得物:木刀……木刀!?   作:ぼっくとん

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 洛陽からの使者。

 そもそも、()()が漢の王都である洛陽を遠く離れて益州までやって来たのは自分達の逼迫した状況に対してどうにか解決策を模索しての事だった。

 

 黄巾の一件が終わって暫く。大陸は平和に――――ならなかった。

 寧ろその逆。諸侯の多くが力を蓄え、勢力を拡大。既に大半が、漢の制御を外れようとしていた。

 更に状況が悪いのが、周囲の状況を知りながらも互いの足を引っ張る事しか考えていない、宮中の実状だろう。

 幼い皇帝はお飾り状態。加えて、実権を握った宦官は黄巾討伐の折より、いかにして相手の失点を造り出してそこを突き、引きずりおろすしか考えていない上に戦場の事も何一つ分かっていない。

 結果として、国軍は黄巾討伐を成せず、諸侯にその手柄の大半を掻っ攫われる事になった。オマケに、これら功績に対する褒賞は、正直雀の涙。コレもまた、漢の腐敗が広がり、その力は既に無い事を声高に証明してしまっている状態。

 

 そんな地獄の釜に突き落とされた一人の生贄。

 涼州の有力諸侯の一人であった、董卓である。

 張譲に招かれる形となり、王宮入りを果たした彼女は確かな手腕をもって都を取り仕切り善政を敷いて民からも高い支持を受けていた。

 だが、彼女は元々の立場としては一地方官吏に過ぎなかった事もまた事実。その家柄も特別優れていない。

 

 善政を敷く事に、宦官から疎まれた。良い家柄の出身ではないから、妬み嫉みを向けられる事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 益州。中華の中にありながら、中華を外れた異端の地。

 賊がそのまま州の軍勢となっており、怪しい者は襲われ荷を奪われ豚のエサと化す。更に国禁制の塩、酒、鉄を売りさばく事を良しとしており、税も最低限となれば入り込んだ商人が漢の方に帰ってこない始末。

 更に更に、賊が治める地であるからこそ、周囲の荊州、交趾、司隷、涼州への略奪も頻繁に行われていた。特に荊州は、州の区分線を押し込まれるほどの被害を受けている。

 本来なら、国賊として漢が国を挙げて討伐に向かわなければならないのだが、如何せん今の青息吐息の腐れ屋台骨である国にこの規模の賊を討伐する力は残っていない。かといって、諸侯を突撃させようにも仮に討伐を成功したとしても報酬が支払えない。そうなれば、その矛先が自分達へと向けられる事は避けられない。

 何より、表向きはこの益州の顔役は劉焉()()()()()()()()()()。この辺が厄介な所で、賊の討伐を名目に攻めようとも何の事前通告もなく足を踏み入れれば事がこんがらがる。そして、賊たちは州関係ないと暴れ回る。

 西南部は中華の癌と化した。

 

 そんな地に、張遼が足を踏み入れたのは偏に限りなく低い勝ちの目を掴むために他ならない。

 軍師にも言い含められ、彼女自身の心も語った。

 そして、

 

「――――却下」

「……あかんか?」

「結局、ヘイトコントロールが出来なかった結果だろ」

「ヘイ……?何や、ソレ」

「あー……嫉妬とかその辺だ。とにかく、周りから嫉妬を集める事も分かってて、その上伏魔殿みてぇな場所に乗り込むってのに、特に何かしらの対策をしなかったんだろ?なら、現状も仕方ねぇんじゃねぇか」

「ッ、ゆ……董卓も賈駆も努力しとる!それでも、足引っ張る奴らが――――」

「当人が頑張る頑張らねぇは関係ねぇんだよ。有能だろうが結果出せなきゃ、無能だ。逆に、どれだけ無能と言われても結果が伴えば、そいつは有能だ。結局、どんな理由が有っても事を起こされた時点で、負けだ。お前らの力不足って事だな」

 

 バッサリと、目の前の少年は切って捨てる。

 木刀を腰の右側に差し、謁見の間にある段差の上に腰掛けて頬杖をついたその姿は育ちの悪い不良にしか見えない。

 だが、張遼は武将としてその少年の底知れなさを感じていた。故に侮るような事は無い。

 

