「都市伝説解体センター」解体小説 作:一般通過怪異
一応「裏」としてますが、先にこちらから読んでも特に問題ありません。
また作中で法に触れかねない、あるいはコンプライアンス的に問題となる行為があるかもしれませんが、それらを推奨も肯定もしておりません。
マナーとガイドラインを守って、正しいネットライフを心掛けましょう。
私は、産まれた時から
これは年頃の男子女子が抱く根拠のない
けれどその
物心がつき始めたころは、この
両親はそんな私に対し「気のせいだよ」と、「見間違いだよ」と真剣に取り合おうとはしてくなかったけれど、しかし不気味がったり、まして見捨てるようなことはしなかった。
年の離れた兄は反対に、私の話にしっかり耳を傾けてくれて。
私の見た
普通ではなかったけれど幸せだったその
死んだ両親は遺産や保険でそれなりのお金を残してくれたけど、まだ兄も未成年で私たちを引き取れる親族もいなかったから、遺産管理は専門の人に任せながら、兄が成人するまで教会に併設された施設で過ごさなければならなくなった。
そこには当然
それも当然だ。
さすがに直接
それでも積極的にかかわろうとはされず。学校に通い、年が離れ性別も違った兄はどうしても傍にいられない場面も多く、結論から言えば私は孤立していた。
そうして私はPCやプログラミングにのめり込むようになる。施設にある程度自由に使えるPCルームが存在したのも影響していた。
なにより「0」と「1」で構築され理路整然とした
『大丈夫だよ。僕は、ずっと
兄はそんな私を心配し、せっかくの休みなのに公園へと連れ出してくれたり、集めた書物や資料を使って古今東西の様々な
だからこそ私も、病院には真面目に通い、先生の
その甲斐もあり、小学校、中学校と年齢を重ねる中でひとまず
兄のほうも奨学金やアルバイトで学費を工面して無事大学に進み、卒業と共にお世話になったという教授に誘われて、その活動を手助けしながら最終的に夢だった教職に就くことにも成功した。
その仕事ぶりは評判で、さらには趣味が高じて本まで出版。
なにより兄が成人を迎え遺産も正式に扱えるようになったこと、そして就職に成功し完全に自立したことで、施設を離れ再び
『犯人如月努で確定だろ』『やっぱオカルト信じてる奴って頭おかしいのしかいないな』『マジでそれ。世の中から消えてほしい』『こんなの教員に使わないといけないとか世も末だな』
『如月努氏は犯人じゃない! オカルト界隈で有名なのは事実ではあるが、彼の書いた本は綿密な調査と深い考察による他と一線を画した名著である。読めば分かる!』『彼はフィールドワークであの近辺をよく調査してたから目撃情報があるのは当然』『オカルト評論家と言う一面だけで犯人扱いはさすがに暴論じゃない?』
『信者キタw』『めっちゃ早口で言ってるのが目に浮かぶわw』『真面目にオカルト論じてる時点で頭おかしいんだわ』『根拠うっすw』『こんな頭スカスカな奴らを従えてる段階で、ねえ?』
『あー、これってオカルト系の儀式とか身内で盛り上がって引っ込みかなくなって、実際に犯行に及んだとかそういう話?』『そうそう』『ん? 自分がそういう儀式とかに手を出して頭ラリった末の事件じゃなかった?』『それ被害者カワイソ過ぎるだろw』『自分もそんな話聞いた。確か病院にも掛かってるとかって』『――――』『――』
【徹底考察・如月努はなぜ凶行に及んだのか】
【拡散希望】如月努・上野天誅事件をボロクソに言う【目指せバズリ動画】
【新事実発覚! 如月努犯人説さらに濃厚へ】
【如月努――
【上野天誅事件――
「っ!」
ここ最近の日課にもなってしまっている、少しでも兄の置かれた状況を好転させる情報が出ていないかと複数の
知らず前のめりになって近づいていたPC画面からのけ反るように顔をそらし、酷使して痛みを感じるほど乾いた目を抑えながら椅子の背もたれに身を預けた。
集めた情報のほとんどが
――やっぱり“私たち”の情報が漏れている。それも兄が炎上するように内容を意図的に捻じ曲げて。
(――――――――――)
――分かってる。最優先なのは兄さんへの偏見を払拭すること。けど兄さんを
(――――――――――)
――
(――――――――――)
――煩い。“その可能性”があることは想定してる。だから決定的なものこそ手に入らなかったけど、兄さんと協力して十分過ぎる状況証拠を集めて提供したんだ。どれだけ重い腰だろうと上げざるを得ないはず。
(――――――――――)
――煩い……!
