【完結】陰キャのハマーン様   作:むにゃ枕

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ジオンの姫

 セラーナ・カーンの搭乗機であるディマーテルは、30ものファンネルを持つキュベレイの正統後継機だ。アクシズの誇る最新鋭機が、ティターンズとエゥーゴとの争いに割って入ったのである。

 

「エゥーゴ、ティターンズは即座に停戦しなさい。停戦に応じないならば我がアクシズの艦隊がティターンズを排除します」

「セラーナ・カーンか……アクシズが出張るとはな。良かったなハマーン。命拾いしたじゃないか」

 

 シロッコが、ハマーンを煽った。圧倒的優位にいるからこそ煽ったのだ。

 シロッコのオーヴェロンとサラのタイタニアが、武装を解除した。そして、正式にティターンズとエゥーゴの間で停戦の成立が宣言された。

 

「セラーナ・カーン。エゥーゴと交渉するのだろう? 私も混ぜてはくれないかな?」

 

 オープンチャンネルでのシロッコの呼び掛けに、セラーナは応えた。

 

「……良いでしょう」

 

 アクシズ。エゥーゴ。ティターンズ。この三者の会談が、ジオン共和国軍の艦艇で成立することになった。

 

 それと同時に実務者会議がサイド3首都バンチ、ズムシティで行われることも決まった。出席者はアクシズからクレメンス中将。エゥーゴからは、ブレックス・フォーラ准将。ティターンズからはジャミトフ・ハイマン少将といった、錚々たる面々だ。

 

「仕込みは済んでいるな?」

「はい。パプテマス様。ジャマイカンならやるでしょう」

「大規模破壊兵器は見せ札だ。使えばエスカレーションを招く」

 

 パプテマス・シロッコは、裏工作をしていた。コロニーレーザーであるグリプスⅡの照準をジャマイカンを通じてコントロールしていたのだ。

 グリプスⅡをコロニーには直撃させず威嚇射撃に留める。そして、大量破壊兵器使用の件でエゥーゴやアクシズを巻き込みバスク・オムを引き摺り降ろす。

 その後、パプテマス・シロッコはバスク・オムの後釜に入り込むつもりだった。

 

 アクシズがエゥーゴの交渉相手として指定したのは、ハマーン・カーンとシャア・アズナブルの2人だ。

 ティターンズからは、パプテマス・シロッコ、サラ・ザビアロフの2人が会談の席に座った。

 

「ハマーンお姉様。よく来てくれました。我がアクシズの軍門に降る覚悟は出来てますよね?」

 

 開口一番繰り出されたセラーナの発言に、ハマーンは固まった。セラーナは、エゥーゴがアクシズの下部組織になると言ったのだ。

 

「セラーナ。何を言っているの…?」

「お姉様こそ何を言っているのですか? 病床に伏せるお父様を放ってアクシズを離れたのは、スペースノイド独立のためだったのですよね?? アクシズが地球圏に戻ったのなら、合流することが筋です」

 

 建前としてそんなことを言ったかもしれない。しかし、ハマーンは微塵もそんなことを考えていなかった。

 

「どうして頷いてくれないのです? どうしてそんな顔をするのですか?」

「私、ジオンもアクシズも好きじゃないの。強化人間として私を作り上げて、家族をバラバラにしたジオンが嫌いよ。そして、未練がましく戦争をしようとしているアクシズも嫌いよ」

「なぜ、そのようなことを言うのです? 分かりました。シャアに唆されたのですね! ダイクンの遺児という立場を使うこの男に!」

 

 セラーナは、シャアを睨んだ。純粋な姉を自分の色に染め上げたシャア・アズナブルを許せるわけがなかった。

 

「セラーナ。これは私の意思よ。アクシズでお父様と過ごしていたあなたは、アクシズのお姫様だったものね。私の気持ちは分からないわ」

「そんな…! お姉様は、アクシズを裏切るのですか! 私のたった1人の家族なのに…!」

「家族…? お母様は、あなたを産んで死んだのよ。お父様は、私よりもあなたを愛していた。慕ってくるあなたを私は憎々しく思っていたわ。あなたが羨ましかった。だから、アクシズを離れたのよ…!」

 

 セラーナの瞳に涙が浮かんだ。

 

「お父様は、今際の際もお姉様のことしか言わなかった! ずっとそばにいた私のことなんて何も言わなかった! お姉様のことばっかり心配していたのに、どうして分からないんですか! お父様の愛を!」

「それは、マシーンのユニットに向ける愛よ! 私はあの人の娘で、マシーンのパーツじゃないのよ!」

 

 セラーナの平手がハマーンの頰を打った。手が出たセラーナも、打たれたハマーンも呆然としていた。

 

「お姉様の分からず屋! そんなに私が嫌いなの! 私は昔の関係に戻りたかっただけなのに!」

「ジオンの憎しみに飲まれた殺人機械のあなたに、何が分かるのよ!」

 

 姉妹喧嘩を見たシロッコが、溜息をついた。

 

「これでは人に品性を求めるなど絶望的だ。そう思わないかサラ?」

「ええ。そうですね」

「生の感情を剥き出しにし、お互いを罵りあっている。全く呆れたものだ」

 

