ブレックス・フォーラ准将は、地球連邦議員である。彼は連邦議会に参加し、議員として発言することが出来る。
エゥーゴという組織が、曲がりなりにもテロリストとして認定されず、連邦正規軍から攻撃されていないのは、ブレックスの存在が有ってのことだった。
随伴員としてクワトロとシュネーを伴ったブレックスは、連邦議会に参加すべく地球に降下した。
そして、今、必死に追っ手から逃げていた。
「だから、言ったじゃない! 襲撃されるって!」
「ボディガードは増やした」
「増やしたじゃないでしょ!! 全滅してるじゃない!」
シュネーが、襲撃される予感がすると言ったため、ブレックスは急遽ボディガードを増やした。しかし、それは焼け石に水だったようだ。
クワトロは、必死に襲撃者と撃ち合っている。シュネーはブレックスの手を引いて走っている。彼女の強化された肉体は、アスリート並みの身体能力を発揮していた。
「敵だらけよ! アンタの伝手はどこに居るの?」
「カラバの拠点ならば、5キロ先だ」
「仕方ないわ! 2キロ先の連邦軍の駐屯地に突っ込むわよ!」
クワトロが足止めをしている内に、シュネーは工事現場に入り込んだ。
「この重機で突っ込むわよ!」
「免許は?」
「そんなものないわ」
「動かせるのか? 鍵は?」
「知ってる? 私ってニュータイプなの」
民間に払い下げされたガンタンク重機型。そのキーは付けっぱなしだった。寝ぼけた作業員がプレハブの中からフラフラと出てくる。
「ごめんなさい。作業員さん。借りるわ!」
「はぁ? 借りるってぇ?」
シュネーは重機に乗り込んだ。ブレックスを引き上げ、助手席に詰め込む。
「シャアを助けるわよ!」
「うぉっ、横転するッッ!」
シュネーは、敵の中に重機ごと突撃する。小銃弾が車体に当たり、強い雨音のような音がした。
しかし、タンクの体積と質量の前に、襲撃者にはなすすべがないようだった。
「早く! シャア、早く乗ってぇ!」
「待てハマーン! 対MSバズーカだ! 撃たれたらひとたまりもない!」
クワトロが、フルオートで小銃をぶっぱなす。敵射手は死んだようだ。
クワトロを回収したハマーンは、タンクをぶっ飛ばした。
「ハマーン! ぶつかるぞ!」
「うるさいわね! これくらい大丈夫よ!」
ハマーンは運転が下手だった。タンクは、高級ホテルのエントランスに突っ込んでそのまま、突き抜けた。
轟音により、逢瀬に耽っていたカップルが、滑稽な格好のまま慌てて飛び出す。
「間抜けな格好ね」
「ハマーン、私が代わる」
見かねたクワトロが、ハマーンから操縦桿を奪った。ブレックスは安心し、思わず溜息をついた。
シュネーはブレックスの溜息にムッとした。
「シャア。私の運転は、上手かったわよね?」
「ド下手だ。二度と君の運転するものには乗りたくない」
「はぁぁ!? 私のドリフトを見たでしょ!」
「これはドリフトするものじゃない」
むくれたハマーンをよそに、タンクは、連邦軍駐屯地へ向けて加速していく。
「そこの重機! 止まれ! 止まらんと撃つぞ!」
「こちらはブレックス准将の乗機だ。上官殺しになるぞ」
「准将だと??」
「要人保護を願う。何、基地内の突入はしない」
急制動を掛けたガンキャノンは、恐るべき制止をした。ハマーンは体幹で耐えたが、ブレックスはキャノピーへしたたかに身体をぶつけた。
「クワトロ大尉。君もシュネー少尉のことを言えないくらい乱暴だな」
「勢いというものが大事な時も有りますので」
ガンキャノンは、基地のフェンスすれすれで停止していた。しかし、ほとんど基地内に突っ込まれたようなものだ。
連邦軍は、慌てふためき、上に下に大騒動が起きた。
「ブレックス准将……我々はとても困っている。ティターンズに睨まれるようなことはしたくない」
「しかし基地司令殿。私はティターンズにより暗殺されかけた。優秀な部下の助けで窮地を脱したが、ボディガードを失い無防備になった。そんな私を放り出すと言うのかね?」
