パプテマス・シロッコは、破竹の勢いでグレミー・トトへと迫った。グレミーは量産型クイン・マンサを盾にし、時間を稼いでいた。
「プル! まだ落とせないのか!」
「うぐっ、敵がッ、強くて」
「早く落とせ!」
「ごめんなさい……グレミーさ、ま」
クイン・マンサの反動がプルを襲っていた。プルは肉体的、精神的限界に達そうとしていた。クイン・マンサは複座である。グレミーは、操作権を奪った。
「私がやるッ! 動け、クイン・マンサ!」
「ふっ。ファンネルの操作精度が目に見えて落ちたな。サラ、合わせろ!」
オーヴェロンとタイタニアが、2つで1つの生命のように、漆黒の
「行け、ファンネル! シロッコを殺せ!」
「そんなものに当たるわけがない!」
シロッコはオーヴェロンのサーベルで、クイン・マンサに斬りつけた。グレミーがそれを防げたのは奇跡に近い。
「はははははは。よく頑張ったな。パプテマス・シロッコ! だが、もう遅い…! アクシズは30分もすれば阻止限界点を越える。今から爆破しようとも間に合わんだろう」
「遺言はそれで良いのか?」
「何をッ!?」
オーヴェロンには、ジ・O譲りの隠し腕がある。サーベルを構えた隠し腕が、クイン・マンサのコクピットを貫いた。
「主を失ったからか乱れたな。戦機だ。潰すぞ」
グレミー・トトの死により、ネオ・ジオンの足並みは乱れた。好機と見たアライアンスが、攻め掛かる。
「セラーナ。突っ込むわよ!」
「はい。お姉様!」
ハマーンとセラーナが突破口を切り開き、ネオ・ジオン艦隊への道が開かれる。アーガマが我先にネオ・ジオン艦隊へ吶喊。エゥーゴやティターンズの艦艇が続いた。
「私はセラーナ・カーン。正当なアクシズの領主である。アクシズの兵よ。簒奪者グレミー・トトは死んだ。どうか、私の呼び掛けに応じて降伏して!」
「私はセラーナの姉ハマーン・カーンよ。アクシズを地球に落としたら大変なことになるわ。降伏しなさい。ジオンに勝利をもたらすのは、暴力でなくて生き残ることよ。みんなが生きて生きて生き延びて、連邦政府よりも良い明日を見ることが出来れば、それこそジオンの勝利なのよ」
呼び掛けに応じ、武器を下ろしたMSが、強化人間の機体により破壊された。一瞬止まった火線が、また咲き始める。
「バカね。こうなったら、実力行使しかないわ!」
「お、お姉様…?」
「このディマーテルで、アクシズを止めるのよ!」
「そんな無茶です…!」
「ファンネルを核パルスエンジンに全部ぶち込めば止まるわ! 知らないけど!」
ハマーンのファンネルが、アクシズの核パルスエンジンに突撃し、小さな爆発を起こした。
「止まらないわね…?」
「そんなんで止まりませんよ!! こうなったら敵艦隊を全滅させてアクシズを爆破させるしか!!」
死兵と化したネオ・ジオン艦隊は、アクシズと一緒に地球に落ちるつもりのようだ。おそらく焼け死ぬまで、小惑星アクシズを守るのだろう。
「これは、厳しいわね」
グレミー・トトの死により、ネオ・ジオン艦隊は統率を失っていたが、次第にその混乱から立ち直ってきた。
ネオ・ジオン艦隊が反攻しようと、艦首を向ける。しかし、ビームによりネオ・ジオン艦隊の先鋒はスペース・デブリへと変わった。
「連邦正規軍ね。これで、ネオ・ジオンはいよいよ終わりよ」
連邦正規軍は、アクシズの核パルスエンジン目掛け、ミサイルを乱射している。
アクシズのエンジンに、ひときわ大きな輝きが生じた。
「セラーナ。あの光? もしかして核?」
「はい。そのはずです。連邦軍は核ミサイルを使ったようですね」
「でも、駄目ね。あれほどの質量を蒸発させるには、もっとたくさんの核がいるわ」
「そうですね……」
「せめて、コロニーレーザーでも有れば……」
コロニーレーザーがまだ存在すれば、連邦軍はそのオプションを取れたのかもしれない。しかし、コロニーレーザーはもう無い。グレミーが一枚上手だったのだ。
