こんにちは、対ホロウ特別行動部第0課です。~新エリー都の影だった少女は、自分探しに行くようです~   作:俺がいれば、他はいらん

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あの子の落とし物を探して その③

「それで、アンビー。アナタはなぜこんなところに?」

 

「ホロウの中では人に言えないことの一つや二つあるでしょう」

 

「つれないですね」

 

「……あなたの理由を聞かせてくれたら、教えるかどうかを考えるわ」

 

「では話題を変えましょうか。……見たところ、ホロウには慣れていらっしゃるようですね」

 

 ホロウの中で二人は、周囲を警戒しながらも歩みを進めていた。

 時折、シルエットのデバイスにはレトからの通信が入る。どうやら正体不明の民間人と接触したことに、彼は大変ご不満があるようだった。

『ちょっと……その子誰?』

 

 返事をすると怪しまれるので、シカトを決め込むことにして。

 通信と被るように、アンビーの返答があった。

 

「それなりに。でも、むやみに歩き回るわけにはいかない。同僚と再会できれば……」

 

 とそこまで言ったところで、ハッとした顔でアンビーは口を手で塞いだ。今にもしまった! と聞こえてきそうなほどの表情で。

 

「他にもお友達がいらっしゃるんですねぇ」

 

「今言ったことは忘れて」

 

「別に悪いようにはしませんよ」とシルエットは得物の柄をトントンと指先で叩いた。

 

「(どのみち、ワタシのことは忘れてもらうことになりますし)」

 

「今、何か言った?」

 

「いいえ。おっと……」

 

 軽口を返そうと思ったシルエットは、右目の反応に関心を奪われた。音響センサーのわずかな反応は、おそらく銃声……それもライフルの類ではなくピストルのものだ。

 その銃声は断続的に続きながら、こちらへと近づいてくる。そして貨物の裏から吹き飛ばされたエーテリアスとともに、音の主が顔を覗かせた。

 

「おおおおおおお! アンビー!」

 

 一人の知能構造体だった。獅子のたてがみのような毛髪(といっていいのだろうか?)に赤いジャケット。腰回りには、郊外然としたベルトやチェーンなどのゴテゴテした装飾があしらわれている。

 彼は嬉しそうな表情で、飛びかかるようにアンビーへと駆け寄った。しかしながら彼女の方は怪訝そうな顔で、何やら詰問している様子だった。『OH〜ハニー』だの『モニカ様』だのと胡乱な言葉の応酬があったあと、彼女は「無事で何よりよ」と言って、次は二人してシルエットの方へと向き直った。

 アンビーはビリーに紹介するように、シルエットを指差した。

 

「この人はさっき、ホロウの中で会ったの。名前はスキアー。……私達と同じく、ワケアリみたい」

 

 だが、ビリーは顔をしかめてキョロキョロと周囲を見回す。

 そして、首をかしげながら、白髪の友人の目を見つめて言った。

 

「おいアンビー、エーテルの侵蝕で幻覚でも見えてるんじゃないか? ()()()()()()

 

 その言葉に、彼女はばっと後ろを振り返る。目線の先には、青髪の女性(シルエット)が、微笑をたたえながら二人を見つめているだけだった。

 

「それはおかしいわ。私のエーテル適性なら侵蝕症状はまだ出ないはず……問題があるのはあなたの方じゃない?」

 

「だけどよ、いないものはいないんだぜ? ……アンビー、なんか変なものでも食べたんじゃないか?」

 

 相変わらず、ビリ―にはシルエットの姿が見えていない。

「驚かないでください。ワタシの身体は少々特殊なので、カメラを始めとする映像には映らないようになっているんです」

 

 そう言うと、シルエットはいたずらっぽく笑い、ビリ―への距離を詰めようとする。彼は急に聞こえてきた知らない人間の声に当惑しているようで、その足音への反応が遅れた。

 だが、すかさず、ビリーとシルエットの間に刃が差し込まれる。喉元に無骨な刃を突きつけられ、シルエットは冗談めかすように両手を上げた。

 

「……敵意がないから油断していた。訳ありのホロウレイダーでも、知能構造体の認識阻害(えいぞうこうさく)なんて厄介なテクノロジーを携帯するようなことはしないわ。」

 

 鋭い眼光が、シルエットを睨めつける。帯電する刀は、容易に彼女の命に手が届くだろう。だが、彼女は表情を崩さない。

 

「まさか知能構造体がお仲間とは……ちなみに、このまま一緒にホロウを探検するつもりはあるんでしょうか?」

 

「貴方が私の同僚に姿を見せるつもりがあるのなら」

 

「……難しい話です。音声はともかく、ワタシは姿を晒すわけにはいきません」

 

「なら、決裂よ――排除する!」

 

 次の瞬間。

 雷光とともに、刀が逆袈裟に振り上げられる。

 

「あ、アンビー!?」

 

