ティターンズはアースノイドからなる部隊である。そのため、重力下の戦闘は得意だ。少なくとも彼らはそう自認していた。
スペースノイドやジオン残党からなるエゥーゴ。そしてその下部組織であるカラバなど、重力下では相手にならないはずだった。しかし、そうはならなかった。
ガンダムMK-Ⅱが強奪されて以来、ティターンズの地上部隊はカラバと戦闘を続けてきた。
彼らは数的にも質的にもカラバには勝っている。そのはずなのに、望んだ結果は得られなかった。
ティターンズ地上部隊は勝てない理由を分析した。彼らが導き出した原因は単純なものだった。アムロ・レイである。
連邦軍の誇るスーパーエースであるアムロは、サイド1鎮圧事件後にすぐさま動いたカラバにより、軟禁状態から解放されている。
アムロ・レイと相対した並みのパイロットは、一瞬で落とされる。ベテランでも技能と運が合わさってようやく生き残ることが出来る。ティターンズ地上部隊ではそう言われ、恐れられてきた。
オーガスタやムラサメ研究所の強化人間も投入されたが、アムロ・レイを殺すまでには至っていない。
「アムロ……今度こそ、あの世に送ってあげる」
「そんなビームには、当たらない!」
ダカール防衛戦で、サイコ・ガンダムに乗るフォウ・ムラサメとディジェを駆るアムロ・レイは、空中戦を行なっていた。
サイコ・ガンダムの大きさは圧倒的だ。一見するとアムロの乗るディジェは、羽虫のようにサイコ・ガンダムの周囲を飛び回るだけだ。
「くっ。スラスターが…!」
「街には、入れされない。ここでお前を押し留める!」
アムロは単騎で、サイコ・ガンダムを圧倒しているように見えた。
「ティターンズは終わりだ。ダカールを襲撃したことは、世界中に知れ渡る。そうなれば、待っているのは破滅だぞ」
「そんなこと関係ない…! 教えてよ! 私の本当の名前を!」
薬物の禁断症状に苦しみながら、フォウ・ムラサメはアムロ・レイに、感応を仕掛けた。
「ぐっ。これは…!」
フォウの幻影がララァ・スンと重なり、アムロ・レイを襲う。ディジェが一瞬硬直してしまう。
その隙を見逃すフォウでは無かった。
「みんな消えてしまえば、何が本当か分からなくなるわ。サイコ・ガンダムならそれが出来る。ダカールは消えて無くなるのよ」
「待て! クソ…!」
アムロは、サイコ・ガンダムを追おうとした。しかし、指揮官としての冷静な判断が、行動を思い留まらせた。
「すまん。サイコ・ガンダムに突破された。第2防衛戦まで撤退する!」
「分かりました。アムロ大尉!」
サイコ・ガンダムが単騎で突出する中、落ちて行くガルダの上で、ハマーンは推定強化人間と戦っていた。
「ネモじゃなければ、もうやってるのに…! しぶといわね」
「死ね! ハマーン・カーン! 白い魔女!」
「そんな、単調な攻撃に当たるわけ無いでしょう!」
ハマーンのカウンターにより翼をもがれたギャプランは、ガルダに激突した。
戦意は折れていないようで、よろよろと立ち上がりビーム・サーベルを抜く。
「そんな明らかな高速機で近接なんて無理よ。降伏しなさい」
「うるさい! お前を殺してお兄ちゃんに褒めて貰うんだぁぁ!!」
結果は見え透いていた。ギャプランは、無力化され崩れ落ちる。
「まだ、やろうっていうの?」
コクピットから出たパイロットが、拳銃を乱射している。勿論、ハマーンのネモにはダメージはない。
ノーマルスーツを着ているとはいえ、人間が生身で飛行する物体の上に立つのは無理だ。当然の結果として、パイロットは風に飛ばされた。
「危ない!」
ハマーンは直感的にネモを動かしていた。パイロットを無事にキャッチ出来たは良いものの、ネモはそのまま落下することとなった。
「敵なのに咄嗟に手が動いちゃったわ。この状況、マズイわね」
ハマーンが、ガルダから落ちたことに誰も気が付いていなかった。このままでは、地面に激突する。