 現益州における真の首領である、塚原智也は情に流される事無く張遼の願いを切って捨てた。

 蚊帳の外であり、対岸の火事とも言うべき出来事だからだ。寧ろ、この期間を上手く利用してこっちの力を蓄えて、攻めてくるであろう者たちに対策せねばならない。

 自由にやれれば良いと考える智也ではあるが、それでも自分が抱え込んだものを守る位の甲斐性はあった。

 

 張遼は張遼で口を開こうとするが、上手く言葉にならない。

 武将ではあるが、武力一辺倒ではなくちゃんと考える頭を持つ将軍である彼女。その理解する頭脳があるからこそ、智也の言葉を否定する事は出来ない。

 彼女含めて、董卓陣営の者たちはそれぞれに頑張った。頑張ったが、相手の悪意の方が遥かに上だった。ただそれだけの事なのだから。

 何より、彼らは漢の外に居る。

 

「…………恩赦がでるかもしれへんで?」

「ハッ!要らねぇよ。そもそも、こっちはお前らと縁切ってるんだ。独自の経済圏があるし、お前らからの恩恵なんざ一欠けらも受けちゃいねぇよ」

 

 肩を竦める智也に、張遼は肩を落とした。

 事実だ。既に、益州の経済圏はほぼほぼ漢の枠組みから独立している。その発展速度は、国のソレに近いだろう。

 破落戸を独自の軍として組み込み、商人を呼び込んで市場を発展させ、税を最低限ギリギリまで削る事で民が飢える事もほとんどない。

 

「…………分かった。邪魔して、悪かった」

「おう。まあ、帰りに襲われない程度の護衛はつけてやるさ」

「要らへん。ウチを舐めんな」

「そういう意味じゃねぇ。通行証代わりだって言ってんだよ」

「そ、そうなんか……」

 

 思ったよりも、真面。舐められていると思った張遼は、何処か釈然としないような様子を見せつつも踵を返した。

 そして、部屋を出る直前に振り返る。

 

「最後に一つ、ええか?」

「何だ?」

「アンタらは、敵に成らんでくれるんか?」

「そりゃあ、状況次第だ」

「…………まあ、そうやな」

 

 謁見の間を出ていく張遼。

 その背を見送って、智也は段差から立ち上がった。

 

「さあて――――荊州を取りに行こうじゃねぇか」

「……それはまた、随分と急ではありませんかな?」

 

 張遼とのやり取りに口を挟まなかった劉焉が、眉をひそめて問う。

 彼だけでなく、智也をこの部屋まで連れてきた黄忠も同じくだ。

 

「準備は終わってるさ。元々、商人連中や農民の方から土地を広くしてくれって意見書が来てたんでな。候補は涼州、荊州、交趾の三ヵ所だった」

「それで、どうして荊州を攻めるの?」

「ここ暫くで、荊州の戦力は大分削った。それから、今回董卓を袋叩きにしようって言いだした発起人は、袁紹だ。となれば、袁術も対抗して軍を出すだろうさ。で、劉表も形なりでも軍を出して甘い蜜を啜ろうとする筈。そこを一気に刈り取る」

「………そう、上手く行くかしらね」

「さてな。ただ、タイミングは今が一番いい」

 

 そう言い、智也は扉へと足を向ける。

 劉焉と黄忠が苦言を呈そうとも、そもそも彼が止まらなければ現在の益州の軍部は止まらないと言っていい。

 シビリアンコントロールもクソも無い。だが、そもそも彼らは高い志を持って事に臨んでいる訳ではない。この益州を手中に収めているのも成り行きに因る所が大きい。

 全ては、風の向くまま気の向くままに。必要であり、出来ると思ったのなら後は行動するだけ。

 

 このやり取りから、凡そ数週間後。

 反董卓連合が汜水関の前に布陣したのを時を同じくして、破落戸達は動き出す。

 

「――――さあ、開戦だ。根こそぎ奪い取ってやれ!!!」

「「「シャァアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」」」

 

 全軍総数、凡そ四万人。塚原一党が、益州を手に入れてからも増え続けていた賊の数は未だ留まる事を知らない。

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