「都市伝説解体センター」解体小説   作:一般通過怪異

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WARNING!!

都市伝説解体センターの致命的ネタバレを含みます。

原作を未プレイおよびEDまで読み進めていない方はブラウザバック推奨。


「都市伝説解体センター」チャンネル

 今日も何とか仕事を片づけて、鉛をまとったように重くなった体を引きずりながら帰宅した男は、すぐにでもベッドに倒れこみたい気持ちを押し殺しPCの電源に手をかけた。

 つい先日買い換えたPCはわずかな起動時間で直ちにデスクトップ画面にたどり着き、そこからショートカットアイコンでダイレクトに目当てのページへと飛ぶ。

 

 それは、男にとって最大の娯楽にして癒しであり、“本来の職場”とも言える場所――

 

 

Boo Tubeチャンネル「都市伝説解体センター」

 

 

 

 

『――ということで今回も無事にと言うべきか、残念ながらと言うべきか、この都市伝説「山中に響く不気味な声 現代に蘇った鵺」も解体し怪異ではなかったと証明されました。ふふふ、我ながらよく解明できたと褒めたくなるほど難解な謎でしたね』

『まさか鵺の正体がただのカラスだったとは……けどお前もうだいぶ前の配信から全部分かってたよな? 分かった上でやらせてたよな? じゃなきゃこんな分厚い作務衣(ぼうごふく)準備できないし、なかったらマジ流血沙汰でライブ配信なんかできないからな!』

『そんなまさかまさか。万が一を考えて準備していただけですよ。おかげで私の大切な調査員であるあなたにかすり傷一つ負わせずに済みましたし、なにより果敢にカラスたちに挑むあなたの姿、とても胸に響きましたよ』

『良いこと言ってるように聞こえるが、こっちはまったく響かないぞその言葉(せりふ)

 

 

 開かれたのは利用者数世界最大の動画サイト。

 隅に「LIVE」と表示された画面には、完全に日も落ち人気もないどこかの田舎道の真ん中で「何とも言えぬ独特な雰囲気の目が描かれた」、「顔の上半分を覆う仮面」を被った“男女”が、一方は楽し気に、もう一方は心底疲れきった声色で言い合う姿が映し出されていた。

 

 出だしからさっそくネタバレを喰らってしまったと男は思ったが、もともとこのライブ配信に最初から参加できなかった時点である程度覚悟していたことだし、なにより先に正体を知った上でアーカイブを見たとしても十分楽しめると確信がある。

 

 

 この「都市伝説解体センター」はセンター長こと「廻屋(めぐりや)(あゆむ)()()()」、主力調査員こと「(ゆう)くん」、基本裏方の事務員こと「お兄さん」。たまに登場する臨時調査員(アルバイト)で、渉ちゃんや遊くんの学友でもあるという「あざみちゃん」と「桜ちゃん」、遠方に出向く際などで活躍する運転手「ジャスミンさん」(もっとも彼女だけは顔出し完全NG)。

 そんな彼ら彼女らで構成されるオカルト系配信チャンネルであり、彼女らが自身で選定したり、視聴者(リスナー)である「センター局員」たちから集めた怪談話や都市伝説を調査・考察するという、ありきたりと言えばありきたりなチャンネルなのだが。

 

 主に情報を整理し推理・解説してくれる渉ちゃんの流麗(りゅうれい)な語り口と、遊くんのドタバタ体当たり調査、突然に暴走するお兄さんの怪談マシンガントーク。そしてあざみちゃんと桜ちゃんの年相応な癒やしトークやホラー絶叫など。

 それらが合わさり笑いあり驚きあり感動ありの、こちらを飽きさせない独自の魅力を備えたトップクラスの人気を誇るチャンネルなのだ。ネタバレ程度でその面白さが損なわれることはないだろう。実際カラスに何をされたのかボロボロな遊くんの姿に、どんな無茶ブリをさせられたのか今から楽しみだ。

 

 

「解・体!!」「無事解決したね!」「毎度のことながらお見事!」「今回もおもしろかった」「センター長の推理が冴えわたる!」「さす(おさ)!」

 

「がんばったよ遊くん」「お疲れ遊くん」「センター長分かった上で突っ込ませてたのかwww」「相変わらず我らがセンター長は遊くんに厳しいw」「趣味と実益を兼ねた無茶ブリ」「流れるような「私の」呼び 俺でなきゃ見逃しちゃうね」「←みんな知ってる」

 