(―――)
「うるさいっ!!」
『――歩!? どうかしたのか!』
「っ……ごめんなさい、何でもない。新しいシステムの構築で、ちょっとコード間違えてたみたいで。ほぼ最初から組み直しになりそうで思わず声を出しちゃっただけ。驚かせてごめん」
『そ、そうか。いや、何事もなかったならいいんだ。こっちこそごめんな、僕じゃそっち方面は手伝えそうにない』
「別に気になくていい。それよりこれが上手くいったらより効率的に、ネットから都市伝説になりそうな噂や怪談なんかを集められるようになるから、出来たら教えてあげるよ」
『――――』
「兄さん?」
『あ……あぁ、ごめん、少し驚いただけだよ。それじゃあ、完成を楽しみにしてるよ。おやすみ、歩』
「うん。おやすみ兄さん」
ドアの向こうから足音が遠ざかったの確認し、肺の空気と共に身体の緊張を抜く。それから自分でもノロノロと感じる重い足取りでベッドに腰掛けた。
……失敗した。ただでさえ心労が重なっている兄さんに、余計な心配をかけてしまった。
両手で自分の頬を抑える。兄さんがしてくれた、気持ちを落ち着けるおまじない。兄さんに
(――――――――――)
――……謝らなくていい。
(――――――――――)
――……忘れてない。この後飲むつもり。兄さんみたいなこと言わないで。
(――――――――――)
――それは
〈――――――――――!〉
――!
〈――――! ――――――――!〉
――あの頃私が周りから敬遠されてたのは
(――――――――――)
〈――――――――――〉
――はいはい、言われなくてももう寝る。ただ、明日からもSNS調査は継続する。兄さんには止められてるけど、これ以上状況が悪化するなら警察へのハッキングも行う。今の捜査状況や不自然な動向。サーバーや捜査を担当してる人間の端末が
(――――
〈――――
おやすみ。
十年近い
そうして一度ベッドから立ち上がり、テーブルの引き出しから処方されている薬を取り出して、一緒に常備しているミネラルウォーターで流し込んだ。
一番辛い当事者である兄さんには申し訳ないが、今回の騒動で私も強いストレスを受け「症状が悪化している」と判断された結果、出されている薬の量も種類も増えて正直億劫だが、飲み忘れると兄さんが必要以上に心配してしまうから欠かすわけにはいかなかった。
とは言え、副作用のほうだが薬の強い眠気が役に立っているのも事実。
吸収されるまで時間はあるはずだが、改めてベッドに横になれば我ながら激しく稼働する脳を無理矢理に鎮め、思考が黒く塗り潰されていく。
――ここ最近、こうして薬に頼らなければきちんと眠りに就けていないことは、決して兄さんに知られるわけにはいかない。優しい兄さんは、自分より
段々と意識が堕ちていく中、それでも
――それでも兄さんや私たちは何も
「…………眩しい」
閉め忘れたカーテンから射し込む朝日が顔を直撃し、思わず声を漏らす。最悪の目覚めだ。
一度目が覚めてしまうとそのまま
あぁ、テーブルの上に昨日の飲み残した水を置いたままだった。まあ真夏ならともかく、今の時期なら一晩程度問題ないだろう。ちょうどいいのでそのまま喉を潤すと意識もはっきりしてきた。
時計を見る。朝ごはんまで時間はあるし、集まった情報の確認でもしておこうか。
そう考えてモニターの電源を点けるけど、正直劇的な変化があるとは思っていない。むしろまたあの醜悪な連中の
それでも椅子に腰掛けキーボードに指を掛ければ、ほとんど条件反射のように
コレは放置、コレも無視でいい、コッチは少し注意が必要。
――コッチも、コッチも、コレは――
書き込みの中に不穏な情報がないか、また何かリークされていないか。その調査のために始めたSNS調査だが、そのほとんどが単なる兄への誹謗中傷ないしくだらない
「……ん?」
『如月努無罪ってマ?』
今日の、昨日までと同じように集められた数多ある投稿の中に、
『あの動画が言ってること事実ならヤバくね?』
これまでも、兄への侮辱が大多数だったとは言え、兄の(というより出版した本の)熱狂的なファンが擁護的発言をすることや、世論に流されない冷静な指摘をする人間がいなかったわけではない。
『アリバイあんのかよw 警察はもっとちゃんと調べてどうぞw』
ただその全てが世論に、数の暴力に飲み込まれ、真剣に受け取られなかったり捏造扱いされることだってあった。
