「都市伝説解体センター」解体小説   作:一般通過怪異

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完全な蛇足にしかならないので書くつもりはなかったけど、あまりに「都市伝説解体センター」の二次が増えないのでつい書いてしまった主人公くんの奮闘記録もしくは「局所的グレートリセット」。

相変わらずご都合主義とネタバレだらけの妄想につき、閲覧注意。





グレートリセット‐表

 高校に入学して初めての夏休み。大量の宿題をぼちぼちと進めながら、漫画にゲーム、時々友達と待ち合わせし、個人的には充実した日々を過ごしていた中。

 母さんが手を滑らせて、中身が入ったままのコップを落とし割ってしまった。慌てて駆け寄れば溢した液体(のみもの)に足を取られて、転んだ俺はテーブルに頭を打ち付けて意識が暗転。

 

 まるで宇宙空間のような、薄暗いのに()に包まれ明るく感じる不思議な場所に浮かんでいるイメージが浮かび、思わず()()()()()()()()()()()()()に手を伸ばすと――次の瞬間両者(ぜんせ)の記憶が交差し(よみがえっ)た。

 

 その瞬間に流れ込んだ大量の情報(きおく)に、痛みとも感じられる強烈なショックを受けて「ハッ」と目を覚ませば、そこは病院のベッドの上だった。

 

 ちょうど見舞いに来ていた母さんが大慌てでナースコールをして、あれよあれよと担当医やら看護師たちに囲まれ検査され、現状の説明をされるまで流されるままだったが。

 

 曰く。頭を打った俺は血を流し、救急車で運ばれそのまま緊急手術。幸い頭蓋骨骨折なんかはなかったけど五針も縫って、そのまま入院。

 

 目覚めたのは丸一日過ぎてからということらしい。ただ()()()()()で実感がない。

 

 それから意識がしっかりしているかなどの確認か。いくつか質問がされた際――主に今が何年何月かや覚えている最近のニュースなどに対し、「この世界」の事実とズレた答えを返してしまい、更なる精密検査が加わった結果、計一週間も入院することになる。

 

 母さんはもちろん、連絡を聞いて飛んできた父さんにも余計に心配をかけて申し訳ないとも思ったけど、“この記憶”について考える時間が得られたので、正直渡りに船だった。

 とはいえ母さんの、目覚めたことに心底安心した後、泣きながら何度も「ごめんね、ごめんね」と謝ってくる姿に、あぁ俺が目覚めるまで本当に色々あったんだなと納得したし、同時に「恐らく最悪の事態が発生したであろう向こうの世界の母」を思うと、強い罪悪感が襲ってくる。

 

 ひとまず傷の経過が良好で()()()()()()()()()()()()()()()()ことと、俺も記憶の整理がある程度済んで「現世(コッチ)」と「前世(ムコウ)」も分けられるようになったおかげで、無事退院。

 まあ抜糸もあるし、頭を打って一時“記憶の混乱”も見られたってことでしばらくは通院することにはなるけど、それでも退院できた祝いだと豪勢な出前を呼んで、久しぶりに和気あいあいとした夕食を過ごすことができた。

 

 食後部屋に戻ろうとするとまだ少し母さんが心配するそぶりを見せたけど、何とかなだめて七日ぶりの自室に。

 入院途中で大部屋のほうへ移ったのもあって、ようやく人目を気にせずに済むと解放された気持ちで慣れ親しんだ自分のベッドに倒れ込んだ。もちろん頭の傷に響かないように気を付けながら。

 

 そうして一息ついた後。この数日調べようと思いながら「もしそうだったら」と考えると、中々決断出来ずにいた“確認”をするために、こちらも七日ぶりにタブレットPCの電源を入れる。

 

 

 ――最初は普通に、頭を打ったせいで記憶が混乱してるんだと自分でも思った。だけど()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のはどう考えてもおかしい。

 

 「向こう」の世界では数年前に猛威を振るって日常生活すら変えてしまったパンデミックが、「こちら」ではまだ起きていない。それ以外にも某国の侵略や、国内で起きた大地震など、今より子供だった自分ですら覚え()ているニュースが、同じく影も形もなかった。

 最初は未来予知もしくは過去への逆行なんじゃないかと疑ったけれど、それでいて自分の年はもちろん、家族や周囲、学校の人間関係などはそのままなのだ。本当に頭を打っておかしくなったのでなければ、この「違う時代を生きた二つの自分の記憶」に辻褄が合わないのだ。