「しかしカラスって鳥類の分際でなぜ下手な哺乳類より賢いのか」「カラスとタコの賢さは異常」「奴らは道具を加工できる器用な手ともうちょい長い寿命があれば ワンチャン文明築いてた説あるからな」

 

 

 羨ましいことに最初から配信を追えていた同僚たちのコメントがいくつも流れている。

 そのどれもが配信を楽しんでいたのをうかがわせる内容で、次の休みもアーカイブ視聴で潰れそうだと考えながら、自身もコメントを送るべくキーボードに指をかけた。

 

 

『基本重役出勤 10000:副業を終えようやく出勤。今日も最初から業務を手伝えず申し訳ありません。そして相変わらず相思相愛のようで、お二人の結婚報告お待ちしてます』

 

 

「重役出勤さん来たw」「副業お疲れw」「ナイスパ」「打刻代わりのスパチャw」「仕事は副業 こっちが本業」「俺はこの後ガチ出勤……」「夜勤組ガンバ!w」

 

「相思相愛……?」「そりゃ愛がなきゃここまで身体張れないし」「センター長の遊くんへの愛は歪んでるから」「愛が…重い…」

 

 

 スーパーチャットと呼ばれるお金を送金しながらコメントできる機能で送れば、すぐに「同僚」たちからの労いとコメントへの反応が返ってくる。

 そして反応してくれるのは同僚たちだけでなく――

 

 

『おや「基本重役出勤」さん、今日もお疲れ様です。スーパーチャットもありがとうございます。なにより良いことを言ってくれましたね。ということで遊、そろそろこの婚姻届けにサインしませんか?』

『余計なことを言うな重役出勤! それからシレっと婚姻届差し出してくるお前が怖いし、そんな軽いノリでするもんじゃないだろ結婚!』

『そうですか? 18歳になった時から言ってますし、ノリなど関係なく私が本気なのはもう分かってくださってると思いますが』

『し、ってるけど……いや俺たちまだ学生だし、就活もあるし、そんな暇ないと言うか……あとつ、じゃなくて「お兄さん」がなんて言うか……』

『仕事なんかしなくてもあなたは私が養いますし、兄さんからは反対なんかしないと言質は取ってます。むしろ「私の結婚相手はあなたこそ相応しい」という話をしたと聞いてますが?』

『お兄さんなんてことを! あと相応しいじゃなく、俺にしか無理って言ったんだよ! あ……』

『――ふふふふふ』

 

 

「センター長の数万人の前で逆プロポーズする度胸すごい」「割とよくやってる」「それを毎度袖にする遊の屑さよw」「もはや形式美」「女の子にここまで言わせて何が不満なんだ遊!」

 

「お兄さんwww 言質www」「すでに家族公認」「だいぶ前から分かってたことだろ」「それお兄さんどっちかと言えば渉ちゃんを遊くんに押し付けようとしてない?」「お兄さんは長年歩ちゃんを育ててきたお兄様だぞ! そ、そんなことは……」「←「渉」な 色んな意味でマズいから間違えんな」

 

 自分のコメントを(ひろっ)たセンター長が労いの言葉をかけてくれ、その後これ以上ないほどあっさりとした口調で逆プロポーズを行った――そしてそれをなんとも見苦しく遊が断ったことで、にわかにコメント欄がにぎわっていく。

 

 もっともこの流れは今までに何度も繰り返された内容で、自分を含め局員たちは驚くよりはやし立てるような発言が目立っているし、実際話題も次々に移っていた。

 

 

「いい人だし間違いなくセンター長さんの味方だけど それはそれとしてセンター長さんを持て余してる感」「←持て余してはいない むしろ渉ちゃんを受け止められる数少ない理解者」「そんなお兄さんに認められてるんだからもっと胸を張れ 遊!」「さっさと墓場に入って俺たちを安心させろ!」

 

「就活……そうかセンター長たちもそんな年か」「チャンネル開設されてからずっと追ってきたけどあっという間だ」「同じく」「センター長はだいぶ大人びてるけど逆に遊はガキすぎるから感覚がバグる」「分かる」「二人とも年齢詐称してない?」

 

 

『他人事だと思って好き勝手言うな局員ども! それに何度も言うが俺は断然巨乳派だ! 対して! あゆっ、むは服とかでがんばれば男の振りできるレベルの貧にゅ――』

 

ピ――ン ポ――ン パ――ン ポ――ン

――ゴメンね! 少し不適切な内容があったみたい! スグに修正するからちょっとだけ待っててね!――

 

