外宇宙探査機作ろうとしたらギレン閣下に呼ばれた件 作:煤けた人
気づいたら、スペースコロニー孤児に転生していた。
「…なんだここ、地獄か??」
意識が覚醒した時、いつもと違う周囲の様子に外に出てみてすぐ異常に気がついた。円筒形内部と思われる街並みと見た事のない顔の近隣の住人。更にはニュースでジオン・ズム・ダイクンの葬儀が大々的に流れていた。いつものお昼のニュースや昼ドラ、娯楽番組などが全て放送中止され葬儀が中継される徹底ぶりである。
仕事から帰って深酒して、そのまま泥のように眠りについたまま、気づいたらこれである。流石にショックで一日中寝込んだ。起きても変わらず地獄が続いている事に絶望したが、元ブラック企業勤めの精神力でなんとか持ち直した。
時はUC0068年。サイド3のとある孤児院での出来事であった。
「いくら転生特典があるとはいえ、ガンダム世界はないわ。」
ガンダム世界は、はっきり言って地獄である。一年戦争で地球人口の半分が消し飛ぶし、地球環境もボロボロになる。続編以降も数多くの紛争により悲劇が生み出されていっている。そんな世界に誰が好き好んで転生したいと言うのか。
「けど、実際に転生しちまったものは仕方ないか。」
転生によって得た能力は、ある創作物に関する膨大な知識と、前世とは比べものにならないほどの知能だった。IQにして驚異の300。もはやルパン三世並みである。
ただし、代償として色覚異常を抱えており、それを補うために、孤児院から支給された補正レンズ付きのメガネをかけている。
この孤児院は、もともと故ジオン・ズム・ダイクンが創設したものらしく、現在はザビ家が管理と支援を引き継いでいる。コロニー内の孤児院から、特に優れた能力や高IQを持つ子どもたちだけを選抜した、いわば“人材育成機関”だ。
……孤児という名の研究素材か、未来のエリート候補か。何かしらの意図があるのは間違いない。
孤児院の生活で特に不満はない。流石はザビの肝入りの施設、あちこちに警備兵がうろつき、内外ともに監視の目を光らせている。陰湿なイジメや嫌がらせはあるにはあるが、表立って行われてはいないだけマシである。施設の卒業生達の進路はまちまちであり、行政に携わる者、軍関係に進む者、お偉いさんの秘書、研究者などなど…。
卒業生が来てこっそり教えてもらったところによると、卒業してもある程度の期間は見えないところで監視されてるらしい。施設の情報を極力漏らさないためだろうか。流石はザビ家。徹底している。
育ててもらった恩があるにはあるが、ザビ家に対してもジオン公国に対しても特に思うところはない。むしろ毒ガス撒いたりコロニー落としとか平気でできるヤバイ奴らくらいの認識を持っているため、軍関係はもってのほか。政府関係もドロドロしてそうだから遠慮したい。でもせっかく転生知識があるんだから活かしたい。そういった思考の中、選んだ進路は研究者だった。
言い忘れていたが、転生特典はR-TYPEシリーズの兵器知識と設計図を完全記憶していることである。
R-typeはシューティングゲームの御三家とも言われ、アーケードゲーム版から多くの人に親しまれてきた名作である。横スクロールのシューティングゲームであり、プレイヤーは自機「R-9」を操り、異次元空間から襲来するバイド帝国に立ち向かうという物語が大筋である。
異次元からやってくる敵に立ち向かうとだけあって、R-type世界の科学力やR戦闘機達の戦闘力は非常に高い。作品によっては異次元航行だけでなく時間跳躍すら可能なほどだ。確証は無いけど、ガンダム世界を上回ってるんじゃないかという予感すらある。
そのR-typeに出てくるR戦闘機と呼ばれる兵器たちに関する知識が頭の中からいつでも引き出せる状態にある。せっかくある知識だし、俺も知識を活用して無双したいという欲がある。
でも日本人として戦ったり争うのはあまり好きではないので、目標はR戦闘機を外宇宙探査機として使う事である。戦闘機なのに探査機?と思うかもしれないが、R戦闘機は元々は外惑星探査のために開発された探査機を対バイドのために戦闘用に魔改造したのが起源である。戦闘機に改造された際に「あらゆる局面に対応できるように」との要請で、宇宙はもとより水の中から空中、異次元に至るまであらゆる状況下での戦闘行動が可能な超ハイスペックボディを持っている。この性能を、本来の外宇宙探査に十全に使うのだ。あらゆる惑星への探査が可能となり、人類の生存圏を大いに拡大できるはずである。