「やっぱり駄目ね。そろそろ阻止限界点を越えるわ」
ハマーンが諦めた時、1機のMSが光を放ちながらアクシズに取り付くのが見えた。不思議とそのMSにネオ・ジオン艦隊の攻撃は当たらなかった。
その光景に、敵味方が戦闘をやめ一時的な停戦状態が生まれた。
「誰よ? オーヴェロン? まさか、シロッコ!?」
パプテマス・シロッコのオーヴェロンが、ただ1機、アクシズを押していた。
「セラーナ。行くわよ」
「ええ」
オーヴェロンに続いてタイタニアが。そしてアムロのΖZガンダムやシャアのZガンダムが続いた。
「シロッコ。あなた天才じゃなかったの? 簡単なモーメントの計算も出来なくなったわけ? アクシズを止めたいなら、ここにいるのは、力学的に正しくないわ」
「だが、君もここに来た」
「ええ。世の中って案外理屈だけで回っているわけじゃないから」
ハマーンの答えにシロッコは、笑みを浮かべた。
「世の中は一握りの天才ではなく、凡人がゆっくりと進めているものだ。だから、尊いのだろう」
オーヴェロンが、サイコマシーンとして限界を越えたチカラを発揮した。
「バカもやってみるものだな。人は皆、生の感情で生きているのだから」
「パプテマス様! もう、これ以上は」
「サラ。君の可能性を私に預けてくれ」
タイタニアも、オーヴェロンと同じように緑色の光に包まれる。
「ふ。ははは。これが、サイコ・フレアの行き着く先か。良い景色じゃないか」
「ねえシロッコ。私を預けるわ。上手く使ってちょうだい」
「感謝する」
ハマーンが身体と精神を預けたのを皮切りに、セラーナやアムロ。シャアがそのチカラを預けていく。
「回れ。エンジェル・ハイロウ」
ゼダンの門に据え付けられたエンジェル・ハイロゥ。その残骸が光を発しながら回り出す。
緑色の光が地球圏を優しく包み込んだ。朝日と共に遠のいていくアクシズを見て、一人の子が笑った。
「で、今日も遅いの?」
「ロンド・ベルの会合だ。仕方ないだろう」
「言っておくけど、私のお腹にはあなたの子がいるのよ。妊婦を放ってまで、やる仕事って何なのかしら?」
「世界平和を守る仕事だよ」
「そ。愛してるわシャア」
「……愛してるよ。ハマーン」
アクシズ・ショックの影響が収束した頃、ハマーン・カーンはシャア・アズナブルと結婚した。そして、結婚生活を送りすぐに子を授かった。
父となったシャアの慌てふためきように、ハマーンは幸福感を覚えた。どこかに飛んでいってしまいそうなシャアと、確かな絆を作り上げたのだから。
「さて、諸君。今回の目標は、アナハイム・エレクトロニクス社を牛耳るビスト財団だ。未来のために働こうじゃないか」
「シロッコ大佐。納期が迫ってますよ。カミーユ技師から、設計案のダメ出しが来ています」
「む。カミーユのやつ。なかなかやるようになったな」
パプテマス・シロッコは、ブライト・ノアと共にロンド・ベルを設立。軍人としてもMS設計者としても忙しい日々を送っていた。サラ・ザビアロフとの関係はハッキリしていないが、そこは、触れてはいけないようになっている。
「予想される敵は?」
「アムロお兄ちゃんなら、敵なんていないわ」
「そう。アムロはしっかりしてるから」
アムロは、フォウ、ロザミアと同棲している。精神病院に入れるとか施設に預けるという話は考えていたのだが、そうこうしているうちに既成事実が生じてしまったのだ。情が湧いてしまったため、アムロ・レイは爛れた生活をすることとなる。
セラーナ・カーンは、ジオン共和国の議員となった。穏健保守的な主張を展開し、スペースノイドとアースノイドの融和を目指した。
アクシズ・ショックでも、世界は大きく変わらなかった。人は相変わらず人を憎んだし、殺し合いはやまなかった。
それでも、人は生き続けなければならない。より良い明日が来ることを祈りながら。