ハマーンはベッドの中で布団に包まり悶えていた。
(うぅ。死にたい。エンツォ大佐に無能とか言っちゃったし、なんかイキっちゃった。うぅ。イキってすみません……)
夜、寝る前に1人反省会を行ってしまうのがハマーンの悪いところだった。
(いろんな人が私の中に入ってくる。殺しちゃった人が入ってくる。でも、私と大佐のデートの邪魔したし、アクシズに来なければ死ななかったし、来たのが悪い。
ジオンが何をやったとか私に言われても知らないし。戦争なんてバカバカしいからやめれば良いのに……)
その時、ドアがノックされた。予想していなかった音にハマーンは、ビックリしてベッドから転げ落ちる。
「ハマーン、すごい音がしたが大丈夫か?」
「ぴ。た、大佐。なんで!?」
なんとか立ち上がり、眼鏡を掛ける。それから前髪を下ろし防御態勢に入る。
「入って良いかな? 君に話がある」
「あっ。はひ。は、はい。大丈夫れふ」
驚きと緊張のあまり、ハマーンの心臓は高鳴り、呂律が回らなくなった。
(も、もしかして告白?? それとも夜這い!? え、ここで大佐とはじめてを…!?)
ムッツリ助平のハマーン。その妄想が加速する。
「まず、夜更けにも関わらず女性の部屋を訪れる非礼を謝りたい」
「え!? いえ、喜んで!!」
「喜んで貰っては困るな。私も男なのでね。少し心配になってしまうよ」
「大佐だからです!! 私は軽い女じゃ有りません!!」
(ああああああああああ!! 言っちゃったぁぁぁ!! かわいい下着じゃない!? どうしよう! 失望されたらどうしよう!?)
シャアは華麗にハマーンの告白をスルーした。
「いきなりだが、私とサイド3に向かうことになった」
「ぇ! ハネムーンですか!!」
「違う。マハラジャ提督は君の力を利用されたくないと思っている」
「あの……私ぃ。大佐のこと、いえ、あの、なんでも」
「君は単騎でジム15機、マゼラン級5隻を落とした。独立派がそれに勢い付いた。君の身が危ないかもしれない。だからサイド3に独立支援ということで向かう」
「しゅ、しゅきにゃんでしゅ」
「……話を聞いているのか?」
ハマーンはシャアの話を全く聞いていなかった。シャアもハマーンの遠回しな告白を聞いていなかった。
「え?」
「え、じゃない。ハマーン。君の身が危険なんだ」
「はぁ…?」
「もう良い。後日、落ち着いた場所で話そう」
シャアはそう言い残し去っていった。ハマーンはお預けを食らった犬のようになっていた。
(え、な、何も起こらないの!? なんで、私、勇気出して好きって言ったじゃん!? キープなの?? それと身の危険ってなに!?)
髪色のようなピンク色の脳内をしていたハマーンは、しばらく悶々としたが、睡魔に負けて眠りに落ちた。
アクシズには、現在2つの勢力がある。
1つが急進派だ。エンツォ・ベルニーニをリーダーとし、武力行使により連邦軍との戦闘を目指す派閥である。
もう1つが穏健派である。マハラジャ・カーンをリーダーとし、シャア・アズナブルもこちらに属している。すぐにでもジオン独立戦争を再開するのではなく、あらゆるオプションを試そうとする派閥だ。
勢いのある方は急進派である。アクシズはジオン残党の集まりであり、感情的にジオン独立戦争にのめり込むのは当然だろう。
ハマーンは急進派にとっては救い主だった。シュネー・ヴァイスのビットにより馬鹿げた戦果を収めたのだ。はっきり言って異常なスコアだ。広告塔として魅力的すぎる存在である。
マハラジャはハマーンが急進派に利用されることを避けるために、サイド3への支援ということでアクシズから遠ざけようとしたのだ。
マハラジャとシャアから事情を聞いたハマーンは、大きな溜息を吐いた。そして、少し早口で、苛ついた様子を隠そうとせず口を開いた。
「そんな戦争がしたいなら勝手にすれば良いじゃない。アクシズから出ていって死ねば良いのよ」