 パプテマス・シロッコは、エゥーゴの白い魔女ハマーン・カーンを高く買っていた。ジ・Oの改良型であるオーヴェロンとタイタニアを急ピッチで製作するほどの熱の入れ込みようだった。

 サイコミュ対策の、アンチシステムも取り入れるほどの凝り具合である。

 

「さっきから、うるさいわね!!」

「傍観者を気取って気持ちが悪い…!」

 

 ハマーンとセラーナのオーラがシロッコを襲った。セラーナ・カーンとマシュマー・セロ。ハマーン・カーンとシャア・アズナブル。パプテマス・シロッコとサラ・ザビアロフ。

 6人のニュータイプが介したこの場所で、怒りによる感応が発生する。

 

「なかなか、強力じゃないか。だが、それだけだ」

 

 パプテマス・シロッコという男は、万能の天才である。彼は、人間の感情を甘く見ていなかったし、感応に対する対策もしていた。

 

「なっ!? なんで、私のオーラが!」

「このタリスマンが外付けのサイコシステムになっていてね。サイコフレアという。エンジェル・ハイロゥと言っても良い。ゼダンの門に運び込まれたシステムを通じて、私の身体に掛けられた負荷を分散する仕組みだ」

「セラーナ。なんかコイツ、ヤバそうよ。ここは協力した方が良いんじゃないかしら?」

 

 セラーナは、感情的になっており、どうすれば良いか分からなかった。喧嘩した姉とは絶対に仲直りしたくない。

 しかし、目の前の変なヘアバンドをした新興宗教の教祖のような男とも組む気にはならなかった。

 

「セラーナ様。パプテマス・シロッコは油断ならない男かと。ハマーン様はそれに引き換え単純です。どうか、組む相手を見誤らないように……」

 

 セラーナ・カーンにはもう心の余裕が無くなっていた。数年ぶりに再会した唯一の家族である姉からは冷たくされ、希望を失っていた。

 

「セラーナ・カーン。私と来い。私なら、君を導ける」

 

 怪しく輝くシロッコの瞳にセラーナの心が揺れた。 

 

「ねぇシャア…? すごく嫌な気配がする。大きな悪意が来ている」

「すまん。私には分からない」

 

 セラーナが、シロッコと共に歩もうと決意し、そう告げようとした瞬間。光の奔流が、宇宙を染め上げた。

 

「きゃあああ」

「セラーナ様!!」

「コロニーレーザーか!? まさかティターンズめ。アレを使ったのか」

「命が消えたわ。この方向はズムシティよ……」

 

 パプテマス・シロッコの計画は破綻した。バスク・オムは、サイド3のズムシティをコロニーレーザーの標的にしたのだ。

 シロッコは、ジャマイカン・ダニンガンを通してバスクの動向を監視し、誘導していたはずだった。バスクが行うのは単なる威嚇でしかない。そうなっていたのだ。

 

「バスクめ…! 余計な真似を!」

「パプテマス様。どうするのです?」

 

 会談の参加者がそれぞれ、銃口をシロッコに向けていた。サラが庇うように前に出ているが、シロッコにとっては絶望的だった。

 

「ま、待て! 撃つな! 私は裏切られた! ティターンズのバスク・オムは、私を殺す気だったのだ。これは紛れもない大量虐殺だ。スペースノイドのために、私たちは協力することが出来るのではないかな?」

「嘘よ。コロニーレーザーについて知っていたわね。自分の利益のために、敢えて見逃したのよ」

「シロッコ! 貴様をここから生かして帰すと思うか? ズムシティを破壊したのだぞ!」

 

 パプテマス・シロッコは、優秀な男だった。そして、それは謝罪にも適応された。

 

「パプテマス様!? 土下座を!?」

「サラ、お前もそうしろ。私はコロニーを撃つなど思っていなかったんだ」

 

 プライドの塊のような男が、生き延びるために頭を下げているところを見て、セラーナから殺意が消えていった。

 

「マシュマー。許して良いんじゃないかしら? この人、良い人そうよ…?」

「セラーナ様、騙されてはいけません」

「でも、かわいそうだもの」

 

 セラーナが慈悲を見せたことで、シロッコを許そうという空気が生まれた。

 結局、シロッコの罪は有耶無耶にされ、アクシズ、エゥーゴ、ティターンズによるバスク・オム討伐アライアンスが組まれることとなった。

 

「こんなのおかしいわ! 今回のコロニーレーザーで得をしたのはシロッコじゃない! セラーナが許さなければ、あの場で殺せたのに!」

 

 コロニーレーザーにより、ブレックス准将が亡くなり、ティターンズのジャミトフ・ハイマンも死んだ。アクシズのクレメンス中将や幕僚も死んだという。

 ティターンズは、パプテマス・シロッコ派とバスク・オム派に分かれ内乱状態となっていた。

 

「パプテマス・シロッコ。あの男は危険だ。セラーナを誘惑し、落とすつもりだった。アクシズとティターンズが組んだら碌なことにならん」

 

 バスク・オム討伐アライアンスは、完全に呉越同舟であり、いつ内紛を起こしても良いような状態だった。

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