四冠(半端者)魔導師 作:息抜き
寒さに手が悴む頃
魔導は使えないものの炎症は治りをみせていた
その間にも学校へ向かい
当たり障りのない存在に徹していた
当てられれば答える、余りに便乗する
想像していたよりも
苦ではないことに驚きを隠せなかった
特に掃除だ
水を井戸から汲み上げ
粗布に染み込ませ隅々まで拭きあげる
濁ったバケツの水を
洗面台へと流す一連の動きは
自らの手で学舎と心を律する
初等部ならではの習慣だ
わしは感心を持っているが
学友はそうでもなさそうである
口々に「キツい」「辛い」
「魔導具ですればいいじゃん」と
怠惰な方向へと流れようとする
若いな
これに楽しさを見出せたのなら
全ての時間が楽しみにー鍛錬へと繋がる
まぁそんなもの知る由もないだろうが
排水溝へと流れていく水の動きには
『蒼や空の成り立ち』すら感じられる
分かち合いたい、この感動を
「いい子ちゃんぶりっ子かよ」
「うむ…」
僕に対する意見が耳に届き
声のした方に目をやる
そそくさと逃げ帰る同学年の者どもの
背中が目に入る
やはり馴染めていないか
他者を害する様な行動や反感を買う行動を
したつもりはないのだが
やはり子供とはそういう物に敏感だ
自身が異物であることは自覚している
しかし、爺が子供の物真似をするのは
気が引ける
僕の記憶がわしにあるように
わしの記憶が僕に返るやもしれない
既に通った道のりを再度通るにはちと味気ない
となればわしにできることはひとつ
身のある経験を積んでやることだ
であるからして交流をするのは
同等の価値観を持った者とで事足りるだろう
問題があるとすれば
それが遥か歳上の者しかおらず
この街には数える程
より理解し切磋琢磨できるものは
皆無というのが現状だ
「うむ、困った」
どうしたことか
『ブレイズ』となったわしには『魔導』を
軸にした経験しかない
…思い返してみれば前世もまた
歳上のものとしか交流を持っていないではないか
これでは申し訳が立たん!
「せ、せめて魔導を、いや今は使えぬ!!」
何という体たらく…
わしは足手纏いにしか"なっていない"な
とほほ
僕は空になったバケツを持って教室へと向かう
「ん?クレア先生」
「あ、ゼノス君、お掃除お疲れ様」
「はい、してその大荷物は?」
「今度、授業で使おうと思ってね」
山と積み上がった羊皮紙の数々
スクロールにプリント、本まであるとは
クレア先生は相変わらず熱心だな
しかし、足元のふらつきを見るに
相当無理をして運んでおられる
「クレア先生、手伝います」
「私は大丈夫ですよ?」
「そう言わずに」
熱心なのは結構だが
説得力のない返答に付き合うつもりはない
バケツを置き、半ば強引に資料の半分を受ける
若い身体というのはいいものだ
足に痛みはない上、目一杯空気が吸える
重心のズレにも強引に対処できるとは
様々だな
◆◇◆◇◆
後ろをついて歩く僕に
クレア先生は言った
「ゼノス君、雰囲気が変わりましたね」
「そう、ですね」
「前から他の子達とは交流を持ってなくて
もしかしたらって思ってたんだけど
私の思い過ごしだったみたいでよかった」
「男子三日会わざれば刮目して見よ
3日と言わず子供は
一足飛びで成長するものですよ」
そう、わしに較の儀を挑んで来たものは
それぞれ成長へのばらつき、こそあれ
確実に成長をしていた
角も才能とは恐ろしいものよ
加えてがむしゃらに進める
若さ故の活力が合わされば
目なんぞ離してなくても成長は一瞬
何と懐かしいことか
「やっぱり、ゼノス君、お爺ちゃんみたい」
「そうですかね?」
「懐かしいな」
気がつけば立ち止まっていたクレア先生は
窓の外を眺めながら呟いていた
何処か物悲しさを感じる横顔に
悩みというより懐古に駆られている
そんな表情だった
「あ、ゼノス君、ここまででいいよ
ありがとう」
「では、僕はバケツを片付けて帰るとします」
「はい、気をつけて帰るんですよ」
「分かってます。先生もお気をつけて」
◆◇◆◇◆
ふと、懐かしい気分になった
教え子のひとりが本好きで良く
おすすめの本と言っては書斎に置いて帰る
気がつけば、わしの書斎を
図書館に変わっておった
刻系統の研究の最中
時間の余るあの時になって漸く手に取れ
1冊1冊を読んでは積み上げた
最期の一冊を読んでようやっと話せる
そう思ったその時には
あやつもおらんかった
ひとりで整理するのも億劫になって
最後は火の中で仇敵と共に灰へと還った
「あの子は今なら生きておるんだったな」
白い精霊が儚く舞う暦を前に
鼻を痺れさせる寒さと共に
今は小さくなってしまった足で
今の我が家へと歩いた