四冠(半端者)魔導師 作:息抜き
協会長が変わり
わしが協会を去ってから何年たっただろうか?
余りに余った時間の行き着く先は『研究』じゃ
俗世から離れたわしは森の中で工房を構え
『研究』を続けておった
この頃にはわしは【緋】とは
無縁の研究に勤しんでおった
魔導師なら誰もが夢見る『開祖』
わしはそれに指を掛けた状態だった
眉唾ではない、確かな確信があった
「後、少しなんじゃ」
震える手で筆をしかと握り
霞む眼で紙を捉える
絞り出す勢いで魔導式を緻密に書き記していく
【スカウトスコープ】から学んだ着想
『若い衆』から得た信じ突き進む思想
『今の今まで』積み重ねてきた知識と経験
息切れが本格的に危険な域に達したわしの口元に
生暖かい液体が触れ、唇を濡らした
それは顎筋を伝い、あわや紙へと落ちようとした
それを寸でのところで弾いた
『筆先のみ』でだ
老人らしからぬ『反応速度』と『速さ』はわしが
『とある開祖』に至ったことを如実に示していた
「は、はは、やった。やったぞ!!」
思いの外纏まるのが早かったこともあり
余った紙の一部を鼻に詰める
格好がつかんが誰も見ることなんぞ
感極まる最中、わしの老いた蝸牛の一片が
異変を捉えると危険信号を送ってきた
「まったく、これからというのに」
本来ならここで工房を放棄
また新たな地へと赴くのだが
生憎と既に片足を飛ばされてしまっておる
逃げるのは不可能だろう
「いいだろう。欲しくばくれてやる」
死を悟ったわしにはあの世さえも
研究対象でしかなかった
しかし、それとは裏腹に
わしの胸の内に緋が満ちた
触れる空気の一片に蒼を得た
放つ言の葉に翠を添え
歩く度に穿つ地に空を重ねた
わしの全ての内に魄を見出した
「まったくもって」
机に立て掛けていた杖を手に取る
深呼吸をした、次の瞬間
満ち足りた感覚の中に一石が投じられた
工房の扉が強引に叩かれ扉は呆気なく破られた
烏合の衆が次々に入ってきた
それぞれが刃物で武装しておる
「お粗末極まりない」
入ってくるや否や振り上げられた刃を前にわしは
倒れるように重心を前倒し、義足を軸に添えた
刺客の笑みが手に取るように分かるわい
下がったわしの首は投降に見えるじゃろうが
そう容易く首を獲れると思うでない
「【ウロノス】」
跳躍、一足にて懐に入る
【フロウト】ー最も近い敵に翠をぶち当て吹き飛ばす
そ奴の顔は見もので
目を見開き、瞬きを一回、二回
口に含んだ空気と僅かな唾液を吹き出し
「ガッハ!」と小さく漏らしておった
鳩尾の凹みを全身で味わう様は新鮮じゃった
杖で軽く後頭部を抑えると
最も近かった刺客は吹き飛ばされた直後に
顔面から地面との邂逅を果たした
「!?」
「やれ」
「ひ、ふ、み、よ…素晴らしい統率よな」
隊長格らしき者の呼び掛けに直様、抜剣した刺客
統率こそとれ、試運転もそこそこにしておきたいが
興が乗った
「久しぶりの実践と行くかの」
理論との睨めっこを証明するために杖を構えた
「【ディレイ】」
刺客の剣が空中で折れ曲がると同時に砕けた
刺客の技量はそこはかとなく高いようである
剣を失った刺客は
ディレイを掛けた空気にぶつかり変顔を見せた
「【ディレイタルウェーブ】」
困惑の見える他のものに理解する間を与えぬよう
空気の波を打ち出し包囲を吹き飛ばす
使い心地は上々
魔導師との戦いに慣れておらんのだろうか?
「うむ…」
しかし懸念点があるとすれば
次々と迫る刺客を無力化し
死屍累々のなか佇む隊長格に
【スカウトスコープ】を使った
「お主が協会長を、アークメイジ殿を殺したな?」
「…」
「クロードとやら」
わしは静かに怒りを煮えたぎらせた