 デパートなどで迷子放送の時に使われそうな効果音と共に、「シカのようなトナカイのような角を持ったイキモノ」が満面の笑みを浮かべた画面に移り変わる。

 それから数十秒後、再び画面が変わり――

 

 

『えー、セクシャルハラスメントに抵触しかねない発言をし、多くの人に不愉快な思いをかけてしまったこと、大変申し訳ありませんでした。ナニヨリメグリヤサンハケッシテヒンニュウデハアリマセン リソウテキナラインヲシタサイコウノビニュウデス』

 

 

 顔の上半分はトレードマークの仮面に隠されているが、逆に素顔がさらされている下半分――遊の左側の頬にはっきりと真っ赤な椛が咲いていて、思わずお腹を抱えるほど大笑いしてしまう。

 

 

「トシカイくん!」「出たな珍生物www」「ライブ配信で放送事故w」「ま・た・かwww」「このチャンネルでは稀によくある」

 

「毎度思うがなんでコレがマスコットなんだよw」「渉ちゃん渾身のデザインのマスコットだぞ! 可愛いだろ!」「←それはないwww」「あれ? 書いたのお兄さんじゃなかった?」「金は有り余ってるんだからプロのデザイナー雇えばいいのに」「て、天才の感性を凡人には理解できないだけだから(震え」

 

「遊くんのほっぺた真っ赤w」「い・つ・も・のwww」「何度目だよ?w」「この男はいつになったら学習するのか?」「数万人の視聴者の前で(へき)を公開する度胸だけは認める」「←前からオープン定期」

 

「貧乳を気にするセンター長可愛いw」「渉ちゃんは貧乳ではない!」「むしろ貧乳の方が…………ウフ」「キモ……」「通報しました」

 

 

 まるでギャグのような一連の流れに、自分同様笑っ(うけ)た同僚たちの様々なコメントがそれはもう大量に表示される。

 

 自分を含め百万人を超えるチャンネル登録者(センターきょくいん)たち。そんな彼らの掛け合いを時に参加しながら眺め、なにより我らがセンター長たち三人の、笑いあい喜びあう姿を見れるこの職場(チャンネル)は最高だと改めて実感した。

 

 

 

 

 

『全くいつまで経ってもデリカシーというものを学びませんね遊は。そんなことではいつこのネット社会で爪弾きにされるか分かりませんよ――まあその時は“私”が何とかしますけど。あと()の胸は特別大きくはありませんが、かと言って小さくもありません。視聴者(きょくいん)たちも覚えておくといいですが、どれだけ服を着ても隠せない乳房なんてそうそうありませんよ。それこそ少しきつめの下着と厚手の服を着れば、もはや服の上からでは判別できなくなります。ふふ、()()()()()()()()()()()()()()()()ね』

 

 

「めっちゃ言うじゃんw」「ところがどっこいこれが現実!」「いやだー! 現実なんて知りたくないー!!」「男はいつだって大きな胸に夢を見たいんだ!」「ウッ(致命傷」

 

「確かに遊くんデリカシーない」「そのうち愛想尽かされるぞ」「←それはない」「←それはない」「むしろそうなったら終わり(俺らの)」「俺ら(世界)」「しれっと言われた「私が何とかします」発言が怖い」「センター長の「何とかする」怖すぎる」

 

 

『まあ確かにちょっと言い方悪かったからマジレスするけど、やっぱ男としてそれなりにちゃんとしたいと言うか、ヒモはさすがにと言うか……あとただでさえプライベート死んでるのに、結婚とかしたら物理的なパーソナルスペースすらなくなりそうで怖い……もうちょっとだけでいいから自由でいたいんだよ俺は!』

 

 

「こ・い・つ・はwww」「前半まともそうなこと言ってると思ったらw」「絶対最後のが理由だろwww」「確かに収入に差があり過ぎると後々トラブルになるとは言うけどもw」

 

「でも気持ちは分かる」「大学は最後のモラトリアムだしな」「モラトリアム大事」「センター長 せめて大学卒業するまで待ってあげてw」

 

 

「プライベート死んでるってどういうこと? 遊くん身バレしてるの?」

 

 

「おっ新人か?」「派遣(よそ)かもしれんぞ」「歓迎するぜ盛大にな!」「新人か? 入社前にちゃんと研修資料読んだか?」「研修資料?」「←まとめwikiのことだろ」「まとめwikiを研修資料呼ぶの止めろwww」「でも実際いろいろ複雑な説明も分かりやすくまとめられてるし」

 