 

 ――七年後の世界を生きていた自分は頭を打って(あのじこで)運悪く死んでしまい、この「似た歴史の世界(パラレルワールド)」の自分に生まれ変わり、同じように頭を打った衝撃(ショック)でその前世を思い出した。

 

 入院している間何度も思い返し、前世(むこう)の記憶も決して(もうそう)とは思えず、ではなんなのかと考えに考えた末の結論がコレである。

 

「どこのネット小説の主人公だよ……厨二病そのまんまじゃねえか……」

 

 自分で考えついて多大な羞恥心を催す結論だけど、それと同時に思いついてしまった「ある可能性」に羞恥心(それ)を上回る恐怖を抱いた。

 

「……たのむぞぉ」

 

 それは()()()()()()で言ってるのか。自分でもよく分かっていない。ただ入院中は二つの記憶の齟齬を確認したり、さっきの結論を出すまでにそういった事例がないかを調べたり、そもそもまだ思いついてなかったりして検索し(しらべ)ていなかった“単語”を、片っ端から検索エンジンに打ち込んでいく。

 

 ――鈴〇財閥――七〇財閥――〇剣財閥――覇〇財閥――――

 

 ――呪〇高専――麻〇良学園――穂〇原学園――総〇高校――

 

 ――〇PW財団――S〇P財団――黒〇グループ――都市伝説解体センター――

 

 ――空〇町――並〇町――駒〇町――〇崎市――

 

 とりあえず「世界観」から違うわけではないのは確認している。なので覚えている、思い出せる限りの()()()()()()()()()財閥や企業、学校や都市の名前を調べまくる。

 

 

 ――――五分後

 

 

「ぅわ……………………はっず」

 

 見事に全部空振りである。「転生したここはひょっとしたら漫画(フィクション)の世界なのではないか」と、かなり真剣に考えていた数分前、ここ数日の自分が、心底恥ずかしい。

 いや、いくつかは検索結果に出なくてヒヤッとはした。ただ調べてみると“元ネタ”になるものが「まだ世に登場(れんさい)してない」ということが分かり、結局は“何一つ該当する世界”はないということに変わりなかった。

 

 ――いやいやでも、頭打って別の世界(ぜんせ)の記憶を取り戻すなんてファンタジー体験して、そこまでテンプレみたいな状況になったら誰だってそう思うだろう! それでもし本当に漫画とかの世界に転生とかしたとして、そこがインフレ上等かつ一般人(モブ)に厳しい世界だったら怖いだろ! そりゃ少しは自分にも魔法とか超能力と呪術とかそういう系の能力目覚め(ゲットし)て活躍というか俺tueeというかそういうの想像しなかったって言えば嘘になるけど――

 

 つらつら、と。ベッドに突っ伏して悶えながら、心の中で誰に向けたのか自分でもわからない言い訳を続けるうちに眠ってしまったようで、気付けば翌日の昼近く。

 心配で様子を見に来た母さんの呼び声に生返事をしつつ、ある程度冷静さを取り戻した(どちらかと言えば燃え尽き症候群的な)俺の頭に浮かんだのはたった一言。

 

 

 ――もうなるようになれ。

 

 とりあえず命の危機があるような世界じゃなかったんだ。それでいいだろ、うん。

 そうして遅くなった朝食ないし早めの昼食を食べに向かう足取りは、気のせいかもしれないけれど少しだけ軽く感じた。

 

 

 

『次のニュースです――先月()()()()()()()()()()()()()()()について、警察は昨日、犬神大学に勤務する助教授の()()()29歳に対し、任意での事情聴取を行っていたことが捜査関係者への取材で分かりました』

 

 

 頭の傷もきれいに治り、夏休みも明けて迎えた新学期。どこから聞きつけたのか、俺が頭を怪我して救急車で病院にまで運ばれたことが知られていて、友人やクラスメイトに色々と声をかけられた以外に特に変わったことはなく、当然見知らぬ生徒が紛れていたり転入生が現れるなんてイベントの発生もなし。

 

 本当に当たり前の学校生活(にちじょう)が普通に始まり。授業を受け、休憩時間に駄弁り、放課後に遊び、広い試験範囲に悪戦苦闘をしながら過ごしていく間に、前世の記憶はふとした時に思い出す程度にまで掠れていた、ある日の朝。