『だから前から言ったじゃん! 今回の炎上異常過ぎてどっかが裏で誘導してるとしか思えないって!』
それどころか兄と一緒に面白おかしく叩かれることになり、日に日にその数は減っていった。
『そりゃこんだけ時間かけて全然逮捕に至らないとか変だと思ってたけど、確かにそもそも進展情報がニュースに上がらない時点で何かしら圧力あったのは納得だわ』
――そんな状況、だったはずなのに。
「どうして、急に……?」
事件に関連するコメントの全体数から見れば、圧倒的な少数であることに変わりはない。しかし昨日までとは明らかにその数も、内容も
一時的に、たまたま同じタイミングで兄を擁護する声が重なった? それにしては兄にかけられた容疑を
つまり兄の殺人犯という
「あの動画? ――これか」
彼らのコメントを確認すれば、その大本はすぐに判明した。
「……『【拡散希望】如月努・上野天誅事件をボロクソに言う【目指せバズリ動画】』……ああ、昨日アップされてたやつ」
雨後の筍のように氾濫している兄や事件を題材にした動画。その中の、つい昨日投稿されたばかりの
投稿者は無名で、しかもコレが始めての動画。タイトルから他の動画と同じような、素人がブームに乗っかってただ事件を面白おかしく話しているのだろうと判断して流したけど、その動画のコメントを読んでいけばやはりココで間違いない。
サムネイルは「蛇の覆面」を被った男が、
動画時間も長くなく短くもない、暇や待ち時間を潰すためにちょっと覗いてみようかと思える時間。まるで「視聴数を稼ぐにはこうすればいい」というネットか本のアドバイスをそのまま実践したかのよう。
タイトルと合わせて考えるなら、バズって目立ちたいと言うより、多くの人に見てもらい、そこから
「……何はともあれ、見てみるか」
さすがに私も内容は見なければ
映像が動き出し、サムネイルそのままの場面で、覆面特有のくぐもった息遣いが聞こえてくる。そうして意を決したかのように。
『――えー、どうもこんにちわ。サムネイルにもあったように、最近みんな注目してる「上野天誅事件」と、その犯人って言われている「如月努」に関して、主に俺の
この画角と範囲は固定したスマホで撮っている。それから手を振りながら、作ったように明かる気な声の調子。この高さと張り、ひょっとして同年代?
後ろに見える白い壁には窓やインテリアなどなく、多分どこかのレンタルスタジオ。徹底して身バレになりそうなものをなくそうとしているのが見て取れた。
そんな風に考察していると、動画に映る恐らくは少年は一度身を伏せ、画角外に準備していたらしい「何か」を手に取ると。
『まず結論――――如月努は無罪! 証拠あり! 証人あり! 警察は事実確認済み! 以上っ!!』
「は?」
あまりの勢いと内容に思わず声が漏れる。
「バンッ」と、ホワイトボードに「無罪」と書かれたマグネットシールを
『どこ
『つーか如月努だけなんでこんなに騒がれてんだよ! 如月努の前にも
『大学も大学でなんで何も声明ださねーんだ! 自分とこの職員が犯人扱いされてしかもそれが冤罪なんだからなんかしてやれよ! それに職員が殺人なんて犯してたら大学の評判にも傷がつくんじゃないのか? それでうちの姉や就活生が出身大学で書類選考とか弾かれたりしたら誰が責任取るんだよ! 来年の受験者数とかにだって影響出るだろ!? 普通に営業妨害で文句言えよ!』
『しかも
『何度でも言うぞ! 如月努は無罪! 無実! 証拠あり! アリバイあり! 警察確認済み! 視聴者の皆さん! どうか理性と知性ある対応お願いします! 良かったらこの動画の内容も拡散してもらいたいです、この意味不明な炎上をさっさと終わらせましょう!!』
大まかな動画の内容はこんなものだった。
確かにタイトル通り上野天誅事件――にまつわる
「っ、なに、これ……」
時折フリー素材だろう効果音が差し込まれこそするものの、ほとんど
「ふふ……くっ……ふふふふ……」
動画の出来はお世辞にも褒められたものではない。視聴数が伸びているのも、今なおタイムラインを賑やかせている事件を題材にしているからだ。
ただ、勢い任せで滅茶苦茶に喋りながらも痛烈に事件を切り捨てる
今までニュースやテレビ番組などで鋭いコメントと呼ばれるものを耳にしても、何かしらの粗や反証を簡単に見つけてしまい、ソレらや口にする人間を面白がる気持ちを全く理解できなかった。
