得物:木刀……木刀!?   作:ぼっくとん

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 塚原智也が賊の一団を手元に収めた後、最初の行動は彼らの拠点を潰す事であった。

 

 曰く、少数の手勢で拠点など構えていても派遣された軍に殺されるのが落ちだから。

 

 勿論彼らも大なり小なりの不満を漏らしていた。当然だ。折角の拠点を新参者の言葉で放棄せねばならないのだから。

 もっとも、不満が出るだけで彼らは粛々と撤収作業を行った。

 単純な話、少年からの暴力が怖かったからだ。強い事が分かっている相手に態々ケンカを売って、大怪我などはしたくない。

 

 何より、その数日後には智也の言葉が正しい事が証明されたのだ。

 

 派遣された、凡そ百名の部隊。隊長であろう馬に乗った男に率いられた一団を遠目に視認し、自分達があの場に残っていたらどうなっていたか。想像に難くなかった。

 

 戦慄する男たちに、智也は語った。

 

『動き回るのは大変だが、最低でも百を越えない限りは拠点は持つべきじゃない。寧ろ、数が少ないからこそ動きやすいとみるべきだろ。兵が動き始めたら、シレッとその場を離れれば良いんだからよ』

 

 それは、彼らには無かった視点だ。

 智也には、現代の知識がある。そして、その知識の中には国内は愚か、国外を含めた()()()()を行う指名手配犯の事もある。

 潜伏するには、現地協力者の存在が必須。それが作れないのならば、動き回るしかない。

 

 

 閑話休題

 

 

 動き回る塚原一党。彼らの狙いもまた、変わっていた。

 

「――――次に狙うのは、軍だ」

「おい、正気か?」

 

 智也の言葉に噛み付くのは、元頭目の男。

 彼だけでなく、周りも怪訝な表情だ。

 しかし、智也とて何も気が触れてそんな提案をしたわけではなかった。

 

「まあ、聞けって。商人を襲うのは確かに簡単だが、荷の中身が分からない以上食い物とかじゃない場合俺達への実入りが少ない。折角労力を叩いても、それが織物とかじゃあ、がっかりだろう?」

「街で売れば良いじゃねぇか」

「阿呆。商人が抱えている様な質のいい布地を、俺達みたいな何処の馬の骨とも知れねぇ奴らが売ろうとして売れる訳ねぇだろ。散々に買い叩かれるか、軍の方に通報されるのが落ちだ」

「でもですぜ、アニキ。アニキは、商人を襲う時一人二人逃がせって言ってましたが、それはどうなんです?」

「そりゃ、アレだ。態と逃がして、商人が襲われた地点を注目させて、その内にトンズラこく為の布石って奴だ。現に、俺たちに差し向けられたであろう奴らを遠目に見た事があっただろ?」

 

 それは、智也の方針。

 商人を襲う時は、護衛は皆殺しだが商人の一人二人は生かして逃がすというもの。

 当然、生き残った彼らは太守などの役人に通報するだろうが、それこそが彼の狙い。

 襲った地点を目晦ましにして、その内に他の経路から別の州などに逃げ出すのだ。

 

 ただ、先の通り商人を襲えば確実に儲かる訳ではない。

 

「軍を狙うってのは、何も正面からの殺し合いをするって話じゃねぇさ。狙うのは、奴らが抱えてる大量の物資だ。食料、武器。行軍するってのは、それだけ大量の品が必要になる。その一部を頂戴する」

「……どうするってんだよ。大規模な戦争してる所なんて――――」

「居るだろ?俺たちにも勧誘を掛けてきた、黄色い布を巻いた奴らさ」

 

 智也の言葉に、男たちはハッとした表情となる。

 近頃話題となる、黄色い布を巻いた集団。

 黄巾党とも呼ばれた彼らは、爆発的なスピードであちこちにその数を増やしていた。宛ら、蝗害のように街を襲っては数と死を増やしていく。

 大半は、抑圧された農民などが殆どだ。それから、野盗といった賊が合流し只管に太り続けている。

 智也たちも勧誘を受けたが、規模を理由に断っていた。

 聞く姿勢が整ったことを確認して、智也は言葉を紡ぐ。

 

「奴らの討伐に国も動いてる。他にも、デカい勢力を持ってる奴らもだな。そして、デカく動く奴らは周りに目立つ」

「た、確かにデケェ砂埃とか起きやすもんね。それで……どうするんで?」

「奴らにとっても物資は大切なもんだろうさ。でも、だからって何人も猛将を配置する事なんざできねぇ。人的資源の問題としてな。そこを狙う」

 

 そう言って、智也は地面にしゃがみ込むと手頃な枝で絵を描き始める。

 複数の線が描かれて、その一部を彼は丸で囲む。

 