 家族三人で囲む朝食の場に流れてきたそのテレビニュースに、思わず箸を止めてしまう。

 

『捜査関係者によりますと、如月努さんは被害者である野村健吾さんと面識があり、また事件現場周辺でもたびたび目撃証言があったということで――』

 

 そこに映し出された眼鏡をかけた男性(きさらぎつとむ)写真(かお)に、俺は強烈な既視感を抱いた。

 

『――現在のところ如月努さんは事件への関与を否定しており、警察は引き続き慎重に捜査を進めていくということです』

 

「あら、この事件の犯人がようやく見つかったの?」

「ん? ああ、これか。確か被害者の背中に“天誅”って書かれた紙が貼り付けられてた事件だったかな」

「そうそう。「上野天誅事件」なんて呼ばれて、全く犯人の手がかりも見つからないって近所のお母さんたちとも「怖いわね」って話してたんだけど、犯人が捕まってよかったわ」

「うーん、まだ事情聴取で逮捕されたわけじゃないけど、まあできるだけ早く解決してくれるとありがたいな」

「ほんとね」

 

 母さんと父さんが何か話しているが、全く耳に入ってこない。それどころか俺の体は、まるで石像になったように身動き一つ出来なくなっていた。

 

「ちょっと、どうしたの? 顔真っ青じゃない!」

 

 そんな俺に気付いた母さんに声をかけられるけど、それに応える余裕もない。ただよっぽど酷い顔色だったらしく「今日の学校は休みなさい」と言われ、付き添われながら何とか二階の自室まで戻る。

 何かあればすぐに呼ぶようにと心配しながら退室する母さんの背中を見送った後、すぐさま机のPCを起動して、いつかのようにひたすらに検索をかけていく。なんならスマホのSNS関連アプリも開き、他の人間の投稿や反応なども同時平行で確認していく。

 

「上野天誅事件」

「野村健吾」

「如月努」

 

「如月歩」

 

 そうすれば――出るわ出るわ見覚えのある単語や名前に事件の概要。如月歩に関してはヒットしなかったけど、そういえば俺の知っている通りの歴史(シナリオ)なら、まだ()()の存在は拡散さ(しら)れていなかったはずだから当然か。

 いや、そんなことより!

 

 

「ここ「トシカイ」の世界じゃねえか!!」

 

 

 「都市伝説解体センター」略してトシカイ。

 その名の通りオカルトチックないくつもの事件を解体(かいめい)していく、現代社会を舞台にしたミステリーアドベンチャーゲームで、早ければ半日で終わる短いプレイ時間の中にいくつもの伏線が散りばめられ。

 独特なビジュアルと操作(ちょうさ)方法、そして何よりそれら伏線が集約したラストのどんでん返しに脳を焼かれるプレイヤーが続出。かく言う俺もEDを見届けた後、しばらく胸の苦しさが抜けなかった。

 

 「オカルト事件を解き明かす現代ミステリー」であるため、人知れず社会の裏で蠢く異種族(バケモノ)や異能力者なんかは存在しない、ひいては一般人(モブ)に危険のない世界――などということはない。

 

 

 このままだと如月努(あに)が自殺して、そのことに絶望と憎悪を抱いた如月歩(いもうと)の前代未聞の復讐劇が始まってしまう!?

 まさかまだ「原作(ゲーム)存在し(はつばいされ)てない」んじゃなくて、「センター(げんさく)開設され(はじまっ)てない」なんて分かるか! そりゃあ前に調べた時にヒットしないわけだよ!

 

「い、いや、まだ()()だって決まったわけじゃないだろ……それに()()だったとして、事件(ここ)から原作開始(グレートリセット)まで七年だったはず。ならその間になんとか如月歩(くろまく)を説得するとか、それが無理なら事件前に捕まえるとか……」

 

 如月歩が起こした復讐劇。兄に冤罪を吹っ掛けた真犯人たちの証拠動画再生(こうかいしょけい)、警察の不祥事(いんぺい)拡散(こうひょう)、そして面白半分に騒ぎ立てた大多数(がいや)の個人情報流出。特に最後がヤバい。ヤバすぎる。

 原作では描かれてないけど、“あんなこと”があった以上日本の国際的信用とか経済とかに大ダメージがあったはず。そもそも俺や家族のアカウントが巻き込まれ(りゅうしゅつし)ない保証もない以上、どうにか原作(じけん)は防がないと……防がないと……

