デート・ア・ライブIF 【エラー】   作:セルヴェイエ

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 二年後から送ります。

全てが終わった後、読むのを推奨します。


































記憶
終着点 【0】


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛行船は墜落し、

 

 

 

少女は地上に着弾する……。

 

 

火だるまとなって四つん這いになりながら身体と服がグズグズになっても少女は怨嗟を込めて口を開く…。

 

 

「お゛の゛でぇ゛ぇ゛────」

喉から絞り出すような、思わず耳を防ぎたくなる声が響く。

 

 

 

「ゆぐ…っ…許ざんじょ゛ぉ゛ぉ゛……。ごの゛ま゛ま゛でだま゛るがぁぁぁ……」

 

 

「がぎゃらじゅ…っ!…ぎぎゃまだぢをぶだだび…びな゛ごろ゛じに゛─────」

 

 

しかし、その怨嗟の声を断ち切られることになる。

 

 

「お前が行くのは地獄だ」

そう言い放った直後にその者は地に伏せる悪徳を縦に両断した。

 

 

 

「クソヤ、…ロー……が…───」

しかし、彼女も十分にボロボロだ。その言葉を吐くと同時に事切れるように倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女が意識を闇に染めていく前に聞いたのは…、自分を心から心配して声をかけてくる一人の少女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────運命が変わった世界では何もかもが違う。

 

 

 

死ぬべき者が生き、そして……生きるべき者も生きている。

 

 

 

またここにも…本来なら死ぬべき者たちが居た。

 

 

 

 

 

「なぜ……わたしが…」

ベッドから起き上がった一人の女性はペタペタと頬に触れながら困惑の声を漏らした。

 

未だに夢だと思ってしまう。実際にその戦いに加担したのに、それすらも幻想だと思えてしまうのだ。

 

 

幻葬狂と異形郷の激突───その結果は我々の勝利だった。

 

 

 

 

「あの時……」

やっと、記憶の整理が終わった彼女はこめかみ辺りに指を当てながら言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

そう、あの幻葬狂側の存在にドアを蹴破られた瞬間───抵抗も反撃も辞めてただ、嘲笑の言葉を投げた。

 

 

 

その後、…その者が持っていた武器で殺害されそうになった瞬間。 

 

 

〝彼女〟によって私は助けられた。

 

 

そう、東風谷早苗である。

 

 

 

その後も色々あって結果は……良くも悪くもあの侵略者に私たちが勝利した事実のみだった。

 

 

 

 

しかし───絶対的に気掛かりなことがある。

 

 

 

 

なぜ……三番煎じである私たちが勝てたのか…という問題だ。何かが変わったのだろうか…それとも、ただシンプルに私たちが勝つ筋書きだったのだろうか。

 

 

 

けれども…それは今考えるべきではない。もし、仮に運命が変わったのだとしたら…

 

 

 

「やる事は……一つ。…ねぇ…」

 

 

 

 

ぽつりと彼女────八雲紫は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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唐突に現れ、暴動を起こす外界の者たち。その事を知った文は魔理沙に依頼ということで頼りに来ることに。

 

 

 

魔理沙はすぐに依頼を受けると、霊夢を幽香に預けることにしてすぐに街に飛んでいった。

 

 

 

魔理沙が街に着くと鈴仙や妖夢などの異形メンバーが有象無象の雑魚を殺していた、が…他の奴らとは違う兎と機械人間がいた。

 

 

妖夢と鈴仙はその者たちに及ば無かったが、飛んできた魔理沙によって他よりも強かった幻葬狂の一員たちは一人の兎を除いて殺せた。

 

 

 

次いで魔理沙は機械人間のセリフから他に狙いがあったのだと確信。過去の紫の言葉も思い出して霊夢の身が危ういと感じ、文の力も借りて猛スピードで幽香の居る花畑に。

 

 

 

そして、幽香の元に辿り着けた魔理沙は後からノコノコやって来た魔女の殺害に成功。

 

 

 

が、一瞬の隙を突かれて先程取り逃した兎女に霊夢を連れ去られてしまう。

 

 

幽香の提言で一度、冷静になった後……まずは霊夢に次いで心配な紫の元に向かう。

 

 

紫は幸い生きていた。そして、紫の説明で奴らが様々な世界を壊してきた幻葬狂という世界の存在だと識ることになる。

 

 

 

奴らの狙いの詳細は不明だが、霊夢を何かに使う様子。

 

 

 

霊夢を取り戻すために紫の境界操作で仲間と共に空にある船を襲撃。不意を付けたからか、兎女とメイド姿のオカマ野郎を殺害。

 

 

 

唯一不意打ちに反応をした天狗には、より早く反応をした文が天狗を殺害。

 

 

 

そして…操縦席からほんの少しだけ返り血を浴びた一人の紅白の装束の女が出てきた。

 

 

 

その霊夢にも良く似た存在に一度謎の光を浴びせられて死にかける魔理沙だったが、鈴仙が錯乱をしてくれたお陰…そして上から降ってきたリリーホワイトとリリーブラックの避けられないほどに大きな一撃のお陰で何とか船を壊し、飛べないソイツを燃える空船ごと地面に叩きつけることに成功。

 

 

 

 

そして……まだ意地汚く生きていたソイツを魔理沙がトドメを刺し、この戦いは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、本来なら…こんな未来はあり得ない。

 

 

この物語は贋作の贋作、この者たちに救いなんてないし…終幕は〝バッドエンド〟…ならば何故、この者たちは何の損失もなく生きれているのか。

 

 

それは…──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「母上…?それで…なんぬぁんだよ…」

 

 

 

 

幻葬狂──奴らの襲来から1週間後…目立った傷もなくなってきた頃に彼女…八雲紫は魔理沙を呼び出した。

 

 

珍しく紫が真剣そうな表情をしてるためか…それとも前の緊張感が残っているからか魔理沙もふざけずに聞いていた。

 

 

 

「ありえないのよ」

一言…ぽつりと出した台詞に魔理沙は首を傾げた。

 

 

 

続けて紫は唇を開く。

 

 

「私たちは…所詮三番煎じ、こんな結末は起こり得ないと思っていたの。でも、実際にはそれが起こった……幻葬狂に打ち勝ち、私たちは…悲劇がない。まぁ…多少の死人はいたけれど…」

 

 

 

「あの犬の事か…?」

 

 

 

魔理沙の質問に紫はええと頷く。

 

 

「……最初から勝てる可能性があると知っていたら…手加減も諦めも達観もしなかったのに…。」

 

 

 

しかし、話題が逸れたとあっとして言葉を紡ぐ。

 

 

「それで、魔理沙───貴方には行ってほしい所があるの」

 

魔理沙の質問よりも先に紫は行き先を告げる。

 

 

「幻想郷───全ての基準となっている世界よ」

 

 

「ぐぅぇんそうこう…?」

 

 

「幻想郷…よ。──げ・ん・そ・う・きょ・う。」

 

 

「ぎぇんしょうきょう…」

 

すこし、無言になったが、気を取り直して紫は口を開く。

 

「こんなのはおかしいのよ、私たちのようなバッドエンドが決まってる世界にこんな結末が訪れるなんて」

 

 

話の意図を読むほど知能のない魔理沙は思わず質問する。

 

「それがどうして俺がその……ぎ…げ、げんしょうけぇぉう…に、行くことになるんだよ」

 

 

「そうね、端的に言ったら〝偵察〟かしらね」

 

 

「……?」

 

 

幻想郷(あちら)異形郷(こちら)は細い線だけれども一方通行で繋がっている。あちらに異常が、起こればこちらに伝播するように…ね。」

 

 

だからと言って続ける。

 

 

「私たちが生き残れたのは…その幻想郷に何か起きたからよ。本来ならもっと酷いことになっていた私たちよ?このままハッピーエンドで終わるとは思えない………もしかしたら、その幻想郷の異常がこちらに何かをしてくるのかもしれない。だからこそ…貴方に行ってほしいのよ…妖精じゃ弱すぎるし、複雑な事は出来ない。他の人だと万が一死んでしまうかもしれない……それに、貴方が一番頼りやすいのよ。お願い出来る?」

 

正直言ってちんぷんかんぷんな魔理沙だったが、紫が「頼りやすい」と言ってくれたのは気付いていた。

 

少し上機嫌になりながら胸を張って答えた。

 

「親孝行も兼ねて、何でも屋の魔理沙。母上の依頼受けてやるぞ!」

 

 

そう言うと、紫はふふっと、笑った。

 

 

「えぇ、お願いねマリちゃん」

 

 

「マリちゃん言うな」

さらっと言ってきた紫に魔理沙はツッコんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「カチカチカチカチ」

 

 

「んぁ〜?どうしたよ霊夢」

明日、紫からの依頼で他の世界に行くため少し家を空けるという旨を伝えた所。霊夢が機嫌悪そうになっていた。

 

 

 

「てきゃ、お前…かみぇんとろないのか?」

 

 

指を指してその事実を言うと……カチカチカチカ───と、音がピタリと止まった。

 

 

 

すると、霊夢はすっと顔に手を当てそれを剥いで机に置いた。

 

 

「……やっぱり?…外したほうが良いよね。」

今度は歯を鳴らしたような薄気味悪い音ではなく、きちんと喉を震わした〝声〟を発してくる。

 

 

「何だお前、ふつーに、しゃべろんじゃないか」

 

 

「うん、喋れるには喋れるんだけどね……」

少女は儚く微笑みを作ると、そのまま頭を振った。

 

 

 

「今はそんな事を言ってるんじゃなくて。……えっと、その……お姉ちゃんはまたどこかに行くの?」

 

 

「そうばぁな〜…。母上が言うには……ぐ、げ……ん?…。げ、幻想郷って言ってとぞ」

 

 

「……っ…。そ、そう…なんだ…。」

 

 

「俺が居ない間は幽花に面倒みてもらえな」

 

 

「うん……。でも、その……お姉ちゃん」

 

 

「ア?なんだよ」

 

 

「き…っ、気を付けてね……その…。偵察って…その、危ない…でしょ…?」

 

あの時の、緊張感を知っているからか、震えて詰まらせながら声を紡いでくる。

 

 

「安心してけ、俺は死ナん」

そう言いながら魔理沙は霊夢の頭をポンポンと撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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次の日。

 

 

「それじゃあ、マリちゃん宜しくね?」

 

 

「マリちゃん言うな……って、もうそれは良いや…。それどぇ?昨日言ってたが偵察してくるだけでいいのか?」

魔理沙はそのスキマに入る前に確認を取るように紫に尋ねる。

 

 

 

「偵察〝のみ〟ね。逆に誰かを殺してきたらダメよ?異常があったら私たちが全勢力を以てその世界を滅ぼしに行く、異常が無かったら……それならそれで安全にその幻想郷を滅ぼす。」

 

 

まあ、と続けて口を開く。

 

「何ヶ月後か何年後かにスキマでまた拾うから、それまでには幻想郷の存在にバレないように異常の存在の有無を明確にしてきてちょうだい」

 

 

「……それ…。無理難題過ぎンか」

 

 

「あら、〝最強の魔法使いさん〟ならこんな依頼終わらせられるでしょう?」クスクスと笑みを浮かべてからかうように言う。

 

 

げんなりとした魔理沙だったが、母上からの依頼なら…と、気持ちを奮い立たせ胸を張っていう。

「当たり前だ!おりぁ、最強の魔法使いだぜ?こんな依頼すぐに終わらせてやるさ」

 

 

 

そうして、魔理沙はスキマに入っていく───。

 

 

 

 

 

「気を付けてね…、魔理沙」

誰も居なくなった部屋で…うわ言のように紫は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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出た場所は静かで風が吹く森だった。

 

 

「んぁ?ここが……ぐぁんしょうけょえ?ああ、違え…。幻想郷…か」

 

 

辺りを警戒するように見渡してみるが、…どうやら自分の存在に気付いているものは居ないらしい。

 

 

 

それにしても無駄に空気がきれいな場所だ。こんな所……自分たちの世界では幽花の花畑だけだ。

 

 

と、思考を巡らせつつ取り敢えず空を飛んでみる。

 

