こんにちは、対ホロウ特別行動部第0課です。~新エリー都の影だった少女は、自分探しに行くようです~ 作:俺がいれば、他はいらん
「それで、アンビー。アナタはなぜこんなところに?」
「ホロウの中では人に言えないことの一つや二つあるでしょう」
「つれないですね」
「……あなたの理由を聞かせてくれたら、教えるかどうかを考えるわ」
「では話題を変えましょうか。……見たところ、ホロウには慣れていらっしゃるようですね」
ホロウの中で二人は、周囲を警戒しながらも歩みを進めていた。
時折、シルエットのデバイスにはレトからの通信が入る。どうやら正体不明の民間人と接触したことに、彼は大変ご不満があるようだった。
『ちょっと……その子誰?』
返事をすると怪しまれるので、シカトを決め込むことにして。
通信と被るように、アンビーの返答があった。
「それなりに。でも、むやみに歩き回るわけにはいかない。同僚と再会できれば……」
とそこまで言ったところで、ハッとした顔でアンビーは口を手で塞いだ。今にもしまった! と聞こえてきそうなほどの表情で。
「他にもお友達がいらっしゃるんですねぇ」
「今言ったことは忘れて」
「別に悪いようにはしませんよ」とシルエットは得物の柄をトントンと指先で叩いた。
「(どのみち、ワタシのことは忘れてもらうことになりますし)」
「今、何か言った?」
「いいえ。おっと……」
軽口を返そうと思ったシルエットは、右目の反応に関心を奪われた。音響センサーのわずかな反応は、おそらく銃声……それもライフルの類ではなくピストルのものだ。
その銃声は断続的に続きながら、こちらへと近づいてくる。そして貨物の裏から吹き飛ばされたエーテリアスとともに、音の主が顔を覗かせた。
「おおおおおおお! アンビー!」
一人の知能構造体だった。獅子のたてがみのような毛髪(といっていいのだろうか?)に赤いジャケット。腰回りには、郊外然としたベルトやチェーンなどのゴテゴテした装飾があしらわれている。
彼は嬉しそうな表情で、飛びかかるようにアンビーへと駆け寄った。しかしながら彼女の方は怪訝そうな顔で、何やら詰問している様子だった。『OH〜ハニー』だの『モニカ様』だのと胡乱な言葉の応酬があったあと、彼女は「無事で何よりよ」と言って、次は二人してシルエットの方へと向き直った。
アンビーはビリーに紹介するように、シルエットを指差した。
「この人はさっき、ホロウの中で会ったの。名前はスキアー。……私達と同じく、ワケアリみたい」
だが、ビリーは顔をしかめてキョロキョロと周囲を見回す。
そして、首をかしげながら、白髪の友人の目を見つめて言った。
「おいアンビー、エーテルの侵蝕で幻覚でも見えてるんじゃないか?
その言葉に、彼女はばっと後ろを振り返る。目線の先には、
「それはおかしいわ。私のエーテル適性なら侵蝕症状はまだ出ないはず……問題があるのはあなたの方じゃない?」
「だけどよ、いないものはいないんだぜ? ……アンビー、なんか変なものでも食べたんじゃないか?」
相変わらず、ビリ―にはシルエットの姿が見えていない。
「驚かないでください。ワタシの身体は少々特殊なので、カメラを始めとする映像には映らないようになっているんです」
そう言うと、シルエットはいたずらっぽく笑い、ビリ―への距離を詰めようとする。彼は急に聞こえてきた知らない人間の声に当惑しているようで、その足音への反応が遅れた。
だが、すかさず、ビリーとシルエットの間に刃が差し込まれる。喉元に無骨な刃を突きつけられ、シルエットは冗談めかすように両手を上げた。
「……敵意がないから油断していた。訳ありのホロウレイダーでも、
鋭い眼光が、シルエットを睨めつける。帯電する刀は、容易に彼女の命に手が届くだろう。だが、彼女は表情を崩さない。
「まさか知能構造体がお仲間とは……ちなみに、このまま一緒にホロウを探検するつもりはあるんでしょうか?」
「貴方が私の同僚に姿を見せるつもりがあるのなら」
「……難しい話です。音声はともかく、ワタシは姿を晒すわけにはいきません」
「なら、決裂よ――排除する!」
次の瞬間。
雷光とともに、刀が逆袈裟に振り上げられる。
「あ、アンビー!?」
「ビリー、貴方は下がってて。こいつは私が一人でやる」
