四冠(半端者)魔導師 作:息抜き
アンナに連れられ街を歩く
さて、家も知られている
魔導が使えることも知られている
シラを切るのは無理だな
「警戒しないでとは言えないけど
憲兵などに連れていくわけじゃないよ」
「元よりその心配はしとらん」
ランブルクラッシュの跡地には行っていない
死体が怖いというわけではなく
現場に僕の証拠を残すのは望ましくない
今回の様に聡いものが
僕に辿り着きかねないのだから
「言っておくが商品だった物に
手はつけておらんからな」
「あの子らは元々お土産として
積んでいた物
取られたところで痛手にはならない」
「左様で」
「今からでも取りに行く?」
「生憎と金にはまだ困っていない」
「そ」
そうこうしているうちに一軒の店へと
連れてこられた
「いらっしゃいま…アンナ
いつも言ってるでしょ」
「着替えろ、裏から入れ、愛想良くしろ」
「分かっているならやりなさいよ…」
「はいはい」
ふむ、雑貨商か
品揃えを見るに貴金属を少々
基本的には食料品と
手堅い商売をしている様だ
「まったくって、いらっしゃいま…」
「少し見て回るぞ?」
「ど、どうぞ」
アンナにお叱りをしていた
店主らしき少女が僕を見ると
慌てて体裁を繕ったが
僕の顔を見るなり
何かを察してか固まった
やはり忘れられてはいないか
いやはや、困った
非常に困った
「アンナ、もしかして」
「うん、間違いないよ、本人が認めた」
アンナがこちらをせせら笑っている
近頃の子供というのは狡猾だな
侮りがたし
「あ、あの」
「…うむ」
フローリング材の床
それを叩くブーツの音が数度し
少し離れた所で声が聞こえた
振り向くと先程の店主が
カウンターから出てきていた
「ビビアンといいます。あの時は」
「気にするでない、単なる気まぐれだ」
「それでも」
「それともなんだ、褒びが出るのか?」
「心ばかりではありますが」
「であろう、あまり頭を…今なんと?」
「こちらに来てから日が短いので
硬貨は僅かですが」
「いやいやいや」
《キョトン》とするでない
その反応は僕がするモノだろ
「お望みであればアンナに頼んで」
「安くしとくよ〜」
「アンナ!」
「おぉ怖、退散しよ〜」
お人好しというか何というか
独特な雰囲気に絡め取られる
この店を見るに
貴金属、宝飾品も自前で作っているのだろう
天才姉妹とは恐ろしいな
「あの」
「何かな?」
「お名前を」
おずおずとこちらを伺うビビアンに
向き直り名を名乗った
「ゼノス、魔導師のゼノス」
「ゼノスさん、改めて
ありがとうございました」
「再三言うが気まぐれだ、気にするな」
「ですが」
ビビアンも引く気はないのか
一歩こちらに近寄って来た
礼節の整った中に一際目立つ芯の存在
折れてくれる気はなさそうだ
そう言えばポケットにアレがあったな
「では、こうしよう」
「何でしょうか?」
「この落とし物を『この』物と
交換して貰いたい」
「えっと」
「難しいか?」
「いえ、可能ですが」
「では、よろしく頼む」
「…」
蛇が自分の尻尾を咥えている形をしている
ヘアピンを手に取り
こちらからは
ポケットからいつぞやの
落とし物を取り出し手渡した
『氷のブレスレット』と『口尾のヘアピン』
これらを交換する申し出をした
恩人とて高価な物を対価もなしに
受け取っては店の寿命を潰すだけだ
わしが嫌悪する『食い潰すモノ』と
似た行為は少々憚られる
『氷ノ』と『口尾ノ』とでなら
さして差額は生まれないだろう
「つけても良いか?」
「え?えぇどうぞ」
髪にヘアピンを止める
魄系統の魔力を身体に纏うと
ヘアピンの中にも魔力が通った感覚を
感じることができた
「そう言えば、ここは買いはやっておるか?」
「それは…」
「よいよい、それを聞いて逆に安心した」
となるとやはり他の街に行くことも
考えた方が良さそうだな
ポケットの中身が
ごちゃついて仕方がない
「では、また来ます」
「え?ゼノスさん!」
何やら言いたげだが
既に貸し借りはなしだ
止まる義理はないだろう
僕はそのまま店を出た
今度は客人として訪れるかな
◆◇◆◇◆
「ビビアン?アンナ?お客さん?」
「大丈夫だよ、クレア姉さん」
手渡された氷の腕輪という
珍しい宝飾品を前に固まる
金属ならアンナので見慣れている
けど、これはそれとは違うみたい
「ビビ姉?どしたの?」
「アンナ、これどう思う?」
工房の出入り口からアンナが
顔を覗かせているので
氷の腕輪を見せてみる
「え?何これ気持ち悪」
「ちょっと?」
「いやいや、買いはやめたんじゃないの?」
「ゼノスさんと交換したのよ」
「…魔導師は何考えてるか分からないね」
「どう言うこと?」
「これ見て何も思わない?」
「綺麗だなってくらいしか」
「…へっw」
「ん?」
「取り敢えず
これは売り物にしない方がいいよ」
「ダメなの?」
「懐柔されてるけど
魔物由来の物品だもん、これ」
返されたそれを前に再び固まった
魔物由来というのにも驚いたが
ゼノスさんは平然と着けていた
…少し様子を見ることにしよう
相手に悪意がなくても
環境はそうとは限らない
商人をしててそれは嫌と言うほど
味わったし、慣れた
敬遠するだけでは回らない
氷の腕輪をカウンターに置く
ガラス細工にも見えるそれは
確かに注視すると
何かモヤの掛かった雰囲気を感じた
冬の名残の様な雰囲気の『陰のモノ』
そんな折、お店の扉が開いた
「いらっしゃいませ」
あとで考えることにしよう
氷の腕輪をポケットに入れた