 

 

「……っていうか、」

 

空を飛んだ時…ふと思いついたことがあった。

 

 

 

「適当な竜とかに変身して、どっかの村滅ぼせば…。めっちゃ金テに入るんじゃ」

 

 

────悪魔的思考だった。

 

きちんと紫から言われた〝バレないように〟という事も守りつつ自分の欲も叶えようとする…。

 

 

やはり霧雨魔理沙はどの世界でも霧雨魔理沙だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この物語はあり得ないの塊のようなものだ。

 

 

 

 

3番煎じの出来事、本来なら破滅と絶望で終わるだけの

終幕劇、だからこそ…続くことを前提に構成されていない。

 

 

 

この事実は当人の紫ですら無自覚の事象。

 

 

 

────この異形郷は東方異形郷(オリジナル)が第一回幻想破壊を始めるよりも昔に時間軸が位置している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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───どうしてだろう

 

 

いつも、頭の中には疑問が入ってくる。別に…これは怒りでも憎しみでもない。

 

 

 

───単純な…疑問。

 

 

 

何でこの人たちはいつも僕を殴るのだろう。

 

 

 

その疑問には絶望も希望もない。

 

 

ただ無感動にその痛みを感じ続ける。罵声と暴言が入り混じり、頭部にはよく石が投げつけられる。

 

 

 

 

自分は……〝イミゴ〟らしい。意味はよく分からないがとにかく悪いものらしい。

 

 

 

毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日。

 

 

 

 

殴られる蹴られる唾を吐かれる子供に石を投げられる。

 

 

 

折れてひしゃげた左腕を自分で叩き潰し切った。でも、それを気味悪がって右目を石で潰された…それでも痛がらない自分には喉がいらないと言って喉は鎌で切られた。

 

 

 

どうしてだろう。

 

 

 

 

 

 

………彼は何も感じない。

 

 

 

希望も絶望も等しく皆無。

 

 

幸福を知らないから幸福を望むこともない。悲しみしか知らないから悲しみを拒絶することもない。

 

 

 

手を差し伸べる者は一人だって居ない。彼の前に立つのはいつも暴力を振るうもの…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────でも、その日は違った。

 

 

 

 

村の中心の檻……。

 

その中に入れられた少年は生涯で初めて〝ほんの少しだけ瞼をいつもよりも開いた〟。少年の悪い視力でも観れるぐらいにその人物は奇異的だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ぬんだー…?この村…」

森から飛び立ち、適当な村を探そうと目を凝らしていると…それを見つけた。

 

怪訝そうに目を細める。

 

豪勢な村だ……〝この世の負を感じさせない程に笑顔で溢れる村〟。しかし、その中心には…黒っぽい藍色の物体があった。

 

 

その物体に向かって少年少女たちが石を投げつけている。

 

 

 

本来ならこんな村を見たら金品だらけだと思うしすぐに壊すのだが……魔理沙が感じた違和感はそれではない。

 

 

「………呪い…?」

そう、村の中心地の檻から……あの手長巫女の祟りを越えるほどの負を感じ取れたのだ。

 

 

しかし、あの負はまるで…封印されているかのように内側に引っ張られ決して周りにそれを溢れさせないようにしていた。

 

 

少し近づいてみると、その現状はすぐに理解できた。

 

 

「は…ははっ…」

 

思わず乾いた笑みが漏れ出る。

 

 

それを面白がるように「エグい」といった感想を魔理沙は出した。

 

 

 

 

なぜ、だろう……。竜の姿にでもなって村を壊せば魔理沙の存在がバレるようなことは無さそうだ。

 

 

けど、檻の中に入れられた子供を認識した瞬間、───あのガキとは話してみたい。そんな面白半分の思いが溢れ、魔理沙は翼を仕舞うと……その村に降り立った。

 

 

 

流石に魔理沙の異形具合をみて村人たちは狼狽をし始める。

 

 

 

その〝人間〟らに魔理沙はこう言った。

 

 

「よう、お前ら…。ナカナカ面白そうなことしてんじゃねぇか。俺も混ぜてくれよ」

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その魔女が降り立ってから村は簡単に地獄と成れ果てた。

 

 

 

村人たちは一人残さず鏖殺され、魔女は民家を漁り始める。

 

 

金、…宝石…、食料。

 

 

適当な物を〝しまい込む〟と再び村の中心に歩きついた。

 

 

 

血に塗れ、そこら中死体だらけというのに少年はただ無感動に魔理沙を見つめていた。

 

 

 

魔理沙をみても何もリアクションをしない……というか、この残虐な光景を見ても声を上げることがない───と、魔理沙はそこで気づいた。

 

 

「お前…、喉ぐぁねぇのか…。」

 

 

『…………』

返答はない。表情も感情にも変化は訪れない。

 

 

 

「………まぁやい、暇つぶしぐらいにはぬって、もらうんどぅぁからなぁ」

 

 

魔理沙の言った言葉に少年は何も反応を示さない。

 

 

取り敢えず檻をぶち壊し、首根っこを掴むとバサリと翼を生やし、魔理沙は飛び立った。

 

 

が、嗚呼そうだ…と、思い出したかのように地獄絵図の村に目を向けると……「Fire」と一言いって村を燃やし尽くした。

 

 

 

 

「つまんねかった村だな。まぁいい……さぁ、これから手前の新しい地獄が始まるぞ」

 

ケラケラと笑いながら魔理沙は飛び去るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

─────それが、彼女【霧雨魔理沙】と少年の初めての出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

魔理沙は森の中の開けた場所に少年を連れて行き、パン取り出し投げ渡した。

 

「ほら、食えよ。手前も腹減ってるだろぅ?」

 

少年は黙ってパンを受け取り、無感動な目で見つめながらかじり始めた。その様子に、魔理沙は眉をひそめた。

 

「なんだよ、もっと感謝を態度で示せねえのか?」

 

彼女は一瞬、少年の目にある何かを感じたが、すぐにそれを振り払った。

 

「まあいい、お前が何考えてるかなんて知るこたぁねぇ。さあ、食ったら次に行くぞ。おりゃは忙しいンだ」

 

そうして、また飛び立つ。彼女自身も気づいていなかったが…その心の負は…少し消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

時間なんてあっという間に過ぎ去った。

 

 

最初こそコイツの痛みへの耐性を利用して、暇つぶしで人体実験でもしてやろうと思った。

 

 

〝左腕は無い、右目も潰れ、喉も痛々しい傷が付いている〟

 

喋れないくせにいつもオーバーリアクション気味にハイテンションで、適当に名前を付けてやったら死ぬほど喜ぶし。

 

森を歩いていたら怪我してる動物を片っ端から助けていくし。

 

こんな俺見たな端から見れば異形を信じてついてくるし、すげぇお人好しな奴だし…。

 

 

私が"異常"探しをしている間に無駄に料理を習得…、す…るし。

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぁ?役に立ちたイー?じゃ亜、俺に旨いと言わせるような料理でも作っとケ」

 

 

『・・・・・・!!』

こくこくと首を前に倒す(喉の影響で喋れない)

 

 

 

材料も器も火起こしも何もかも一人でやって、手には火傷痕と切り傷が随所にあった。

 

しかも…「ほんっっっと、無駄にうめえし…」

 

 

そんな奴なのだ。誰からも優しさを向けられたことがない、誰からも支えられ寄り添われたことなんてない。

 

だから〝優しさの向け方を知らない〟…他者を全肯定し、自己犠牲をすることが優しさだと勘違いしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから…色々あって〝一年〟が経った。まだ母上からのスキマはやって来ない。

 

日頃から書いていた日記もそろそろ全ページが埋まりそうだ。

 

早く母上からの回収はないのだろうか。

 

……まぁ、今の現状報告をしたいと言えばしたくないのだが……〝鷹禾〟と故郷を見せる約束したから見せてやらねばなるまい。

 

 

 

 

鷹禾。

 

鷹に禾を書き、『おうか』。

 

喋れもしないくせして、何故かこの読み方にこだわっていたのが石で

 

おうか

 

と、書くほどに所望をしていたので呼び方はおうかにしてやっている。

 

どうして、「おうか」に拘っているのかを聞くと友達につけられたからとか意味わからねえ事しか言わねぇし。

 

アイツってあの村の中でダチとか居たのか?

 

今考えても意味が分からん。

 

 

と、考えていると…。

 

『おーかーあさーん!!』

屈託のない満面の笑みで走ってきた一人の少年が猛烈なタックルをかましてきた。左腕の袖がなびき、右目の眼帯が少しズレ、喉の傷跡が少し見える。

 

 

「あぁ?んだよ」

一年前より棘のなくなった声音で尋ねながら軽く頭を撫でてやる。

 

 

『見て!お母さんの絵!』

 

鷹禾は顔を上げ、目を輝かせながらそれを見せる。彼の手元には、拙いながらも精一杯描かれた二人の絵が広がっていた。

 

その絵には、鷹禾の純粋な愛情が込められていた。

 

 

魔理沙は一瞬、言葉を失った。が、いつもの調子で口を開く。

 

「上手いじゃねぇか、…でも、もっと頑張れよ?」

 

 

鷹禾はにっこりと笑い、「うん、頑張る!」と元気よく答えた。その純粋な笑顔に、魔理沙の心がほんの少しだけ温かくなった。

 

 

 

 

 

 

───それが日常。

 

 

 

 

 

魔理沙は今日も身バレ防止のための

〝白黒の仮面と黒の外套〟に身を包み、その場所に向かっていた。

 

竹林を抜けると、玄関から入るのも面倒なので庭からそこに入ろうとする。

 

 

と、

 

「ちょいちょい。貴方またそこから入ろうとしてるの?」

 

魔理沙を呼び止めるように一人の女性が話しかけてくる。

 

 

クソ長い銀髪を三つ編みにして、左右で色の分かれる特殊な配色の服を着、頭には、紺色のナース帽を被っている。

 

 

 

魔理沙は特段悪びれもせずに手を差し出し、〝早く出せ〟と言わんばかりに手招きをする。

 

 

「………」

しばし無言になったが、女は…はいはいと言うと、小瓶を差し出し、魔理沙の手に乗っけた。

 

 

「喉の薬よ、どうせ…またあの子の喉の調子でも悪くなったんでしょ?」

 

 

「…………分かるのか?」

 

 

「そりゃもちろん…、というか貴方みたいな正体不明の人が薬貰う以外の理由でここに来ないでしょ」

呆れながら女───八意永琳が言ってくる。

 

 

「……っというか、あの子は?」

そこで気付いたのか、永琳はキョロキョロと辺りを見渡す。

 

 

「アイツなら今は家で寝てる。」

 

 

「そうなの?ほんとうに過保護よねぇ…もう少しぐらい自由に遊ばせてあげたらいいのに」

 

 

「それで前に痛い目を見たからな…。〝もうあんな思いにはなりたくないんだ〟」

 

 

 

魔理沙が言うと、永琳はそう、と…軽く頷いた。

 

 

 

 

「んじゃあな」

そう言って魔理沙は小瓶をポケットに入れて踵を返した。

 

 

「ねぇ、一つ良いかしら」

ふと、後ろから永琳が真面目な声音で尋ねてくる。

 

 

 

「………あの子の親であり、あの子が心から信頼している人間だから貴方を少なからず私は信用してる。でも聞くけど〝あなたは何者〟?」

 

 

 

「…………」

 

───どうしてこうなったんだろうか。

 

ただ村に居たクソガキを拾っただけで簡単に懐くようになって、自分もそれを悪くないと思ってしまって、アイツが母上の言った〝異常〟だと気付いても放置してしまった。

 

 

しかも…

 

 

ちらりと、魔理沙は永琳の顔を見る。

 

 

「(この世界の奴らと馴れ合うことになるなんてな)」

 

ふっと微笑む。しかしその笑みには笑いの感情など含まれていない。

 

 

 

 

 

「俺は…〝ただの魔法使い〟だ。」

 

魔理沙はそう答えた。

 

守りたかった者を一度死なせた自分に"最強"を名乗る資格なんてない。

 