「ぷっ……ぁは…………あははははは!」
なのに……なら……
この湧き上がってくる
警察や周囲の人間にさんざん繰り返してきた、事件当時にアリバイがあり兄に犯行など不可能なこと。それが聞き入れられず、異様なまでに兄に固執する現状の不自然さ。
勝手な憶測で繰り出される妄言や非常識な行動、腹立たしさしか感じない人間の
どれだけ声を上げても。そして今や声を上げることすら許されない現状に、兄や私がどれほど苦しめられているか。誰も、気にもしていないと思っていた。
――ああ。
――
『あ、歩? その、大丈夫、かい?』
「兄さん? ……ああ、ごめんね、聞こえちゃってた?」
『う、うん。そうだね。一応、声をかけない方がいいかとも思ったんだけど、お前があんな風に、その……声を大にして笑うなんてこと久しぶりだったから、何かあったのかと……』
「……うん。あったと言えばあったよ。まあ、見てもらった方が早いから、入ってきてよ」
『そうかい? それじゃあ、お邪魔するね』
「兄さんを邪魔だなんて思ったことは一度もないよ。……いらっしゃい、兄さん」
兄さんを拒むことなんてないから常に鍵など掛けていないけど、
私ですらこんなに
兄さんに席を譲って後ろから一緒に動画を視聴する。それと合わせて、私は今後どういう風にこの動画を“プロデュース”していくか。「頭の中」で相談しつつ、兄さんへ
――
(――――――――――)
「そうだね、コレはちょっと想定外だったな――
「鉄は熱い打て」「思い立ったが吉日」という格言に従い、“あの日”から
ただでさえ世間からの関心度が高い事件として様々な憶測が飛び交い賑わっていたが、その主流となる見解を真っ向から否定する意見が飛び出したことで、SNSを中心に活発な議論が交わされること数日。
もちろん投稿者が自主的に削除したわけではないし、私だって
「
(――――――――――)
「確かに“彼ら”にとっては不運としか言いようがない。“あいつら”の情報を集めるために作ったソフトだったけど、おかげでこの動画を投稿されたその日に見つけることができたんだから」
(――――――――――)
「問題ない。「あいつらの動画」みたいに
わざわざ口に出さなくとも“会話”できるけど、気分がよくつい声にしてしまう。口角も上がっている自覚がある。それだけ
「今まで散々一般人を煽って、こっちを責め立ててきたんだ。なら、私たちが
(――――――――――)
「もちろん足がつくようなヘマはしないよ。“捨て垢”を使うし、何より“それっぽい発言”をするだけで実際に騒ぐのは
原因に“対処”するというのは、問題の解決手段として間違っていない。けど何事にも例外はある。
「見ものだね。彼らがこれからの「
……などと言ったものの。それからの展開は特に波乱もなく、おおよそこちらの想定通りだった。もちろん
【上野天誅事件が知らせる 行き過ぎた動画配信の闇】
【ファイブソサエティ 以前より過激な活動が問題視】
【警視副総監が隠ぺい主導か 不自然な未解決事件多数】
【問われる日本の未来と治安 官房長官が異例の会見】
単なる口からでまかせか、信者の擁護か。はたまた本当に陰謀なのか。それを議論している最中に、あからさまな
けど「オカルト信者が犯罪を犯した」という――色んな意味で腹立たしいけど、世間での認識はそうなっている――のと「警察が暗躍し“何か重大な事実”を隠そうとしている」という話題なら、断然後者の方がセンセーショナルかつ刺激的な
結果、あれだけ兄を犯罪者だなんだと騒ぎ立てた奴らの
兄を見捨てようと、否、生贄にしようとしていた連中は当然のように切り捨てられた。だがその程度で世間からの非難は留まるわけもなく、この数多のニュースサイトに踊るタイトルたちがその証明だ。もちろん、同情の余地もするつもりもないが。
そして指示を出した
様々な掲示板やSNSの投稿を確認するけど、そこに兄について語る人間は一人もいない。タイムラインに兄の名が載ったのは、もう何日も前だ。
…………終わった。ずっと窓や扉を破らんばかりに叩き続けてきた嵐が、ついに過ぎ去った。
そう確信し、重いため息が漏れる。けれど心の内はむしろこの上なく晴れやかだった――――「ある一点」を除いて。
「……ふぅ」
(――――――――――)
「うん。やっぱり、特別
――平坂遊希 16歳 〇〇高校所属 母:パート従業員 父:会社員 兄弟姉妹――
