【完結】陰キャのハマーン様   作:むにゃ枕

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守るべきもの

「つまり誤解だと、お前はそう言いたいんだな?」

 

 ハマーンの下から解放されたシャアは、いそいそと服を着て、アムロに謝罪していた。

 

「そうだ。ブレックス准将の演説に備えねばならない時に、そんな不埒なことはしない」

「不埒じゃないわ。こうしなければいけないと思ったの!」

「黙っていてくれハマーン。話がややこしくなる」

「だってララァ・スンが居るから。今だって、私を睨んでいるわ。シャアの心を奪ったって怒ってる」

 

 シャアとアムロが、ハマーンの視線を追う。互いにハマーンの視線を追ったことに気が付いたのだろう。2人はどことなくバツの悪そうな表情になった。

 

「ハマーンと言ったな。君にもララァ・スンが見えるのか?」

「ええ。シャアに未練がましく憑いていたあの女は追い払ったわ。私が今のシャアの恋人なんだから」

「呆れたな。そんなことが出来るなんて」

「待てアムロ。ハマーンは私の恋人ではない。彼女は、勘違いをしている」

「でも、キスはしたじゃない」

 

 ハマーンが自分の唇を抑えて、恥ずかしそうに言った。眼鏡を外し、前髪を払ったハマーンはかなりの美人だった。

 

「それは、違う。いや、事実では有るが……」

「事実なら、ハマーンと恋人なんじゃないか?」

 

 アムロの追撃に、シャアはモゴモゴと言っていたが碌な反論は出来なかった。

 

「しかし、カラバの迎えが、お前だったとはな」

「軟禁されるよりも、カラバの使い走りの方が性に合ってる」

 

 アムロ・レイは一年戦争の功績により、上層部から疎まれ軟禁されていた。しかし、エゥーゴの支援組織であるカラバにより救出された。以来、カラバの一員として活動している。

 

「アムロさん。シャアのことを聞かせてください。この人、昔の自分について全然話さないんです」

「ああ。できる限りなら話そう」

「……待てハマーン。頼む。アムロやめてくれ」

 

 シャアは止めたが無意味だった。元々、ハマーンは好奇心が強い素直な性格だし、アムロは求められれば答えた。

 自分の過去をアムロから語られたシャアはいたたまれない気持ちになっていた。その反面、ハマーンは嬉しそうだった。

 

「積もる話も有るだろうが、我々はそろそろ行動しなければならない。そうだろうアムロ?」

「ああ。カラバの部隊が街に入った。進路は確保出来たらしい。議場に向かう」

 

 ブレックスは、ダカールの議場に入った。議場では、カラバの部隊が周囲を警戒している。

 

「これが、量産機か」

「そうだ。ネモという。カラバに先行配備された。この機体はジムⅡよりも性能が強化されている」

「キュベレイは無いものね。私はネモに乗るわ」

「アムロ、お前のディジェ。その予備機は無いのか?」

 

 シャアはネモに乗るのを嫌がった。かつてのライバルであったアムロと同じ機体に乗りたいという思いが有ったのかもしれない。

 

「空いている機体はネモだけだ。嫌ならジムⅡに乗れ」

「仕方ない。ネモで良い」

 

 エゥーゴとティターンズは、宇宙では膠着状態である。しかし、地球上ではカラバと激しい抗争を繰り広げていた。そのため、ネモやディジェといった機体が地球に送られて来ている。

 

「ねぇ、アムロ。あの金色のヤツがあるじゃない」

「あれは、試作機だ。運用状態にない。まだ重力下でのフィッティングだって終わってないんだぞ」

 

 シャアは蚊帳の外に置かれた。ニュータイプでは有るが、格の落ちるシャアでは、ハマーンとアムロの言うアレが分からなかった。

 

「アムロ。私とてニュータイプだ。その機体を任せて欲しい」

「……能力的にはハマーンが乗った方が良いんじゃないか?」

「別に良いわ。夫を立てるのも妻の役目だもの」

「私は君の夫ではない」

「まだ。そうね。でも、いずれは結婚するから」

「しないと言っている」

 

 アムロは溜息を吐いた。ここは戦場になるかもしれない。睦まじい男女が戯れる場所ではない。

 

「夫婦漫才なら、ブレックス准将の演説が終わったらにしてくれ。ハマーンと仲良くしていても良いが、公私混同は避けてくれないか。ここは軍隊なんだぞ」

「あら、アムロだってカラバに拾われる前は、酒池肉林って感じだったじゃない。あの、お気に入りの女の子、確か名前は……」

「この話はやめよう」

 