だからといって普通ではない…だからこそ、ただの魔法使いなのだ。

 

 

 

「魔法使い……ね」

考え込むような動作を取ってから永琳はクスリと笑みを作った。

 

 

「私が知っている人間にも似たような事を言う魔法使いがいたね」

 

 

 

しかし、それ以上永琳は追求してこようとはせず、魔理沙に背を向け歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

『どうしたの?お母さん…』

夜中──洞窟の外で木の切り株に座り星空を見上げていた魔理沙に、寝ぼけ声が掛けられた。

 

眼を擦り、小さく欠伸をしている鷹禾がそこに居た。

 

 

「起きたのか」

いつもなら速攻で寝させるのだが、今日は違う。

 

 

 

『……?』

 

鷹禾の手を引くとそのまま鷹禾を膝の上に乗せた。

 

 

「なぁ。鷹禾……今、幸せか?」

目を合わせることもなく、らしくないことを魔理沙は訊いた。魔理沙が鷹禾の名前を呼ぶのはいつもこういう深刻そうな話をするときだけである。

 

 

 

しかし…

 

『うんっ!僕幸せだよ!お母さんが居るから!』

 

膝の上に乗っかりながら顔を上に向け強引に魔理沙と目を合わせて笑みを見せつけてくる。

 

 

 

「じゃあ、嫌いなものとかあるか」

 

 

 

『嫌いなもの…?う〜ん、………あ!でも、お母さんが居なくなるのは嫌かも!』

 

その発言に思わず魔理沙は苦笑してしまう。あぁ、どうしてこの子は自分の悲しみにも幸せにも他者が絡むのだろう。

 

 

「じゃあ、好きなものは?」

 

 

今度は何というのだろうか、しかし…鷹禾は悩まずに即答をする。

 

 

『この世界!えーっと、幻想郷っだっけ?この世界大好き!お母さんと出会わせてくれたから!』

 

 

 

「………っ」

その、答えに魔理沙は息を詰まらせた。

 

しかし、そろそろ言わないといけない───自分は幻想郷を破壊しに来た、『異形』なのだと。その事実を。

 

 

 

 

 

ビギ…ッ────────

 

 

 

 

「………は?」

その時、視界の端に映る「それ」を見て魔理沙は素っ頓狂な声を上げる。

 

 

 

「…っ!鷹禾、掴まれ!」

 

魔理沙は叫ぶと、視認をした「それ」──もとい、スキマに入り込んだ。

 

 

 

 

 

───────────

 

 

 

 

『え、え……?』

 

スキマに入り込むと、やはり抜け出た先は…見覚えのある場所だった。

 

しかし、理解の追いつかない鷹禾は魔理沙の腕の中で目を丸くしている。

 

 

 

「……じゃあ、報告をっ、て…」

入ってきた魔理沙の方を振り向いた女性───八雲紫は持っていたカップを落としかけた。

 

「……え…?マリちゃ…それ、子供?」

 

指をぷるぷると震えさせながら震え声で質問をしてくる。

 

 

魔理沙は嘆息するように息を吐き、「めんどくせぇ」と一言呟いた。

 

 

 

 

 

〜〜〜★〜〜〜

 

 

 

 

 

「へ、へー…?」

魔理沙の話を聞き終えた紫はチラリと部屋の隅にて人形で遊ぶ少年の方に目線を当てながら魔理沙に戻す。

 

 

「母上。質問は色々有ると思うけど、一個言いたいことがあるんだ」

 

 

「……?」

魔理沙とは思えぬ語彙の高さと真面目な物言いに紫は首を傾げた。

 

 

「幻想郷───あの世界を俺は壊したくない」

魔理沙は間を置いたあとにその本音をぶつけた。

 

 

どう反応するのか、身を強張らせていた魔理沙だったが。

 

「ぷっ……あっはははは!」

紫は腹がねじれるぐあいに大笑いを始めた。しかしそれは嘲笑などの笑みではない、嬉しいことがあったかのような笑いだった。

 

 

 

「なっ…何だよ母上、笑うなよー!」

 

 

魔理沙が抗議するようにそう言うと、紫は「ごめんなさい、ごめんなさい」と言いたげに潤んだ瞳を指で擦って笑いを止めた。

 

「ごめんね?嬉しくてつい笑っちゃったの。それで…答える前に私からも一つ良いかしら?」

 

 

魔理沙が頷いて返すと紫は唇を開く。

 

 

「貴方は───そんなにあの子が大事?」

 

 

「あぁ。もちろん」

その質問に魔理沙は間髪入れずに答える。

 

 

その答えを聞くと、微笑みながら言葉を返してくる。

 

「うふふ、愚問だったかしら?じゃあ、私の返答も送らせてもらうけれど……貴方の話を聞いてから"幻想郷侵攻は辞める"ことにしたわ」

 

 

 

「え…っ」

魔理沙が大層驚きながら固まると、紫は「そんなに意外?」と言って又も微笑む。

 

 

 

「その代わりに、あっちの世界でのお話聞かせてちょうだい?」

 

 

 

「…じゃ、じゃあ……───」

笑みを崩さずに言われた言葉に魔理沙は興奮気味に話を始めた。

 

 

そして、ここから三時間ほど、魔理沙の話は続くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの子が異常。何となくわかるわ」

魔理沙が鷹禾に異形郷を見せるために出ていってから、八雲紫はあの子供をどうするのかを思い悩んでいた。

 

 

 

別に、あの子供が異常だからと言って殺すわけではない。

 

違うのだ、特筆すべきはあの子供の恐ろしい力…

 

 

まだ仮だが、「あらゆる〝負を肩代わりする〟程度の能力…」

 

言葉を紡ぎ、唇を噛みしめる。

 

 

 

ようやく謎が解けた。私達の世界がバットエンドとならなかったのか…それは恐らく彼が肩代わりしたのだろう。

 

 

 幻想郷と異形郷(ここ)はあちらからの一方通行で繋がっている。

 

もし、彼が無自覚につながりのあるこの世界の負を肩代わりしたのなら───それなら納得がいってしまう。

 

 

しかし、それ以上の危険が彼には纏わりついている。

 

 

「世界の終幕劇を喜劇に変えるほどの負を肩代りした──」

 

もし、彼の肩代りされた負が外に溢れ出もしたら……いや、違う。

 

そんな事はやっぱり考えるものじゃない。

 

 

紫は自分の頬を軽く叩くと、スキマを開き…あの二人を見る。

 

 

 

「鷹禾……一体彼はこの世界にどんな影響をあたえるのかしらね…」

 

 

紫は遠い目でスキマを覗きながらそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マヨヒガから出ていった後、魔理沙は鷹禾を連れてとある花畑に向かった。

 

 

 

 

こちらの足音に気付いたのか、一人の女性が振り向いてくる。そして、来たのが魔理沙だと気付くと目を開いた。

 

 

「よう、〝幽香〟…帰ってきたぞ」

 

「あら、結構早かったわね…。…てっきり数十年は居ると思ったわ」

 

 

「霊夢は何処だ?ここに居ないのか」

 

 

「霊夢なら今はヴァリアントタウンに行ってるとけど……。というかその子はどなたかしら?」

 

そこでやっと鷹禾に気付いた幽香は困惑気味に軽く微笑む

 

 

「コイツは…鷹禾。俺の息子だ」

 

 

その言葉を聞いた幽香は大層面白そうにまぁと驚く。

 

 

「貴方に子供?あの世界で拾ったの??」

 

 

 

 

 

 

「そうだな、少し話してやるか───」

 

鷹禾に適当なところで遊んでて良いぞと言うと、幽香に向かって口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、三十分ほどあの世界での出来事と鷹禾のこと、そして紫との会話を話した。

 

 

幽香はその話に相槌を打ちながら時にクスクスと笑った。

 

 

 

「へぇ…。まさかとは思ったけど…その子に教えるために勉強でもした?」

 

 

遠くで遊ぶ鷹禾を見ながら二人は会話を続ける。

 

 

「それなら悪いか」

 

その言葉に意外そうに幽香は目を丸くしたがすぐに微笑みに戻す。

 

「いいえ?でも変わったなと思ったのよ。貴方はこういう事をする人じゃないでしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………ふふっ」

 

「…………?」

 

 

 

 

 

しばしの間鷹禾を見つめていた幽香だったが、急に笑い出した。

 

「ああ、ごめんなさい。何だか彼を見ているとさっきまで考えてた嫌な気持ちが吹き飛んだの、私も此処で過ごしている内に変わっちゃったのかしらねぇ…」

 

 

「そうかもな」

 

 

 

これ以上はもう良いだろう。その会話が終わると魔理沙は鷹禾を呼び掛け、幽香に一言言って去っていった。

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァリアントタウン────

そこでは一人の少年を円卓に迎えて様々な少女(????)が魔理沙と少年を質問攻めにしていた。

 

 

 

「えー! この子魔理沙さんの子供なんですか?」

 

 

「Did Marisa have a child? But he's a cute kid」

 

 

「カチカチカチカチ」

 

 

 

「おい手前ら、鷹禾が怖がってるから───というか、霊夢に至っては伝わんねぇからさっさと仮面外せ」

 

鷹禾の隣に座る魔理沙がそう言うも、彼女たち(?)は言葉(?)を辞めない。

 

 

 

「ていうか、魔理沙さんは幻想郷って所に行ってきたんですよね。なんで男の子なんて拾ってきたんですか?」

 

 

「その場のノリだよ」

 

 

「………そう言えば言葉上手くなってません?」

 

 

「────」

魔理沙がその質問から目をそらすとジトーっとした目で、妖夢は見返す。

 

 

 

『あっ、あのっ!』

その時、先ほどから黙っていた鷹禾がガタッと立ち上がりながら声を上げた。

 

 

 

「what?」「……?」「カチカ───?」

 

 

 

『自己紹介しませんか?まだ、───してないなって、思って……』

 

鷹禾がそう言うと……彼女たち(?)は押し黙った後、笑い始めた。

 

 

『え、えと…?』

 

 

「あー…悪いな鷹禾、コイツラ普通の人間からまともにコミュニケーションをさせるとは思ってなかったんだよ」

 

混乱する鷹禾に解説するように魔理沙が告げた。

 

 

 

『それで…えっと、お名前とか知れたら嬉しい…です…』

 

 

 

まだ笑いのツボが取れないらしく、少し笑みがこぼれているが妖夢が口を開く。

 

 

「そうですね、私の名前は魂魄妖夢ですよ」

 

 

「カチカチカチカチ」

 

「I am Reisen Udongain Inaba」

 

 

 

『……な、なるほど…?』 

 

 

 

「そのでっかい兎ががれーせ、…じゃなくて…鈴仙。こっちが霊夢──博麗霊夢だ」

 

すかさず魔理沙が名前を教えていく。

 

 

 

『えっと…ヨウムさんと、レイムさんと…、レイセンさん…?』

 

たどたどしく舌足らずに名前を復唱すると、妖夢はやーんと、手を頬に当てて身を捻った。

 

 

「可愛いですねー!どうです?お試しでウチ来ませんか?」

 

 

『あ、えっと……僕は…お母さんの所に居たい…から…。嬉しいけど…ごめんなさい』

 

 

「………」

それを聞いた妖夢はあははっと笑いながら鷹禾の頭を撫でた。

 

 

「……っていうか、冗談ですからそんな目で見て来ないでください魔理沙さん。」ほんの少しだけ冷や汗を垂らしながら妖夢はそう言った。

 

 

 

 

呆れ果てた魔理沙は殺意を解くと霊夢と鷹禾の手を掴み、そのまま席を立たせて歩き出した。

 

 

 

「んじゃ、挨拶も済んだことだし。帰って飯でも食うか」

 

 

『…うんっ!』

 

「カチカチ」

 

 

「えー…ここで食べてけば良いのにー」

 

 

「うっせ、換金中で今は金ないんだよ」

 

拗ねたように唇を尖らせる妖夢にそう言うと、魔理沙は鷹禾と霊夢を連れて行った。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

ドアを開けると奥から声が聞こえてくる。

 

 

 

「アラ帰ッテキタノネマリッサ!」

 