「あー……」「確かに身バレもしてるが」「よせ! 聞くな、戻れ!」「都市伝説解体センターの闇」「センターというかセンター長の闇」「それを受け入れてる遊も異常なんよ」「俺ならとっくに発狂してる自信あるわ」「←同意」「同じく」

 

 

『人事部部長 10000:ようこそ新人局員クン。さっそくだが新人研修を始めよう。まず我らがセンター長こと廻屋渉ちゃんの中の人だが実は本物の天才ハッカーで、すでにいくつもの特許を持っている超一流プログラマーでもあるぞ。そしてその卓越したハッキング技術を使って、遊くんが変なことに使わないようスマホやPCなどは全てセンター長の管理・監視下にあるんだ!』

 

 

「人事部長GJ!」「さすが部長仕事が早い」「人事部長ナイスパ」「仕事する方がお金払うってどいうこと?www」「←充実した仕事をやらせてもらったんだから お金を払うのは当たり前では?」「←そんな会社嫌すぎるw」「ブラックすら超越してるwww」

 

「え、マジで言ってる? ネタじゃなくて???」「天才ハッカーってwww」「嘘杉www」「事実だったらマジ警察沙汰だろwww」「誰か通報しろ」

 

「ガチなんだよなあ……」「ネット後進国の日本のサイバーセキュリティを一気に世界最高峰に押し上げた救世主だぞ」「笑ってるやつら スマホかPCか知らんがシステムのどっかにセンター長のプログラム使われてるからな」

 

「別に「ハッカー=犯罪者」じゃないし」「全部事実だし警察は動けないけどな」「警察二重の意味で渉ちゃんたちには頭上がらないから」「そもそも遊くんが被害届出してない以上 公的には何も問題(ひがい)は起きてない」「逆に言えば訴えれば勝ち確レベルだけど」

 

「え? え? それ配信で言っていいやつ?」「言ってることヤバくね?」「アーカイブバッバイ?」「いやいやネタでしょ さすがにw」「マジならヤバいやつ」

 

 

『おやおや。今案件の解体も済み、あとは何日か跨いだこの調査を総括して終わるつもりだったのですが、随分と盛り上がってしまっていますね。ふふふ、大変です。もしもこの配信を見ている“善良な視聴者(いっぱんじん)”の誰かが通報したのなら、私は逮捕されてしまうかもしれません』

『アーッ、と――お前らちょっと興奮しすぎ! いや、俺の発言がきっかけなんだけど、でも別に隠してないと言えば隠してないし……と、とりあえず新人局員たちは、そんなマジにならなくていいから、マジで!!』

 

 

「遊テンパリ過ぎw そして渉ちゃんは落ち着き過ぎw」「被害者と加害者の反応逆だろうw」「うーんw 定期的に発生するなあこのセンター長逮捕事件w」「←まだ逮捕されてないよw」「みんなwww 草生やしすぎだろwww」「お前もなw」

 

「えーっと、結局どういうこと?」「ノリ軽いな」「先輩たちのノリと言ってることが分からない」「結局センター長はギルティなの? それともノットギルティ?」「←有罪(裁判)以前に逮捕までいかないな」「愛の形は夫婦それぞれだから」「←まだ結婚してないけどね」

 

「というか局員なのに、根本的にセンター長(の中の人)のこと知らない人多いんだな」「←それだけ新人が増えてるってことよ」「社員(登録者)数100万を超えてなお入社希望の絶えない将来有望な会社 それが「都市伝説解体センター」!」「←ガチで起業して欲しい」

 

 

『そうですね、確かにここ最近また急激に登録者(きょくいん)が増えたので、少々教育(せつめい)が足りていなかったかもしれません。とは言えこの「都市伝説解体センター」は世間にはびこる都市伝説において人の手が加わった不要な部分の情報をそぎ落とし、なぜその都市伝説が発生し現在の形に変性するに至ったかを多角的に分析・研究すること、そしてあらゆる可能性を考察・検証してなお説明することのできない真に怪異たるものを見つけ出すことが目的の組織。私のような少しITに詳しいだけの人間を深堀りするよりも、遊という存在を調べるほうが遙かに有意義かつ道理と言うもの。どうでしょう? ここはひとつ配信時間を延長し、(あなた)の肉体的・精神的な更なる調査を進めるのは――ああ、そう言えば先日とある大学の研究室に依頼されてシステムを組んだんですが、その報酬として私が望んだ時に脳波計などいくつかの設備を使わせてもらえることになっているので、早速今度の休日に連絡し一度徹底的に――』

 

『え、いや、ちょ、まっ――』

 

 

