こんにちは、対ホロウ特別行動部第0課です。   作:俺がいれば、他はいらん

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影なき影の居場所 その②

 シルエットの答えの後、数秒の沈黙があった。 

 

「えっと~……僕が覚えてる限りでは、対ホロウ特別行動部は1課からだったと思うんだけどなぁ~」

 

 シードは感情の読めない平坦な笑顔を崩さなかったが、言葉の節々には若干の動揺が見て取れた。

 

「ご存知ないでしょうが、それで結構。……誰にも知られるべきでない機関でしたから。しかし、ワタシがアナタ方に捕縛されているということは、機密保持契約は無効になったと解釈していいかと思いまして」

「知られるべきでない機関……君たちが?」

「我々ゼロ課は、新エリー都の影。とある要人の懐刀として、あらゆる執務をこなしました。その中には、人道に(もと)るような行為も含まれています。人類最後の、希望の都市なんて、そんな言葉が笑えてしまうくらいの」

 

 シルエットは、自分でも驚くほど饒舌になっていることに気づくと、自嘲気味にため息をついた。シードはそんな彼女の独白を、神妙な顔で聞いている。

 

「ですが、そのような行為も、権力の名のもとに黙認されてきた。……すべてを影の中でこなすことは不可能でした。バレエツインズ侵蝕、赤牙組の学会襲撃、ヴィジョンコーポレーションのスキャンダル――ああ、これはまだ表沙汰になってはいませんが……新聞の一面を飾る事件に向けられたスポットライトにも、決してワタシ達は照らされないはずでした」

 

 顔を上げ、シルエットはにこやかに、しかし冷たい目で、シードを見つめる。

 

「ですが、それも今日で終わりです。市政は……メイフラワー家は我々を切り捨てた。どういう理由かは分かりませんが、これは我々影への裏切りに、他なりません」

「……裏切り~?」

 

 シードは相変わらず感情の読めない、機の抜けるようなトーンで話す。

 

「えぇ。そして、裏切りは死を意味します」

 

 言葉と、シルエットの鋭い蹴りが同時だった。

 

「……!」

 シードはとっさに立ち上がり、華奢な腕でその蹴りをガードする。キックボードごと蹴り飛ばされた彼女を、何もないように見えた空間から、突如現れた無骨な鉄の腕が受け止めた。

 

「どういうつもりなのかな。……変だと思ったんだ、捕虜を拘束しないなんて」

「さぁ。少なくとも、ワタシにとっては幸運でした」

 

 キュガッ!!!!! という轟音。コクピットに乗り込んだシードが、人型兵器の拳を振り下ろした音だった。

 通称「ビッグ・シード」。シードの愛機であり、相棒でもある、特別な意味を持つ知能構造体。その武装は人一人を鎮圧するのには十分すぎるほどだったが、狭い部屋の中では、その巨体が仇となった。振り下ろした拳は、シルエットのみならず施設の壁ごと破壊してしまう。

 シルエットは辛うじてその拳を躱し、空いた風穴から躊躇なく飛び降りる。

 

「……おっと、ここ三階じゃないですか」

「待て~! 『ビッグ・シード』、追跡開始~」

 

 後に続くように巨体が迫り、シルエットの身体に影が差した。落下しながらわずかな窓枠の取っ掛かりに手をかけ、勢いのままに窓を蹴破る。再び建物の中に舞い戻った彼女は、その部屋にいた数人の兵士が戸惑っている一瞬の隙を逃さない。

 

「こちらは第ゼロ課の『情報統制官』です。大人しく投降しなさい……生きている者は、ね」

 

 受け身の姿勢からの足払い。転倒した兵士のこめかみに強烈な一撃を食らわせ、ホルスターから銃を抜き取る。1発、2発。乾いた銃声とともに二人の男が倒れる。

 けたたましい警報が鳴り始めたのは、『情報統制官(シルエット)』が行動を開始してから、30秒後のことだった。部屋から廊下へと飛び出すのと、「ビッグ・シード」が強引に壁を引き裂くのがほぼ同時。コックピットから転がり出たシードは、すでにシルエットを見失っていた。

 

『「シード」? 無事ですか』

 ありゃ、と開放的になった部屋で立ち尽くしている彼女へ、仲間から通信が入る。捕虜の脱走という一大事でも、大人びた静かな声。オボルス小隊のスナイパー、「トリガー」だ。

「僕は大丈夫~。それより、もう何人かやられちゃったみたい」

『おい、何をやってる! クソッ、私が尋問を担当していれば……!』

 無線越しでも厳格さが伝わってくる。隊長の「鬼火」だ。後ろで「でもでも、拘束をしないように言ったのは鬼火隊長でありますよねぇ……わぁ! や、やめてください!」などとゴニョゴニョ言っているのは、「オルペウス」だろう。

