こんにちは、対ホロウ特別行動部第0課です。~新エリー都の影だった少女は、自分探しに行くようです~   作:俺がいれば、他はいらん

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めっちゃ更新遅れました。二ヶ月前!?


あの子の落とし物を探して その②

 ザリザリザリザリ! というアスファルトが削れる音。シルエットは得物──半透明の刃を持つ鎌の先端を地面に突き立て、()()()()()の勢いを相殺した。慣性を殺し切ると、彼女は態勢を立て直して額を拭う。

 

「ふう、ホロウに入るこの瞬間が、一番気分が悪いですね……」

 

 柄を回転させるようにして鎌を収納すると、周囲を見渡した。どうやら廃棄された列車の駅のようで、そこかしこに貨物が山積している。放置された車両の窓は割れ、ひどいものでは横転しているものさえあった。

 

「クリティホロウ内部……廃棄された地下鉄分岐駅ですか。さて、で、目標までの道のりは?」

 

 右目のデバイスを通じて、レトとの通信を試みる。いくばくかのノイズのあと、いつも通りのおどおどした少年の声が聞こえてきた。

 

『数分前……赤牙組の拠点ビルで、大規模な爆発があったみたい。中継の、映像とか、動向を見てみると……多分、治安局の攻撃、なんじゃないかな。そこから、治安局のヘリの映像を見てみたんだけど……金庫も一緒に吹き飛ばされて、やっぱりホロウの中だね。場所は現在探索中。S.S.Dの処理速度次第だけど、このままならあと5分で分かる、はず』

 

「そうですか。それまでワタシに暇していろと?」

 

『それから……先程の爆発で、何人か一緒にホロウに落ちたのを確認してる。民間人かもしれないから、できる限りで救助活動を行ってほしい。それじゃあ、また連絡する』

 

 そこで、一旦通信は途切れた。

 

 ギャオオオオオオ──!!!!!

 レトとの通信が終わるのを見計らったかのように、鳥とも猛獣とも似つかない、けたたましい咆哮が響いた。直後、廃棄車両の扉や窓を蹴破るようにして、異形の怪物が数体、彼女の前に姿を見せる。

 エーテリアス。ホロウによるエーテル侵蝕を受けた、哀れな生物の成れの果て。ホロウ表層と同様の色をしたコアを持ち、ホロウに立ち入るものたちに襲いかかる化け物だ。

 

 エーテリアスとの遭遇は、ホロウ内部での死因の大半を占める非常事態である。

 だが、彼女にとっては──あるいは、対ホロウ特別行動部(H.S.O)の実働部隊にとっては、この程度は脅威にならない。

 

「ふむ。この程度ですか」

 

 ぽつり。誰に聞かせるでもない独り言。

 瞬間、彼女の姿が()()()

 

 凍えるような、蒼が閃く。

 目にも止まらぬ速さで、彼女はエーテリアスの群れを突き抜ける。

 

「8体」

 

 ガラスが割れるような音が連続する。

 エーテリアスの体表が、その鎌から発される冷気で凍りつき、ひび割れ、崩れた音だ。

 刃についた汚れを振り払うように、シルエットは横薙ぎに鎌を振るった。

 ふわり、と。空気が揺れ、蒼色の斬撃が半月状に飛ぶ。

 

「3体」

 

 廃棄された車両ごと──その裏に隠れていたのだろう──エーテリアスが両断された。

 彼女の猛攻は止まらない。

 ダン!! と地面を割るほどの踏み込み。

 陸橋の上で今にも彼女に飛びかかろうとしていた怪物たちは、青い閃光とともにそのコアを無惨に砕け散らせた。

 

「……0。この周囲はこれでひとまず安心ですね」

 

 ピピ、とシルエットの右目のデバイスが音を立てた。

 

「さて、残っているのは……おや、生体反応?」

 

 このデバイス──D-ReM "Remnant"は、ホロウ探索用のマルチサポートデバイスである。

 ホロウ内のエーテル活性を観測するほか、周囲20m以内のエーテリアスや生体反応を捕捉することもできる。

 その反応は、すぐ近くだった。この挙動は動物のそれではない。

 慎重に、こちらの出方を伺っている──人間である。

 

「そこの列車の影にいますよね? 怖がらないで出てきてください。ワタシはHIAの調査員で──」

 

 そこまで言いかけてから、やめた。

 シルエットの声に呼応するように影から出てきたその人物は、彼女の思い描いていたものとかなり異なっていたから。

 

「……ホロウレイダー?」

 

「あなたは、誰?」

 

「……。いやですねぇ。そんなに警戒しないでくださいよ。まずは、その刀を降ろしてもらっても?」

 

「……気に入らないわ。あなたの方こそ、その鎌から手を離すべきよ」

 

 黄緑のプロテクターが目に付く少女だった。

 オフショルのパーカーに、短めのスカート。銀髪にオレンジ色の目。

 つけっぱなしのヘッドフォンからは、どんな曲が流れているのだろう。

 出会う場所がここでなければ、その少女は学生のようにも見えたはずだ。

 

「ふむ……まあ、一理ありますね」

 

 そう言って、シルエットは鎌を背負うように収納する。少しすると、蒼色に輝いていた半透明の刃はフェードアウトして消えた。

 

「ワタシは、あなたとの戦いを望んでいるわけではありません。クリティホロウの災害警報を受け、ホロウに巻き込まれた民間人の救助活動を行っている者です」

 

「……あなた、HIAの人には見えないわ。制服も違う上に、ホロウ内での単独行動。調査協会は……いいえ、ホロウに入るなら、プロキシでも必ずボンプを携帯するはずよ」

 

「……」

 

 面倒だな、とシルエットは呟く。明らかに、彼女は素人ではなかった。彼女は熟練のホロウレイダー……あるいはアウトロー。戦闘力もそれなりだろう。ここで騒ぎを起こしてしまうのは得策でない。金庫の回収にも支障をきたす可能性がある。

 

「参りました。降参です。……実は、ワタシもホロウレイダーなんですよ」

 

「……私はわけあってホロウに迷い込んだだけ。ホロウで悪さをしようだなんて、思っていないわ」

 

「そうですか。では、ワタシだけがホロウレイダーということで。しかし、先ほどアナタがおっしゃった通り、ホロウ内ではぐれて一人になってしまったのです。いかがです? 少しの間、脱出のメドがつくまでで構いません。協力しませんか?」

 

 シルエットの提案に、少女は少しの間逡巡し、それからこう言った。

 

「それは構わないわ。ただし、私と行動している間は私の言う事を聞いてほしい。そう約束して」

 

「分かりました。それでいいでしょう」

 

 ようやく、少女は刀を降ろした。といっても、今踏み込めば即座に応戦されてしまう、そう分かる程度には、シルエットのことを警戒しているようだった。

 

「協力することになりましたし、自己紹介をしましょう。ワタシはスキアー。アナタは?」

 

「……アンビーよ」

 

「では、しばらくの間よろしくお願いします、アンビー」

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