宇宙世紀では常に争いを続けているが、僕に言わせればそんなものはくだらない。人と人とで地球圏でいつまでも争って、人も資源も何もかも使い潰して何になるというのか。時代は宇宙開拓だ。僕の持つ知識で宇宙世紀の技術を後押しし、果てには外宇宙に進出するのが目標である。
孤児院で生活しながらジオン公国立大に飛び級で入学し、目につく限り有用であると目される分野全てに手を出し学んだ。僕の長い長い研究生活の始まりである。
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そんなこんなで現在0072年、ジオン公国立大学教授の地位を持つトレノフ・Y・ミノフスキー博士の下でミノフスキー工学を学んでいる。
ミノフスキー博士は何を隠そう、「ミノフスキー粒子」の発見者である。ミノフスキー粒子は大量に散布することで現実世界でのチャフのようにレーダーや無線通信を妨害することができる。しかも我々が知るチャフなどよりも強力で、なおかつ効果が長期間持続する。すごい粒子である。
ミノフスキー粒子は前述の通り、通信妨害を引き起こす効果がある。これにより戦場での長距離の索敵が不可能となり有視界戦闘を余儀なくされた地球連邦はルウム戦役で大敗することになるのだが…。
閑話休題。
普段は分野の垣根を越えて研究生活を送っているが、ミノフスキー理論に興味が湧いたため、こうして博士に教えを請うている。噂ではジオン公国はミノフスキー粒子が戦争を左右する技術であると睨んでいるらしい。
「ミノフスキー粒子は面白いですね。可視光線には影響をおよぼさないのが特に。」
「そうだろう。学会からは追放されたが、ギレン閣下のおかげで、こうして実証実験ができているのは研究者冥利に尽きるよ」
今日は研究の合間に、ミノフスキー博士の邸宅でお茶をご馳走されている。博士はまだ10歳かそこらの僕にも対等に接してくれる。歳が若すぎる事で時に侮られたり、怪訝な目で見られる事のある僕にとってそれは救いでもあった。
「送ってくれた論文を読んだよ。慣性制御理論、実に興味深いモノだった。学会への発表はまだしないのかね?」
「実のところ、発表するかどうかは決めかねている所です。あまり良くない反応をされる気がして…。」
研究の合間に書いた論文の批評を受け、頬が緩む。木彫のアンティークが置かれたゆったりとしたリビングで、ゆっくりと紅茶を啜りながら時間が過ぎていく。
このところジオン公国内では不穏な空気が漂い始めている。言わずもがな、地球連邦政府とのいざこざである。ジオン・ダイクンが議会での対連邦重要演説中に急死した事件は地球連邦政府の仕業だという噂が飛び交い、デモが連日起きている。
「私のミノフスキー理論も発表当初の反応はよくなかったが、ジオン公国に招かれて軍部にウケてからは対応が180度変わったよ。君の論文は文句なしの出来だから大丈夫…おっと。」
博士はそう言いながらティーカップを受け皿に置く。その際手元が狂ってしまったのか、紅茶が少しテーブルにこぼれてしまった。
「すまないね。今拭くよ。」
そう言うとミノフスキー博士は立ち上がりキッチンからふきんを手に取り戻ると、テーブルにこぼれた紅茶を拭いていく。
その際ミノフスキー博士は自然な動作で僕に耳打ちしてきた。
(私の発明した技術が戦争に使われていくのはこれ以上耐えられない。ギレン閣下は冷徹で残酷なお方なのがよくわかった…。君だけには話しておくが、私は連邦に亡命しようと思う。)
(本当ですか?)
(冗談でこんな事を言うと思うかね?私は本気だよ。ギレン閣下…いや、ギレンは典型的な独裁者だ。近いうちに何かとんでもない事をやらかすと私は踏んでいる。)
(この会話が盗聴されている可能性は?ジオン公国軍は情報流出を防ぐために全力で亡命を止めに来ますよ。それこそ博士を殺してでも。止める気は本当に無いのですか?)