「……私は何も聞いていません。我々は、あなたを、ブレックス准将を自称するテロリストとし、殺害することも可能なのですよ」
基地司令の言葉に、控えていたシュネーが噛み付く。
「私たちは襲撃されたのよ! 護衛も殺された。護衛の人にも人生が有ったの。友達も恋人も家族だって居たのよ。ティターンズは奪うことしか出来ない。そういう奴らなのよ」
「我々が、あなた方のことを何も知らないとお思いか? アクシズのお嬢様ハマーン・カーン。そしてダイクンの子、シャア・アズナブル。
ジオンの残党が、ブレックス准将を取り込んで、今更何をしようと言うのだ? 一年戦争で私の部下は何人も死んだ。その中には妻もいた。貴様らが、先に奪ったのだろう!」
基地司令の言葉に、シュネーはショックを受けた。ハマーンは自らをジオンによる被害者だと思っていた。だからアクシズを抜けて、エゥーゴに身を投じたのだ。
自分自身が、ジオンの側に存在するとは思っていなかった。
「違うわ。私はジオンが嫌いよ。姉と私自身を奪ったジオンが嫌いなの。私たちは、ジオン残党じゃないわ」
「口では何とでも言える。その甘言で准将を騙したのかね?」
「違う! 私は、みんながより良い明日を迎えられるように……」
「より良い明日だと? ジオンのコロニー落としが全てをぶち壊した。強制的に明日を見る余裕を失わせた! 我々は失った昨日を見るしかないのだ!」
基地司令は明らかに余裕を失っていた。シュネーの純粋な思いが、彼から余裕を奪っていた。
「失礼。取り乱した。私とて、全てのスペースノイドが憎いわけではない。スペースノイドを虐殺しようとするティターンズには与さない。
しかし、我々アースノイドは、一年戦争であまりにも傷付いた。まだ明日を見る余裕がないのだ。君らの下部組織であるカラバには渡りを付けよう。それが最大限の譲歩だ」
基地司令の持ち出した提案は、エゥーゴ寄りと見做されるものだった。
良い結果だったが、シュネーは納得できなかった。
「ねぇ。シャア。あの大佐の言葉、どう感じた?」
「彼からは強い憎しみと憤り。そして、それを乗り越えようとする意思があるように思えた」
「そう。シャアは辛い? ダイクンの子って勝手に見られて、レッテルを貼られているじゃない。私は、私がハマーンじゃなくてシュネーだって思いたいけれど、どこまで行っても私はハマーン・カーンなのよ」
「……人は、過去からは逃げられない。だが、未来は作れる」
「そうね。私とシャアが結婚して極東式に名字を変えれば、私はハマーン・アズナブルか、ハマーン・バジーナになれるもの」
「そういう話ではない」
「そういう話よ。難しいことを考えていないで、もっと生物的にプリミティブになれば良いの」
シュネーが、着衣を脱ごうとした。クワトロは必死に止めた。
「待てハマーン。結論が短絡的すぎる」
「セックスしましょ。シャア。それで、子どもを作るの」
「待て。待つんだハマーン。押し倒すんじゃない!! カラバの迎えも来るんだぞ!!」
ハマーンの肉体は強化されており、シャアをもってしても押し退けられない。
肉食獣のようにハマーンは口角を上げた。
「じゃあ、キスだけ」
「それだけなら……」
シャアの口腔内を甘く熱いハマーンの舌が蹂躙する。シャアは抵抗しなかった。
ハマーンは、約束を破りシャアの上衣を脱がしに掛かった。シャアは必死に抵抗するが、強化人間には敵わなかった。
その時、ノックの音がした。カラバの迎えが来たのだろう。
「待て、ハマーン。今はマズイ」
「知らないわ!」
中の様子を不審に思ったのだろう。カラバの迎えがドアを開けた。
「シャア、何をやっているんだ…?」
「アムロ!? 助けてくれ!!」
呆れた表情のアムロがそこにはいた。半裸で押し倒されているシャアを軽蔑しているのだろう。
「違う……これは、誤解なんだ。アムロ! その目をやめろ! アムロ!」
シャアの言葉はアムロには届いていないようだった。