得物:木刀……木刀!?   作:ぼっくとん

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15 改革盤 トゥルーエンド

 

(詰み、ね)

 

 燃え上がる周囲を見やり、馬上にて曹操は悟った。

 既に兵の大半が離反し、自分の側に残った兵もその大半が骸と化した。

 引き連れた精鋭の幹部たちもその体に小さくない傷を負い、最早まともに動ける状態ではない。

 

「ぐあっ!?」

「ッ、春蘭!」

 

 曹操が呆けた隙に、懐刀の片割れである夏侯惇が吹き飛ばされ、地面を転がった。

 慌てて、馬から飛び降りて介抱するが気絶してしまったのかぐったりと動かず、その手に握られた得物である大剣はその剣身が半ばから砕けて最早用途を成していない。

 近くでは、横向きに倒れた夏侯淵が土に汚れて転がっている。

 

「よう。お前が、曹操か?」

「ええ、そうよ。そういう貴方が、この賊の頭目ね」

「まあ、そういう事になってる。塚原智也だ」

「塚原……この国の人間ではないのね、貴方」

「ああ。さて、長話する気はねぇんだ。お前は、組織の長。なら、その舵取りをしなくちゃな?」

 

 そう言って、智也は木刀の峰で肩を叩いた。

 そこに迫る血塗れの傷の目立つ銀髪の女性。

 

「華琳様から、離れろ!」

 

 その拳に渾身の気を込めて、楽進は脅威へと殴りかかっていた。

 

 だが、残念ながら気迫や心意気だけで、実力差は埋まらない。

 

「ここはお前の舞台じゃない」

「ガッ――――!?」

 

 智也の左腕がブレたかと思えば、楽進は空を見上げていた。

 彼女の体は宙を舞い地面へと叩きつけられるようにして落ちると、そのまま動かなくなる。

 楽進も弱くは無いが、それでもトップクラスの武将と比べれば半歩劣る。それこそ、一流の猛将である夏侯惇や夏侯淵が敵わない相手に勝る道理もない。

 

 その光景を目撃し、曹操は歯噛みする。

 最早とれる手段はない。彼女自身も戦える人間ではあるが、それでも目の前の少年には敵わないだろうと理解させられているのだから。

 

 武で負け、そして策略でも負けた。

 

「…………降参すれば、命を助けてくれるのかしら?」

「んー…………まあ、場合次第じゃねぇか?」

 

 木刀を肩に乗せて、智也は周囲を見渡した。

 敵軍は既に壊滅状態。火の手もどんどん強くなっていく一方だ

 少しの間黙り込んだ少年は、不意に何かを思いついたのか、改めて曹操へと向き直った。

 

「一つ、思いついたもんがある。まあ、結果次第だが死ぬよりはマシ…………だと思うぞ?」

「そう……敗残の将に、語る口は無いわね…………降参よ」

 

 結果はどうあれ、今この瞬間炎に巻かれて死ぬよりも、ほんの僅かな望みに賭ける。

 

 その未来は、少年の行動とそして――――()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 拝啓 脳ミソの代わりに、欲と野心とゴミクズがたっぷり詰まった漢の高官共へ

 

 漢の忠臣である曹操と袁紹を捕らえました。さまーみろーwww

 

 返してほしかったら、この竹簡が届いた後の一週間以内に返答よろぴく♪

 

 返事がなかったら、どうなるか分かるよね?分からない?ゴミクズ脳フル回転させて、ほら頑張れ頑張れ☆

 

                    賊の頭領より

 

 P,S

 そろそろ、漢滅ぼしに行くからヨロシコッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――…………っ」

 

 意識が浮上する。

 深い深い海の底のような暗闇の奥深くから、孫伯符は遂に帰還を果たした。

 

 瞼が震え、サファイアのように澄んだ青の瞳が露となる。

 そして、彼女の帰還を心待ちにしていた者が傍らに控えていた。

 

「雪蓮!!漸く、目を覚ましたか……!」

「……めい、りん………?」

「ああ……!ああ、そうだとも……!」

 

 泣きそうな親友のエメラルドの瞳を見返しながら、孫策は動かしづらい右手を持ち上げて、その褐色の頬に触れる。

 周瑜は、そんな彼女の手を取ると押し当てる様にして自身の頬へと押し付けた。

 

 彼女らが生き残ったのは、ただ只管に運が良かった。コレに尽きる。

 それこそ、一生分の運を使い切ったのではないかと思えるほどの、運だ。同時に、この剛運こそが彼女らを武将足らしめる要素の一つかもしれない。

 

 そうこうしている間に、孫策の意識はハッキリとしてきた。同時に、その上体が持ち上げられ、ふらついた所で周瑜に支えられた。

 

「ッ、雪蓮無理をするな。お前は、三日も目を覚まさなかったんだからな」

「…………何が、どうなったの?戦は?」

「…………」

「冥琳」

「戦は……我々の完敗だ。袁紹軍、曹操軍共に壊滅し、多くの民兵が賊側に寝返った」

「ッ、そう…………」

「オマケに、将は全員捕らえられた。祭殿ですら……あの男には敵わなかった」

「…………強かったわね、彼」

 

 孫策が思い出すのは、己を圧倒した少年の姿。

 正しく、怪物。人の形をしながら、その中身は全くの別物であると理解させられた。

 同時に、新たな疑問も浮かんで来る。

 