(聴かれている可能性は勿論あるが、最早そんな悠長な事を言ってはいられない。連邦に何度も接触したし、一部のデータも既に渡してある。彼らは全力で亡命をサポートすると言ってくれた。私は、もう後には引けないのだ。)
さっきまでゆったりとした空気の流れていたリビングに重苦しさが漂う。ミノフスキー博士はゆっくりと席に戻ると、大きく息を吸い微笑みを浮かべながら言った。
「私の妻は根っからの平和主義者でね。君のように、争うのが嫌いだった。私は若い時から貧乏暮らしだったから、妻には迷惑をかけたものだ。学会を追放された私をジオンが高給で迎えてくれると知った時は、遂に楽に暮らさせてあげられると思って嬉しかった。だがジオンは次第に軍国主義へと変わってきている。」
「西暦でダイナマイトを開発したのは、確かアルフレッド・ノーベルと言ったかな。彼は鉱山開発用のダイナマイトを安定して使えるようにする事に成功したが、結果としてダイナマイトは戦争に使われ、多くの人命を奪い彼は大いに苦悩した。私も、生涯をかけて証明しようとした理論がこれから大勢に不幸をもたらしていくと考えると、良心がとても耐えられないんだよ。先週先立たれた妻にも申し訳が立たない。」
「しかし…。」
「私は十分すぎるほど長く生きた。まだ若い君は自分の道を行きたまえ。航空宇宙関連に興味があるのだったな。…できれば、教え子には兵器開発などに関わってほしくはないな。」
そう言って博士は紅茶を飲み干し、静かに受け皿に置く。
僕は知っている。この後ミノフスキー博士の亡命が失敗に終わる事を。この世界でも原作通りに亡命が失敗するにしろ成功するにしろ、これが今生の別れとなる。
僕は感謝の想いを言葉にしながら、博士の無事を祈るしか無かった。
「今日は短い間でしたが、有意義な時間を過ごせました。ありがとうございました。」
「こちらこそ、楽しい時間を過ごせたよ。ありがとう。君の論文の発表を楽しみにしているよ。」
その日以降、ミノフスキー博士は公の場に姿を見せる事は無かった。ミノフスキー粒子を研究するには軍部の研究所に所属することが必須条件となり、大半の学生は各々の分野の研究へと戻っていった。
僕も一抹の寂しさを抱えつつ航空宇宙工学を始めとする様々な分野の知識を深めていき、UC0076年に孤児院を出て大学も卒業し、ジオン公国立宇宙科学研究所に採用された。これでやっとR戦闘機もといR探査機を開発できるチャンスがやってきた。
「学会で慣性制御理論を発表した時はかなり波紋を呼んだけど、基礎理論の構築は既に終わっているから、実証実験機さえ作ってしまえば皆認めざるを得ないな。」
「後は公国政府の予算と認可が降りれば正式に実験機を作れますね。おめでとうございます。」
傍らでガムを噛みながら称賛してくれるのはジム・ロスコー。僕の一年後に研究所に入ってきた後輩であり、共同研究者である。ジオン自治共和国立大学の主席卒業者でもある。
「でも先輩、慣性って…本当に制御できるもんなんですかね?」
跳ねた短い金髪を撫で付けながら、ロスコーの質問が飛ぶ。
「現行の技術では完璧な慣性の制御、中和は難しいからどうしても慣性はかかってしまうけれども、大幅に削減する事ができると思うよ。これにより、パイロットのG負荷をかなり抑え高速で機動できるようになる。後は実験あるのみかなあ」
「うまくいくといいですけどねえ…。」
そうしているうちに予算と許可がおり、R探査機の開発に着手しようとしていた最中のある日、僕は総帥府に突然呼び出された。
赤を基調とし金系でジオン公国のマークが刺繍が施されている絨毯と天幕。豪華な装飾品に囲まれた部屋。正装をした僕の目の前には坊主に刈り込み、煌びやかな黒調の軍服を纏った公国のトップが立っている。
「急に呼び立ててすまない。ぜひ君の力を借りたい」
ジオン公国の実質的なトップ、ギレン・ザビその人である。とんでもない事になってきた。
主人公の容姿は銃夢のノヴァ教授を若くしたような感じ。色覚異常のためノヴァ教授のような変なメガネをつけている。