「ハマーン。そんなことを言うべきではないよ。彼らもジオンのためを思って居るんだ」
「ジオンのためって、ジオン・ダイクンってそんなに偉いの? シャアのパパでしょ? じゃあ、シャアが面倒なこと全部やれば良いじゃない」
ハマーンの発言に場が凍り付いた。マハラジャとシャアが思わずといった様子で見合わせていた。
「ハマーン! 人の秘密を気安く話すべきではない! シャア大佐に謝罪しなさい!」
「……ごめんなさい」
「シャア大佐、ハマーンの謝罪を受け取って貰えるかな?」
「ああ。受け取ろう」
しばらくシャアにはハマーンの言葉が刺さっていた。ダイクンの子であるシャアには確かに責任がある。
しかし、それは自分が背負わなければならないものなのだろうか? 鬱々とした気分がシャアを襲った。
軽いノックの音がする。ドアの外に居たのは、桃色の髪の少女。ハマーンだった。
ハマーンが、自分からシャアの私室に来るのは、はじめてだった。
シャアは、彼女を追い返したいと思ったが、そうはしなかった。仮にも大人である。感情的な行動はできる限り控えるべきだ。
「ハマーンか。入って大丈夫だ」
「ひゃい。失礼します」
ハマーンは、所在なげに部屋の中をウロウロしていた。おそらく、何か話したいのだろうが、どこに座れば良いとかそういうことが分からず困っているのだろう。
「ハマーン。ベッドで良ければ腰掛けるか?」
「へっ!? た、大佐とベッドに…! 喜んでッ」
「喜ばなくて良い……」
ハマーンは、勢いよくベッドに座ろうとして、バランスを崩した。シャアが咄嗟に支えたため、ハマーンはシャアの胸の中に居た。
ハマーンの顔は耳まで赤くなっており、熱い脈が波打つのが伝わってくる。
「シャア大佐、サイド3に行ったら、私と月に逃げましょう。大佐は、ダイクンの子とか、そういうことが嫌なんですよね?
私だってアクシズ総督の娘とかそんなの嫌。ただのハマーンで見て欲しい。みんなマハラジャの娘って見てくる。それが本当に嫌なの。シャアもそうなんでしょ?」
ハマーンの直接的な問いに、シャアは答えなかった。自分自身にもその答えが分からなかったのかもしれない。
「ふふ。君は面白いことを言う。月に行ったら父君はどうするんだ?」
「パパは大人。だから、大丈夫。
大佐と私は似ています。もう、自分を殺さなくて良いんです。親なんて関係ない。私は、一人の人間として、大佐のことが好きです。あの、恋愛的な意味でも……好き、です」
ハマーンはシャアを勇気付けようとしたのだろう。真っ直ぐな言葉に、シャアの内心が揺れた。どこかララァの面影をハマーンから感じ取ったのかもしれない。
「……あ、あの返事は…?」
不安7割、期待3割といった表情で、恐る恐るハマーンが口を開く。シャアは、ハマーンをこっ酷く振ることも出来たが、わざわざ事を荒立てるようなことはしなかった。
「君はまだ子供だ。大人になっても、その心が変わらなければ、その時は私も応えよう」
「言いましたからね!! 絶対ですよ!!」
シャアは、思わずハマーンの頭を撫でた。少女はこそばゆそうにそれを受け入れた。
彼女が傷付かないように、遠回しな拒否を出したつもりだったが、ハマーンはそれに気付かなかったようだ。あるいは、気付いていても、気が付いていないふりをしているのか。
「私のこと、シャア大佐に好きになってもらいます。私、大佐以外の人のことを好きになるなんて考えられません! 私の恋は初めてで最後なんです」
「そういうところだぞハマーン。君は若い。若さで取り返しの付かないことも有る」
「どんなに後悔したって、やらないよりはマシです。やらないでクヨクヨしてるなんて、そんなの嫌です」
ハマーンの若さに、シャアは思わず苦笑した。こういう関係も、有りなのかもしれない。そうシャアは思いはじめた。