こんにちは、対ホロウ特別行動部第0課です。~新エリー都の影だった少女は、自分探しに行くようです~   作:俺がいれば、他はいらん

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前夜×遭遇×失敗 下

『侵入者を発見、研究所内のセキュリティロックダウンを実施します。スタッフはその場に留まり、対応チームの報告をお待ち下さい。繰り返します。研究所内のセキュリティロックダウンを──』

 

 アナウンスが響く。

 傍らには、先のEMPグレネードによって機能不全に陥った同僚の玉偶である黒猫と、治安官が倒れていた。

 

「……なんでこんなことに?」

 

 シルエットは、自分が信じられないでいた。

 

(治安局と内輪もめした挙げ句、見え見えの制圧に対応できず気絶……?)

 

「……信じられません」

 

 ゆっくりと体を起こす。まだ足はふらつくが、それでもなんとか立ち上がることができた。

 部屋の中はひどい有様だった。ひしゃげた金属の扉の破片がそこら中に飛び散り、崩れかけた天井からはパラパラと建材の欠片が落ちてきている。

 自分たちが無事だったことが信じられない荒れようだ。

 

「どうやら、赤牙組にも仁義はあるようですが……女子供には手を出さない主義なのか、それとも、我々の制服を見て合理的な判断をしたのか……」

 

 彼女は、部屋の中央へと目を向ける。

 

「しかし、仕事は失敗です。……設立以来の大失敗」

 

 中央の台座には、もう何もなかった。

 防衛対象の金庫は、すでに持ち去られたあとらしい。機能不全に陥った右目のデバイスを何度か叩くと、セーフモードで再起動する。

 時計を見ると、赤牙組の突入からすでにかなりの時間が経過していた。

 

「……もしもし、聞こえますか『レト』。……もしもし?」

 

 黒猫の玉偶は動かない。どうやら、完全に破損してしまったようだ。持ち帰って修理する必要があるのだろう。

 

(無理もないでしょうね。相当強力な電磁パルス(EMP)だったようだし……そういえば、青衣とかいう治安官は……)

 

 ふと思い出し、未だに気絶したままの青衣に駆け寄った。

 

「……?」

 

 彼女の様子は妙だった。肌に触ってみると、人肌とは思えないほど冷たい。

 その感触も、どこか違和感があった。そういえば、と気になって、シルエットは青衣の足のほうへと手を伸ばす。

 彼女の太ももには、機械の接合部のような部位があったはずだ。確認してみると、その接合部が──ちょうど、火花を散らしていた。

 

「……生きていますか?」

 

「セーフモードで再起動中……はっ、『シルエット』殿か。……不覚を取った」

 

「ええ、お互いに。……あなたも、玉偶なのですね?」

 

「おお……隠していたわけではないのだが」

 

「いかがでしょう、先の攻撃でなにか異常はありますか?」

 

「問題はないぞ、いくつかの機能が損傷してはおるが……動くのには支障ない」

 

 青衣もゆっくりと立ち上がる。

 

「とにかく……お互い、仕事は全うできなかったみたいですね」

 

「で、あるな。仕方がない、此度は引き上げるとしよう」

 

「青衣さんのお仲間は? 上はやけに静かですが……」

 

「今回の現場には、特務捜査班は我一人が派遣されたのだ。助けは呼べていないが……心配性の班長殿が、そろそろ助けに現れる頃ではないか?」

 

「そうですか。……では、わたしは早めに失礼します」

 

「左様か。……ああ、事情があるなら仕様がないか」

 

「ええ。あ、その前に……」

 

 シルエットは、右目のデバイスを軽く叩いて操作する。

 

「青衣さん、これをよく見てください」

 

「……? その目がどうかしたのか?」

 

「この度は、我々にご協力いただき感謝します。最も次にお会いするときは、()()()()()()を言い合うことになると思いますが」

 

「何を──」

 

 ぱしっ。

 右目が一瞬、まばゆく光る。

 

「さようなら、小さな治安官さん」

 

 ***

 

「先輩! 無事ですか!?」

 

 瓦礫まみれの部屋に飛び込んできたのは、きちんとした身なりの治安官だった。

 

「……? おお、朱鳶よ。一足遅かったな、すでに……悪党は去ってしまったようだ」

 

「全く、先輩はいつも無理ばかりして……どうして一人でこんなところにいるんですか!? 先輩になにかあったらと思うと……!」

 

「はて、一人……?」

 

 青衣は首をかしげる。

 きょろきょろと周囲を見回すが、確かにここには()()()()()()()()()()()()()()

 

「……先輩?」

 

「いや……誰かとともに行動していたような気がするのだが……」

 

 ***

 

 建物を脱出したあと、シルエットは黒猫を抱えたまま、夜の道を歩いていた。

 先月頻発したホロウ災害の影響か、はたまたここら一体にはびこるギャングの仕業か、街灯は故障し、月光が夜道を照らしている。

 ここは十四分街。

 スラム街同然、「人の住む場所とは思えない」とまで言われる、新エリー都の中でも最も危険な街。

 そこにある、廃墟のようなアパートの一室、それがシルエットの自宅だった。

 

「ただいま……」

 

 きぃ、と古びたドアを開け、真っ暗な部屋に電気をつける。

 ほどよく片付いた、生活感のあるワンルームの部屋。

 

「やはり、自分の家が一番落ち着きますねぇ」

 

 放り出されていたリモコンでブラウン管テレビのスイッチを入れると、先ほどの襲撃事件が速報として報じられていた。

 それを流し見ながら、シルエットはソファベッドに身を投げだした。

 

「いっ……あーあ、もしかしたら折れてるかも……あの攻撃はなかなか強烈でした」

 

 目をつむり、今日の出来事を思い出す。

 彼女は、『記憶』を重んじている。

 秘匿された課の"情報統制官"として、彼女は右目を介して人の記憶を刈り取る。

 彼女らは、決して知られてはいけない新エリー都の影。だからこそ、それは忘れられなければならない。

 しかし、記憶を奪うことに罪悪感がないといえば、それは嘘になる。

 だからこそ、彼女は思い出すのだ。

『記憶』を奪った者の責務として。

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