ギチギチとした異色な声。

 

 

 

───嗚呼、帰ってきたんだな。と、魔理沙は少し思考に耽る。

 

 

霊夢はまるで先輩面をするように鷹禾の手を引いて何かを教えていた。此処までの道中で話もしていたし、仲良くなったのだろう。

 

 

 

「……おう、〝ただいま〟」

軽く微笑を浮かべて魔理沙はそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『わぁ…〝可愛い!〟』

 

 

「ン?」

 

「わかるよ……?」

 

 

 

「まじかよアイツ…」

 

次の日───霊夢と鷹禾を連れて妖精どもと遊ばせようとしていたのだが……あのガキ…妖精たちの姿を見て怖がらないどころか可愛いとか抜かしてくっつきに行ってる。

 

 

感性どこに捨ててきたんだ。

 

 

因みに妖精たちはお世辞にも可愛くない。

 

目とか血走ってるし、顔とか人の外見からは外れてるし、そもそも人型じゃないやつとか居るし。

 

 

あの妖精たちですら少し引き気味なのは初めて見た。

 

 

『ぷにぷにしてる……可愛い!』

 

 

 

───俺が言えたことじゃないがアイツ頭おかしいんじゃないか。

 

絶対にあの妖精どもを可愛いと形容するガキは居ない、それだけは断言できる。

 

 

 

「お子さんができたんですか魔理沙さん」

 

妖精と戯れる鷹禾と霊夢を一歩下がった所で見ていると、同じくそれを見ている妖精の一人が話しかけてくる。

 

 

「んぁ?デンカか、そうだなあのガキは俺の息子だ」

 

 

「………言葉お上手になりましたね」

 

 

「お前まで言うのかよ」

 

 

はあとため息を吐く、そんなにも自分の下手な日本語は周知の事実だったのだろうか。

 

 

 

『お母さん!妖精さんたちとあっちで遊んできて良い?!』

 

キラキラと目を輝かせながら鷹禾が大きな声で尋ねてきた。

 

 

ここで断ったらどんな反応するんだろうという好奇心も芽生えたが、手をぷらぷらと振って答える。

 

 

「あんまり離れすぎんなよ」

 

 

 

『うんっ!』

その答えに満面の笑みになると鷹禾は妖精と霊夢を先導するようにテクテクと歩き出していった。

 

 

 

 

 

 

 

「どうだデンカ。あのガキは面白いだろ?」

 

 

「そうですね。…あの子たちを心の底から可愛いと言った人は生まれて初めて見ました」

 

 

「おいおい、それはアイツラが少し不憫だぞ。世界には物好きとやらも居るってことだろ……」

 

 

「あんな子供が私たち、……お世辞にも愛らしさがあるかといえば嘘になるような妖精たちを褒めてくれるのは───やはり嬉しいですね…」

 

 

 

「それは……まぁ、あのガキは外見なんぞ見てないからな」

 

 

「………というと?」

 

 

「俺が形態変化しても〝カッコいい〟としか言わなかったんだよ。とゆーか春妖精を見ても懐こうと─────って、あ…」

 

思い出すように紡いでいた言葉を、魔理沙は止めた。

 

 

「どうかしましたか…?………っ?」

不審そうにデンカが魔理沙を見つめるが、ふと…デンカの髪がピクピクと、動く──まるで何かを受信したレーダーのように。

 

 

 

「……っ、魔理沙さん!連絡が、春告妖精が出たようです!」

 

 

 

その瞬間、森の奥で地鳴りのような音が響き、ビリビリと木々を揺らした。

 

 

 

「……あぁ、もうっ!阿呆ガキどもめ!」

魔理沙はバサリと翼を展開すると、猛スピードで音源に向かっていった。

 

 

 

 

 

〜〜〜★〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「はぁ…???」

その音源に辿り着いた魔理沙は顔を歪めながら、理解の出来ないものを見たかのような声を漏らす。

 

 

 

 

「ハルゥゥゥ……」

 

「ヴァルゥゥ…」

 

 

『ホワイトさんは可愛い!ブラックさんは……カッコいい?』

 

 

 

 

体長は人間をゆうに超える大きさを持つ、リリーホワイトとリリーブラックという2種のドラゴン……それが…まるで小動物のように丸まり、その中心に一人の少年を囲って寝そべらせていたのである。

 

 

 

 

「おい、マジでどういう事だ」

先ほどまでの緊張感が無くなるほどに、のほほんとした空気で魔理沙は隣に居る適当な妖精に尋ねるが。

 

 

 

「わかるよ…」

 

「値=√?!」

 

「ン!」

 

 

 

まぁ、まともなる言葉が返ってくるはずもなく。

 

 

 

「霊夢、こりゃ一体どういう事だ?」

唯一まともに返事が返ってきそうな少女に魔理沙は語りかけた。

 

 

「………うん、説明するね…」

 

流石にコレは解説が必要だと思ったのか仮面を外してくる。

 

 

 

「最初はね?ホワイトさん達が襲いかかってきたんだけど……鷹禾くんが何かした途端に急に凶暴じゃなくなって───あんな風に鷹禾くんを身体に寄っかからせるぐらいには温厚になったの」

 

 

 

「ますます分からん。」

霊夢の説明はありがたいのだが何も情報が理解できん、…まぁ霊夢も分かっていないからこんな説明になっているんだろうが。

 

 

 

『あっ!お母さん!』

魔理沙の姿に気づくと、バネみたいにぴょんっと立ち上がってトコトコやって来る。

 

 

「おい手前、」

 

 

『どうしたの────』

鷹禾が言い切る前に頭にチョップをかましてやる。

 

 

 

『痛ぁぁい!お母さんがぶったぁ!』

涙目になりながら叫びを上げるが無視をする。

 

 

「うるせぇ、無駄に心配させやがって。……で?何であの暴力だけが取り柄みたいな奴らがお前に懐いてんだ?」

 

 

『…え? それは…』グスンと潤んだ目を擦りながら返答をする。

 

 

 

『取ってあげたの』

 

 

「……?」

 

 

『あの人たちの度が過ぎた要らない負を全て』

 

 

「……どういう───」

 

 

『ほら、ホワイトさんブラックさん!早く行こー!』

 

魔理沙が質問をする前に鷹禾は妖精と霊夢を引き連れてどこかへ行った。

 

 

 

 

 

「おいちょっとま───ってもう居ねえし」

 

 

 

 

 

 

「……何か、不可思議な力でも持っているのでしょうか」

 

今しがた追いついてきたデンカが話しかけてきた。

 

 

「さてな、なんか異能はあるがあんな力じゃなかったし…」

珍しく疲れたように辟易とした息を吐くと、適当な切り株に座り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ねぇ、鷹禾くん。」

森を歩く中、仮面を取ったままの霊夢は隣で無邪気な笑顔を浮かべる少年に話しかけた。

 

 

『んー?どうしたんですか、霊夢さん』

キョトンと目を丸くさせて目を合わせてくる。

 

 

 

「───その、貴方はあっちの世界(幻想郷)でどんな風に暮らしてたの?」

 

昨日──どんなにお姉ちゃんに聞いても教えてもらえなかった。

 

頑なに「訊くな・言うな・尋ねるな」の三拍子。

 

だから私はお姉ちゃんが居なくなった今聞いてみたのだ。

 

 

『……〝何にも?〟普通の生活だったよ、でも普通の人と比べたら少しぐらいは不幸だったかも…親は居ないし、兄弟も居なかったし、村の人からは何時も仲間はずれにされるし。…っで、そんな時にお母さんが来てくれて…僕を拾ってくれたの!』興奮気味に話を並べていく鷹禾。

 

 

「………そうなんだ」

何故だろうか、確かに不幸だし災難だとは思うが…お姉ちゃんがあんなにも聞くのを禁止するほどの話ではないなと、霊夢は少年に悪気がありながらも退屈そうに息を吐いた。

 

 

 

「ン!」

 

と、その時…後ろに着いてきていた妖精の一人(人?)が声を上げた。

 

 

『どうかした、の……っ?』

鷹禾が振り返ろうとした瞬間……ふわりと身体が上昇し、足先の地の感覚が消える。

 

 

原因はすぐに分かった。

 

 

『え、ちょっ…ホワイトさん!?』

 

そう、一番後ろでついて来ていたリリーホワイトが鷹禾の服を掴んで空へと飛び立ったのだ。

 

「バルゥゥゥ!」

 

そう叫ばれた後、ぴょいっと投げられてホワイトの背中に着弾する。正直痛い。

 

 

 

「わかるよ?」

 

「おもしろーい!!」

 

「キャハハ!」

 

背中の上には他にも妖精さん達が居て、チルノさんと霊夢さんはブラックさんの上に居た。

 

 

 

 

が───今の鷹禾にはそれを気にするほどの余力など無かった。

 

 

 

『……きれい…』

 

鷹禾は無自覚だろう。常人であればその景色を絶対に綺麗だなんて感想は感じ得ない、しかし……鷹禾はホワイトの上から観る地表の景色に感動していた。

 

 

 

 

鷹禾はペタペタとホワイトの背中に触れると、口を開く。

 

『すっごく楽しい!ありがとう!ホワイトさん!』

 

 

 

「ハ…ル…ゥ…」

 

 

『うんっ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あの馬鹿どもは本当に何してんだ」

 

 

「凄いですね……リリーさん方があんな事をするのは初めて見ましたよ…」

 

 

 

切り株に座る魔理沙から見えるほど上空で飛んでいるリリーたちと、その上で戯れる鷹禾たちを見て又もため息を吐いた。

 

 

「霊夢と鷹禾が落ちたらリリーの野郎は責任取るんだろうな…」

 

 

「気になる所そこなんですか…」

デンカが思わずジト目で見るが、魔理沙は気に留めない。

 

 

 

「………まぁ、あのガキが馴染んでるのは良いことなんだけどよ…」複雑そうな気分で頭を掻くと、スクっと立ち上がり歩き出す。

 

 

 

「どちらへ…?」

 

 

「一応歩いて追っておく、お前も来るか?」

 

 

「……お供します。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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鷹禾が異形郷に連れてこられてから数日。

 

妖精たちやヴァリアントタウンの住民たちにも好かれ、馴染み、鷹禾は魔理沙無しでも笑顔が絶えなくなってきた今日この頃。

 

 

 

「街の奴らと妖精どもに鷹禾が取られて悲しい…」

 

 

「それを私に相談するの辞めてよお姉ちゃん」

 

 

カタッ、カタッ──と、盤面の駒を動かしながら二人の少女は会話を交えていた。

 

 

 

「だって仕方ないだろ…あんなにお母さんお母さんって懐いてた鷹禾が別の奴に笑顔振りまいてるんだから…優しい魔理沙さんも嫉妬しちゃうぞっ♪」

 

憂鬱そうな表情のまま爛々とした声音を紡ぐ魔理沙に霊夢は呆れながら口を開く。

 

 

 

「三年前には私を助けるために命懸けで来てくれたカッコいいお姉ちゃんは何処に行ったの。ていうか、チェック」

 

 

「はぁ?……、そのカッコいい魔理沙さんなら幻想郷に行って消えてなくなりました。あとキャスリング」

 

 

「勝手に消さないで欲しいんだけど…。…はい、チェックメイト」

 

 

「はっ?」

パチパチと目を見開きながらこれ現実?と、言わんばかりに盤面を指さす。

 

 

「私の勝ちだね、お姉ちゃん弱くなった?」

 

 

「…あーはいはい、……もう一回やるぞ、絶対にブチのめしてやる」

 

 

「何でそんな本気になってるの…そういうの大人気ないって言わない?」

 

 

「良いか?今俺は鷹禾を取られて絶賛激おこぷんぷん丸状態だ、その状態でチェスに負けた……これで再戦せずして何と言う」

 

 

「別に何とも言わないでしょ。…まぁ、やるけどさ……。あっ…ていうかお姉ちゃん」

 

盤面の駒を規定の位置に再び並べながらふと霊夢は尋ねる。

 

 

「鷹禾くんの幻想郷での生活ってなんで頑なに教えてくれなかったの?本人から聞いてもとりわけ酷い話でも無かったし──」

 

