四冠(半端者)魔導師 作:息抜き
「はぁ、はぁ」
ここに一人の少女がいる
ゆらめく金髪に丈の短いスカート
教会墓地近くの木の上で
彼女は今し方起きた事態に呼吸を忘れていた
額に溜めた汗が頬を伝い、やがて顎から
地面へと落ちていった
か細い一呼吸
やっとの思いで息を吸い
興奮冷めやまない震える手で
ハンカチを取り出し、強引に拭った
それでも僅かに時が経てば
再び汗が溜まり始めた
「ッ…、ふぅ」
心臓に手を置き心拍を鎮めんとした
少女は必死に今起きたことへの
理解を深めようと努めるが
薄っすらと開けた瞼
ボケた視界の先に熱い視線を向けてしまう
興奮は増す一方
己の常識外の出来事に
呼吸を鎮めるので精一杯だった
「【スカウトスコープ】」
少女は鳴る歯でそう唱えた
【スカウトスコープ】
『ゼノス』・『無所属』
レベル8
緋/12・62
蒼/12・87
翠/16・99
空/09・89
魄/05・97
『魔力線 101/255↑』
「あり得ないわ…」
熱い視線の先にいるのは
ひとり少年だった
彼に向けた魔導【スカウトスコープ】
蒼系統魔導の『未分類』級
対象の情報を数値として算出するもの
「魔力線が特別太いわけでもなく
かと言って魔物を沢山倒している訳でもない
魔導も覚えたてで素人と言っていい」
少女が数値を見て惚けていた
同年代と比べ勝るとも劣らない成長
それ故に引き起こした事態の非常識さを物語る
「これは是非…?」
少女はある決心をした
そんな時、少年がため息をついた
「覗き見とは感心せんな?」
少年が誰に言うでもなく吐露し
ゆっくりと少女のいる方向に視線を動かした
「え?バレた!?」
葉の賑わう木の上、完全に隠れている
訳でもないながら見通しの悪さがある
しかし、確実に少女を視線で捉えていた
少女は慌ててその場を後にした
◆◇◆◇◆
「ふむ、敵対している訳ではないか」
ゼノスは逃走した気配を森の先に見つつ
ひとりごとを呟いた
彼の手に握られている
『落とし物』を使った魄系統の魔導を
使えば追いつき
問い詰めることもできそうな距離だ
ゼノスはそう思ったが行動には移さなかった
彼は今、やりたいことができた為
虫の居所が非常に良かった
落とし物の『阿吽の宝玉』を
手の中で遊ばせながらゼノスは帰路についた
◆◇◆◇◆
「いらっしゃぁ」
「何をしておる」
「接客〜」
その日の夕方、ゼノスは雑貨商を訪れていた
そこではアンナがカウンターに顎を乗せ
悪びれることなく座っていた
「お姉ちゃんは晩御飯の買い出しだよぉ」
「いや、今日は
工房人であるお前さんに用があってきた」
「えぇ〜面倒くさい」
「お前さんはそれでも工房人か…」
気怠げに言ったアンナに
ゼノスは呆れつつ
『阿吽の宝玉』と『口尾のヘアピン』を
カウンターに差し出した
「宝石が手に入ったのでな、嵌めて欲しい」
「…え、嫌だ」
アンナは目を見開き宝玉を見た後
ゼノスに向き直りそう言った
「そこを何とか」
「…幾らになっても知らないよ」
「…稼がなくてはな」
アンナが渋々了承すると
ゼノスは店を後にした
◇◆◇◆◇
カウンターに置かれた宝玉を見て
アンナは内心、卒倒しかけた
普通の宝石でないことは
見た目で分かったものの
その異質な雰囲気が彼女の
警戒心を逆撫でした
「気持ち悪」
ゼノスが触れていた間は何ともなかった様子
しかし、ゼノスがカウンターに差し出した
瞬間、目の前のアンナに噛み付く勢いで
威嚇をしたのだ
了承をしたはいいものの
触れていいものなのだろうかと
思いつつ、手製の革手袋をつけると
アンナは恐る恐る3品をトレイに移し
自らの工房に降りていった