現在の連邦議会では、非ティターンズ、非エゥーゴの中立派が大多数を占めている。
威勢の良いティターンズは、デラーズ紛争もあり当初は支持を取り付けていた。しかし、サイド1鎮圧事件によりその権威は失墜した。現在のティターンズは極一部の過激派に持て囃されているだけだ。
とはいえ、エゥーゴも積極的には支持されなかった。肥大化した連邦軍は、己の権益を守ることに執着していた。改革を起こせば、権益が失われてしまう。
アースノイドにとってスペースノイドがG3ガスで殺されそうになっても、それは遠い場所の出来事だ。芸能人のゴシップやオカルト、近所に出来たレストランといった話題の方が記憶に残る。
ティターンズとエゥーゴの争いから、大半の
連邦軍は変化を望んでいなかった。病巣が出来ていても、その巨体ゆえに痛みは鈍い。動きも鈍くなる。
「エゥーゴは月面都市アンマンを拠点としている! フォン・ブラウンの駐留艦隊は動く必要があるのではないか! これは、ティターンズとしての正式な命令だ!」
バスク・オムが、フォン・ブラウン駐留艦隊司令に向け気炎を上げる。
「我々は、ティターンズでなければバスク・オム大佐の部下でもない。君は、スペースノイドを憎んでいるのだろう。我々ルナリアンも君の言うスペースノイドに入るのかな?」
「だったら、どうした! くだらんことを言うな! 艦隊を出せと言っている。怖気づいているのなら、我々の宙域への侵入を認めてもらいたい」
フォン・ブラウン駐留艦隊の司令官は、バスクにわざとらしくタバコの煙を吹き掛けた。
「我々は、パプテマス・シロッコ大佐を通してティターンズとやり取りしている。パプテマス大佐は、君のような乱暴な輩とは違う」
「シロッコだと! あの若造めが!」
「パプテマス大佐は若いが大した方だ。君のような武骨なゴーグルを付けた禿とは違うよ」
バスク・オムはジャミトフ・ハイマンに次ぐティターンズのナンバー2だった。しかし、ガンダムMK-Ⅱを失ったことや、2機のキュベレイにより多数のMSと艦艇を失ったことで、ティターンズ内での求心力を急速に失っていた。
「失礼する!」
「おや、早いお帰りですな。そうだ。グラナダの部隊に声を掛けても無駄ですよ。パプテマス大佐は、とても懐の深い方ですから」
バスク・オムは、苛立ちを抑えきれなかった。パプテマス・シロッコという若造に、ティターンズ内での権力を奪われることが我慢できなかった。
隙を見てパプテマス・シロッコとジャミトフ・ハイマンを殺す。そうすれば、ティターンズの権力はバスクの下へ戻って来る。
バスクは暴力によって成り上がってきたのだ。軍隊のマチズモがバスクそのものだ。
ティターンズが、エゥーゴに勝る点は完成途中のコロニーレーザーを保有している点と、僅かな兵力の優位だ。コロニーレーザーでエゥーゴの兵力を削らなければ、ティターンズの圧倒的な勝利はない。
アレキサンドリアに帰還したバスクは、部下に指示を飛ばした。
「グリプスⅡを動かす。目標は月だ」
「あれは未完成です。移動に耐えられません」
「なるべく早く完成させろ。でなければ、議会がエゥーゴに同情的になる」
ティターンズには、アンマンに逃げ込んだアーガマを追撃する余裕がなかった。白い魔女と赤い彗星は、ティターンズに多くの被害を齎している。
バスクの権力は、パプテマス・シロッコに侵食されつつあるのだ。
「待つしかないとはな…!」
バスクはアレキサンドリアのキャプテンシートに、憤りをぶつけた。しかし、ティターンズが優位を得ることはなさそうだった。
エゥーゴも、目立った動きをしていない。アーガマは、ガンダムMK-Ⅱを奪取し、アンマンに逃げ込めた。
攻撃を仕掛けようにもエゥーゴの艦数はティターンズより劣る。正攻法では勝てないのだ。奇策ならば可能性はある。
ブレックス・フォーラ准将には奇策があった。ジャブロー攻略である。連邦軍の中枢であるジャブローを占拠し、エゥーゴが連邦を乗っ取ろうというものだ。