 

 いや、無理じゃね? 如月歩って知識通りなら本物の天才(ギフテッド)で、()()()サイバーテロを起こせるレベルの超一流のハッカーで、この計画のために学んだのか知らないけど人心掌握にも長けていて、大量の信者を作って爆破テロまで起こさせることが可能なTHE黒幕というか、覚悟ガンギマリというか、もうヤる気満々で他人(おれ)の説得になんか聞く耳持たないのが凡人(かんたん)にも予想できる。

 

 その上現時点(げんさくまえ)では何も罪を犯してない以上、事前に捕まえるのも不可能。下手したら邪魔者扱いで逆に始末されたり――確かネット通貨だか仮想通貨だかをハッキングして盗み出す事件も起こすはずだから、その時なら……だめだ。証拠なんか残さないだろうし、警察が()解決事件としてクローゼット行きの(いんぺいする)はずだから、知ってるこっちのほうがヤバくなりそう。

 

「東京から遠くに引っ越す……いやGRの対象がどこまでか分からない。これもう国外逃亡(いじゅう)ぐらいしか手段ないんじゃ……母さんたちにどうやって説明すんだよ……そもそも天才が七年かけて準備した復讐(けいかく)を、俺みたいな凡人にどうこうできるわけがないだろ! 転生チートでもなきゃ無理だって!?」

 

 そのあとも原作改変(みらいをかえる)にはどうすればいいか考えるけど、現実的な手段は全く思いつかない。

 もし記憶を取り戻すのがもっとずっと前で、テンプレよろしく如月兄妹と幼馴染とかだったなら、って今更そんなこと考えてもしかないだろ。

 けど()()()()()()()()()()()妹に、どうやって復讐を諦めさせれば――――

 

「自殺……してないよな? まだ」

 

 そうだ。今日見たニュースは、“如月努が警察に事情聴取された”ってニュースであって、彼が自殺したっていう報道じゃない。つまりまだ、如月歩の復讐計画は始まっていない!

 

 

「如月努の自殺を阻止すれば、原作(GR)も回避できる……?」

 

 

 ――そこからはもう我武者羅に頑張った。

 さすがに学校を休んだのはニュースを見た初日だけだが、授業の内容は頭に入らないし、友達から最近流行りのゲームや雑誌の話題を振られても上の空で、遊びに誘われても全て断った。全ての時間を「上野天誅事件」と「如月努」の情報収集、そして炎上阻止に費やした。

 

 当然家族や周りの人間から心配されていたけど、素直に受け取る余裕はなかった。なにしろこのままではどんな難関大学に進み、一流大企業に就職したとしても、何もかもが水泡に帰すかもしれない以上、()()()を優先するべきかは明らかだ。けれど――

 

「だめだ……俺一人のコメントやリプじゃ、完全に飲み込まれて誰も聞いちゃくれない……!」

 

 何とか原作改変しよ(じけんをふせご)うと奮闘し続け一か月。

 努力虚しく、ネット上では「上野天誅事件の犯人は如月努だ」という認識が蔓延り、如月努を犯人へと導こうとするかのような偏った情報が逐次投下され、炎上騒ぎは全く収まる気配がない。

 

 あくまで事情聴取されただけでその上証拠不十分で解放もされたのに、「犯罪者はおとなしく捕まっておけ」と非難轟々。

 くわえて大学の助教授っていう立場よりもオカルト研究家って肩書だけが独り歩きして、さすがにテレビニュースに出ることはなくなったけど、新聞や週刊誌には大なり小なり記事が乗ってしまうような状態。

 

 甘かった。ほぼ初期に気付けたから、あとはアリバイがあるとか「頭のおかしいオカルト信者」ではなく「都市伝説(オカルト)を通じて民俗学を研究している学者」っていう情報を伝えていけばいいと楽観的に考えていたけど、“事態の収集を図る気のない警察の対応”と“止める者のいない観衆の勢い”は俺なんかの想像を遥かに超えていた。

 

