こんにちは、対ホロウ特別行動部第0課です。~新エリー都の影だった少女は、自分探しに行くようです~   作:俺がいれば、他はいらん

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0課行動記録
プロローグ


 ホロウ事務・無害化対策局──通称H.A.N.Dには、世間に知られていない、極秘の部隊が存在している。

 

 小雨が降るある日のこと。退屈なインターノットに、一件のスレッドが投稿された。それは投稿されてすぐに、数人の閲覧者の目に止まったが、ほどなくして削除されることとなった。

 

 六分街の古いアパートの一室。その投稿をした「彼」は、自分の投稿履歴を見て首をかしげた。

 

「あっれ~、おかしいな。消えちゃった?」

 

 フォーラムのトップにはもちろん、彼の投稿履歴にも、そのスレッドは残っていなかった。

 当然、削除したのは彼ではない。

 

 もう一度、キーボードを叩いて同様の内容を送信してみる。しかし、それは彼の困惑をさらに深めることになった。

 

「そ、送信失敗? おいおい、回線落ちかよ。そろそろここも引っ越しだな……」

 

 ぼやき、彼が不調を直すために立ち上がったときだった。

 

 ピンポン、と玄関のチャイムが鳴る。

 

「……あ? こんな日に誰だ……?」

 

 訝しみながらも、彼は玄関の扉を開けた。

 それは油断だった。

 なごやかで治安のよい、静かな六分街で、なにかが起きるはずがない。

 それは慢心だった。

 自分が危険なことなんかに巻き込まれるわけがない。

 

 彼の投稿した情報は、なんてことはない、彼の妄想だった。

 ホロウと隣合わせの奇跡の都市、新エリー都。そんな都市の影に、ちょっとした彩りを加える単なるスパイス。

 だが、そのスパイスがお気に召さない者が、この都市の影には潜んでいる。

 

「どちらさん?」

 

 扉を開けた彼は、そこに立っていた奇抜な格好の少女に面食らった。

 まだ年若い少女だ。10代にも、20代にも見える。

 腰まで伸びた水色の髪が、ビル風に吹かれてふさりと揺れる。

 そんな目立つ髪色にもかかわらず、彼女はまるで影のようだった。

 

 喪服のような黒い制服に身を包んだ彼女は、その右目に取り付けられたモノクル型のデバイスから奇妙な機械音を発しながら、口を開いた。

 

「あなたのインターノットにおける投稿について、お話を伺いに参りました」

 

「は?」

 

「先ほどの投稿についてです。あなたはどこで『零課』を知りましたか?」

 

「い、いや、えっと……」

 

「答えられないのですか?」

 

 彼が言葉に詰まると、少女は一歩前に踏み出す。

 彼が玄関の扉を閉めようとすると、それを遮るように足を挟み、扉の隙間から彼女はじっと彼を見つめる。

 

「もう一度、問います。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ち、違うんだ! こっ、これは、俺の妄想で……」

 

「妄想……?」

 

「ああ、そうだ。あっ、あんた誰なんだ? ち、治安局呼ぶぞ!」

 

 少女は少し考え込むような素振りを見せ、やがてこくりと頷く。

 そして、耳元のインカムに囁いた。

 

「ただの嘘だったみたいですよ、『課長』」

 

 彼は、そんな少女のことを呆然と見ていた。

 二言三言、インカムの向こう側の相手と言葉を交わし、そして少女は相変わらずの無表情で、彼女は謝罪の言葉を述べた。

 

「すみません、なにかの手違いだったようです。ご迷惑をおかけしました」

 

「はぁ……あんた、なんで俺の投稿だって……」

 

「企業秘密です。インターノットの匿名性は、それを作った誰かによってのみ担保されているということをお忘れなく」

 

「なんだ、そりゃ……いや、ちょっと待て」

 

 彼は、勘のよい男だった。

 

「まさか、本当にあるのか? ──H.A.N.Dには、そんな隠し玉が」

 

「シー……」彼女は細い唇に、人差し指を当て、囁くように言った。

 

「嘘は、ご自由にどうぞ。しかし真実は、ときに自由ではありません。……さようなら、()()()()()()()

 

 そして、モノクルが一瞬、光る。

 

 気づけば、少女の姿はなかった。

 雨が、一層強くなってきたようだった。

 

 彼は、玄関で立ち尽くし、そして呟く。

 

「……あれ? なんで俺、玄関開けてるんだっけ……?」

 

 ***

 

『お疲れ様、「シルエット」。まあ、とんだ無駄足だったようだけれど?』

 

「ええ、本当に。帰ったら「レト」をしばきます。帰りにリチャード・ティーミルクに寄っていきますけど、なにかいりますか?」

 

『それじゃあ、コラボメニューの星芋ぷるっぷるをお願い』

 

「正気ですか、課長?」

 

『至って正気よ。それじゃ。戻ったら次の仕事があるから、そのつもりで』

 

 そう言うと、通話は一方的に切断された。

 

「まったく。人使いの荒いお人です」

 

 彼女──「シルエット」はぼそりと不平を述べ、ルミナスクエアの名物カフェ、リチャード・ティーミルクのカウンターでとびきり甘いミルクティーと、得体のしれない飲食物を購入した。

 

 ***

 

 ホロウ事務・無害化対策局──通称H.A.N.Dには、世間に知られていない、極秘の遊撃部隊が存在している。

 それはメイフラワーの懐刀でもあり、H.A.N.Dが防衛軍やTOPSに対抗するための秘密兵器でもある、規格外の精鋭たちの集まり。

 

 彼女らの計略は決して露見せず、彼女らのことを知る者は、新エリー都のすべてを知る者たちをおいて他にない。

 奇跡の都市のまばゆい光の裏に隠れた、無数の影のうちの一つ。

 

 対ホロウ特別行動部第零課、と。

 

 創設者のみが閲覧できるデータベースには、そう記されている。

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