 

その質問をした瞬間……ピシリ、と…先ほど機嫌の悪そうな顔だった魔理沙の顔が動きを止める。

 

 

「は…?お前、…今なんて言った…?」

 

 

「え?だから、鷹禾くんに幻想郷でお姉ちゃんに出会うまでの生活を聞いてみたけどそんなに酷く────────」

 

 

 

「聞いたのか!??!」

ビリビリと声を響かせ、ガタリと椅子から立ち上がりながら、魔理沙は声を荒げる。

 

 

「えっ…?」

 

 

「……あの話は簡単に踏み込んで良いような領域じゃないんだぞ!?!?」

 

 

 

「な…、何が…?」

意図が何も汲み取れずに霊夢はぷるぷると震える。魔理沙からこんなにも怒鳴られたのは初めてだったからだ。

 

 

 

「……っ、…わ…悪い。つい怒鳴っちまった……すまん霊夢」

 

霊夢の顔を見て落ち着きを取り戻すと、魔理沙は霊夢の頭を撫でて謝罪をした。

 

 

 

「…うっ、うん…大…丈夫…。そ、それで…?鷹禾くんには何かあるの?」

 

 

 

「…そう…だな。お前にも…一応話しておくか、だが…この話は他言無用で頼むぞ」

 

 

「わ、わかった…?」

未だ困惑しながらも取り敢えず霊夢は頷きを返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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魔理沙は端的に話していった。

 

 

自分もすべてを知っているわけではないが、予測と事実を交えてつらつらと話を進めていく。

 

 

 

産まれた村での扱い、忌み子としての人生、味方のいない環境、そして…誰も指摘していない左腕と右目と喉のこと。

 

 

 

 

「──で、これが大方の話だ。だから…あんまり離したくなかったんだけどな…」

 

やれやれとため息を吐いて霊夢の方を見ると、思わずギョッとする。

 

 

「……私…、私ぃ……、なんで…ごどを…」

グスグスと目に涙をいっぱいにさせて霊夢が大泣きしていた。

 

 

気持は分からないこともない、地獄を思い出させるような、古傷を抉るかのような行為をしたことを今しがた気付いたのだから。

 

それをふとした拍子に聞かれた鷹禾の痛みを想像すると、絶してしまうほどの感情になるだろう。

 

 

「鷹禾ぐんに…謝ってくる ゙っ!」

 

 

「あっ、おい───」

魔理沙が止める前に霊夢はその場を飛び出していった。しかも、机に仮面も忘れるほど切羽詰まっているらしい。

 

 

 

 

「……ったく、……仕方ない奴らだな…。本当に…」

 

 

 

一人になった空間で……、魔理沙は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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────物語がハッピーエンドで終わるのならば、その世界には一つも悲しみがなくなったと言えるだろうか。

 

 

 

『〝僕はそうは思わない。どんなハッピーエンドにも悲劇は存在しているし、涙はある……ただ、…焦点が合っていないから見えていないだけさ〟』

 

 

ん?唐突に出てきた事に驚いたかい?

あっはー、ごめんねごめんね、■■■が記憶を消してる分説明が必要なんだった。

 

 

……っと、その前に彼女──博麗霊夢の話の結果を言っておこうか、いやでもそこまで面白くないよ?…ただ単純に彼に謝罪し、許された。それだけさ…何も面白くないだろう?だから〝あの方たち〟もこのシーンは抜いたんだろうね。

 

 

 

いや〜…そろそろこの世界に着くと思うんだけどもう少し掛かりそうなんだよね。

 

でも大丈夫、この世界に着いたら死ぬ筈だった異形は全員皆殺しにするから。

 

 

 

さてさて、お次のお話は少し飛ぶよ〜…えっとね、妖精といつも通り遊んでいる中、はぐれた鷹禾が咲夜ちゃんに拾われる話だっけー?それで、魔王ちゃんと─────え?言い過ぎ?あぁごめんごめん。

 

そんじゃ、話遮っちゃってごめんね〜。続きどうぞー

 

 

・・・ていうか、〝しかくしかく〟とか言うの地味に怠いんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「咲夜。これはどういう了見だ、なぜ童などをここに連れてきている」

 

赤黒い天蓋のついた豪勢な椅子に座る〝魔王〟は不機嫌そうに眉をひそめる。

 

しかし、咲夜は物申すように口を開く。

 

 

「魔王様。この幼子はあの霧雨魔理沙様の小児だというのです」

 

片膝をつきながらその事実を伝える。

 

 

「なんだと?」

少年を一瞥し、その顔は不機嫌な表情から笑みに移り変わっていく。

 

 

 

 

そしてその笑みは狂気的なものに変わる

 

「ハハッ!あの魔法使いに?!この童がか?!」

興奮のためか言葉が妙におかしくなっている。

 

 

一息をつくと、魔王はジトリと視線を這わせ、鷹禾の相貌を見渡す。

 

 

「おい、そこの小童。今の話は真か?」

 

 

『えっ?う、うん…そう、です』

 

 

「ふぅん…?」

ギロリとした目で少年の心を見透かすように見つめる。

 

 

「どうやら真のようだな。……ククッ、アハハハッ!! 咲夜、よくやった……もう下がって構わぬ。」

 

咲夜は短く返事をし、敬礼したあと、消えた。

 

 

 

『…??』

 

 

 

「不可思議か?まぁ…無理もあるまい。────して、小童よ…貴様は今からどんな目に遭うと思う?」

 

魔王は椅子から立ち上がると、目を丸くする少年の眼前に顔を近づけた。

 

 

 

「ハハッ、見ただけで分かる。貴様の能力は推し測るに他者の負の消失化──だろう? 確かに使いようによっては化ける能力だ、殺意も敵意もすべてを消してしまえば対象がコチラに牙を向けることは無くなるのだからな、〝しかし〟我の運命力を前にそんなものは無駄だ」

 

 

鷹禾は『運命力』という単語に再び目を丸くし、「あの…」と、立ち上がった。

 

 

 

が、魔王はビタリと動きを止める…その異常性に気がついたからだ。

 

 

 

「なぜ……貴様、〝立てている?〟」

そんな質問を繰り出す。

 

 

 

『……???』

当の本人は意味が分からず疑問符を浮かべているが、レミリアだけはその荒唐無稽さに気が付いている。

 

 

 

「おい、貴様──手を出せ」

 

 

 

『…─…?こ、こう…?』

困惑しながらも従うのは彼の純粋さ故かも知れない。

 

 

 

そして、魔王は近くにあった血入りのボトル瓶を叩き割ると…少年の手に…割ったグラスの破片を持たせる。

 

 

『どういうこと…?』

 

 

 

「そのままの余の腕にそれを刺してみろ」

魔王は何かを恐る恐る確認するようにそう言い放つ。

 

 

 

『えっ、何で…というか…本当にどういう事…?』

 

 

「さっさとせんか!」

 

 

『…っ、…わっ…分かりまし、た……』

魔王が苛立ちを含めながら叫ぶと鷹禾は気圧されるように頷いてしまう。

 

 

───そして、躊躇いながらも少しだけ…魔王の腕に破片を刺し込みほんの少しだけ〝傷を付けた〟…。

 

 

「は…っ、……ハハハッ!」

その事実を認知すると彼女は口を裂くように笑みを浮かべ、笑い始める。

 

 

 

「まさか、まさか、だ…っ…。余の運命力に囚われないどころか無力化までするとは……」

 

 

『………?』

鷹禾は取り敢えずもう良いのかな、と思い…破片を遠ざけた。

 

鷹禾には目の前の女性がうわ言のように呟く言葉の意味がよく分からなかった。

 

 

 

「…おい、童。貴様はこの異形郷で何をするつもりだ?」

 

先ほどより魔王は値定めるように目を細くしてその質問を放つ。

 

そして……この答えによって鷹禾の運命の全てが決まるのだが、その事を鷹禾は自覚していない。

 

 

その意図を分かりかね、首を傾げたが…即決して口を開く。

 

『……ん、…?…えっと…。皆を幸せにしたい、…です。お母さんも霊夢さんも紫さんも妖精さん達も妖夢さんも鈴仙さんも………。僕は…僕を僕としてみてくれる人達皆を幸せにしたい』

 

 

 

「……ククッ………。」

その答えを聞くと、魔王は堪えきれないといった様子で笑い声を漏らす。

 

 

 

「ハハハッ!気に入ったぞ童、余の運命力すら打ち消し、その心は純真に満ちている。貴様、名を何という?」

 

 

 

『僕…?鷹禾…だ…けど。…。』

 

 

「…おうか………。か、…光栄に咽び泣くと良い、人間如きの取るに足らん名を覚えておいてやろう」

 

 

『じゃあ、貴方のお名前は?』

 

 

「名……だと? ふふっ……、良いだろう───キサマには余の名を呼ぶ権利を与えてやる。

余の名は〝レミリア・スカーレット〟…魔王と呼ばれる者だ」

 

バサリと翼を開き、少々仰々しく手を広げてその台詞を紡ぐ。

 

 

『──えっと、魔王さん…で、良いの?』

 

 

「先ほど言っただろう?名を呼ぶ権利を与えてやる…とな」

 

 

『じゃあ、レミリアさん…?』

 

 

「ふぅむ、」

魔王──もといレミリアはその名を呼ばれると満足気に頷いた。

 

 

 

 

瞬間────館に怒号が響く。

 

 

 

「レェェェミィィィリィィィアァァァァ!!!!」

 

ビリビリと思わず身震いしたくなるような声に次いで、天井が壊れ…、声の主が降ってくる。

 

 

 

『あっ、お母さん!』

その姿を確認すると目をキラキラさせて鷹禾は飛びついて行った。

 

 

 

「存外早かったではないか…それほどまでにその童が大事か?」

 

チラリと、レミリアは一瞥しながら口を開いた。

 

 

「テメェには関係ねぇ。それよりも、このガキに何かしてないだろうな」

 

 

「……なに、ただ───……」

 

『大丈夫だよ!レミリアさんは外が危ないからここに居させてくれたの!』

レミリアが言葉を言う前に、魔理沙に抱き着く鷹禾が返答した。

 

 

しばし目を細めたあと、チッと舌打ちをするとレミリアを一瞥した。

 

 

「おいクソ吸血鬼、今度変な事したら殺すからな」

 

 

 

「ククッ…分かっている。さっさとその童を連れて去るが良い」

 

 

 

 

魔理沙は翼を広げると、壊れた天井から飛び去って行った。

 

 

 

 

 

「魔王様───あれでよろしかったのですか」

いつの間に片膝をつける咲夜が現れており、そんな質問をしていた。

 

 

 

「……あの童───いや、鷹禾には余の運命力が何も効かなかった」

 

 

「……っ?」

そこで初めて咲夜は顔を歪めた。

 

 

「実に興味深い。我の運命力を回避する者は初めてだ……魔理沙の子としても、一つの存在としても、興味が出てきた」

 

 

「…………」

何かに感嘆するような目で咲夜はレミリアを見つめる。

 

 

「……分かっていたが、運命力が効かないということは…〝余の負も消される〟ということか…」

 

レミリアは再び玉座に腰を下ろすと、そんな事をぼやき、眠りに就くように目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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数日後、ヴァリアントタウン───酒場。

 

 

魔理沙は換金し終わった金を持って霊夢と鷹禾と一緒に来ていたのだが、その場にそぐわない存在を認知して眉をひそめた。

 

 

 

 

「ご注文は─────っ…て、え、えぇ!?…ま、魔王…?!?!」

 

酒場の店員──ミスティア・ローレライは驚きを隠そうともせずに叫びを上げた。

 

 

 

「必要はない、あの魔法使いに用があるだけだ」

 

魔王…レミリア・スカーレットは端的にそう言うと魔理沙の方に視線を飛ばしてきた。

 

 

「数日ぶりだな、鷹禾」

こちらの席にまで歩いて来ると、レミリアはそんな事を言ってきた。

 

 

『あっ、レミリアさん!こんにちはです!』

何も物怖じせずに返答をする鷹禾に、他の客たちは苦笑いを浮かべ…レミリアは心底面白そうに微笑を浮かべた。

 

