四冠(半端者)魔導師 作:息抜き
冬の雪解け、精霊の海渡
体を刺す寒さが形をひそめ
気がつけば梅が蕾をのぞかせる
学舎の戸が久方ぶりに開く頃
僕は童に混じって向かう
如何に秀でていようと
学舎の出でなければ道がない
今は甘んじて受け入れよう
◆◇◆◇◆
「がしかし【スカウトスコープ】」
授業の内容が内容だ
真面目に聞くにしても
知っていることを忘れようがないことを
反芻するのは流石にだ
【スカウトスコープ】
『ゼノス』
レベル5
緋/12・62
蒼/11・87
翠/15・99
空/09・89
魄/02・97
刻/20・??
『魔力線 51』
「ふむ…」
初等教育は流石に日常の範疇
過程を疎かにしてはならんが
こればかりは足元を掬われることは
先ずない
強いていえば先生の話方に
学びを見出す位しか僕にはできない
結果、魔導の研究に時間を割くことにした
魔物を倒した数日間で増加した
数値を見る限りレベルというのは
『撃破数』ではなく『貯蔵の量』であると
分かった
これは魔物などの生物を撃破した時や
魔力の潤沢な環境に身を置いた時など
魔力を外部から手に入れた際に
体内で保持できている量のことだ
魔導とは
この貯蔵したものから幾らかを拝借し
流用するのだが
いやはや、スカウトスコープを作った者は
余程のせっかちと見える
注意しなければ確かに感じられない成長だが
魔導を使える回数が増えれば
自ずとその成長を感じられるだろうに
周囲を見回し
スカウトスコープを使ってみる
周りを見るにレベル1が
一般的とみて問題なさそうだ
やはり魔導を使う者は早々おらんな
「おや?」
レベル3
確かあやつは親に騎士を持つ奴だが
魔導をしておるのか?
レベル1が乱立するなか
一際大きな数値を持つ『マール』
騎士家系の長男がいた
騎士の中には魔導を使う者も
少なくないが珍しい部類だ
となると環境に
身を置いているだけでも上がるのか
「ふむ、難しいな」
「ゼノス君、何か
難しい問題がありましたか?」
「いえ」
やはり考案者と話がしたいな
◆◇◆◇◆
「はい、お疲れ様でした」
授業が終わるとクレア先生がそう言った
皆が謝辞を述べる中
クレア先生は教室を出て行った
時間にして十数分後に別の内容が始まる
その準備のためだろう
しかし、退屈と言っては申し訳ないが
春の陽気に当てられては
こう、眠くて仕方がない
「ゼノス君、雰囲気変わった」
「大人っていうよりお爺ちゃん?」
「何だか落ち着く」
やはり子供の順応は早いな
奇妙と形容していた皆が今や
一種の珍しさへと変化している
無理して合わせる必要はなさそうだな
「おいゼノス」
「ん?マール殿?どうされた?」
椅子の上で
のんべんだらりとしていたのだが
マールが話しかけてきた
雰囲気からただの話し合いとは
どこか違う雰囲気を感じる
眉間に寄せたシワがそれを如実に表している
「お前最近生意気なんだよ」
「ん〜?」
「とぼけんな!」
机が叩かれ皆が静まる
ふむ、やはりこの手の輩はいるものだ
僕の何かしらが気に障ったのだろう
「身に覚えがないものでな」
「お前〜ッ」
ふむ、何というか
新鮮な気持ちだな
『ブレイズ』を目指したその時から
他人との関わりを絶ってしまっていた身
としては中々新鮮な経験だ
「何笑ってんだよ」
「あぁ、気に障っていたのなら
合わせて謝罪しよう。申し訳ない」
「ッ!!」
う〜む、火に焚べた薪の様な色合いだ
「こいつ!」
「ん?」
振り上げられた拳は机の上ではなく
僕に目掛けて振り下ろされている
謝るだけ無駄ということか?
「【プロテクト】」
威力のつく前に
立ち上がりざまに拳を受け止め
手首を引く、痛めない様に
蒼系統の物理耐性【プロテクト】を掛ける
意図せず踊りのリードを務める体勢になる
「こいつ!」
「何がそこまで気に食わん?」
「ゼノス君、マール君、何してるの?」
「すみません、転けそうになってたので」
「…ッ」
「そうなんですね。気をつけて下さいね」
はてさて、禍根を残すのも後味が悪い
ここはひとつ、有効活用しよう
「放課後に話そうではないか」
「ッ逃げんなよ」
血気盛んで大変よろしい
これが青春という奴だろうか?
これを懐かしむ日が来るのだろうか
まだ肌寒さ残る教室の中で
流れる雲から目を離した