「ねぇ、冥琳」

「どうした」

「私たち、何で生きてるのかしら?怪我の治療も、されてるわよね?」

「それは――――」

「――――そこからは、私が引き継ぎましょう」

 

 響く第三者の声と共に、部屋と通じる扉が開かれて誰かが入ってきた。

 その姿を見て、孫策は目を見開く。

 

「董卓……貴女、ここに居たのね」

「はい。お久しぶりですね、孫策さん」

 

 儚げな白百合のような彼女、董卓は淡く微笑むと孫策が寝かされていた寝台から少し離れた位置に立った。

 

「まず、貴女方が助かったのは、運が良かったからです」

「運?」

「はい。華佗と名乗った、流れ者のお医者様が皆さんの治療を施してくださったのです。多くの怪我人が居ましたので、とても助かりました」

 

 董卓が思い出すのは、赤毛の激しい気性の青年の姿。

 

 曰く、病魔が俺を呼んでいる!らしい。智也が引いていたのが印象的だった。

 

 ただ、その変わり者の雰囲気に対してその医療気功の腕前はかなりのモノ。彼が居なければ、少なくとも孫策、黄蓋、夏侯惇、夏侯淵、楽進は命を落としていたかもしれない。

 だからこそ、運が良かった。

 

「続いて、智也さんが皆さんを生かしている理由ですが…………」

「……勿体ぶらないで頂戴」

「漢からの、返答を待っている状態だからです」

「返答?」

「はい。曹操さん、袁紹さんはどちらも漢より官位を貰った正式な官吏です。袁術さんも該当しますが、勢力を落としているので先二人よりは重要度が落ちます。とにかく、お二人を人質として漢がどの様な対応を行うのかを確認していらっしゃるんです」

「…………私たちも?」

「はい。そもそも、あの人は好き好んで人を手に掛けるような人ではありませんから。必要であるのなら、躊躇しないだけで」

「それは……確かにそうね」

 

 顔面を掴まれて地面へと叩きつけられた経験を思い出して、孫策は神妙に頷いた。

 殺そうと思えば、頭を握り潰せばよかったのだ。それをしなかったのは、殺しを避けたのか、或いは別の狙いか。

 色々と考えていれば、彼女の内側にむくむくと好奇心が湧いてくる。

 

「ねぇ、董卓。そのともや?って奴に会えない?」

「雪蓮!?無茶をするんじゃ――――」

「良いじゃない、冥琳。私たちの命を握ってる相手よ?会って話したいと思うのは当然じゃないかしら?」

 

 元より、気ままな猫のような性格の彼女の好奇心は止められない。

 捕虜という形で、一種のしがらみから解放されているのも理由の一つとなるだろう。

 

 

 未来の小覇王になったかもしれない女性にロックオンされた少年は、しかし暇を持て余していた。

 

「返事、遅ぇな」

「期日を一週間後に定めたんでしょう?ソレ迄、大人しく待ってなさいよ」

 

 長椅子に背を預けて、足をテーブルの上に乗せた智也に対して、諫める様に言うのはまさかの曹操だ。

 本来、牢屋に放り込まれるべきである彼女だが、何故だか執務室に居た。

 

「だって暇なんだもんよォ……てか、何でお前ここに居るんだよ。夏侯惇とか荀彧の所に行けよ」

「春蘭は兎も角、桂花はまだ寝台の上から動けないわよ。随分手ひどくやられてしまったもの」

「話聞いたが、自業自得だろ。男嫌いを明言した軍師とか、俺なら絶対に軍に入れねぇぞ。どれだけ、能力が高くてもな」

「…………そうね」

 

 断言する智也に、曹操は短く返す。

 

 彼女の能力至上主義が、今回完全に裏目に出ていた。その結果、荀彧が賊に寝返った民兵にリンチされる事になったのだ。

 殺される前に火の勢いが強まった事で辛うじて助かったが、あと少し長く暴力に晒されていれば死んでいたかもしれない。

 

 人心を蔑ろにした結果だ。少なくとも、曹操は甘んじてこの結果を受け入れていた。

 

「ねぇ、塚原」

「ん?」

「貴方は、何を目指しているのかしら」

「…………別に?特に目標なんざねぇぞ」

「なら、漢を何故滅ぼそうとするのかしら」

「寧ろ、腐った屋台骨を無理矢理支えて、その下で互いの血肉を貪り合って生きながらえてるような国、滅んだ方が良いだろ…………前にも、似たような話したな。張遼相手だったか?」

 

 天井を見上げながら答える智也の言葉を受けて、曹操は改めて思う。

 

 根本的に価値観が違う、と。

 

 曹操だけではなく、この国に住まう人々は無意識的にでも漢を敬う部分があった。

 しかし、智也にそれは無い。彼自身の理論をもって、国を壊す事を躊躇しない。

 

 負けて生かされている側になったからこそ、彼女は目の前が晴れている様な気がした。

 

 覇道を目指し、猛進していた彼女は周囲を見るために足を止める、という行為をした事が無かったからだ。その聡明な頭脳の全てを注いできたからこその、視野狭窄に陥っていた。

 それが、今は無い。覇道を諦めようとは思わないが、それはそれとしての小休止。

 

 今はただ、自分の知らない世界が新鮮だった。

 

 

 

 

 そして、洛陽に竹簡が届いて一週間後の事

 

 返答は、無かった。

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