ブレックス・フォーラ准将の演説は、全世界に波紋を呼んだ。ティターンズに襲撃されながらも逃げなかったという物語も生まれたために、時流はエゥーゴへと傾いた。
グリプスⅡと共に月面へと向かうアレキサンドリアの艦橋。そこにバスク・オムはいた。
バスクは、ブレックスが演説を成功させたことで、非常に不機嫌になっていた。
「ジャミトフとシロッコが、宇宙に上がっただと? 確かなのか?」
「はっ。バスク大佐の罷免が目的と思われます」
ティターンズ総帥ジャミトフ・ハイマンは、ブレックスの演説を良く思わなかった。そして、それを許したバスクにも失望していた。
ジャミトフは、パプテマス・シロッコと共に、バスク・オムを罷免するつもりだった。
バスクは私兵化した部隊を抱えている。紙切れ1枚で彼を罷免出来ると思うほどジャミトフは愚かではない。そのためパプテマス・シロッコと彼の部下を伴って行動したのだ。
「アクシズが、サイド3に入りました。奴ら、ジオン残党と合流するようです」
「エゥーゴの連中はどうしている?」
「アクシズと交渉に入るようです」
バスク・オムの脳内に、素晴らしい案が浮かんだ。
「進路を転身する。目標を月からサイド3とする」
「は…?? サイド3ですか」
「そうだ。ジャミトフは、ア・バオア・クーを要塞化した。ゼダンの門だ。アレはサイド3の近郊宙域に有ったな?」
「その通りです」
「ジャミトフもシロッコも、ゼダンの門に入るだろう。このグリプスⅡを用いて、ゼダンの門ごと消してやれば良い。アクシズも、エゥーゴもコロニーレーザーの前には単なる虫だ」
「ジャミトフ閣下を裏切るのですか! パプテマス大佐も!?」
「そうだ。これがティターンズのやり方である」
ブリッジ内にざわめきが広がった。味方をコロニーレーザーで殺すとバスクは言っているのだ。
「バスク大佐、ジャミトフ閣下やパプテマス大佐よりも、アクシズとエゥーゴを消すべきです。順番を間違えるべきでは有りません」
「ふむ。確かにその通りだ。ティターンズらしくなったジェリド中尉」
「はっ、お褒めに預かり光栄です」
コロニーレーザーで、敵対組織を全て潰せば、最後に立っているのはバスクだ。全員殺せば良い。単純な話である。バスクはシンプルな案こそ、強力であると信じている。だからこその発案だった。
ここで、エゥーゴの動きに焦点を移そう。ダカール演説により世論の後押しを得たエゥーゴは、戦力を拡大することが出来た。
カラバのアムロ・レイや、ハヤト・コバヤシといった元ホワイトベース隊が宇宙へ上がった。
「久しぶりだなブライト」
アムロとブライトはホワイトベース以来の再会だった。にも関わらずブライトには困惑の色があった。
「アムロか。久しぶりだな。で、その子はお前の恋人か…?」
「いや、違う。捕虜にしたティターンズの強化人間だよ。何故か懐かれてしまってな」
フォウ・ムラサメとロザミア・バダムが、アムロの両脇をがっちり固めていた。
「アムロお兄ちゃん。ロザミィは、お兄ちゃんの敵を追い払うよ…!」
「サイコ・ガンダムとは違う。アムロは、私の新しい半身」
ブライトは幽閉時代のアムロが、酒と女に溺れていたことを知っていた。そして、また新しい女を引っ掛けたのだと理解した。
「過度に風紀を乱すようなことはするなよ。ルオ商会のベルトーチカ・イルマとも懇ろになったんだろう? 彼女が悲しむようなことはするな」
「ブライト。誤解だ。この2人とは何もない。子ども相手に手を出すわけないだろ」
「そういうことにしておく」
実際、アムロはフォウ・ムラサメとロザミア・バダムに勝手に懐かれただけで、関係を持ったわけではない。ベルトーチカ・イルマだけが恋人だった。断じて浮気はしていない。
「フォウ、ロザミィ。何故、俺にくっつくんだ? シャアかハマーンの方に行ったら良いんじゃないか?」
「2人の間に入るなんて馬に蹴られるような真似はしないわ」
「2人とも仲良しよ。恋人だもの。恋人の中に挟まることはしないわ」
この答えにアムロは、天を仰いだ。強化人間たちを預けられる先は、アムロには思い浮かばなかった。
カミーユは、両親と共にMSの設計をしており多忙だ。そもそもエゥーゴの戦闘員ではない。ハヤトには家庭が有るし、カイはジャーナリストとして忙しく活動している。