まだ警察の陰謀論と如月努犯人説が
すなわち「動画投稿者は
十中八九どころか九分九厘で大丈夫だと予測していても、一抹の不安をぬぐい切れなかった私は念のため、彼の安否を確認するだけのつもりでハッキングを仕掛けた。仕掛けてしまった。その結果判明した「不可解な事実」。
――彼には動画で散々口にしていた「犬神大学に通う姉」など存在しない。そして「姉」が
最初は他の可能性――“身バレ”に対し
しかしどれだけ
何より疑問だったのが、彼の検索履歴に「私」が――
このことが分かった時、私は背筋が震えるのを感じた。
自分からハッキングしたのを棚に上げて「知ってはいけないことを知ってしまった」と。「振り返ってはいけない」と言われた場所で振り返ってしまったような、悪寒。
(――――――――――)
「分かってるよ。少なくとも彼に、私たちに対する敵意はない。
彼の行動履歴にはどこか“必死さ”が垣間見えた。
加えて彼の「出所不明な知識」とは別に気になるのが、この一連の騒動が始まる前に彼が
『記憶』『混乱』『別人』『前世』『転生』『平行世界』『予知』
これだけ揃えば誰だろうと同じ“仮説”が浮かび上がるだろう。
(――――――――――)
「さすがに最低限のプライベートくらい守るよ。私をなんだと思ってる?」
(――――――――――)
「……それとこれとは話は別。それに、こっちの情報だけ一方に知られてるのはフェアじゃないでしょう」
(――――――――――)
「……煩い。文句があるなら
(――――――――――)
――分かればいい…………さて。兄さんも仕事を再開して忙しくなるし、出来れば嘘もつきたくないから早めに“ボロ”を出してくれるとありがたいけど。
警察の不祥事を始まりとして、大衆は行政や政治家への不満を叫び、複数人の懲戒によって混乱している隙を狙ったのか犯罪率が上昇。治安、ひいては日本そのものへの信用度が低下し、為替や株価にも少なくない影響が出ていた。
“彼”について少しづつ
『確か“如月努が自殺した”のは「三か月後」だったよな?』
口寂しくて頬張っていたスナック菓子を運ぶ手が止まる。
集中したいのに編集中のプログラムが視界に入るのが鬱陶しく、保存も待たず全てクローズする。後でまた書き出せばいい。
彼が時折
なにより興奮している様子の彼は、そのまま
『……事件後か容疑者に上げられてかは“忘れた”けど、どっちみちもう過ぎてるよな……? これは、もう確定でいいのか? いいんじゃないのか!?』
『GR回避! 都市伝説解体センター完! もとい解・体!』
「――――――――――」
何も言葉は出なかった。出す必要もなかった。
かなりの声量だったから叱りつける母親と会話する声が聞こえるけど、これ以上は必要ないだろう。イヤホンを外し、席を立つ。そのままどこか浮ついた足取りで、ベッドへと倒れ込んだ。
少しだけ時間を掛けて仰向けに身体をひねり、早鐘を打つ心臓を押さえつける。興奮か、感動か、恐怖か、それとも
ただ纏まらない思考の片隅で漠然と浮かんできたのは、「兄さんはやっぱりすごいな」という
だって……だって
私にとって「都市伝説」なんてものはあくまで兄さんと会話するためのツールの一つで、あるいはそれを生み出す人間を対象にした行動観察・思考実験の材料。そんな認識は、
今なら少しだけ分かる。民俗学者としての研究はもちろんだけど、それ以上の熱意をもって東西南北を渡り歩き、周りの人から呆れられたり失笑されたりぞんざいな扱いをされて落ち込むことはあっても諦めることはなく、「その存在」を探し続けた。
――会ってみたい。
“未来”を知りたいわけではない。
ただ“彼という
そこまで考えてふと気付く。起き上がり、最低限の身だしなみを整えられるよう置いてある鏡の前に立つ。
実践していないだけで、いわゆるオシャレに関しての知識はもちろんある。今着ている服も多少ルーズだけど別に人前に出られないようなものではないし、クローゼットには兄さんと出掛ける時や、たまにクラスメイトとの付き合いの際に着ていく服なんかも用意してある。
――ただせっかくの「都市伝説の体現者」との対面。ある意味で世紀の瞬間なんだから、
(――――――――――――――――――――! ――――――――――! ――――――――――――――――――――? ――――――――――!)