「長い長いw」「やっべ センター長のスイッチ入った」「これ見ると渉ちゃんとお兄さんってちゃんと兄妹なんだなって」「遊くんさらに解体されるの?w」「遊は怪異だったのか」「あんたそいつのほぼ全部知ってるだろw」

 

「少しってレベルじゃないんだよなぁ」「正直オカルト配信よりも ITというかPC機器とかの解説動画のほうが需要ある」「←それはない」「オカルト要素なくなったら 都市伝説解体センターじゃなくなるでしょうが!」「※なお今まで一度も本物のオカルトは出ておりません」「全部きれいに解体してるからな」

 

「OK センター長がITとかにガチに詳しいのはわかった。それ以外の遊に対する異常行動が何なのか知りたい」「知りたいと言われても、部長が言った通りとしか」「詳しくはwiki読め」「厳しいw」「やはりセンターはブラック」

 

 

『――そんなに彼と私の関係を知りたいのであれば、今回の都市伝説はまた別の動画でまとめるとして、残りの配信時間を使って少しばかり新人研修と行きましょうか……面倒なので人事部部長さん、お任せします』

 

 

「任されたw」「面倒って言い切ったw」「センター長に頼られるなんて部長裏山」「さすがネームド局員w」

 

 

『人事部部長 10000:任されました!! 事の始まりは数年前。センター長の実の兄である「お兄さん」が殺人事件の容疑者になってしまい、すぐに冤罪だと証明されたにもかかわらずネットやSNS上でお兄さんを犯人とする認識が長く続き、同時に多数の誹謗中傷が二人を襲ったんだ。それを何とかしたのがセンター長と“ネッ友”であった遊くんだ。センター長たちの状況と危機を知り、颯爽と現れ投稿した遊くんの「お兄さんの無実を訴える動画」がバズリにバズリ、世論をひっくり返しお兄さん犯人説は消滅。そんな遊くんの男気に感動したセンター長は現実でも親交を始め、加えてそんな経緯もあったからネットの悪意から守るために特性のプログラムを組み、彼を365日24時間体制で見守っているんだ。まさに愛だね』

 

 

「相変わらず要点をまとめたいい説明だ」「そりゃ何度となくやらされた新人教育()だからな」「良い話だなー」「良い話なんだけどな……」「無実の人が救われて悪が裁かれたんだから良いことなんだけど……」「最後の方がパワーワード過ぎるんだよ」

 

「ほえー センター長たちすげー人生送ってきたんだな」「あー、なんか思い出してきた」「あったなそんな事件」「俺も言われて思い出した。無実を訴える動画ってあの「キレ芸動画」だろ。あれ投稿したの遊だったのか!」「そりゃ渉ちゃんも惚れるわ」

 

「結構有名な事件だったのに知らない人間予想以上にいて草」「警察が裏で糸引いてた衝撃的な事件だったんだけどな」「ゆうてもう七年経つし」「当時ニュースに興味のない小・中学生でも 下手すりゃ今大学生になるくらいの年月だから」「←そしておっさんはおっさんに」「ウッ(致命傷」

 

「待って 七年前? そんな前から遊くんのことハッキングしてるの?」「……え? あれ?」「ま、まさか 実際にやりだしのはつい最近とかでしょ?」「今マジで鳥肌立ってる」「それはマズいですってセンター長!?」「遊くんよく正気を保ってるな」「やはり聖者か」

 

「そりゃあ魔王を光堕ちさせた勇者だ 面構え(覚悟)が違う」「←光堕ちさせたと言うか 闇堕ちを防いだが正しい」「もしあの時渉ちゃんが闇落ちしてたら 絶対今の日本はなかった」「冗談抜きで未曽有のサイバーテロが起きててもおかしくない」

 

「渉ちゃんハッキング技術だけじゃなく純粋にIQも高いから 大量のシンパ作ってそいつら扇動すれば――」「別の意味で鳥肌立ってきた……」「遊くんは渉ちゃんの闇堕ちを防ぎ 現在も魔王への羽化を防いでいる」「だから遊くんを一日も早く人生の墓場に叩き込む必要があるんですね」「過去現在の日本で最も賞賛されてしかるべき人柱だわ」「ひ・と・ば・し・らwww」

 

 

『ぁアーッもう、渉も局員(おまえら)もいい加減にしろ! 終わり終わり! ただでさえこっちはカラスの群れと格闘させられて疲れてるんだよ! 完全に日も暮れてるし、宿の時間も押してるし、現に――』

 

プッ プ――ッ

 