 ニュータイプは敵に回すと厄介なのだ。アムロは空気の読める男だった。自分の性的嗜好を暴露されたくはなかった。

 

「これが百式か。良い機体だ」

「早くフィッティングを済ませろ。ティターンズは、必ず准将の演説を妨害するはずだ」

「分かっている。それにしても、お前と戦場に立てるとは思っていなかった」

「感傷に浸るのは後にしろ。間もなく演説が始まる」

 

 機材トラブルもなく演説は始まった。演説を妨害するような攻撃が有るはずという、大方の予想とは裏腹に、特に何も起きていない。

 

 「私は、地球連邦軍准将ブレックス・フォーラだ。誇り有る連邦軍人として、エゥーゴのリーダーとしてここに立っている。

 私は、この演説台に立つに当たり、ティターンズから襲撃を受けた。私を守るために、15人の犠牲が出た。

 ティターンズは、言葉ではなく暴力によって自己の主張を通そうとしている。

 かつて、言葉でなく暴力により、自己の主張を通そうとした集団がいた。ジオンだ。

 ティターンズは、ジオンのコロニー落としを再現するだろう! 心ある連邦軍人として、私はエゥーゴを結成した……」

 

 一瞬電波が乱れた。急速に議場へと迫るプレッシャーを、ハマーンは感じ取った。

 

「待て、ハマーン。どこに行く!?」

「敵よ!」

 

 ベース・ジャバーで上がったハマーンのネモは、雲の中に敵を発見した。

 

「アムロ。シャア。来たわ」

「ティターンズだな。オペレーター、照合しろ!」

「はっ、はい」

「敵か……」

 

 カラバのオペレーターが、ハマーンのネモが捉えたデータを照合する。飛行している部隊だ。ダカールの連邦軍基地はその存在を捉えていただろうが、カラバには通達してこなかった。

 

「照合完了! ガルダ級が2隻、飛行タイプのMS多数。ギャプラン、アッシマー! ベース・ジャバーに乗ったマラサイも居ます! それに、この反応は……サイコ・ガンダムです!!」

「フォウ。君はまた来たのか……」

 

 アムロはサイコガンダムとの交戦経験が有った。フォウ・ムラサメというパイロットの少女についても、知っていた。

 

「各機、ベース・ジャバーで邀撃する。俺に続け。シャアは、メガバズーカランチャーを使え」

「分かった」

 

 百式のアタッチメントであるメガバズーカランチャーは、たった一発しか撃てない。しかし、その威力は絶大だ。

 

「クワトロ大尉。目標のガルダをロックしました。この距離なら当たります!」

「メガバズーカランチャー発射!」

 

 先手必勝とばかりにガルダに向けて放たれたメガバズーカランチャーは、全く効果を齎さなかった。

 

「外したか…?」

「サイコ・ガンダムのIフィールドです! クワトロ大尉! 逃げてください!」

 

 ティターンズも馬鹿ではない。サイコ・ガンダムがカウンタースナイプとしてビームを放つ。

 

「チッ。狙いはここか…!」

 

 拡散されたビームでやられるようなら赤い彗星はとっくに死んでいる。逃げ足に定評のあるシャアは、華麗にビームを躱した。しかし、メガバズーカランチャーは粗大ゴミに変わった。

 

「アムロ、ガルダに取り付いたわ!」

「各機、ハマーンを援護しろ!! ガルダを落とせ!」

 

 ガルダ級は貴重な輸送機なのだが、アムロとハマーンは容赦しなかった。ハマーンによりバイタルパートを破壊されたガルダが、フラフラと高度を下げていく。

 

「よくも! この女!」

「ちょっと、危ないでしょ!!」

 

 猛スピードで突っ込んでくるギャプランは、ガルダもろともハマーンを殺そうとした。

 

「嫌な感じがする。あなた、強化人間ね」

「だったら何だ!! お前はハマーンだな! シャアとハマーンを殺さなければ! お兄ちゃんに怒られる!! だから、殺す!」

「ちょっと、大丈夫なの…? その……頭とか」

「うるさい!!」

 

 ダカール防衛戦は、依然としてカラバが不利だった。カラバの勝利条件は、ブレックスのいる議場を守ること。ティターンズの勝利条件は、議場を破壊しブレックスを殺すことである。後者の方が容易だ。

 粒揃いのカラバであっても、一筋縄では行かないミッションだ。しかし、ここで折れるわけには行かなかった。

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