得物:木刀……木刀!?   作:ぼっくとん

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 袁紹、発つ。同時に、曹操軍も南下を開始。

 ()()()()()()()()()()()が大陸を蹂躙して、しばらく経った頃の事だ。

 曹操軍は、単体だが袁紹軍は少し違う。

 

 まず、主軸となる袁紹軍。そこから、大分縮小した袁術軍と袁術軍に引きずられる形で冀州まで引っ張られていた孫策軍である。

 

 冀州から荊州へと攻め込むには兗州を通る必要があるが、今回ばかりは相手を討つのが先決であると曹操が譲歩した形だ。

 自然と連合軍のような形となるが、残念ながら曹操も袁紹も轡を共にする事は無い。

 プライドもあるが、それ以上に彼女らには余裕がない。

 思った以上に、両軍の兵力は削られていた。特に被害甚大なのは、袁紹軍。

 

(無惨なものね……こちらも、人の事を言えるような立場ではないけれど)

 

 曹操が思い出すのは、袁紹軍の陣容。

 中華でも屈指の兵力。それこそが、袁紹軍の強みだ。その派手派手な金鎧は馬鹿の産物にも思えるが、数が多い事は決して馬鹿に出来る要素ではない。

 だが、今の袁紹軍は違う。恐らく、反董卓連合の折の全軍から半分以下にまで兵の総数は落ちている。そこに、削れた袁術軍と元々兵の少ない孫策軍を合わせても焼け石に水でしかなかった。

 

 とはいえ、曹操は曹操で他人を気に掛けている余裕はない。

 彼女の軍もまた、袁紹ほどではなくともその数を減らしているのだから。それでも、他諸侯と比べれば脱走兵の数は圧倒的に少ない。

 その情報に、彼女の配下たちは大なり小なり喜んだが、曹操自身は決して納得してはいない。

 覇王。そして、歩むべき覇道。それは決して、弱者を蔑ろにする道ではない。

 彼女は彼女なりに民を思いやり、そして慰撫してきた。

 それでも脱走兵が出てしまったのは、自分の慈愛が民たちの目の前の幸せに負けてしまったように思えてならない。

 

 そんな各々の思惑を持ち合わせながら、彼らは州の境を踏み越えた。

 ()()()()()()()()()()()()が、行軍そのものは可能。更に()()()()()()()

 

 だが、問題がない訳ではない。

 その一つが、明確なリミットが存在するせいで準備が万全ではない輜重。

 再三再四となるが、軍と言うのは金食い虫だ。維持するだけでも金がかかり、動かす時にはその数倍、十数倍、数十倍はかかるかもしれない。オマケに、その費用を回収するとなると戦争でただ勝つだけでは到底不可能。

 

 曹操軍も袁紹軍も物資に不安がある。となれば、それらを補填するタイミングが必要になる訳で、それが敵地となれば方法は一つ。

 

「うわぁああああああ!?か、官軍だーーー!!」

 

 略奪。主犯は、袁紹軍。潔癖の嫌いがある曹操軍ですら、末端の統率が上手く行かずに小さくない被害を出してしまった。

 彼らの言い分とするなら、困窮していたから。或いは敵地であるから。

 人と言うのは、理由さえ用意できたのなら後は幾らでも道を外れる事が出来る。それが例え、どれ程独り善がりのものであったとしても。

 

 もっとも、彼らはそのツケを直ぐにでも支払う事になる。

 

 荊州に入り込んで、四日。

 疑似連合軍は平野にて、賊の一団と対峙する事になった。

 

「おーっほっほっほっほ!自ら首級を献上しに来るとは、殊勝な心得ですわね!」

 

 甲高い笑い声と共に、袁紹から始まる舌戦。その一見上機嫌にも見える彼女だが、その実その目は決して笑っていない。それどころか、ドロドロと仄暗い憎悪の色すら見えていた。

 一方で、小高い丘の上で、石の上に左足を乗せ木刀を左肩に乗せた智也はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「何を馬鹿な事言ってやがる!俺達は、民に手を出すクソッタレ共を征伐しに来たんだぜ?!」

「…………何ですって?」

 

 智也の言葉に反応したのは、曹操だ。

 征伐。その言葉は、意味以上に強いものだ。ともすれば、言葉の意味も特に考えずに使ったのかもしれない。そう思わせるような言葉。

 だが、少年の演説は止まらない。両手を左右に開いて胸を張る。

 

「この荊州に居るのは、賊じゃねぇ。民だ!お前たちの土地から、生きていけないと、明日を生きる為に逃げてきた農民たちだ!」

 