 始めは何か所かで投下した、「事件の日に別の場所で目撃されてた」「アリバイがあったらしい」ていう投稿も、「警察がやらかしたのか」「冤罪なのか」って受け入れらていたのに、いつの間にかその辺りの認識が「如月努信者が流したデマ」みたいな扱いでなかったことにされてしまい、今となっては彼を擁護しようとする投稿(はつげん)をすると、「オカルト信者(あたまおかしいやつ)」「目立ちたがり」と相手にされず、むしろ余計な火種となってあちらこちらへと拡散し(とびちっ)てしまう始末。

 それなのにニュース番組などで上野天誅事件の進展情報はまるで報道されなくなり、結果この事件に関する話題はほぼネット上だけで、ひいては如月努とイコールで結ばれた状態で考察という名の無責任な妄想(はつげん)が飛び交っていた。

 

 悪人には何をしてもいいと言わんばかりに如月努を叩き、さらには本人のみならずオカルト好き(おなじぞくせい)の人間も一纏めにくくりあらゆる角度から攻撃する。彼に群がる大衆(にんげん)の、匿名を笠に着たその言動は醜悪そのもので、見ていると吐き気すら催してくる。

 

 部外者である俺ですらこんなに気分が悪くなるのに、如月努は、そして如月歩は直接()()に晒され続けていたのか。

 そう考えるとGRに巻き込まれないようにする (じぶんのみをまもる)ために始めたはずが、いつしか彼らを助けたいと本気で思うようになっていた。

 

 だけどそんな思いとは裏腹に、打開策が思いつかない。

 この状況が解消されるとすれば、それこそ真犯人たちが捕まったというニュースが流れた時ぐらいなんじゃないか? 何とかしなければいけない。けどその“何とか”の方法が分からない。

 

 最近はただコメントであることないこと投稿するだけでなく、同じように好き勝手なことを言っている動画なんかも複数投稿さ(あげら)れていて、少なくない再生数を稼いでいたりする。反吐が出る。ああ、そう言えばこの一連の事件の発端は5S(ファイブソサエティ)っていう配信者たちだったっけ――――?

 

「動画……?」

 

 そうだ…………動画なら()()だ?

 

 元々フォロワーの多い人間か、もしくはよほどインパクトのある画像でも添付しない限り、炎上以外でコメント投稿をバズらせるのはかなり難しい。

 ほんの数行、下手をしたら数文字で複数の人間の興味を引き込まなければならず、けどそれでは俺の伝えたい如月努の無実(じょうほう)を正確に伝えられる、と言うより信じさせる文才(じしん)がない。なんならこの状況がすでにそれを証明してる。

 

 だけど動画なら、文字だけでなく視覚・聴覚と併せて訴えることでより関心を引くことができるし、現状如月努関連の動画っていうだけである程度の視聴数が稼げている、いい意味でも悪い意味でもブーム状態。

 なら完全無名の俺が出したものでも、視聴数は数百、上手くいけば1,000は行けるか? そこから動画そのものじゃなく、()()のほうだけでも拡散して貰えれば、少しだけでも風向きを変えることができるかもしれない。

 

 正直この大炎上状態を考えれば、かなり無茶で楽観的な考えなのは分かってる。けど何もしなかったら、何も変えられなかったら、この騒動は如月努の死に、そしてGRに辿り着いてしまう。ならもう、無理でも無茶でもやるしかない!

 

 でもどんな内容なら視聴者の関心を引けるんだ? 最初の頃と同じようにただ「アリバイがあるから無実」って言っても「ソース出せ」って返されて相手にされないだろうし、そもそも今の“こいつら”に聞く耳なんかない。

 けど()()()()のソースなんて原作知識だし、いっそ俺自身が直接見たって言うか? いや、それだと今まで通り「信者の擁護」扱いで信用されない。誰が見ても文句のつけようのない正確(たしか)なソースじゃないと……待てよ、“原作知識”? たしか、確かその原作で――

 

『あいつらは正しい情報なんか求めてない』

『欲してる情報を流してやれば考え無しに飛びつくんだ!』

 

 そうだ、「正確な情報」なんて()()()()。必要なのは視聴者が「信じたい情報」。

 

 情報源は嘘八百で構わない。重要なのは本当かどうかじゃなく、()()できるかどうか。

 

 ならそう――「如月努が勤める大学の学生から聞いた」。

 如月努は親交のあった教授たちが遺された資料を警察から守ろうとするくらいには慕われていた。なら学生からだって好かれていたっておかしくはない。

 いっそのことその学生は俺の姉で、好意を寄せているってことにして、だから愚痴とか惚気とかで色々聞かされていた。

 アリバイを知ってるのも好きな相手のことだから。その相手が他の女性と食事するってなれば当然気になるだろうし、現状の不当な扱いには激怒するはず。そしてその捌け口に使われて我慢の限界が来た(おとうと)が「いい加減にしろ」と動画を上げた。

 これなら情報の信憑性と、行動への理解・納得も得られるんじゃないか?

