外道がギルド職員なのは間違っているだろうか?   作:社畜

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少女の正義

 何時だって死んでもいいと思っていた。

 ただ死ぬのが、冒険者共の思い通りになるのが嫌で生きていただけ。キラーアントに囲まれた時だって、これで終われるという期待もあった。

 

 でも今は死にたくない。ベルが助けてくれた命を捨てたくない!

 

 なにか、なにか言葉を。生き残るための、何か………

 

その権利を持つのはオラリオではギルドだけデス。

 

「お、お金!」

「リリ?」

「ふむ?」

 

 リリの叫びにベルが困惑しパールが足を止める。

 

「ノームの貸金庫に、宝石があります。そ、それを換金すれば、賠償金も………」

 

 先程パールは扱い次第では報復を認めると言っていた。そしてリリは、ベル以外には実際相当な扱いを受けていた。

 

 生きて地上に戻り、それを証明さえ出来れば稼ぎの一部を押収されるだけで済むはず。でも、相手は正義厨と名高い【絶対正義(エウノミア)】………。

 

「なるほどそれはありデス」

「え」

「まあでも──」

 

 あっさり認めたことにベルが困惑し、リリはしかし顔を歪める。

 

「あれだけ、正義と言いながら、結局金ですか」

「?」

 

 リリの言葉にパールは可愛らしく首を傾げる。綺麗な肌、艷やかな紅髪、栄養をよく摂れている証拠に、本能がやめろと叫びながらもリリの口は止まらない。

 

「お前等が、冒険者がそうやって金ばかり求めるから、リリだってこんな事するしかなくなったんですよ!」

「それをやった冒険者に言うならともかく、私や彼に言われても困るデスよ」

 

 リリの言葉にパールは淡々と返した。

 

「悪が悪から奪うなら好きにすりゃいーデス。悪党同士の奪い合いに無辜の民は傷つかねーデスから。でも貴方は悪じゃなくても悪と決めつけて自分は被害者だから報復する権利があると主張する」

 

 そうすれば自分が悪だと思わないから。思いたくないから他者を悪にする。父のように大人しく悪だけを狙えば良いものを。

 

「灰に(まみ)れれば英雄に救われる資格を得るとでも? 英雄に救われるのは、罪を犯さぬ民だけであるべきなのデス」

 

 リリは罪を犯した。なるほどそれは生きるために仕方なかったのかもしれない。【ソーマ・ファミリア】や他派閥のサポーターを雇う冒険者の素行など知れた者で、事実彼女は被害者なのだろう。

 

「でも貴方は何時しか悪ではなく悪になるからと言い訳したデス」

「何が、正義。何が悪………そんなもの、リリを守ってくれなかった!」

「簡単デス。正義とは法で悪とは法を犯す全て。法を守る者だけが正義に守られる権利を得るのです」

 

 そしてリリは法を破った。

 

「殺されたくないから殺さない。奪われたくないから盗まない。偉い人が決める法というルールは得てして万人のためになる。何故なら偉い人も人だから………」

 

 法とは万人が安心して暮らすためのルール。

 

「私のお母さんは罪人です。お父さんに会うために罪を犯しました。どう見ても間違ってるのに、皆言うです、『その思いだけは間違いだと思わないであげて』と。罪人として裁くのに」

 

 間違いのない思いのために間違いを起こし、多くの冒険者と共に爆炎の中に消えた母を思い出すパールは目を細める。

 

「『お母さんのために』とナイフを取った兄さんは妖精の魔法に消し飛ばされたです。相手は正義の妖精デス。間違いで悪なのに、やっぱり思いだけは正しいと言うデス」

 

 その思いが正しいと言うのなら、その行動が間違いだと何故言うのか。何を以て間違いと判断するのか。

 

「法を以て善悪を分ける。それが私の正義デスよ。法という鎖に首を繋ぐものだけが餌を食べれる(平和を享受できる)。鎖を捨て他の家畜を襲うなら、廃するのもやむ無しなのデスよ」

「っ!」

「そしてその法はギルドが定め、ギルドは確かにお金で罪を軽くするです」

 

 ()()()()()()()()()()()()、パールはそれを認める。

 そもそもギルドは冒険者に甘い。もう次のチャンスが訪れない下界に於いて、戦力をむざむざ減らす理由がないからだ。

 

 例えばロキがハーレム作るんや〜と各地から美女美少女を攫おうと、フレイヤが都市全てを魅了しようと許すだろう。それが紛れもなく悪とされようと、法の下許すならパールは許す。

 

 何が正しいか決めるのを諦めた彼女は法に善悪を決めさせ、法の示す善を選ぶ。そこに迷いなどなく、葛藤など存在せず、故に彼女こそ絶対正義。

 

「まあでもだからこそ、私は法は人を救うべきであると思うデスよ。先程も言ったように、犯罪者をダンジョンから護送する前例作る良くないデス。貴方犯罪組織の幹部だったりするデス?」

 

 それならまあ、情報を聞き出すために護送もやむ無しだが。そうじゃないならやはり生かす理由などありはしない。

 

「ぼ、僕が!」

 

 と、ベルがリリとパールの間に割り込む。

 

「僕がリリを、彼女を地上につれていきます。必ずギルドにつれていく。だから…………」

 

 相手はLv.5。ベルの情景に並ぶ遥か格上。機嫌を損ねていい相手ではないのに、ベルは彼女に反論する。守りたいと思ったから。守ると決めたから。

 

 たとえ戦うことになっても…………。

 

「私が斬るのは悪だけです。そういうことならおまかせするデスよ」

 

 と、パールはあっさり踵を返す。

 

「でも逃亡幇助は悪デスから、早めに来るデスよ」

 

 もし逃亡幇助なんてしようものなら、パールは容赦なくベルを斬りに来るだろう。殺気を向けられたわけでもない、ただ笑顔を向けられただけなのに、ベルもリリもそれを理解させられた。

 

「じゃあこれ、渡しておくデス」

 

 と、パールがリリに向かって投げたのは1本の鍵。ノームの貸金庫の鍵だ。

 先ほどは金があると言ったが、すぐに戻らなければカヌゥ達に使われると思っていた。まさか返ってくるとは。

 

「ほ、本当に、こんなにあっさり…………」

「? だって本気で自首しに来ると言ったデス。嘘つきじゃないから、悪を蔓延らせたりしないデス」

「う、嘘じゃないかなんて言い切れないんじゃ」

「判るデスよ。私、正義だから人の嘘が判るのデス」




パールの発展アビリティ
『看破』
人の嘘が解る。変装してるのも解る。ただし上位存在の神やLv.7には通じない。
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