 

「…やはり、か…。」 

 

 

「おいクソ吸血鬼野郎…。一体何しに来やがった」

 

「カチカチカチ」

 

魔理沙と霊夢がいきり立つように言うと、…(?)レミリアは微笑を浮かべたまま続ける。

 

 

「霧雨魔理沙よ。今夜話がある。余の館に来い」

 

 

「はぁ?」

間の抜けた声というより、苛立ちと自分の聞き間違いかという疑問の「はぁ?」だった。

 

 

 

「話はそれだけだ。では…さらばだ」

 

 

そう言うと、レミリアの姿は刹那の闇を残して消え去った。

 

 

「カチカチカチ…………?」

 

 

『………どーゆーことなんでしょう?』

隣に座る鷹禾が霊夢に話しかけ、そのまま同時に首を傾げる。

 

 

 

「はぁ…」

あの吸血鬼にも鷹禾は何かしたのか……面倒くさくなることが、確定しているが…無視したら無視したでもっと面倒くさくなりそうだ、行くしか無いかぁ…と魔理沙はため息を吐き、今は食事を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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夜。魔理沙は霊夢を幽香に預けたあと、鷹禾を連れて空を飛んでいた。

 

 

 

 

 

勿論門から入るわけもなく思い切り空からその部屋に刺突をした。

 

 

 

「ふむ、中々に派手な登場だ。さしずめ七十点と言った所か」

 

魔理沙の侵入に特に驚く様子もなくレミリアはそう言った。

 

 

「それも運命力とやらで分かってたんだろ。で?話ってのは何だよ」

 

不機嫌そうに魔理沙が髪をかきあげて話を催促する。しかし、レミリアはその前にとある事を話す。

 

 

「何か勘違いしてるかもしれんが、今回は余の運命力を使ってはおらんぞ?」

 

 

「……?」

 

 

「そうだな、やはり余の予想通りだった。恐らくだがそこの鷹禾と接触している限り貴様は余の運命力に囚われることはない」

 

 

「どういう…ことだ…?」

 

レミリアは愉しそうに目を細めると、パチンっと指を鳴らした。

 

 

「お呼びでしょうか。魔王様」

 

「うおっ…?!」

 

唐突に魔理沙の横に、片膝で跪く一人の従者が現れた。

 

 

「そこの、童と少し戯れていろ」

魔理沙にくっつく鷹禾を顎で示した。

 

 

従者もそれを、一瞥すると…「はっ」と、深く頭を下げると…鷹禾と共に姿を消した。

 

 

「おい、レミリア。どういう事だ、さっさと説明しろ」苛立ちを隠しきれずに魔理沙が問うも、レミリアは

 

「そう急くな、鷹禾が傷付くような事はしない。それと、咲夜と鷹禾には面識がある。それよりも…だ、」

 

 

目を鋭いものに変え言葉を続ける。

 

 

「最強の魔法使い───霧雨魔理沙よ、貴様。どこからあの童を拾ってきた?」

 

 

その質問に眉をひそめる魔理沙だったが、答える。

「幻想郷。あの平和ボケした世界に居たガキだ。」

 

 

「……不可思議だな」

 

 

「どういう意味だ?」

 

 

 

 

 

 

 

「そうだな、貴様のような愚鈍には分からんかもしれんが。幻想郷とやらに鷹禾が居るのは…〝あり得ない〟」

 

 

言い切るレミリアの発言に魔理沙は舌打ちをする。「説明をしろよ、何でありえねーんだ?」

 

 

「そうだな、その前にとある前提を話そうか。───幻想郷には…ここ異形郷のもう一つの存在が生息している。例えば、幻想郷には余と全く同じ名前を持つ下位互換の吸血鬼が居る。無論、貴様にも言えるな、この異形郷の主たる八雲紫にもそれは言える。……どれ、もう分かっただろう?」

 

 

 

「……」

レミリアの意図が理解をできた──しかし、魔理沙はそれを言えなかった。

 

 

「けど、…あのガキは人間だろ?それならここに居ない理由もあるじゃねぇか」

 

 

「愚かだな。───もう、気付いているだろう?そんな理屈に無いことぐらい」

 

 

 

「…っ…。───るっせぇよ」

気付いている……最初っから、初めて出会い、目を見た時から…アイツが…外なる世界から来たことぐらい。

 

 

「呆れたものだ。最強の魔法使いと呼ばれ、余の好敵手として認識していたものだが……改めたほうが良さそうだな」

 

 

「…おい、クソ吸血鬼。…今から少し〝切る〟。もって数十分だ、それで全部話しを終わらせるぞ」

 

 

「良かろう。……では、始めよ──────■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 

■■■■────……らが余の運命力すらも無力化をしているのだろう。」

 

 

と、そこで魔理沙が手を挙げた。

 

 

「時間切れだ。もう繋がれた」

 

 

 

「いや、…もう良い。」

げんなりとした様子で言った魔理沙とは対照的にレミリアはさして気にせずに深く玉座に座り込んだ。

 

 

「本当に…面白い童だ。底が見えない、あの力を形容させるのが不可能に近い」

 

心底楽しそうにレミリアは笑った。

 

 

 

「………鷹禾…」

顎に手を当てて考え込みながら魔理沙はぽつりと呟いた。

 

 

 

────もし、レミリアとの結論が事実だとしたら今すぐにでも鷹禾は殺害せなければならない。鷹禾も抵抗などしないだろう……アイツはそういうことのためなら喜んで死を選ぶ人間だ。

 

 

 

 

〝でも〟──殺せるわけがない。

 

 

 

 

「霧雨魔理沙。」

 

 

「………?」

ふと、言葉を投げかけられ魔理沙は顔を上げた。

 

 

 

「……鷹禾は、異形郷の存続そのものを考えるのならば…確実に息の根を止めておいた方が良い。しかし、まぁ……あの童が死んで異形郷が無事で済むよりも、あの童が生き残り異形郷が〝滅ぶかもしれない〟道を辿る方を選ぶ者の方が居るだろうがな」

 

 

「はは…っ、そうだな。」

思わず苦笑する。そりゃそうだ、あのガキはもう…異形郷の一員なのだ。

 

 

皆にとって、かけがえのない者となっている。

 

 

「窓を見てみろ」

レミリアは、ワイングラスを揺らしながら口に含むと、外を指した。

 

 

 

 

 

『やったー!勝ったー!』

 

 

「ふふ…っ、参りました。鷹禾様はチェスがお上手ですね」

 

 

『うんっ!お母さんがたくさんしてくれたから!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─・─・─・─・─・─・─・─・─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれが、鷹禾の強さであり、弱さだ。」

 

レミリアがあの光景を視界の端に捉えながら微笑む。

 

 

「余は、あの童が生き残る方に賛成しようではないか。そちらの方が面白い結果になりそうだ。」

 

 

 

「良いのかよ、お前は───いや、何でもねぇ」言いかけた言葉を魔理沙は辞めた。

 

 

「では、そろそろご帰宅願おうか。話は終わりだ。」

 

 

「そうかい、……。」

軽く嘆息すると、魔理沙は鷹禾に呼び掛けた。

 

 

「鷹禾!そろそろ帰るぞ!」

 

 

 

『うん、分かった!! ありがとうございました、咲夜さん!すごく楽しかったです!』

少し名残惜しそうにしながらも鷹禾はそう言った。

 

 

 

「んじゃな。レミリア」

 

 

「また、〝何時でも来ると良い〟…鷹禾と一緒ならば歓迎するぞ」

 

 

「二度と来るか」

ふざけたことを抜かすレミリアにそう吐き捨てると、魔理沙は鷹禾の首根っこを掴んで飛び去るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜■〜〜〜

 

〜〜〜■〜〜〜

 

〜〜〜■〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、とある日。魔法の死森にて、鷹禾は妖精たちに肩車されながら森を巡っていた。

 

 

 

 

と、そんな時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キョトンと鷹禾は首を傾げ、右方の森林奥を見つめた。

 

 

 

『?ねぇねぇ、あっちから変な声聞こえたけど。どうしたの?』

 

 

 

言って、自信を肩車してくれている妖精や地面にいる妖精たちに話しかける。

 

 

 

 

 

「きゃはははは」

 

 

 

「わかるよ?うんうん、わかるよ」

 

 

 

「きょきょ?」

 

 

 

「ン?」

 

 

 

「奴=変」

 

 

 

 

 

そんな、声を聞き届け…鷹禾は不審気味な声を上げた。

 

 

『変な妖精さんが居て…。デンカさんとスターさんとサニーさんが探してるの?』

 

 

 

 

「……きょ」

 

 

「わかるわかる」

 

 

 

 

そして、うーんと鷹禾は悩んだ後。──

 

 

 

『皆でそこに行ってみない!?』

 

 

 

そう提案した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

私はその死の森を必死に、必死に、本当に命賭けで走り回っていた。

 

 

 

 

 

 

さっきまで今までの日常と同じだったのに。目が覚めたら……急に…こんな、事に。

 

 

 

 

 

 

 

自然だらけというのに、この場所は空気が澄んでいるわけでも落ち着くというわけでもない。

 

 

 

 

逆にこの森林そのものが血を養分としているのが如く、呼吸をする度に嘔吐してしまいそうな気色の悪い鉄分の香りに感覚が打ちひしがれていた。

 

 

 

 

 

 

それだけではない。この森には化け物たちがいる。

 

 

 

 

大小は様々、そこは問題ではない。

 

 

 

通常の生物とは思えぬ容姿、言語、残虐性。

 

 

 

 

元々いた自分の仲間は既にソイツらに殺してしまった。

 

 

 

「う ゙…っ…」

 

そんな事を考えていると、木の根に足を取られ、転んでしまう。

 

 

 

衝撃で頭から帽子が落ちて、膝が擦りむいて、身体全身が痛い。でも、そんな痛みも…まだ自分は生きているということの確認ぐらいにしか感じない。だって、仲間たちはもっと痛かったんだから。

 

 

 

必死に痛みを我慢し、涙も我慢し、立ち上がり、走れなくとも歩き続ける。

 

 

 

 

 

 

イヤダイヤダ。死にたくない。あんな残酷な死に方なんて迎えたくない。

 

 

 

 

今でも思い出す。死ぬ瞬間の仲間の顔を。

 

 

 

苦しむ声を、悶える顔を、こちらに助けを求める眼を。

 

 

 

 

 

 

 

なの、に──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うんうん。わかるよわかるよ」

 

 

 

 

 

 

「あ…っ」

 

 

目の前の木をかき分け、その一人の化け物が姿を現した。

 

 

 

否、────一体などではない。

 

 

 

 

その背後からゴソゴソと…どんなに色眼鏡で見たとしてもこの世の生物とは思えぬ理から外れた異形の化け物たちが数十体…出現した。

 

 

 

 

「あっ…あ、……あぁ…」

 

 

逃げれない。逃げることなんてできない。

 

 

 

私はただ運が良かった。仲間と共に4方向に逃げ出して、私の方にだけはアイツラがこなかった。

 

 

ただ、それだけ。…その上、今の足で逃げるなんて。

 

 

 

 

 

でも…少し、気が楽になったような気がした。

 

 

 

 

これで、〝恐怖からは逃げられる〟。捕まったけど、この責任感からも怯えからも逃げられる。

 

 

 

 

 

 

なら、良いや……、もう……どうでも………。

 

 

 

 

 

 

 

『大丈夫?───そこのお姉さん』

 

 

 

 

「……へ…?」

 

 

 

しかし、自分に向けられたのは……残虐な爪でもなく、刺々しい牙でもなく。

 

 

 

 

どこまでも温かい手のひらだった。

 

 

 

 

『?』

 

 

怖い。見たくない。視線を上に上げたくない。あの化け物たちを目にしたくない。

 

 

 

と、思いながらも。ゆっくり……視線を上げる。

 

 

 

 

『あ…っ!やっと目が合った!』

 

 

 

そこに居たのは…ただの少年だった。

 

 

どこにでも居て、ここには絶対に居ない風貌のただの少年。

 

 