――……彼に会えるのが楽しみなのは分かったから、もう少し静かにしてくれない? あなたの長話は頭が痛くなる。
(――――――――――)
――……“
(――――――――――)
――そうね、いい名前だと思うよ。「もう一人」の方はまだ先だろうけど。まあ幸か不幸か“兆候”は感じるし、コツを掴めば自力でもいけそうだから、会えるのはそう遠くないでしょうね。
(――――――――――)
――勝手に妹を増やさないで。あなたは……渉は兄さんじゃない。私の兄さんは一人だけよ。
最寄りのバス停から歩く道すがら。
ただ「恐らくこんなものだろう」と思うような服を探すのに少々手間取り、しばらく悶々とする日々だったけど。ついに今日、日の目を見ることになる。
そうして
見た目は普通の一軒家の前に立つ。インターホンに指を伸ばすけど……何故か、押し込めない。
(――――――――――)
――そう、だね。さすがに緊張するよ。それでも、兄さんには教えずに一人で会いに来たのは私の我がままなんだから、ここで怖気づくわけにはいかない。
(――――――――――)
――……ふふ、ごめんごめん。……そうか。確かに、
ピ――ン ポ――ン
ドアの向こうから足音が聞こえる。ソレが近づいてきて、「はーい」という面倒くささが隠しきれていない声と共に、扉が開く。
そこから現れたのは当然だけど、高過ぎず低過ぎない男子の平均的な身長と乱雑に切り揃えられた髪型の、至ってどこにでも居そうな男子高校生――世界で一人だけの、特別な男の子。
彼は最初、“初対面”の
「……………………え?」
呆然とした顔で身じろぎをせず、でも瞳だけは小刻みに揺らしながら。恐らくは無意識の内に「きみ、は……」と呟く姿に思わず笑いが
まるで“お化け”に会ったような反応。自分の方がよっぽど“オカルト染みた存在”のくせに。
何はともあれ。まずは、自己紹介からだよね――――きっとこれから、永い付き合いになるだろうから。
「こんにちは。
遊くん(仮名)あらため平坂遊希
ついに名前を得た主人公くん
名前の由来はそのまま「黄泉比良坂」「幽鬼」
特に意味のない由来だけど、
元々は「プレイヤー=遊者」と一話のコメント()にあった「魔王を光堕ちさせた勇者」から「ユウシャ」くんだったけど、いい感じの漢字を当てられなかったのでこっちになった(「遊」の字は入っているけど、特に〇戯王とは関係ありません)。
自分のプライベートがかなりのレベルで侵犯されているのが発覚し出来れば止めてほしいと思っているけど、「異世界転生()」を経験した自分が特殊だという自覚はあるし、何より止める手段もないので飽きるまで我慢すればいい、最悪「ひみつけしや」に誘拐されて人体実験されたりするよりは
如月歩
「“
滅茶苦茶都市伝説に詳しいけど別に信じてはいない系女子だった彼女だが、主人公との邂逅を経てオカルトガチ勢に。
ただしあくまで「本物」を求めているので、ただの勘違いや多少尾鰭がついたくらいなら許すが、くだらないいたずらや利己的な思惑などで生み出された
オカルト捜索や兄の研究の援助などにかなりの資金が必要になるが、かと言って非合法な手段はとれない(とらない)ので“ちょっと本気で”組んだプログラムを売り込んだらアメリカの某IT企業が高値で買ってくれ、その後も先鋭的なシステムやプログラムを次々と開発、特許化。あっという間に通帳の金額がとんでもない桁数に。
結果的に
廻屋渉
まさかの
その代わりというわけではないけれど。歩が以前よりアグレッシブになったものの、事件の影響で人間不信も拗らせたのでコミュニケーションを伴うフィールドワークなどは押し付けられる任せられるようになり、普通に立って歩ける。
如月努
ある日の会話
「おかえり、歩。おや、そちらは? ――そうか、友達か! いやーついに歩にも自宅に招待するような友達ができたんだね!」+100
「えっ、彼が
「――え? ……転生? 前世の記憶? 平行世界!? 未来の知識!? ――――――Great!! Excellent!! Fabulous!! Brilliant!! あぁ、今までたくさんの人に話を聞いたり資料や情報を集めたりしたけど、こうして実際に「その存在」と対面する日が来るなんて!! 早速だけど、君が記憶を取り戻す時に見たイメージとその後の人格に何か変化があったり自覚できるものがあればぜひ詳細に聞かせて欲しいんだけど――」+1000000…………