四冠(半端者)魔導師   作:息抜き

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【スケールシフト】ーその結果

 安心感すら覚える微睡を漂う中

 僅かに届いた声に目を開いた

 

 

 

「ゼノス、早く起きなさい」

 

 

 

 聞き覚えのある声に起床を促された

 久しく聞いていない

 聞くことのできないその声

 

 いや、そんな筈はない

 僕は毎日この声を聞いている

 

《ぐるぐる》と渦巻く思考を振り払い

 体を横倒しにする

 

 視界に入るのは真っ白なシーツだ

 積み上げられた本や

 下ろしたてながら

 乱雑に置いたローブではなかった

 

 

 

「ゼノス?寝てるの?」

 

「む、些か声が高いな?」

 

 

 

 再び聞いた懐かしい声に

 返事をしようとし違和感を受ける

 

 はて?何かが変だ

 

 僕はベッドから身体を起こすと

 慣れているようなそうでないような足取りで

 洗面台へと向かう

 

 身体の軽さを感じている

 いや、あってはならない

 これは失敗よりも悲惨な結果だ

 

 洗面台の前に立ち、鏡面を真正面に

 顔を上げ自らの姿を確認した

 

 

 

「何と!?」

 

 

 

 そこには"こと"もあろうか

 若かりし頃のゼノスが映っている

 違う

 

 僕はゼノスだ

【ブレイズ】貴方ではない

 筈だ

 

 

 

「ゼノス…あら、起きてるじゃない」

 

「!?」

 

 

 

 鏡面に映る僕は、わしじゃない

 自問自答を続ける頭の中にいるのは

 わしであって、僕ではない

 

 相違点を擦り合わせている極限状態の最中

 僕は声をかけられ肩を弾ませた

 

 嫌な汗が吹き出ながら唾を飲み込み

 ゆっくりと振り向いた

 

 大理石の水受けから視線を外し

 壁、扉と視線を動かす

 

 視線の先、わしの記憶より

 遥かに若い母さんが立っていた

 

 何と声を掛ければいい?

 いや、大丈夫だ。それ程難しいことじゃない

 

 再び唾を飲み込み、水受けに腰を預ける

 

 

 

「あ、おはようございます母さん」

 

「?何よ改まって

 早く食べないと遅刻するわよ」

 

 

 

 階段を降りて行く母親を見送り

 脱力をそのままに床に膝までつく

 

 これは、とんだ凡ミスを

 やらかしてしまったのやもしれない

 

◆◇◆◇◆

 

 懐かしいと感じてしまうスープに

 安心感を受けつつ食事を続ける

 

 

 

「母さん」

 

「ゼノス、何泣いてるの」

 

「はて?」

 

 

 

 いつの間にか皿ひとつ分を平らげていた

 空っぽになった皿に《ポタポタ》と

 目から溢れる雫が落ちていく

 

 何が何やら、前後の記憶が曖昧だ

 何が原因でこれが流れているのか

 いよいよ分からなくなって来た

 

 

 

「怖い夢でも見たの?」

 

「いや、とても長い夢を」

 

「うん」

 

 

 

 惚ける僕を母さんが抱きしめてくれた

 花の匂いと香辛料

 柔らかく包まれ《ポツリポツリ》

 寝ていた時のことを紡いでいった

 

 その度に母さんは頷き

 相槌を打ってくれた

 

◆◇◆◇◆

 

「お爺ちゃんになったゼノスね」

 

 

 

 全てを話した

 子供の夢と掃いて捨てることも

 できただろうに真剣な顔で

 何かを考え込んだ

 

 

 

「そうね」

 

 

 

 少し考えた後

 母さんは机を指でなでる

 

 少しの緊張が場を漂う中

 不意に何かを思い出した様に

 母さんは慌て出した

 

 

 

「…もう、こんな時間じゃない」

 

「え?」

 

「学校よ、気をつけていってらっしゃい」

 

 

 

 立ち上がった母さんは

 僕の背中を押すと

 そのまま扉の先に立たされた

 

 

 

「え?」

 

 

 

 ここ、ナナミの街にて

 ゼノスー『ブレイズ』は

 素っ頓狂な声を出した

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