曇りなき眼でこちらを見つめ、にぱっと笑う。

 

 

『お姉さんホントに大丈夫?膝擦りむいてるよ?』

 

 

そんな、笑顔と温かさに今はとてつもなく……安堵感に包まれて。

 

 

 

 

「う…っ……うぅ……ぐす」

 

 

 

『え…っ…えぇ…!?』

 

 

思わず、思わず、涙が溢れて止まらなかった。

 

 

 

 

 

『ぼ、ぼく何かした!?…』

 

 

涙でくぐもった視界でもわかるぐらいに、少年は慌ただしく肩を震わせていた。

 

 

 

 

「こ…ごわがっだよぉぉ…!」

 

 

 

そうして、普段なら平時なら絶対にしないのに…。今はそんな少年に泣きじゃくりながら抱き着いてしまった。

 

 

『……』

 

 

少年はどんな、顔をしていただろうか。でも、少年は嫌がることも引き剥がすこともなく、そのまま自分を慰めるように、髪を撫でて、優しく背中をぽんぽんと叩いてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………で、その方を保護したと?」

 

 

 

 

『うん。だって、勝手に傷付けられるなんて可哀想だよ』

 

 

 

 

 

「………チッ…」

 

「ゴルァァ…」

 

 

 

 

 

「………ッ(ビクッ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

現在。泣きやんだ謎の妖精を共に、鷹禾は事の顛末をデンカたちに話して、直談判をしていた。

 

 

 

まぁ、スターとサニーが謎の妖精を睨みつけていたりしたが…。

 

 

 

 

「そもそも、何故皆さんは鷹禾にあの事を話したんです」

 

 

 

 

 

「ン!」

 

 

「きょ、きょきょ!」

 

 

「わかるわかる」

 

 

 

言ってくる妖精たち。……しかし、その言語は鷹禾以外には伝わらない。

 

 

「………はぁ。せめて伝達魔法で話してくれると助かるんですが…」

 

 

 

鷹禾に対する会話と同じノリで話しかけてこないでほしいと散々思うデンカ。

 

 

 

 

し、か、し。

 

 

 

『デンカさん!そんな事は重要じゃないですよ!何で、この世界に迷ってきただけの妖精さんたちを傷つけるんですか!』

 

 

 

パンっと……そこはバンッだろうと、言いたくなるほどに弱々しく机を叩いてから鷹禾が物申してくる。

 

 

 

『サニーさんもスターさんもですよ!わざと、僕にだけ教えずに遠くで遊ばせてたのもこのためだったんですよね?!』

 

 

 

 

「………」

 

「ご、る……」

 

 

 

鷹禾の言葉にスターは分かりやすく、辟易の息を吐き、サニーは鬱々と俯いた。

 

 

 

 

 

「……ですから、鷹禾。分かってください……侵入者は敵意があれなかれ、殺す。と、決まってるんです」

 

 

 

デンカがなだめるように言うと、鷹禾は更にふくれっ面を作ってきた。

 

 

 

『……むぅぅ…!なんでですか!こんなのあんまりですよ!』

 

 

 

 

「これは決まりです。お母様が作った規則で────────」

 

 

 

 

 

 

 

と、そんな口論をしている時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「るっせぇなあ…人様の家の近くでなぁに痴話喧嘩してんだお前ら」

 

 

 

 

そんな声に、一人の少年を除く全員が肩を震わせ…息を詰まらせた。

 

 

 

 

 

 

 

『あっ!お母さん!』

 

 

 

 

今しがた帰ってきたのだろう。……鷹禾の母、霧雨魔理沙はぐるりと視線を散らし、妖精たちの顔を見て、呆れたように息を吐いていた。

 

 

 

 

そして、鷹禾からの呼びかけに、「ん」とだけ返事をして頭を撫でてやってからデンカに視線を向ける。

 

 

 

「で?何話してたんだよ」

 

 

 

 

「………聞いて…いたんですね……」

 

 

 

「あんなバカでけえ声で話してたらそりゃあ、聞こえるだろ」

 

 

 

 

『あのね、お母さん。デンカさんたち、この世界に勝手に来ちゃったとは言え、迷い込んだだけの人たちを傷付けたんだよ…!?だから、その事を話し合ってたの!』

 

 

 

 

魔理沙は、お前に聞いたんじゃなかったんだけどな。的な顔をしてから、ふぅんと頷いてきた。

 

 

 

「なるほどな。……確かに止める気持ちも分からなくもないが…そりゃあ駄目だ、鷹禾」

 

 

 

 

『……えぇぇ…!お母さんまで言うの!?』

 

 

 

 

きっぱりと魔理沙が言うと、デンカたちは鷹禾に対して負い目を感じながらも…安心したように息を吐いた。

 

 

 

 

「当たり前だバカガキ。なぁに勝手にやってんだよ」

 

 

 

 

 

『うぅぅ……、なんでぇぇ…』

 

 

鷹禾が涙ぐんで嗚咽を漏らす。その姿に一瞬魔理沙は息を詰まらせたが、咳を挟む。

 

 

 

 

「……それは母上が決めたからだ。────」

 

 

 

そして、魔理沙は演技めいたように言葉を紡ぐ。

 

 

 

「まぁ、逆に?────母上が許可さえ出してくれればソイツを生かしてやっても良いってことだ」

 

 

 

 

 

「………え……魔理沙、さん?」

 

「…………」

 

「ゴル………」

 

 

 

 

 

『……ほんと!?お母さん!?』

 

鷹禾は思わず椅子から立ち上がって魔理沙に駆け寄った。

 

 

 

「…母上。これも見てくれてるなら出てきてくれると嬉し─────」

 

 

と、魔理沙はどうせこの光景も観ているであろう母上──八雲紫に話しかけたのだが…。

 

 

 

 

 

スクッ…とどこからともなく手が出てきて、グッと親指を立ててサインを見せてきた。

 

 

 

それを見た魔理沙ははあと呆れたため息を吐いてからデンカたちに視線を向けた。

 

「…………ってことだ。母上が決めたんなら文句ねぇだろ?お前ら」

 

 

 

 

 

「………はぁ。お母様も最初から見ていたのなら来てほしかったのですが…」

 

 

 

デンカたちも…負けを認め、「わかりました。その妖精は殺しませんよ」…と、言った。

 

 

 

 

『やったー!ありがとう、お母さん!』

 

 

 

「……感謝なら母上に言えよ…少なくとも俺じゃねぇ…」

 

 

 

 

「あ…、あの……ありがとう…ございました…」

 

 

言って謎の妖精も魔理沙に頭を下げた。

 

 

 

「……手前…」

 

 

 

「…えっと…なにか…?」

 

 

 

「……ぃんや…何でもねぇ。」

 

 

 

 

 

 

 

『それにしても、良かったですね!後は紫さんの能力なら元の世界に帰れますよ!』

 

 

 

 

鷹禾は笑顔で謎の妖精の手を取ると、ぶんぶんと上下に振り回した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの本当に。ありがと…うござ…いました」

 

 

 

「……わたしも…本当になんて言ったらいいか…」

 

 

 

「…は、早く帰りたい…。…ッ…あっ…あたしも…すっごく感謝してます!」

 

 

 

 

「…………」る

 

 

 

 

 

そうして、色々な騒動が終わった後。…その謎の妖精の仲間?と思しき妖精を鷹禾の力で蘇らせて現在は…彼女らを元の世界に帰すとこである。

 

 

 

 

 

鷹禾に助けられた赤茶色の髪の妖精以外の元々死んでいた妖精たちは感謝を述べているのだが……

 

 

 

 

「おぉい、準備終わったぞ。帰りたいヤツからさっさとそのゲートに入れ。手前クソガキ共」

 

 

 

 

『……だって!バイバイ、さようなら!元気でねー!』

 

 

冷たく言う魔女とは対照的に明るく元気にいう少年。

 

 

 

妖精たちは本当に少年の存在に感謝しつつ、一人ずつゲートに入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして……

 

 

 

 

『……?どうしたんですか?帰らないんですか?』

 

 

 

「手前な。帰るならさっさとかえ──────」

 

 

 

 

鷹禾が首を傾げ、魔理沙が強引にでもゲートに入らせようとした時。

 

 

 

赤茶色の髪の妖精はとんとんと自分の胸を軽く叩くき、深呼吸をしてから鷹禾に視線を合わせてきた。

 

 

 

 

「あ、…わ、私……本当に…貴方に…感謝してるんです…」

 

 

 

「私…みたいな…妖精を…たすけ、くれ…て………」

 

 

 

 

 

『そんな訳無いよ』

 

 

 

 

「え…っ…?」

 

 

 

 

『僕は〝助けられるべき人しか助けないよ〟。その人がどうしよもない悪人さんとか、価値のない人なら絶対に助けないもん。だから、感覚だとしても直感だとしても貴方のことを僕は助けたいって思ったんですよ…』

 

 

 

「で、でも…わた、し…。夢一つも…叶えられなくて…笑われるよう、な…妖精で……私、みたいなのが…」

 

 

 

鷹禾はふくれっ面を作ると、ずいっと少女に顔を近づけた。

 

 

『【私みたいなの】っていうの、めっですよ。僕、その言葉嫌いなんです。それに、元の世界に帰るのが怖いなら僕がいっぱい応援するから!貴方は絶対に成し遂げられるよ!その夢も!』

 

 

 

 

 

 

その言葉に赤茶色の髪の妖精は……じわりと涙腺を緩ませた。

 

 

 

 

元の世界では誰からも心の芯から肯定された事なんてない。自分の唯一の目標も…バカすぎると嘲られた。

 

 

 

 

 

今日は…とんでもなく不幸な日だと思った。でも、でも、でも……

 

 

 

 

「私……貴方に会えて…良かった、です…」

 

緩ませられた蛇口は止まることなく水を出し、彼女は思わず顔を手で覆って、嗚咽まじりの声を出した。

 

 

 

 

 

 

 

『うんっ!僕も、〝貴方〟に会えて良かったです!』

 

 

 

 

 

「………っっ…っ!」

 

 

そんな少年の満面の笑みに、妖精も涙ぐみながらも初めて笑う。

 

 

 

 

「あの、私の名前は…ティー──────」

 

 

 

 

「……はぁ。さっさと行け」

 

そうして、しびれを切らした魔理沙が意趣返しのように妖精の言葉を遮るとそのままゲートに強引に連れて行く。

 

 

 

 

 

『……これからも頑張って下さい!!〝ティーナフレーバーさん!〟』

 

 

 

 

「……っ!……はい…!!!!」

 

 

 

 

去り際、鷹禾は手をぶんぶんと振ってその名前を叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、少女────ティーナフレーバーは数瞬後にはいつも通りの自然豊かな森の中に居た。

 

 

 

「……」

 

 

 

背後を見ても、先ほどのゲートはない。周囲には自分と同じくあの世界から帰還した妖精たちが泣いて抱き合っていた。

 

 

よほど、あの世界から帰ってこれたのが嬉しいのだろう。

 

 

 

無論。私自身もこの世界に帰りたくなかったわけではない。嬉しいに決まっている。

 

 

 

 

けれど、……「……鷹禾…くん…〝おうかくん〟」

 

 

 

あんな名前、初めて聞いた。あんな少年、初めて見た。あんな態度、初めてされた。

 

 

 

 

でも、でも、どこか…安心した…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────(数週間後)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖精たちが別世界に転移をした。そんな過日異変は妖精たちの中では大層話題になったが。

 

 

 

 

今ではもう、話題にしているものは殆ど居なかった。

 

 

 

 

でも、「また…会えると良いなぁ…」

 

 

 

 

赤茶色の髪の妖精は紅茶を注ぎながらぽつりと言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

 

「んー?どうしたのー」

 

 

 

 

「あ、いいえ。なんでもありませんよ」

 

他の妖精たちからの言葉を流してから、少女は妖精たちに紅茶を振る舞う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ってか、これ美味しいね」

 

 

 

「それ思った。何気にあんたの作る紅茶って美味しいわよね?才能あるんじゃない?」

 

 

 

 