 僅かな動揺が、疑似連合軍に走る。その亀裂を、智也は引き裂きにかかった。

 

「報告なら、上がってる!随分とまあ、無法を働いたもんだな!農民相手なら、何をしても良いと考えてるのがよく分かる!」

 

「民の財産を!土地を!明日を!全てを奪う事に躊躇しないのが、この国の官吏だ!」

 

「使われるだけで良いのか、お前らは?!このままお前たちから搾取をする側を残し続ければ――――」

 

「――――明日倒れているのは、お前たちの家族であるかもしれないのに!!!」

 

 大喝が、平野に響く。同時に、疑似連合軍の頭脳担当達は自身らの失策を理解させられた。

 

 専任の兵も居るが、どちらかといえば徴兵である元々は農民である者たちが多いのが軍だ。

 商人や鍛冶師といった者たちは、基本的に徴兵対象外。彼らは、戦の準備などに向けてそのスキルを重宝されるためだ。

 一方で、特殊なスキルなどが無い農民は何時の時代も低く見られる。食料供給などを担っているのにも関わらず、安く見られる。

 上の人間は、自分達の足場が誰の手によって支えられているのかを、キチンと理解していない。

 

「ッ、秋蘭!」

「御意」

 

 これ以上演説させてはいけない。曹操は、自身の部下であり弓の名手である夏侯淵へと合図を送る。

 引き絞られる弓。弦が軋み、力が溜まり、そして一矢は宙を割く。

 

 だが、

 

「ッ、と」

「なっ……!」

 

 ここまで来て、相手を甘く見積もっていた事を彼女らは思い知らされる。

 智也の眉間を穿ったであろう軌道で放たれた一矢は、しかしその仕事を全うする事無く着弾前に横合いからの手によって掴まれていた。

 その鏃が肌に触れるかどうかギリギリの所で意味をなくす。

 同時に、智也は口角を吊り上げる笑みを矢を放ったであろう者たちへと向けた。

 

 ()()()()()()()()、と意味を込めて。

 

「見ろ!奴らは、自分達に都合の悪い存在を暴力によって黙らせる事を躊躇わない!この矢こそが、証明だ!!」

 

 高々と掲げられる矢。

 

 この大陸に於いて、男性よりも女性が強いのは周知の事実。

 武将の大半は女性であるし、権力者に上り詰めるのも割合的に女性が多い。

 自然と、大なり小なり上り詰める女性陣の内心には、男性を軽んじる心が芽生えていた。

 

 それが、この結果を生んだ。

 

「立ち上がれよ、農民たち!お前たちの剣を向ける相手は直ぐ側に居るぞ!!」

 

 徹底した、民兵への扇動。

 

 塚原智也は、扇動者(アジテーター)である。揺さぶる言葉を、揺さぶる相手に向ける能力が高い。

 そして、彼には状況が味方する事が多かった。今回ならば、疑似連合軍が南下してくる前に起きた季節外れの大嵐。

 この大嵐を利用して、彼は北から荊州へと入って来るルートの内、その幾つかを潰して現在の戦場となっている平地へと誘導できるようにしていた。

 軍には物資が必要だが、それと同時に行軍するためのルートもまた必要になる。

 道なき道を突っ切れる事は無い。少数なら未だしも人数が増えればどうしたって輜重の問題などがあるからだ。

 故に、ある程度の広さと整備された道と言うのが必要なのだ。日本なら、軍用道路として甲斐の棒道が有名ではなかろうか。

 

 更に、荊州の北部に振り分けた農民たちは、()()()()()()()()()()()

 彼らは一部商人と組んで、御禁制になりかねない植物の栽培などを行っていた者たちだ。無論、彼らは彼らで生活に困窮していたなどの理由が有った。

 それでも、弱者を食い物にしていた事は否定できない。

 

 そして、智也は薬物の恐ろしさをよく知っている。主に、現代知識で。

 故に、その手の商人は、裏が取れた時点で消しているし、今回の件を利用して真っ当ではない農民を()()()()

 

 全てが掌の上。挙兵した時点で、彼女らは負けていたのだ。

 

「さあ、行こうじゃねぇかお前ら!ふんぞり返るしか能のねぇ馬鹿どもを、叩き潰してやれ!!」

「「「シャァアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」」」

 

 仲間である筈の民兵に刺され、混乱する疑似連合軍へと智也たちは襲い掛かる。

 

 その戦況は、最早覆しようはない。

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