「ブライト、お前の養子にどうだ?」
「冗談はよせ」
アムロは2人の少女の依存先になりたくなかった。しかし、預けられる先を見つけられなかった。
フォウは、少しづつ薬の量を減らし精神に安定を齎している最中だ。ロザミアも、リハビリテーションにより、人格を安定させている最中である。
戦闘員というよりも患者である。MSに乗せるよりも、医療者を付ける方が相応しい状態だ。
「フォウもロザミアも、MSのパーツとして教育されてきた。身寄りが無いから、どこにも預けられない。人らしい生活をさせてやりたいんだ」
「お前も大人になったな。だが、私の養子というのは無理だ。戦闘が落ち着いたら考えるべきだな」
「そうなるか。仕方ないな」
ハマーンはハマーンでそれなりに忙しかった。自分に反応して光ったZガンダムの原因の究明や、シャアといちゃつくことで時間を使っていた。
「このZガンダム、アムロにあげることにするわ。なんで光るのかよく分からないもの」
アーガマの格納庫でZガンダムを見上げながら、ハマーンはそう言った。
「そうか。ハマーンはキュベレイに乗るのか」
「シャアは、百式とキュベレイ、どっちに乗るの?」
「百式だな。キュベレイは、ファンネルは有るものの、推進力が弱い」
「じゃあ、勿体ないけどあのキュベレイは解体して予備パーツにしちゃうわ」
「仕方ないとはいえ、専用機というのは、汎用性が無くていけないな」
ハマーンとシャアのキュベレイは、アクシズから設計図とパーツをパクって月面で組み上げたものだ。予備パーツもそれなりに有る。
ハマーンとシャアは、アクシズを捨てたため、ほとんど情報を得られていない。噂話を聞くくらいだ。そのため、内情はほとんど不明だった。
「警報!?」
「敵襲のようだな」
サイド3にアクシズが来訪した。これを迎え撃つため、アーガマを含めたエゥーゴ艦隊はサイド3へと向かっている最中だった。
このタイミングの襲撃ならば、考えられるのはアクシズの邀撃だろう。ノーマルスーツを着た2人は、それぞれの機体で宇宙に出た。
「木星往還船ジュピトリスです!! ティターンズの大型艦ドゴス・ギアもいます!」
「敵MSは!?」
「未確認機が2機…! 見たことが無い機体です!」
「あれは、ハンドメイド機だ。正規のMSじゃない」
アムロがそう判断した。そして、オープンチャンネルで、敵機から通信が入る。
「エゥーゴの諸君。私はティターンズのパプテマス・シロッコ大佐だ」
「パプテマス様、挨拶など不要です」
「サラ、礼節は重要だよ。部下が失礼した。こちらは、サラ・ザビアロフ曹長だ」
シロッコの堂に入った振る舞いに、アーガマのブリッジでざわめきが広がる。
「ハマーン・カーン。私のオーヴェロンと踊ってくれるかな?」
「嫌よ。アンタからは邪悪な気配がするもの」
アムロとシャアの放ったビームライフルが、オーヴェロンを掠める。
「タイタニアで踊っておいで」
「はい。パプテマス様」
タイタニアが、百式とZガンダムに襲い掛かる。
「クソ! 百式がッ!」
「シャア、何をやっている!」
タイタニアの放ったビームにより、百式の脚部が破壊された。アムロはAMBACが機能しなくなった百式を見放した。
Zガンダムは、ビームの弾幕を潜り抜けた。そしてサーベルを抜き近接戦を挑む。
「隠し腕だと…!」
シールドごとZガンダムの左腕が破壊された。遠距離も近距離もカバーしたタイタニアは、とてつもなくやり辛い相手だった。
「嘘、私のファンネルが落とされる!?」
「白い魔女。少しばかり過大評価しすぎたかな?」
「舐めるなぁ!」
オーヴェロンは、キュベレイのファンネルを容易く落とした。ハマーンは気炎を上げるも、打つ手は無かった。
「Zガンダム! アムロ、頼んだわよ!」
「Zガンダムの発光! ……バイオセンサーだな。だが、無力だ」
アムロの意思に共感したZガンダムの輝きが、オーヴェロンに積まれたシステムにより消えていく。
「嘘でしょ。ここで私たち、死ぬの…?」
オペレーターが、慌てたように告げた。
「キュベレイタイプ接近しています!!」
30ものファンネルが、戦場を覆った。
「迎えに来たわ。お姉様」
それは、ハマーンにとって、懐かしくも忌々しいセラーナの声だった。