 

 もちろんこれだけじゃ足りない。ここからさらにもう一歩、大衆(かれら)が食いつきそうな情報(えさ)を投下する。

 

『如月努が無実なら事件の真犯人もいるはずで、そいつらが捕まらず捜査の進展状況すら知らされないのは()()()が圧力をかけているから』

 

 ――みんな「陰謀論」は大好きだろう?

 

 

 

「――って、一週間かけて作ったはいいけど、ほんとにコレで行けるのか……? やばい、直前で不安になってきた……」

 

 あれからとりあえず手持ちのスマホで動画を撮ってみたけど「これじゃあダメだ」と自分でも分かる出来のものだったので、まずは台本やらアングルやらを考えるべきと、ネットや電子書籍で「初心者動画講座」的なものから情報を詰め込み。

 さすがに顔出しするのはマズいと気付いて覆面(マスク)を通販で取り寄せ、原作で自宅が特定されたりしていたのを思い出してレンタルスタジオみたいな撮影に使えそうな場所を探したりと、思いついて即実行とはいかず。

 

 結局もうこれ以上は無理というか時間を掛けられないという段階で、初心者ならこの程度だろっていうギリギリ妥協レベルの動画を一本撮ったはいいものの、あとはそれをアップロードするだけっていうところで指が止まってしまっていた。

 

 正直怖い。相変わらず如月努への誹謗中傷は止まらず、最近では彼の自宅に直接出向いたなんて投稿もあるくらいで、いつ自殺してしまうか気が気じゃない。

 ソレを自分の稚拙な動画で止められるのかっていう疑問と、かと言ってダメだった結果訪れる原作(みらい)の惨状を思うとプレッシャーが半端ない。この一週間本当に胃に穴が開きそうだった。

 

 加えて首尾よく現状の流れを変えて如月努を救うことができたとしても、その場合自分は警察へのヘイトを差し向けた第一人者ってことになり、隠ぺいを謀った自業自得とは言えメンツを潰された警察に逆恨みされるかもしれない。

 なによりこの一連の大炎上に飛び込み、もしかすれば俺がその対象(ターゲット)にされてしまうかもしれない恐怖で、どうしてもマウスに乗せた指を動かすことができなかった。

 

 ――怖い――怖い――ああ嫌になる、なんで俺がこんなに悩まないと――胃がムカムカする――でも何もしなれけば原作に、GRに――そうだ、GRを止めるためにやってきたんだろ――今日までずっと見てきた、“あの二人”がどれだけ苦しめられてきたか――ソレは、コレは――明日(みらい)我が身(おれ)だ――

 

「えぇい、ままよ……!!」

 

 あぁ、投稿し(あげ)てしまった。いや、まだ誰も視聴してないし、すぐに消せば問題は……いやいや、それじゃ意味がないんだって! むしろどんどん視聴し()てもらわないと……でもアンチ怖ぇ……

 

 なんてグルグルと思考が(まわ)り、PCモニターに映る自分の動画、その視聴情報画面に噛り付いていたけれど、十分、二十分と経っても視聴者数は付かず、緊張と不安で気が変になりそうになったころに、ようやく「視聴回数:1」。

 思わずモニターに顔を寄せてしまったけど、その視聴者はコメントも評価も何もつけずに去っていたらしい。知らず握りしめていた拳を緩める。

 けれどそれからぽつ、ぽつと視聴回数が増えていき、始めて高評価がつけられた瞬間には思わずガッツポーズをしてしまった。

 

 もちろんこんなに早く視聴数が伸びたり評価が入れられたのは、俺の動画の出来ではなく今トレンドの「上野天誅事件」と「如月努」に関する動画だからっていうのは分かってる。

 だけど、さっきまでの不安は消えないけれど、同時に今は期待も感じられた――本当に()()()かもしれない、と。

 

 

 

 

 

 …………っ、やべ、寝てた……

 

 

 完全に寝落ちしてた。気付けばとっくに朝で、突っ伏した体勢で長時間いたから、体中がバキバキしてる……いや、それより動画はどうなってる!?

