四冠(半端者)魔導師 作:息抜き
空系統初級【ブラックボール】
空系統のボールはちと特殊で美しい
環境に左右される空系統は
環境を参照しないボールの発動直後は
何物も映すことのない黒球が生まれる
しかし、程なくすると周辺の環境を映し出す
今は一面白銀の山林と
《しんしん》と降る白い精霊を映し出した
『寒さ』と『高所』、『木が多い』ことを
示している
環境を反映する鏡の性質を持っているため
空系統を修めようとする者は
これを見て空の動きを学ぶのだ
「ふむ『ランブルクラッシュ』は
威力が食われるな」
わしが考えておった作戦の内
ひとつがイマイチになった
無難にいくかの
「あまねく白の精霊様よ
どうか我が声に耳を傾けたもう」
手のひらを浮遊していた白球が膨張しつつ
その輪郭を山林へと溶かしていった
それに応え、白い精霊が山々へと降りていく
「今一度の逢瀬をここに
願わくば集う者どもへの
接吻を切に願う」
白い精霊の降り注ぎが
より一層の激しさを増し
視界を妨げる猛吹雪へと姿を変えた
「【フロストバイト】」
白い精霊と雪に混じり
霰が混じり始めた直後
僕が追っていた男共はその足を止めた
諦めてくれたかと思いきや
僕の耳がそれを捉えた
「寒さ増すこの時【ヒートスタンス】」
「寒さに今一度の安らぎを【ヒートスタンス】」
これは行幸、男共の中に
魔導師がおるのが分かった
魔導学校、もしくは
協会はぐれであることも
今日日【ヒートスタンス】に
それ程丁寧に魔力を送るのは
パフォーマンスでしかないというのに
非常事態にそれをすると言うことは
魔導の道を諦めたか追放されたか
だろう
いやはや、何とも言えないな
「ふぅ」
しかし、いいことばかりではない
【フロストバイト】を防がれた今
大技のひとつが不発に終わったことを意味する
今のこの身体ではせいぜいが後一度
初級であっても数度が限界と見た
「ならば【アクセル】」
蒼系統による加速で
燃えている荷馬車に急接近する
◆◇◆◇◆
「お姉ちゃん」
「大丈夫よ、毛布にくるまってなさい」
帰省をしようとしたところを狙われるなんて
不幸にも程あるでしょ
運良く山林を見つけたから
距離が離せただけに
馬の足が止まれば捕まる
妹を慰めてはいるけど
泣きたいのは私も同じ
お姉ちゃんに会いたい
「クレアお姉ちゃん」
…!!
屋根の上に何かが落ちた
荷車が重くなった感覚でわかる
雪かも知れない…もしかしたら
「いやだ、いやだ」
一抹の不安が
堰き止めていた涙と共に溢れ出た
まさかあの野盗共が
もう追いついて来たのかと
震える手で手綱を握り
妹だけでも逃さないといけないと
懇願する
「そこな御者」
「お願いします、妹だけでも、どうか」
「このまま進み、開けた場所を突っ切り止まれ」
「お願いします、妹だけでも」
「2人して助かりたいなら聞け」
「お願いします」
「仕方ない【ヒートスタンス】」
「お願い…?」
手綱を握り込んでいた手がほぐれた
身体を覆う暖かい何かが
寒さを打ち消してくれたことが
僅かに感覚で分かる
「もう一度言うぞ
開けた所を突っ切り止まれ」
「は、はい?」
言われるがままに馬を走らせる
程なくして禿げ上がった場所に出た
着いたはいいものの荷馬車が持たず
馬が離れ、荷と妹、私は雪の上に放り出された
「アンナ!」
「お姉ちゃん…」
毛布を脱ぎ捨てている妹に駆け寄る
僅かに感じる暖かさは
私を包むものと似ている
「隠れておれ」
「え?はい!」
気がつけば影が私達を見下ろしていた
声で指示を出してくれた人であることが
分かった
私は妹を抱え、林へと一目散に駆けていく
「あの!あなたのお名前は!」
「はよぉ、行け!」
助けてくれたであろう彼は
答えてはくれなかった