得物:木刀……木刀!?   作:ぼっくとん

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 意味が分からない。塚原智也(つかはらともや)は空を見上げた。

 彼の周囲に広がっているのは、鬱蒼とした森。少年が立っているのは、均されただけの土がむき出しの道の真ん中。

 ここは何処なのか。なぜ自分が、こんな場所に一人立っているのか。

 

 黒の学ランに、それから右手に握られるのは一本の木刀。

 

「何で木刀?つーか、それ以外の荷物が何もねぇんだけど?俺のクーポン券がみっちり入った財布はどこに行ったんだ?」

 

 ふざけんじゃねぇーよ!と智也は、木刀を勢いよく地面へと叩きつける。

 瞬間、地面が粉砕した。

 驚いたのは、本人だ。彼としては、ただ単に苛立ち混じりに何故か手に持っていた木刀へと八つ当たりをしてしまっただけなのだから。

 舞い上がった粉塵に咄嗟に顔を背けながら両手で鼻や目を庇って、少し。

 肌にあたる土埃の感触が消えた所で、智也はゆっくりと両手を下しつつ、目を開けた。

 

「…………oh」

 

 絞り出したのは、日本語にもならない言葉。

 横向きに叩きつけられた木刀はそのまま地面へと減り込んでおり、そのめり込んだ地面は直径五メートル程のクレーターとなって凹んでいるのだから。

 

「あっれー……?俺って、こんなに怪力だったっけ?そして、そんなパワーで投げつけられて折れない木刀ってどういう事?」

 

 訳が分からない。目を白黒させながら、智也は木刀を拾い上げる。

 ここがどこであれ、彼にとって現状頼りに出来るのはこの木刀位だからだ。自衛するにしろ売り飛ばすにしろ、野生動物が出るかもしれない現状武器を手放す事は出来ない。

 

 ただ、その警戒心というものを最初から持っておくべきであったのは間違いない。

 

「――――ここかぁ?」

 

 野太い声だ。気付けば、森の中から身なりの汚い男たちが現れていた。

 その手に握るのは、粗末な槍や剣といった手入れはされていないが明確な武器たち。

 

「へい!兄貴!馬鹿デケー音がしやしたぜ!」

「そうか……おい、ガキィ!テメェが、原因か?」

 

 一際体格の良い男が、斧を肩に担ぎ上げて一歩迫る。

 その男の目を見た時、智也は成程と理解した。

 

(こいつ、俺を殺す気だな)

 

 人を殺す事に躊躇せず、感慨を抱かないタイプ。慣れか、環境か。とにかく、次の瞬間にも斧を振り下ろされてもおかしくない相手。

 智也は、何処か他人事のように脳が冷めていくのを感じた。何故か、恐怖を感じなかったからだ。

 木刀を利き手である左手に握り、智也はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「さあ?知らねぇな」

「そうか…………んじゃあ」

 

 言いながら、掲げられる斧。

 

「身包み、置いてけやァッ!!!」

 

 ドタマカチ割る。一切の加減なく振り下ろされた一撃を前に、智也は冷静だった。

 

(おっせぇ……)

 

 スローモーションだった。引き延ばされた時間の中で、しかし智也の感覚は限りなく研ぎ澄まされていく。

 ともすれば、走馬灯でも見ているのかという状態だが、今の彼にはそんな事は欠片も気にはならない。

 

(隙だらけ)

 

 上から下へと振り下ろす。

 シンプルにして、同時に驚異的な一撃はしかし反撃を一切考慮しない男の無防備さも相まって智也にはよく見えた。

 ゆっくりとした時間の中で、少年の体が動く。

 前へと倒れるように突っ込みながら、左手を体に巻き付けるように顔の左側へと木刀を通した。

 踏み込みではなく、重力を利用した加速。それは、慣れれば瞬間的な速度は脚力による加速をも上回る。

 

 一閃。

 

「がっは…………!?」

 

 斜め右下から跳ね上げる様な一撃は、斧を振り下ろす男の無防備な胴体を正確に捉え空高くカチ上げる。

 驚くべきは、かち上げられた男の高度。

 軽く、五メートルは飛んだだろうか。弧を描いて吹っ飛んだ体は、道脇の草場に転がった。

 気絶したのか、それとも当たり所が悪かったのか。仰向けに倒れて起き上がってくる様子の無い男に智也を囲んだ者たちに動揺が走った。

 彼らの反応に、智也は木刀を肩に乗せて口を開く。

 

「選びな。そこのぶっ飛んだ奴の二の舞になるか。それとも、大人しく武器を捨てて投降するか」

 

 三秒やる、と智也は肩を木刀の峰で軽く叩いてみせた。

 静かな言葉だ。だが、

 

「一つ……」

「「「ッ!?」」」

 

 数え始めると同時に、木刀が肩から降ろされた。

 

「二つ……」

 

 木刀の柄を握り直す音が、男たちの鼓膜を嫌に叩く。

 

「三――――」

「わ、分かった!!降参だ!降参する!!」

 