「そんなのティターンズと同じじゃない! そんなことをしたらエゥーゴも同じ穴のムジナになってしまうわ! 私は反対よ」
「シュネーの意見も一理ある。しかし、正しさだけではティターンズを打倒できないのではないかな」
「人は正しさが無ければ、善く生きられないわ。私はシャアに酷いことをしないで欲しいの」
エゥーゴは、連邦議会で完全に支持を取り付けていない、わけではない。反ティターンズかつ、エゥーゴに協力的な議員はそれなりにいる。協力的な議員のほとんどがサイド1鎮圧事件を忌々しく思っており、エゥーゴの主張が正しいから支持しているのだ。
ジャブロー攻略を起こそうものなら、その信頼を裏切ることとなってしまう。
「シュネー少尉。君の意見はよく分かった。ジャブロー攻略はしない。その代わりに連邦議会で演説を行い、支持を広げよう」
「ありがとう。ブレックス准将。人は分かり合えないけれど、分かり合おうとすることは出来るの。正しさは、分かり合おうとすることを助けてくれるから」
エゥーゴの次の目標は、連邦議会での支持者を増やすこととなった。
「げっ、カミーユ……」
「人の顔を見て、そんなことを言うなんて失礼ですね」
「あなたの顔、素敵なことになってるわよ」
シュネーは、ばったり会ったカミーユに対して内心をそのまま伝えた。ノンデリカシーなところがシュネーにはあった。
カミーユの顔は青痣や腫れにより、面白いことになっていた。
「お父さんと喧嘩したって聞いたわ。わだかまりは無くなったの?」
「まさか。そんなこと有りませんよ。あれだけで仲良くなれるなら、世界中から戦争が消えてますよ」
「それもそうね」
「でも、あの後、親父と話をして色々分かった。親父には親父の生き方があるってことを。ダメな人だけど、尊敬できるところは有る。あんなのでも一流の技術者で設計者だ」
「Zガンダムって機体をお父さんと作り上げるんでしょう。親子って色々なカタチが有ると思うの。まあ、ゆっくりやりなさい」
「余計なお世話だよ。アンタこそ父親と妹をアクシズに置いてきたんだろ。人のことを言う前に自分のことをなんとかしろよ」
カミーユの言葉に少しシュネーの内心が揺らいだ。家族は決別した過去そのものだった。
「家族って究極的には他人なのよ。パパは死んだし、セラーナもきっとなんとかやってるわ。私には私のやり方が有るの。だから、人の家の事情に口を出さないでもらえる?」
「人の家のことはずけずけ言うくせに。あなた、矛盾してますよ」
「生意気なガキね……ほら、愛しのパパとママのところに帰りなさい」
ハマーンは、セラーナのことが嫌いなわけではない。しかし、家族としての愛情を抱いているわけでもなかった。
カーン家は、ジオンという大義により、犠牲になった家である。
3人の娘のうち、長女のマレーネは、ドズル・ザビの妾になり、ジオン独立戦争の渦中で死んだ。
次女のハマーンは、家族と離されニュータイプ研究所で、散々研究され、強化された。そして家族に対してコンプレックスを抱くようになっていた。
少女であったハマーンは、家族と一緒に居たかった。ジオンのためやアクシズのため、カーン家のためといった言葉で誤魔化されたが、それでも、心の底では納得していなかった。
だから、父マハラジャと多くの時間を共にしたセラーナに対して無意識下で嫉妬していた。マハラジャに対しても、自分ではなくセラーナを手元に置いたと考え、素直に家族となれなかった。
カミーユ・ビダンの家族に対して、少し羨望を覚えるくらいハマーンの家族は終わっていた。
「カミーユには父も母も居るんだから、戦争になんて参加しなくて良いのよ。MS乗りなんて、結局は薄汚れた殺人者なんだから」
「でも、僕がやらないと…!」
「あんたの作るZガンダム。私が乗ってあげるわ。私じゃなくても、誰かが乗るでしょうね。子どもは、変に大人にならなくても良いんだから」
カミーユは少し間抜けな顔をしていた。それから、調子を取り戻したようで、屈託なく笑った。