『ほら見ろ! いつまで経っても終わらないから!』

『仕方ありませんね。先ほども言った通り都市伝説の総括と今後の予定については、次の動画にまとめて投稿()げますので、今日のところはここで終了とさせていただきます。局員の皆さん、本日も業務(ごしちょう)お疲れさまでした(ありがとうございました)

 

 

「了」「お疲れー」「お疲れでした」「クレーム来たw」「まあしゃあない」「乙ー」「できるだけ早く出勤したいのでシフト発表お待ちしてます」「次も楽しみにしてます」「シレっと宿って言ったぞ」「そりゃこっから東京はもう無理だろ」「宿でしっぽりですね分かります」「さすがにないだろ ないよね?」「しー! 子供も見てるでしょ!」「――――――

 

 

 

 

「おー、お疲れ二人とも。今日も大活躍だったじゃん」

「いやもう、ほんと今回も大変でしたよ。どっかの誰かは遠くから見てるだけですし……ああ、そう言えばありがとうございます“ジャスミン”さん」

「ん?」

「いや、あのクラクション。あれ以上話が広がらないよう気を遣ってくれたんでしょう? おかげでいい話題の切れ目になって助かりました」

「あー……まあ、気にしないで。こっちもいい加減待ちくたびれたってのもあるし」

「――疲れた」

「うおっ、いきなり膝に頭乗せんな。せめて一声かけてくれ……って、歩だよな?」

「配信も終わったし、当然でしょう? “彼”ならいつも通り今回の都市伝説をどうレポートにまとめて兄さんに報告するかと、次の動画にどう載せるか考えるって、さっさと引っ込んだわ……それより、あの隙あらば私とあなたをさっさと籍を入れさせようとするの止めさせて。そういうのは、こんな大勢の前でじゃなくて、もっとこう……」

「いや、むしろそれは(そっち)の方から言ってくれよ。身体は女子(おまえ)でも性自認(なかみ)(あゆむ)って思うと、色々と気まずいと言うか複雑と言うか……別にジェンダーとかLGBTとか否定するわけじゃないし、「(じぶん)」とじゃなくて「主人格(あゆみ)」とって意味で言ってるのは分かるんだけど……」

「ちゃんと言ってるわよ。私だって、嫌、ってわけではないけど、こんな外堀埋めるようなやり方は気に入らないって。なのに「恋愛とは常に早い者勝ち。邪魔が入らないよう常に周囲を固めておくのが肝要」とか、偉そうに。自分だって恋愛(そんな)経験ないくせに」

 

「お二人さん? そういう生々しいのか初々しいのか分かんない話を後ろでされてると、お姉さん気が散ってハンドル操作ミスっちゃうかもしんないからほどほどにしてくれない?」

「はあ……お邪魔虫」

「おい」

「事実でしょう。なんなら配信中(さっき)横槍(クラクション)だって私たちへの助け舟じゃなく、あのまま投稿(はなし)が弾んで“例の事件”が話題に上がらないようにしたかったんでしょ? 相変わらず大変ね、公務員は――上層部(いろんなところ)に気を遣って」

「ぐっ……」

「まあいいわ。時間ならこの後の民宿でいくらでもあるし。私はそれまで仮眠とるから。夕飯もいらない。()()()の相手をよろしく」

「は?」

「えっ、ちょっ――!」

 

「――――んん? あれ? 私、寝て……?」

「あー……おはよう、“あざみちゃん”」

「……えっ? 遊さん!? うわあー! すみません!」

「おっとと、そんな慌てなくてもいいよ――むしろ変なタイミングでごめんと言うか」

「はぇ?」

「気にしなくていいよあざみー。おはよう、いやおそようかな? なんにしてもぐっすり寝てたね」

「え――あっ、本当だ。もう真っ暗……って、私そんなに寝過ごしちゃったんですか!? TKCチャンネルの配信は!?」

「ついさっきセンター長と遊のコンビで解体し(おわらせ)たよ。「鵺」に立ち向かう(そいつ)の雄姿はアーカイブで確認するといいさ」

「ええ!! 鵺!? 本当にいたんですか!? と言うか、 遊さん鵺と戦ったんですか!? あっ、だから服がヨレヨレで……だ、大丈夫だったんですか!?」

「いや、まあ大丈夫じゃなかったらここにいないって。まあ渉にはあとで文句言うけど」

「な、ならよかったです……うぅ、すみません。今回も配信のお手伝いができず、遊さんやジャスミンさんに押し付けてしまって……センター長さんにまでご迷惑を……」

「気にしなさんな。あざみーと“美桜ちゃん”は、昨日資料の整理やら装備の準備やらで遅くまで頑張ってたでしょ。実際の配信や編集は遠慮なくセンター長たちに押し付けときな」