 吹っ飛ばされた男の付き人の様な立場であった痩せぎすの男が喚き、手に持っていた粗末な剣を投げ捨てた。

 彼に続いて、幾つもの淡い金属音が響く。

 たった一振りの木刀。たった一人の少年。それだけの要素で、この場の賊徒は制圧される事になった。

 勝因は、言わずもがな初手の一撃。

 自分達が頼ってきた暴力の権化が一撃で沈められ、且つもし自分へと向けられた場合における恐怖を植え付けた結果である。

 襲い掛かって来る者が居ない事を確認して、智也は木刀方に乗せる。

 

「よし。それじゃあ、ちょいと付き合えお前ら」

 

 悪鬼が笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――…………うぅっ………こ、ここは……」

 

 深い眠りから覚めて、賊を率いていた男は瞼を開けた。

 視界に入り込んできたのは、暗い岩の天井。視界の端の方でオレンジ色がうっすらと揺らめいていた。

 

「何が、どうなって…………ッ!」

 

 上体を起こせば、鈍い痛みが襲ってきた。

 顔を顰めて痛む胸を擦れば、包帯の感触。体を見れば、治療の跡が見て取れた。

 頭を擦りながらも立ち上がり、岩壁を支えに向かったのは光の方。同時に、ザワザワとした人のざわめきも彼の耳に届いてくる。

 

「おい、ここは――――」

「それで、アニキ!ここからはどうするんですかい?」

「まず、拠点は持たない事だ。お前ら揃っても、三十人弱。そんな奴らが拠点を持ってちゃ、攻められた時皆殺しにされるだけだからな」

「そ、そうなんですかい?」

「考えてもみろ。相手は、百人以上でオマケにそれぞれが訓練を積んだ兵隊だぞ?素人の賊の二十人や三十人皆殺しにするのなんざ一刻と掛からねぇだろうさ」

「な、成程ー……」

 

 男が見たのは、自分の部下たちの中心で燃え盛る焚火を見やりつつ話をする黒髪の少年だった。

 自分をぶっ飛ばした相手が、自分の部下を統制している。それどころか、アニキと慕われている始末。頭痛がする想いというのは正にこの事だろう。

 

「~~~~!テメェら、何してやがる!」

「!あ、兄貴!目が覚めたんですね!」

「言ってる場合か!?何だって、その餓鬼がここに居やがるんだ!~~~ッ!イッテェ……!」

 

 蹲る男に、智也は漸く目を向ける。

 

「そこまで騒げるなら、大丈夫そうじゃねぇか」

「て、テメェ……!誰のせいで……!」

「責任転嫁してんじゃねぇよ。お前らが俺に襲い掛かって来なくちゃ、俺だって手を出したりしなかったさ」

「ぐぬ……」

 

 相手を舐めてかかり、ぶっ飛ばされた手前何も言えない。

 傷の痛みもあり、男は黙り込むとその場に腰を下ろした。

 

「…………何が目的だ?」

「何が?」

「惚けるんじゃねぇ。テメェがその気なら、こいつら纏めて伸しちまう事も出来た筈だ。何故それをやらねぇ」

「する価値がないから、だな」

「価値だと……?」

 

 火の中へと薪を放り込む少年に、男は眉を顰める。

 

「俺は、この国に来たくて来た訳じゃない。その上無一文で、頼れる当てもない。そこに丁度良く、暇そうな奴らがやって来た。利用しない手はねぇだろ?」

「俺達が言う事聞くと思ってんのか」

「聞かねぇのなら――――()()()()()()()

 

 男に対して、少年は木刀の切っ先を地面に突き刺してニヤリと賊の一団を見やった。

 その実力、もとい木刀の一撃は男も身をもって知っている。文字通りの意味で。そして、周りの男たちも何れも自分たちの頭目がカッ飛ばされたのを見た。

 一際体格がいい頭目であったからこそ生き残れた様な一撃を自分たちが受けて生き残れるのか。

 人のみならず、生物は本来痛みを嫌う。そもそも、好き好んで手傷を負おうとはしない。

 痛みとは、危険を知らせる信号であるから。それを本能的に嫌うのは、そして避けるのは生物として何ら間違ってはいない。

 

「なぁに、心配すんな。俺だって、好き好んでお前らを死地に送ったりしない。寧ろ、こっちとしては率先して助けを求めたい側だ」

「…………何をさせるってんだよ」

「さて、何をしようか」

「はぐらかすんじゃ――――」

()()()()()()。俺達は、自由なんだから」

 

 木刀を支えに立ち上がり、智也は両手を左右に開いて笑みを浮かべる。

 

「一発限りの人生だ。だったら、一花咲かせようじゃねぇか」

 

 少年は、笑う

 

 

 そして、これが始まり。大陸に轟く、国賊誕生の瞬間であった。












《ステータス》

塚原 智也
黒髪黒目。黒の学ランに木刀を一振り携えた少年

天性の剣才を持つが、当人は無自覚。その才能の源泉は、彼の先祖にまで遡る

もう一つ。自覚は無いが、特異な状況に放り込まれたせいで精神的なタガが緩んでしまっており倫理観が欠けている節がある
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