「まず、狩場を最低限決める。一ヵ所に付き、一回か二回だな。それ以上だと、軍の奴らがこっちに人手を割きかねない」

「その狩場の選定はどうされるんで?」

「隘路が狙い目だが……もしくは、数が多い上で平地を進む奴らだな」

「隘路は分かるが…………平地もか?奴らは、馬を持ってるだろ?」

「狙うのは夜だ。曇り空か、新月。雨が降った時だけを狙う。流石に、星明りや月明かりの下で襲う馬鹿な真似はしねぇよ」

 

 トントン、と枝先で円を叩きながら、智也は肩を竦める。

 

「平地で襲うのは、逃げ方の問題もあるからだ。バレた時点で、全員がバラバラに散開して逃げる。そして、もしも捕まったのなら――――」

「「「捕まったなら?」」」

「頭目の塚原の情報を売る、って言え」

「「「!!」」」

 

 揃って全員が目を剥いた。

 普通は、逆だからだ。野盗の頭目など自分が助かる為に周りを切り捨てるなど当たり前にする。そしてそれは、国軍などでも同じこと。それこそ、先陣を切る猛将などを除けば保身のために部下を肉盾にする事も厭わない者も居る。

 だが、智也は違った。

 

「正気か?態々、自分の情報を喋らせて、お前はどうするんだよ」

「どうもしねぇよ。俺は、お前らをむざむざ殺したくねぇし、俺の情報一つで命が助かる可能性があるならそれが良いだろうが」

 

 馬鹿がよ、と言わんばかりの態度だが彼の言葉に嘘も偽りも無い。

 

 智也は、自分がいったい何故この世界に居るのか分からない。何の説明も無く、いきなり放り込まれたのだから。

 超リアルな夢を見ているのか。それとも現実の話なのか。タイムスリップ、異世界転移。様々な可能性がある。

 

 そして、塚原智也に出来る事は何も無い。

 

 原因も分からない。身体能力と金属製の武器とも打ち合える木刀が有れども、それだけだ。

 何もできないのならば、出来る事をする。幸い、今の彼はそんじょそこらの輩に負けるほど弱くない腕っぷしを持っていた。

 

「出来る事をやりゃ良いのさ。そして、できねぇ事は出来る奴に任せりゃいい。まあ、死なねぇ程度に、気楽に行こうや」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この中華で最も金持ちといえばどこだろうか。

 国軍?或いは、裏金を貰う宦官?或いは、大商人だろうか?

 

 この問いをした場合、一番に出る可能性が高いのが“二袁”の存在。

 漢に置いて四代にわたり三公を輩出した名門の一族であり、成し遂げた財力は巨万の富と言える事だろう。

 

 特に、袁紹の率いる軍はとにかく派手だ。

 本来兵の鎧は、鉄そのままの色や、或いは環境に溶け込む様な暗い色合い、地味な色合いが多い。

 だが、彼女の率いる軍の色は、金。若しくは、ド派手な黄色。兎にも角にも、派手of派手。遠目から見ても光を反射する上に、動員する兵力は恐らく中華一。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 時は夜。空には厚い雲がかかり、星の光は届かない。

 幕舎が用意され、将は眠りにつき、兵たちも見張りが火の傍で立っている位の静かな時間。

 

「――――よお」

「!て――――」

 

 声が掛けられた瞬間、見張りの兵の意識は途絶えた。

 木刀で顎を殴り砕いて、首の骨をへし折った智也はチラリと後ろの部下たちへと振り返る。

 

「欲張るな、目立つな、バレるな。各自散開」

 

 彼が告げると同時に、凡そ三十人の賊は動き出す。

 ある者は、幕舎に潜り込んで食料奪い。ある者は、武器の予備をかっぱらい。ある者は、起きそうになった兵士を手に掛けて。ある者は、見張りの後ろから忍び寄ってその首を掻き切った。

 迅速に、的確に。荷車などは使わず、各自が抱え上げて再び元の場所へ。

 

「よし、仕上げだ」

 

 言うなり、智也は土で汚した黄色い布をその場に落とした。

 

「撤収!」

 

 彼らは夜陰を駆けだした。

 ある程度纏まりながら走る事により、足跡を多重に付けてシレッと攪乱しようとする辺り小賢しいというか何というか。

 

 コソ泥たちからの被害は、袁紹陣営にとっては蚊に刺されたようなモノ。物資も人員も補充はそう難しい話ではない。

 だが、この一件を皮切りに中華のあちこちで物資を盗まれる軍や賊が増える事となるのだ。

 その主犯を英傑たちが知るのは、ほんの少し先の話。

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