「そ、そんなわけには! アルバイトとは言え、私も立派な都市伝説解体センターの局員ですから、できることがあれば何でも……!」

「遊の代わりに都市伝説の調査のために不気味な場所に突入したり、怪しげな呪物を探したり、怪異やら怪物やらと格闘したりするって?」

「すみません遊さん! 私は薄情者です……」

「アハハ、大丈夫だよ――あざみちゃん“が”謝ることじゃないって」

「はいぃ……そう言えば、センター長さんや“歩”さんは?」

「――センター長は今回の調査をどうレポートと次の動画に纏めるか考えるって、一人先に帰った。歩は宿に着くまで仮眠するって」

「あ、本当だ。“助手席にいた”から気付か(みえ)なかったんですね。でも珍しいですね? 歩さんが遊さんの隣に座らないのって」

「んー? まあそんな気分だったんじゃない? たまには一人でのびのびと眠りたいとかあるでしょ」

「気分、ですか? 歩さんだったら、それこそ遊さんの膝枕とかの方がぐっすり休めるって言いそうですけど? あっ! もしかして私が後部座席で眠りこけてたからでしょうか!? わわわ、も、申し訳ないことを……」

「その分宿に着いてからは遊を独り占めする気満々だからいいんじゃない? 夕飯もいらないとか言ってたし、あざみー食べちゃえば?」

「え? 良いんですか!? 私、民宿のご飯って初めてです! わぁ、どんなのが出てくるんだろ? そうだ、写真撮って美桜に送ってあげよう!」

「おーそうしろそうしろ、どうせ領収(かね)はセンター長持ちだし、あたしも食うぞー」

「そうですね、俺もちょっと今回はがんばったんで、少しくらい贅沢しても罰は当たらないだろ! いろいろ追加注文してやる!」

 

「――――――

「――――

「――




遊くん(仮名)

頭を打ち付けて死亡し、同じく頭を打ち付けて前世の記憶を取り戻した転生者――などではなく、極めて近似した世界線の同位存在が、同じく近似した時間・場所で頭を打ち付けたために存在が接触、記憶の混戦が発生。
オカルトではなく、某頭白菜の言葉を借りれば再現性のある科学によって「都市伝説解体センター(この世界の未来)」を知った一般人(原作が一応オカルトの存在しない世界なので)。

記憶を取り戻した()あと、「こんなテンプレな状況=ここって漫画とかの世界?」とちょっと痛い考えのもと、手当たり次第に財閥やら学園やら団体名を調べまくったが空振り。
残念な気持ち半分、危険な事態や事件に巻き込まれなくて済みそうという安心半分で過ごしていたが、「上野天誅事件」のニュースを見てひっくり返った。
グレートリセット(大量の個人情報の流出)という前代未聞のサイバーテロが発生する、しかもそれを防ぐのはほぼ不可能と発狂しかけるも、まだ如月努の自殺にまで至っていないことから、なんとかそれを阻止できないかと考える。

考えた結果が
「如月努は無実で証拠・証人もある」
「事件の続報が出ないのはどこか(警察)から圧力がかかってるから」
という内容の動画をバズらせ、みんな大好き陰謀論をあおって、如月家への誹謗中傷をやめさせるという大博打(国家権力相手だからね、仕方ないね)。

失敗したらGR。成功しても警察に逆恨みされるかも。炎上したら如月家に行われているようなことが自分にも降りかかるかもという多大なプレッシャーにより、変な(ヤケクソ)ハイテンションのまま撮影・投稿された、一部嘘と真実を入り交えた動画は、目論見通り世間に受け大バズリ。なお、そこに「誰か」の手助けがあったとかなかったとか。

最終的にすべての犯人と陰謀が明るみに出て、一部(警察)が尋常じゃないほどのバッシングを受けたが、将来発生するはずだった被害を考えれば大した問題じゃない。『僕は悪くない』。

その後如月家への過剰な悪評は鳴りを潜め、如月努が自殺したとされる期間を過ぎてもそのようなニュースが流れなかったことから、原作改変でき(じけんをふせげ)たと確信。

「GR回避! 都市伝説解体センター完! もとい解・体!」
 ――ん? 誰か来たみたいだ




如月歩

原作「都市伝説解体センター」の黒幕――なのだが本編には全く登場しないという異例のキャラ。
厳密には最後の最後に出てくるのだが、あんな一言二言では性格(キャラ)や口調はおろか一人称すら分からない(ファンブック待ってます)。
仕方ないので「廻屋渉」をベースに、最後のちょっと澄ましたっぽい写真からクール系と勝手に妄想。あと唯一の肉親の復讐にあれだけのことをしたんだから、確実に愛とか感情は重いだろうとこんな()にしてしまった(遊くんは強く生きろ)。