「ビリー、貴方は下がってて。こいつは私が一人でやる」

 

 土煙を振り払うようにシルエットは後方へ跳んだ。

 ヴヴン……と静かなノイズとともに、半透明の鎌を構える。

「面白い武器ですね。ワタシとはあまり相性が良くないと見ました」

 

 そう言いながらも、彼女は足を止めない。

 足音なく跳躍。一瞬の交差。刀と鎌の柄が衝突し、火花が散る。

 二歩、三歩、金属がぶつかり合う甲高い音。

 アンビーの戦闘技術は、シルエットのそれと負けずとも劣らず、両者の力量の差はほぼ互角だった。

「どこで戦い方を習ったんですか? ……自己流ではないでしょう?」

 

「教える義理はないわ」

 

「あら……やっぱり、つれないですね」

 

 短い言葉と剣戟の応酬。だが、二人の世界に急遽邪魔が入る。

 

『そこまでだ、シルエット。……君の目的は金庫だよ』

 

 レトの通信だった。

 

「正当防衛です。……ですがそうですね。そろそろ金庫の回収に向かわなくては」

 

「金庫? ……貴方は――」

 

 アンビーが、なにかを言いかけた。しかし、続きの言葉は出てこない。

 右目のデバイスから、青い閃光がほとばしる。

 それで、勝負は終わりだった。

 刀を振るう手がぴたりと止まり、カラン、と地面に転がる。

 

「アンビー!? ど、どうしちまったんだ、見えねぇやつと急に戦い出したと思ったら、今度は動かなくなっちまった!」

 

「アナタもですよ、機械人さん。こちらを見てください」

 

「おいおい、声だけの幽霊姉ちゃん! どういうつもりか知らねえが、このビリー・キッドがちょっと見えないくらいで――」

 

 再び、今度は赤い閃光が舞う。

 

「な……に、を……」

 

 ビリーは構えた銃を取り落とし、電源が切れたかのようにその場で膝をついた。

 

「この人たちも、金庫を狙っていたんでしょうか……。さて、と。金庫の回収に向かいましょう」

『君は……なんというか、印象と違って……結構、好戦的だよね』

「そうですか? 先程も言いましたが、正当防衛のつもりだったんですよ?」

 

 武器をしまい、シルエットは歩き出した。

 

『いいの?』

「何がですか?」

『彼らは……民間人だけど』

「平気だと思いますよ」

 

 平然とした顔だった。

 冷酷ではないが、淡白。仕事でないなら、生死は問題ではない。どうせ生きていても死んでいても、彼女のことは覚えていないのだから。

 

『……ちょっと待って、シルエット』

「なんですか?」

『……物陰はある!? 急いで、どこか影になる場所へ!』

 

 ***

 

 *通信レポート No.2210503*

 *防衛軍・オブシディアン大隊の無線傍受記録*

 

『「トリガー」? 聞こえているか』

「聞こえています。こちら『トリガー』。ターゲットを視認しました」

『よし。あと2分で所定の配置につく。合図でターゲットを無力化しろ……状況は?』

「どういうわけか、同行者と戦闘中。何かしらの誤解があったようですが……」

『好都合だ。戦闘が終了した隙を狙え。……全く、暗殺など軍のやる仕事か?』

「大尉、通信は記録されていますよ。……確かに、気乗りはしませんが」

『おっと、そうだったな』

「……戦闘が終了。少し射線が通りづらいですが……作戦遂行は可能です」

『よし。……撃て(FIRE)!』

 

 *銃声のような音とともに、通信終了* 

 

***

 

「シルエット!? シルエット!!」

 

 ノイズの走るモニターに向かって、レトは叫んだ。だが、相棒の返事はない。

 

「……狙撃だ。やっぱりさっきの通信は彼女を狙ったものだったんだ……!」

 

 モニターに繋がっているいくつかの機器と、黒猫の玉偶を小脇に抱え、レトは一人オフィスの部屋を飛び出した。

 

「ボス、聞こえますか? ……クソッ、ボスにも通じないか……!」

 

 対ホロウ特別行動部第0課。その存在は公にこそされていないが、公権力の間では公然の秘密だった。だからこそ、所属する者は新エリー都の秩序の埒外にあったのだ。

 

 だが、防衛軍がその禁を破った。

 正確には、禁が解かれた。

 

「……なにかあったんだ。僕達0課が、捨てられるような何かが……」

 

 シルエット。0課の情報統制官であり、戦闘員。それが崩されたとなれば、裏方のレトに許されるのは逃げの一択のみだ。異変を察知してか、課長(ノワール)執行官(チェンバレン)も、すでにオフィスからは姿を消していた。

 




久方ぶりの更新ですいません。シルエットは青髪で氷属性で処刑人、みたいなイメージだったんですけど、本編でプロメイアちゃんとかいうまんますぎる子出てきちゃって、どうしよ~wって感じです。
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