 

「――――は」

 

 たった一晩の間に、軽く数百を超えていた。

 

 高評価やコメントも合わせれば百近い。そのコメント内容もかなり好意的というか、期待通りの如月努に同情的で、常識外れの炎上具合には何か裏があるんじゃないかっていうのをかなり本気に受け入れてくれているものが多かった。

 投稿して半日も経たず。それでこの数はかなり幸先がいいんじゃないか? もちろん低評価や否定的・懐疑的コメントもあるけど、逆に言えばそうやって反応を返してくれる程度には関心を持たれているということ。

 

 このままのペースなら、本当にバズり動画いけるんじゃないか? ただ問題なのは、そうして話題にな(バズ)ると事件を隠ぺいしたい警察に気付かれて動画を消去されてしまうかもしない、ってことだ。

 

 つまりその警察に()()されるまでに、どれだけの人に見てもらえるかが勝負だな。ああ。あと一応、如月歩の目にも入って興味を持たれるかもしれないけど……ま、まあ他の奴らみたいに如月努(あに)を侮辱するような内容じゃないし、怒りを買うことはないはず。

 そもそも彼女が本格的にハッキングで暴れまわるのは復讐を決意して (あにのしご)からだったはずだから、この時期の彼女なら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう。

 

 

 そんな一抹の不安と、確かな手応えを感じながら、投稿した動画が少しでも多くの人に視てもらえることを祈りながら過ごし数日――いっそ逆に恐怖を覚えるくらいにとんでもないバズリ具合で、ネット上は大盛り上がりだった。

 

 厳密にいえば、動画自体がバズったわけじゃない。完全無名の初心者の動画にしては()()()()()()を稼いでいたけれど、「事件の犯人は如月努」っていう風潮を変えるほどではなく、せいぜい()()言う奴らに対し「ひょっとしたら違うんじゃないか」って言ってくれる人の数が少し増えた程度。

 そこからどう情報を拡散するか考えていた矢先の“恐れていた事態”、恐らくは警察による動画の削除(いんぺいこうさく)が行われ――一気に、「警察が黒幕説(いんぼうろん)」が燃え広がった。

 

 消された直後に、時事ニュースなんかを投稿してる人たちが俺の動画の切り抜きやそれを使ったまとめ動画なんかを作ってくれたり、結構なフォロワー数を抱えるインフルエンサーが「如月努の無罪を訴える動画が削除されたこと」に言及してくれたりしたのも追い風になった。

 

 あれだけ「頭のおかしいオカルト人間」として如月努について騒いでいた人間たち(SNS)は、今や「無実の一般人を生贄に何か不都合な事実を隠そうとしていた」として警察へと追及(コメント)するばかり。なんならその「無実の一般人」であった如月努の名前すら出されなくなったことに、少なからず呆れと苛立ちを覚えたけれど。

 

 何はともあれ、そうなって欲しいと願いつつも内心無理なんじゃないかと思っていた世論の逆転が達成され。

 警察は本当に隠ぺいを働こうとしていたのか、上野天誅事件の真犯人は誰なのか。

 警察のみならず事件の続報を一切発しないメディア、警察庁ひいては時の内閣にも、真実と責任を問う声が日ごとに増していき、沈黙を保ち続けた行政もついに重い腰を上げることになる。

 

 原作知識だと副総監という高い地位にいる人間の指示で事件の捜査は中断・打ち切りになっていたけど、多分この「逆転炎上」によって突き上げられた“より立場が上の人間”から調査の再開を命じられたんだと思う。

 

 結果的に上野天誅事件、野村健吾を殺害した真犯人である5S(ファイブソサエティ)の五人はただちに逮捕され、その内の一人である黒沢優弥の父、黒沢征二にも犯人隠匿の“疑惑”があるとして説明が求められているというニュースが複数のテレビ局から流れた。

 

 それを見た母さんと父さんは「息子を守るためとはいえ、警察の重役が殺人の隠ぺいをしてその責任を他の人間に擦り付けようとするなんてとんでもない」と憤慨していたし、ネットやSNS上ではある意味これまで以上の大炎上(こうふん)、ほとんど罵詈雑言のコメントが飛び交うようになる。

 

