こんにちは、対ホロウ特別行動部第0課です。~新エリー都の影だった少女は、自分探しに行くようです~ 作:俺がいれば、他はいらん
影なき影の居場所 その①
ぱちり。
シルエットが目を開けると、薄暗く無骨な照明と、剥き出しの鉄板で作られた天井が目に入った。
「……知らない天井ですね」
どうやら簡易ベッドに寝かされているらしく、ベッドとは名ばかりで、シーツもなければ毛布もない。身を起こそうとすると、腕のあたりに何か細い紐のようなものが纏わりついていた。点滴のための細いチューブだ。だが、その先の注射針は彼女の腕には刺されていない。
「(医療処置のあと……)」
体に目線を向けると、気絶する前まで着ていたはずの黒い制服から、薄手のガウンのような服に着替えさせられていた。手術着、のようなものだろうが、彼女の体には手術痕は残っていないようだった。
腕に巻き付いたチューブを適当にほどいて床に放り投げ、彼女は周囲を見渡した。
右目に違和感がある。普段着けている
「……神経接続してるんですから、勝手に外さないでほしいんですけど……」
と、彼女は不快感をあらわにする。
侵蝕を受けた右目は、生身ではほとんど機能していない。ベッドの脇にある点滴用のスタンドに掴まろうとして、指が空を切る。半ば滑り落ちるように立ち上がると、スタンドを杖代わりに、彼女はこの”病室”の探索を始めた。
鉄格子のはまった小窓からは青空が見える。肌を刺すようなエーテルの不快感がない。どうやらここはホロウではないらしい。
明かりは窓から差し込む陽光と、今にも切れそうな白熱電球のみ。耳を澄ますと、換気扇の鈍いモーター音の向こう側から、かすかに人の声がする。あと分かることと言えば、床のほこりの積もり方から、最近人や物の出入りがあったこと……くらいか。
「……まずは、目の回収からですかね。このままだと、どうにも不愉快です」
そう言って、唯一の出口であるドアにふらふらと近づいた瞬間だった。
彼女が開けるより先に、ドアが横に滑り、廊下の光がなだれ込んでくる。思わず彼女は顔をしかめた。
「やっほ~」
気の抜けるような声とともに現れたのは、ボディラインに沿ったシースルーのミニワンピースを着た、風変わりな少女だった。このような無骨な施設には似つかわしくない、天真爛漫な笑顔。編み込んだ青い髪が体の動きに合わせて揺れている。
「目が覚めたみたいだから、僕が様子を見に来たよ~」
と、少女はシルエットに言った。
「どちら様ですか?」と、シルエットは自分でも間抜けな質問だなと思いながら問う。
「ん~、ここで自己紹介もいいけど……僕、君を尋問するように隊長に言われてるんだ~。だから、座って座って~。僕も椅子を持ってきたから、おしゃべりしよう」
そう言うと、少女は廊下から椅子を引っ張ってきてベッドの前に起き、どさりと腰掛けた。
「まあ、そういう話なら……流れに身を任せるしかないみたいですね」
つられるように、シルエットもベッドに腰掛けた。
彼女が素直にこの青髪の少女に従ったのには様々な打算と理由があるが、最も大きかったのが、その少女の背後に、わずかに見える「武装」だった。
「(この距離で見るまで、存在に気が付きませんでした……相当なステルス技術……かろうじて見える輪郭から察するに、人型の……ロボット? 今のワタシの状態では、逆立ちしても勝てないでしょうね……)」
反抗の手段はない。自分がどうやって捕らえられたか、シルエットはよく覚えていないが、無理に逃げ出そうとすれば今度こそ致命的な事態に陥るだろう。彼女はしごく冷静だった。
「それで、何から聞きたいんですか?」
「え~っとね、質問のリストをもらってるから、上から訊いていこうかな。まず……君の名前は?」
「……」
シルエットはいつもの偽名を言いかけて、ふと思考を巡らせる。
「答えてもいいのですが、その前にひとつだけ訊いてもいいでしょうか」
「質問によるかな~」
青髪の少女は、そのふわふわとした言動とは反対に、警戒を崩さない。
「アナタの所属を教えて下さい」
「ん~……」と一瞬少女は考え込み、「まあ、それくらいなら教えても大丈夫かな。僕は新エリー都防衛軍、オブシディアン大隊オボルス小隊所属。みんなからは『シード』って呼ばれてるよ。はい、次は君の番」
その返答で、シルエットは答えを決めた。
「……ワタシは『シルエット』。対ホロウ特別行動部……第0課に所属しています」
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