土煙を振り払うようにシルエットは後方へ跳んだ。
ヴヴン……と静かなノイズとともに、半透明の鎌を構える。
「面白い武器ですね。ワタシとはあまり相性が良くないと見ました」
そう言いながらも、彼女は足を止めない。
足音なく跳躍。一瞬の交差。刀と鎌の柄が衝突し、火花が散る。
二歩、三歩、金属がぶつかり合う甲高い音。
アンビーの戦闘技術は、シルエットのそれと負けずとも劣らず、両者の力量の差はほぼ互角だった。
「どこで戦い方を習ったんですか? ……自己流ではないでしょう?」
「教える義理はないわ」
「あら……やっぱり、つれないですね」
短い言葉と剣戟の応酬。だが、二人の世界に急遽邪魔が入る。
『そこまでだ、シルエット。……君の目的は金庫だよ』
レトの通信だった。
「正当防衛です。……ですがそうですね。そろそろ金庫の回収に向かわなくては」
「金庫? ……貴方は――」
アンビーが、なにかを言いかけた。しかし、続きの言葉は出てこない。
右目のデバイスから、青い閃光がほとばしる。
それで、勝負は終わりだった。
刀を振るう手がぴたりと止まり、カラン、と地面に転がる。
「アンビー!? ど、どうしちまったんだ、見えねぇやつと急に戦い出したと思ったら、今度は動かなくなっちまった!」
「アナタもですよ、機械人さん。こちらを見てください」
「おいおい、声だけの幽霊姉ちゃん! どういうつもりか知らねえが、このビリー・キッドがちょっと見えないくらいで――」
再び、今度は赤い閃光が舞う。
「な……に、を……」
ビリーは構えた銃を取り落とし、電源が切れたかのようにその場で膝をついた。
「この人たちも、金庫を狙っていたんでしょうか……。さて、と。金庫の回収に向かいましょう」
『君は……なんというか、印象と違って……結構、好戦的だよね』
「そうですか? 先程も言いましたが、正当防衛のつもりだったんですよ?」
武器をしまい、シルエットは歩き出した。
『いいの?』
「何がですか?」
『彼らは……民間人だけど』
「平気だと思いますよ」
平然とした顔だった。
冷酷ではないが、淡白。仕事でないなら、生死は問題ではない。どうせ生きていても死んでいても、彼女のことは覚えていないのだから。
『……ちょっと待って、シルエット』
「なんですか?」
『……物陰はある!? 急いで、どこか影になる場所へ!』
***
*通信レポート No.2210503*
*防衛軍・オブシディアン大隊の無線傍受記録*
『「トリガー」? 聞こえているか』
「聞こえています。こちら『トリガー』。ターゲットを視認しました」
『よし。あと2分で所定の配置につく。合図でターゲットを無力化しろ……状況は?』
「どういうわけか、同行者と戦闘中。何かしらの誤解があったようですが……」
『好都合だ。戦闘が終了した隙を狙え。……全く、暗殺など軍のやる仕事か?』
「大尉、通信は記録されていますよ。……確かに、気乗りはしませんが」
『おっと、そうだったな』
「……戦闘が終了。少し射線が通りづらいですが……作戦遂行は可能です」
『よし。……
*銃声のような音とともに、通信終了*
***
「シルエット!? シルエット!!」
ノイズの走るモニターに向かって、レトは叫んだ。だが、相棒の返事はない。
「……狙撃だ。やっぱりさっきの通信は彼女を狙ったものだったんだ……!」
モニターに繋がっているいくつかの機器と、黒猫の玉偶を小脇に抱え、レトは一人オフィスの部屋を飛び出した。
「ボス、聞こえますか? ……クソッ、ボスにも通じないか……!」
対ホロウ特別行動部第0課。その存在は公にこそされていないが、公権力の間では公然の秘密だった。だからこそ、所属する者は新エリー都の秩序の埒外にあったのだ。
だが、防衛軍がその禁を破った。
正確には、禁が解かれた。
「……なにかあったんだ。僕達0課が、捨てられるような何かが……」
シルエット。0課の情報統制官であり、戦闘員。それが崩されたとなれば、裏方のレトに許されるのは逃げの一択のみだ。異変を察知してか、
久方ぶりの更新ですいません。シルエットは青髪で氷属性で処刑人、みたいなイメージだったんですけど、本編でプロメイアちゃんとかいうまんますぎる子出てきちゃって、どうしよ~wって感じです。