 内閣支持率の低下、警察へのデモ行為。その他経済的にも影響のある活動やトラブルが複数発生。ここ数年では間違いなく最悪の汚職事件として、連日連夜の大騒動。

 きっと多くの人がこれからの日本の未来に不安を抱いただろうけど、あの二人……()()と俺だけは、心の底から安堵していたと思う。

 

 

 年も変わり、なおも警察や行政への糾弾が続いているというニュースをスマホで流し読みしつつ、如月努の現在を調べてみるが、そこに「自殺」の二文字はどこにも見当たらない。

 というか、彼に関するニュースや書き込みなどはもうほとんど過去のものだけで、少なくとも都合のいい悪役として扱っていたネット上では関心が薄れているのが明白だった。

 

「確か如月努が自殺したのは「三か月後」だったよな? ……事件後か容疑者に上げられてかは忘れたけど、どっちみちもう過ぎてるよな……? これは、もう確定でいいのか? いいんじゃないのか!?」

 

 どれだけ探しても、如月努やその家族への誹謗中傷は影も形もない。

 むしろ悪辣な国家権力(けいさつ)の圧力にも負けなかった“強い人間”として評価する声も多く、なんならこの騒動で彼の著書「オカルトグレートリセット」が注目され高値で取引されてたり、それを読んで彼のファンになったという人もいるらしい。

 

 これならもう、如月努が自殺する可能性は0と考えていいはず。つまり原作も、如月歩の復讐計画も始まらない――――よしっ!

 

 

「GR回避! 都市伝説解体センター完! もとい解・体!」

 

 

 解放感と達成感に思わず声を上げながら拳も突き上げる。当然母さんに何事かと怒られたけど、そんなこと気にならないくらいにここ数か月で最高の気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピ――ン ポ――ン

 

 ある休日の昼下がり。我が家のインターホンが鳴った。

 いつもなら母さんが応対するけど、()()()()()()()()()()()()()()()()だから当然いない。父さんは出勤してるし、必然的に対応できるのは俺しかいない。

 

「宅配か? でも何も頼んでないし……めんど。母さんか父さんか知らないけど、なんか注文してたんなら置き配でいいじゃん」

 

 まあ通販とかではなく普通に誰か尋ねてきたのかもしれないし、面倒だけど出ないわけにもいかないか。

 

 愚痴りつつ自室から出て、階段を下り、玄関の鍵を開け、扉を開く――――そこにいたのは一人の少女だった。

 

 ボブカットで、女子にしては高めの身長。顔立ちは一瞬見惚れるほど可愛い。

 ただその顔に見覚えはないはずなのに、同時にどこかで(あっ)たような気もする。なにより()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に、強い既視感があった。

 

 

「……………………え?」

 

 

 思わず、声が漏れた。身体が、まるで金縛りにあったように動かない。

 そんな俺を見て、「ふっ」と少女が微笑み、そして――

 

 

 

 

 

「こんにちは。()()()()()()()()()()如月歩です。それとも廻屋渉、もしくは福来あざみと名乗ったほうがいいですか?」

 

 

 

 

 

 

 




あくまで主人公くんの認識が「自分は転生者である」というだけで、きちんと平行世界(ぜんせ)の彼も生きています(同じく記憶の混乱はしている模様)。

またこの世界だとY〇u T〇beではなくBoo Tubeなので、一発で気付けそうなのに気付かなかったのは「前世」でもBoo Tubeだったからで、それだけ“近い世界”だから交信したとか多分そんな理由(そこまで整合性考えるのめんど…ゲフンゲフン)。


この後少なくとも敵意はないということで、なんだかんだ家に上げて、なんだかんだお茶を出して、なんだかんだ()()して、なんだかんだ連絡先も交換して、なんだかんだ()い付き合いになる。

「あれ? 俺完全に囲われてる?」

「いやでも彼女が興味を持つような転生特典(とくしゅのうりょく)なんかない普通の一般人だし、原作改変し(みらいをかえ)たからもう気を引くような知識(ネタ)もないし、こんな凡人の相手なんかそのうち飽きるよな、うん!」

「家族を救ってくれた恩人」として好感度は元々高く、異世界転生(としでんせつ)の体現者としてその生態(からだ)には興味津々で、原作知識はなくとも平行世界(みらい)の情報を叩けばポロポロ溢すのでしばらく飽きることはないし、そうこうしてるうちにお互い情が湧くため別れる未来はこないと思われる。
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