「隊長~、すでに捕虜は見失っちゃったよ? すっごく逃げ足が早いんだ。それに、屋内だと『ビッグ・シード』はあまり役に立たなくて……」

『外で待機だ、「シード」! ……中の制圧には私とオルペウスが出る。「トリガー」は「シード」の援護に回れ』

『室内戦には心得がありますが』

『奴は必ず外に出る。包囲するほうが確実だ! 後ろから我々が、前からお前達が迎え撃つ形にする! 作戦は以上、行動開始!』

『……了解です』

「了解、隊長~」

 

 ***

 

「……ワタシ、全然冷静じゃないですね」

 

 追手を適度に巻きながら、シルエットは自らの装備を取り戻すために施設内を駆け回っていた。

 幸いなことに、奪った拳銃は装填数の多いタイプ。一撃も外さなければ、一丁で20人殺すことができる。そして、ゼロ課の構成員にとってみれば、それは非常に簡単で、シンプルな話だった。

 

「流石にこの人数を相手にするのは非合理的ですが……これが復讐の炎という奴なのでしょうか?」

 

 乾いた銃声にかき消されるくらいの声で、彼女は呟いた。

 尋問を受けるまでは、確かに冷静だったのだ。だが、市長の”裏切り”を自覚したその時、何か仄暗い衝動が、彼女を突き動かした。

 闇雲。脱走の成功率は限りなく低く、装備の回収などもっと難しい。しかし、やるしかなかった。

 

「(長いこと身につけていたせいか、デバイスの位置はなんとなく感じ取ることができます。おそらく上、ワタシが囚われていたのと同じフロア。武器もそこにあれば好都合なのですが)」

「止まれ!」

 

 鋭い声とともに銃声。とっさに物陰に隠れ、少しだけ顔を出して3発、引き金を引く。銃声は止

んだ。

 

「さて、上に向かいますか」

 

 近場の階段を駆け上る。どうやらこの施設に配置されていた人員はそう多くはないようだ。階段でも、目的地までの通路にも、すでに兵士はいなかった。

 違和感。

 

「誘い込まれている? まさかね」

 

 目的の部屋のドアにはロックがかかっていなかった。蹴飛ばすように開くと、そこは武器庫だった。そして、目的のデバイスと、自らの得物が、まるで差し出すように、分かりやすく置かれていた。

 部屋をクリアし、シルエットはデバイスを手に取る。右目に押し当てるように装着すると、ようやく片目だけの視界に奥行きが生じる。急激な変化に少しめまいがしながらも、彼女が部屋を出ようとしたその時だった。

 

「待て」

「……軍人にしては、ずいぶん甘いんじゃないですか? このワタシと一騎打ちがご所望とは」

 

 シルエットの背中に、冷たいものが押し当てられる。

 両手をゆっくりと上げ、後ろを伺うと、そこにいたのは赤髪の軍人だった。だが、声を発したのは彼女ではなく、彼女から尻尾のように伸びている、奇妙な喋る銃だった。

 

「殺すなと指示が出ているのでな。そうでなければ隙だらけだった」

「しかし、本当にそうでしょうか?」

「……厄介なやり取りは御免だ。投降しろ。今ならまだ――」

「いいえ、無理な話です。……だって、アナタたちはワタシのことを、覚えていられないから」

「は? ッ! 何を――オルペウス!」

 

 ダン! と銃声が響く。シルエットの左の胸元のあたりに、激烈な熱さが走る。それでも、彼女は立っていた赤髪の軍人と目を合わせ、右目のデバイスを起動した。

 

「覚悟でありま――」

 

 閃光とともに、動きが止まる。

 

「おい、オルペウス!? 貴様、なぜ撃たれたのに」

 

 喋る銃――「鬼火」は、気を失って倒れるオルペウスを庇うように動き、シルエットと対峙する。彼女の胸からは赤黒い血液が流れ出ているが、気にする様子も苦しむ様子もない。彼女は淡々と言葉を続ける。

 

「知能構造体にもこの方法は有効なはずなのですが。……まだデバイスの調子が戻ってないのか……しかしこの際どうでもいいでしょう」

 

 再び閃光。今度は赤い光が瞬き、喋る銃も沈黙した。

 

「ワタシ、撃たれたくらいじゃ止まりませんから。……それに、肺や心臓なんて、一番最初に代替可能にすべき急所でしょう? ……聞こえてないですかね?」

 




大変遅くなりました。三か月前て……
ver3.xも始まりそうで、かなりワクワクしながらゼンゼロをプレイしています。
メインストーリーも早く続き出してくれ! 
僕も、こちらの続きをお届けできるようがんばります。
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