の下に、見悪必殺なのデス」
パール・クロウ
クロノの養女。真珠のような肌を持ち一部の神々に真珠姫と言う通り名を付けられた。
地上で見つけたなら護送に手間がかからないからギルドに連行したけどダンジョン内で捕まえて地上に連れて行った前例作ると他の団員も犯罪者もダンジョン内で捕まえても地上に送らなきゃいけなくなる。なのでぶっ殺しますね