「落下死とか洒落にならないわよ! スラスター全開ッ!!」
オーバーヒート寸前まで、スラスターを吹かすが重力の前には微々たる抵抗だった。
ハマーンの脳裏に死がよぎった時、その手が掴まれる。
「もう、遅いわよ」
「済まない。敵に絡まれてな」
シャアの百式が、ハマーンのネモを救い上げた。ベース・ジャバーが、2機の重みで揺れる。
地上に降りたハマーンは、このままネモで戦場に戻るつもりだった。
「私の乗ってたベース・ジャバーはどこに行ったの?」
「それなら、余所に回ってる。それに、そのネモ、限界じゃないか?」
「でも、予備機なんて無いわよ」
確かにハマーンは、機体に無茶をさせすぎていた。ネモはメンテが必要な状態になっている。しかし、それは平時の話だ。今は戦時なのだから、大人しく修理を受けている暇はない。
「カミーユの仕事が間に合ったようでね。エゥーゴのガンダムが届いた」
カラバの即席の基地にたった今降り立ったのだろうHLVから、1機のMSが降りてくる。トリコロールの目立つカラーリングと、特徴的なガンダムヘッド。
「……Zガンダム」
カミーユとその父フランクリンによって開発された機体だった。
「カミーユも来ている。君が乗らないなら、彼が出るそうだ」
「私が乗るわよ。子どもを戦場になんて出せないもの」
ハマーンは、ネモの掌を開き捕虜を降ろした。捕虜の強化人間は、荒業に付き合わされたため、ぐったりとしていた。しかし、命に別条はないようだった。
「Zガンダム、ハマーン・カーン! 出るわ!」
ぶっつけ本番で、ハマーンはZガンダムに乗り込む。
ウェイブライダーへと変形し、サイコ・ガンダムの後を追う。クワトロも、それに続いた。
サイコ・ガンダムは街を焼いていた。ダカール基地の機体が、それを食い止めるべく出張っているが、効果は無さそうだった。
「こちら、ダカール基地所属MS隊。カラバに助力する。あの化物を止める方法を教えてくれ」
「カラバのアムロ・レイ大尉だ。サイコ・ガンダムにビームは無意味だ。我々が近接で仕留める。援護を頼んだ」
「了解。援護する」
ハマーンのZガンダム、シャアの百式、アムロのディジェがサイコ・ガンダムに迫る。
「邪魔をするなッ! このカラダならワタシは自由なんだ!」
「そんなわけないでしょ!! そこから引き摺り出してあげるわ!」
ハマーンが、サイコ・ガンダムに斬りかかる。アムロ、シャアも後に続いた。
「うぅぅッッ!! 私を呑み込んで拡げなさい!! サイコ・ガンダムッ!」
「サイコミュの暴走か…!」
「クソ、ララァ……やめてくれ……」
アムロが苦しみ、シャアの動きも精彩を欠いた。しかし、ハマーンはそうならなかった。
「あなたの事情は知らないけど、そんなに戦いたいんだったら私が相手してあげるわ! 行くわよZガンダム!」
「うるさい!! うるさいうるさいうるさい!!」
「えっ、ちょっとなんか光ってるんですけど??? Zガンダムが光ってるわ!? シャア、これ大丈夫なの??」
ハマーンの意思に呼応して、Zガンダムのバイオセンサーが起動する。全く予想していなかった事態に、ハマーンはパニックを起こした。
「身体が動かないッ、サイコ・ガンダムが乗っ取られた…? きゃあぁぁ」
サイコ・ガンダムのコクピットが開き、フォウ・ムラサメが排出される。
「マズイ。この高さじゃ……」
アムロが落ちるフォウを救い上げた。ディジェの掌でフォウは暴れていた。
「なんで光ってるの!? 何これ!? シャア! アムロ! なんとかしてよ! ねぇ、聞いてるの!?」
ハマーンの嘆きを、2人は聞いていなかった。アムロを苛んでいたララァ・スンが、忌々しい表情を浮かべ、消える。
ガルダとサイコ・ガンダム、そして十数機のMSを失ったティターンズは、ダカールの攻略を諦めた。
カラバは、ダカール攻略戦に勝利したのである。