如月努の自殺の前から多重人格の兆候は出ていたようなので、事件のストレスで完全に確立した(廻屋渉)と仮定。性自認は男なので遊くんはあくまで興味深い観察対象だが、主人格(あゆみ)が執着しているのでその手助けのつもりで()()()()()()()()()()を言う。悪意はないが悪気はある(ちなみにビンタしたのは歩)。
某主人公(あざみ)ちゃんは遊くんがうっかりお漏らし(ジャスあざてえてえ)したのを聞いたので、()()()()()()()()()()()()として半分無意識のうちに誕生し(つくっ)た。遊くんは白目向いた。ジャスミンやお兄さんは癒やしを得た(歩も面倒な対人関係を任せているのでちゃんとwinwin)。

闇堕ちを防いだ結果GRだけでなく「ハッピー777億事件」も自動的に消滅したが、その分IT関係の特許やサイバー犯罪への助言()などで補って(かせいで)いるおかげで警察は頭があがらないし、いろんな国や組織から狙われているので頑張って守っている(ジャスミンさん(ボディーガード)も頑張ってほしい)。



「上野天誅事件」で容疑者にされた兄と、その兄に降りかかる数々の誹謗中傷。それによって傷心していく姿に心痛めていたが、まだ少女であった歩にはどうすることもできなかった。
兄を慰めることもできず。兄の無実を訴えようにも「無責任な一般人」たちは小さな正論(こえ)には聞く耳を持たず。最後の希望であった警察も沈黙したまま。
幼少時から頭の中に響く声はより大きくなり彼女自身も消耗していく中、いまだ全体で見れば小さ(すくな)くとも、確かに「如月努の無実を世に訴える」声が現れた。

何事かと調べてみれば、その大本は一人(ひとつ)の動画。

「如月努には犯行時にアリバイがある」
「警察はその事実を確認している。ソースは()()()()()()()()()()()()()()()()
「二度も誤認逮捕(正確には事情聴取)をしておきながら、そのことが全く報道されないのはおかしい」
「大学も務める人間が謂れのない誹謗中傷を受けているのになぜ助けない」
「姉の就活に影響が出たらどう責任を取る。自分たち(大学)だって来年以降の受験希望者が減るかもしれないだろう」
「あと如月努犯人説(ねもはもないうわさ)を信じて、なんの権限もないのに犯人、しかも無実の相手の家に凸するな」

自分が言いたくても言えなかったことを声高(と言うにはやけっぱちに見えるが)に叫んでくれている。
例え自分たちのためではなく自身の姉のためであったとしても、見ず知らずの誰かが兄を救おうとしてくれている。

周囲の人間すべてが敵ではなかったという事実に、思わず涙が流れた。そしてあまりにもめちゃくちゃな動画に、久しぶりにお腹の底から笑いがこみ上げた。
そうだ、この動画を兄にも見せてあげよう。きっと同じように笑っ(ない)てくれる。
それから本人が「拡散希望」「目指せバズリ動画」と言っているのだから、お望み通り方方の目に留まるようにしてあげよう。もちろん“誤認逮捕”などされたくないから、ちょっとだけ(バレないように)だけど。

かくして兄の無実は世間に受け入れられ、その兄を貶めようとした警察(あくにん)は罪を詳らかにされた。再び平穏が戻ってきた。
けれど少しだけ不可解なことがある。()()()()調()()()()()()、あの動画の投稿主に「姉はいない(じょうほうげんがない)」。

調べた――頭を打ったらしいが、その日を境に「実在しない財閥や学園・団体」を大量に検索していた。
調べた――「転生」「前世」「平行世界」。随分スピリチュアルないしSFチックな内容に興味を持っていた。
調べた――“例の事件”から、それほど間を置かず兄や「まだ世間に知られていない(じぶん)」の存在()を確かめていた。

侵入し(しらべ)た――『GR回避! 都市伝説解体センター完! もとい解・体!』

あぁ兄さん。本物の都市伝説(オカルト)は存在したよ。



「こんにちは。()()()()()()()()()()如月歩です。それとも廻屋渉、もしくは福来あざみと名乗ったほうがいいですか?」
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