「え、…えへへ…。そう言ってくれると嬉しいです…。いつか、紅魔館のメイドとして働くのが夢なんです」

 

 

 

 

しかし、「えー? それは夢みすぎ」

 

 

「確かに、あんた弾幕も撃てないいかにもドジちゃんだし」

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

言って笑ってくる妖精たち。───彼女らには殆どティーナに対する悪感情があるわけではない。ただ単に【それは無謀すぎる】事を笑っているだけ。

 

 

 

 

───けれど、

 

 

 

 

「なれますよ…っ…………。……絶対になってやりますよ!!!」

 

 

ティーナはうつむきながらも、珍しく声を荒げて叫んだ。

 

 

 

 

 

「は、はあ…? なによ、あんた」

 

 

 

「ちょっとありのままのことを言っただけで…。ほんと、感じわる…。さっさと行こ…っ」

 

 

 

彼女からそんな返答をすると思っていなかったのか、妖精たちはよそよそしく言うと、そのまま去っていった。

 

 

 

 

ティーナは妖精たちの背を見届けると、置いていかれた紅茶を口に含み、ほほ笑んだ。

 

 

 

 

「……夢、叶えますから…おうかくん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後の、半年後。紅魔館では赤茶色の髪のドジな妖精がメイドとして働くようになっていた。

 

 

彼女を誰もが呆れてこう言う「掃除はできない。」、「すぐに泣く。」、「よく物を壊す。」

 

 

 

だけれど、「あの子の作る紅茶は凄く美味しい」

 

 

という声もあるとか、ないとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜■〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

またまたとある日。過日の別世界からの訪問者の問題を解決してからも、鷹禾は普通に暮らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───それを窓から見下げるのは霧雨魔理沙であった。

 

 

 

 

 

現在、鷹禾は紅魔城にて…十三騎士団たちと戯れている。

 

 

 

初めは魔王であるレミリア、騎士団長の咲夜等に気に入られているということで…その嫉妬心からかふっつーに鷹禾を影から殺そうとしている者も居たが、今では距離を縮めることに成功していた。

 

 

 

十三騎士団の中では特に狂騎士バッカと武騎士骨苦に鷹禾は気に入られているらしい。

 

 

 

 

 

めでたいのか、危険だから距離を開けさせたほうがいいのか、魔理沙には分からないが……取り敢えず鷹禾を少しでも傷付けたら口実でレミリアもぶっ殺すとだけ思っていた。

 

 

 

 

 

 

「さして睨んでやるな。余の愛しき騎士団たちなのだ」

 

 

 

 

そんな言葉を言われ、魔理沙は窓から目を外し。その玉座を見やる。

 

 

 

 

「…………十三騎士団……ねぇ…」

 

 

やはりこの名前は、聞くたびにイタイ名前だと思う。……昔までの価値観ならばここで大爆笑していたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「本題を話させろよ。なぁ、魔王さんよ」

 

 

 

「そう急くな。些か焦りすぎだぞ?なぁ、最強の魔法使いよ」

 

 

 

 

 

 

その言葉に魔理沙はチッと舌打ちを返す。

 

 

 

 

この場所に来ると、この女の手玉にとられるようでやはり気色が悪い。

 

 

 

「前にあったろ。別世界からやってきた妖精どもの事だよ」

 

 

 

言うとレミリアは、ふむと唸りながらあごに手を添えた。

 

 

 

 

 

「ああ、そういえばそんな事があったな。取るに足らん事で忘れていた。───それで、その下等生物がどうしたというのだ?」

 

 

 

魔理沙は指を一本立ててから答える。

 

 

 

 

 

「あの中に一人。───不審な奴がいた。」

 

 

 

 

「………?」

 

 

 

 

「ぜってぇに会ってないはずなのに、あのガキがその妖精の名前を知っていやがった」

 

 

 

「ほう…?それは、…ハハッ…。面白い事態だ」

 

 

 

 

「んだお前。どこぞのネズミみたいに笑いやがって。前に話したことを覚えてるならこれがどれだけ重大なことか分かってんだろ」

 

 

 

 

 

「いや何。単純な話だろう?さして悩む内容か?」

 

 

 

 

 

「……………当たり前だろうが」

 

 

 

 

魔理沙の長い間の言葉を受けると、レミリアは呆れたように吐息した。

 

 

 

「簡単な話。鷹禾は─────」

 

 

 

 

 

 

 

「黙れ」

 

 

 

 

 

「…………」

 

真っ黒な顔に潜む、害意の象徴のような目にレミリアは押し黙る。

 

 

 

 

無論、恐怖や焦りを感じて黙ったのではない。むしろその逆、憐憫を感じて言葉を留めたのだ。

 

 

 

 

 

「前に話は付けたろう?今更、拒絶することでもあるまいて」

 

 

 

「ちげぇよ…。そういうことじゃないだろ…。もし、アイツが〝アレ〟を持ってるなら…あの話よりももっと…」

 

 

 

 

「危険。だろうな」

 

 

 

「………」

 

 

魔女の沈黙を聞いて、更に魔王は感嘆の息を吐いた。

 

 

 

「それも我らが選んだ〝運命〟だ。受け入れる他あるまい」

 

 

 

「だよ、な」

 

 

 

 

レミリアは肯定をした。しかし、魔理沙は、笑みを深めていった。

 

 

 

 

 

「……運命?筋書き?ディステニー?───そんなの、ぶち壊して、乗り越えればいいだけだ。悪いな、レミリア。こんな三文芝居につき合わせちまって」

 

 

 

 

 

「感謝など要らん。鷹禾を連れてくれば歓迎すると言ったのは余の方だ」

 

 

 

 

魔理沙は小さく、そうか。と返すと、そのままバサリと翼を広げた。

 

 

 

 

「……ん?もう帰るのか?」

 

 

 

「そうだが」

 

 

 

 

「もう暫く居ないのか?」

 

 

 

 

「…………………………」

 

 

言って、窓の外にいる鷹禾をチラチラとみ始めるレミリアを思わずジトーっと見つめる魔理沙。

 

 

 

 

 

「お前………マジか…」

 

 

 

「な…っ、なんだ!まだ何も言っていないであろう!?」

 

 

 

「流石に俺の息子にそういうのは…辞めてくれな?」

 

 

 

 

 

「だから、何も言っていないであろう!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『……幽香さんって、お母さんの昔のこと知ってるの?』

 

 

───太陽の花畑。一人で遊びに来た鷹禾は幽香に話しかけていた。

 

 

 

「昔のこと?」

 

 

『うん!例えば…霊夢さんに聞いたけど、昔、すっごく悪い人たちがここに攻めてきた事があったんでしょ?それをお母さんがみーんな、倒したって聞いたよ!』

 

興奮を隠そうともせずに、目を輝かせながら言葉をまくし立ててくる。

 

 

 

「えぇ、まぁ…、そうね」

なんというか、事実ではあるのだが…何か勘違いしてそうな言い方である。

 

 

そして、幽香はその戦いの話をして、鷹禾は自身の知っている名前が出る度に目を輝かせて食い入るように聞いていた。

 

 

 

 

そして、そんな話が終わると。

 

 

『…あの、幽香さん。少し、良いですか?』

 

 

「………え?どうしたの?」

ふと、鷹禾が聞いたことがないほど冷静な声音で話しかけてきた。

 

 

『僕は……ここに居ても良いのかな。分かってるです、僕はここに居てはいけない存在ってことに』

 

 

「…………」

どのような言葉をかけてあげたら良いのだろう。

 

 

私には気の利いた言葉を言ってあげれるような器ではないし、それほどまでにこの子を見てきたわけでもない。

 

 

 

でも、一言でも…肯定ぐらいは出来る。

 

「大丈夫よ、…仮に…貴方をここから排斥するような奴が居るなら私がぶっ飛ばしてやるわ」

 

 

幽香は鷹禾の顔が少し明るくなるのを見て、心が暖かくなった。

 

 

 

 

 

が、

 

 

 

 

『へー、じゃあ。僕の事もぶっ飛ばしてくれるんだ?』

 

 

「あ ゙…っ、が…っ?」

そんな軽い声とともに、腹部にとんでもない痛みが走った。

 

 

自分の腹部から、知らない真っ白な腕が吐出している…まるで……中から破るように。

 

 

『幽、香…さん…?!』

鷹禾も慌てて駆けつけ寄ろうとするが、幽香は叫んだ。

 

 

「来るなっ! あな、た…は、…魔…理、沙…を……よんで…来て…!」

 

 

 

『何コイツ、まだ喋れんの?気持ちわる』

 

そう言うと背中に刺される腕の本数が2本に増えた。

 

 

「ぐぅぅ……っ。がは…っ…、はや…く、いき…なざい!」

幽香は死にかけの力で植物を操り、鷹禾を森方面まで吹き飛ばした。かなり飛ばしてしまったが、…今の幽香には気にしていられない。

 

 

 

「あ…な…たはっ…。なに…ものっ?!」

 

 

姿の見えない者に語りかける、しかし…

 

 

『良いからさ、さっさと死んでよ。』

 

 

グシュクジュグシュグシュ───

 

 

「あ、あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!??」

 

腹に刺された腕が臓物を抉り出していた、ただ身体の中をかき混ぜるように。

 

 

『君らみたいな贋作物にハッピーエンドなんて似合わないんだよ。

 

じゃあねー、幽香さんっ♪』

 

ひとしきりかき混ぜ、幽香から声が出なくなると、その者は手をフリフリと振りながら悠々と鷹禾を追いかけていく。

 

 

 

 

 

そして、幽香の絶命を確認してから、その者は一息つくと唇を開く。

 

 

 

『さて、と。君たちは周辺の奴らを殺してきてくれるかい?』

 

 

 

 

周囲には六人の少女たちが居る。

 

 

王に畏敬を扱う騎士のように全員が片膝をついている。

 

その命令に二人を除き、それぞれ「はい」と、首肯を返していたのだが。

 

 

 

『私は人を殺したくない』

 

「我はこんなにも造作もない児戯のような戦いなど求めていない」

 

 

穢れた魔女服のようなものを着た少女は抑揚のないトーンで

 

身体を起点に螺旋状に渦を巻いている骨、のような服を着た少女は心底つまらなさそうに

 

 

その二人は抗議をしていた。

 

 

 

「……はぁ」

 

二人の口答えに左手に手甲鉤を付けた少女はわざとらしくため息を吐き、二人を睨めつけていた。

 

 

「ははは〜…怖い怖い、そんなに睨んじゃ駄目だよヨシノちゃん。怖い顔が台無したゾ♪それに、ミクちゃんは前それで痛い目見たんだから辞めときなって」

 

すると、両者を宥めるように薙刀を持った少女は笑いかけた。

 

『アレはあの稀男が強者だっただけだ』

 

ミク───と呼ばれた少女は返すようにそう言う。

 

「それで、霊装すらなくなったんだからしっかりしてほしいよねぇ〜」

 

と、続けて少女は更に呆れるように言っていた。

 

 

 

 

 

そんな顛末を見届けると、

 

『じゃあ、場所を割り当てようか。』

 

主であるその者は軽やかにそう言い、続けてつらつらと言葉を紡いでいく。

 

 

 

『ヨシノとコトリは相性も良いだろうし、この地表の異形を殺せ。コトリは街付近、ヨシノは森周辺すべて』

 

『ちょっと面倒くさい相手がいる冥界と竹林には、それぞれヤマイとムクロが行って全員殺せ』

 

 

『そして、最後に……人と呼べるものもほぼ居ない地底をナツミは頼むよ。ミクは…あっちの湖の奥にある……館?の異形たち全員を殺してきてくれ』

 

 

 

そう、告げた。

 

 

 

手甲鉤の少女と色のない和装の服を着た少女はそれぞれ、

「わかりました」・「はーい!」

という。

 

 

人並みはあろう釘を手にしている少女と、変形する薙刀を持った少女はそれぞれ、

 

「必ずご期待に沿ってみせます」・「りょーかいシました」

という。

 

 

穢れた魔女服のようなものを着た少女は一度、ゆらりとクラウンを見てから

 

『わかった』

と言い、

 

 

螺旋状の骨を身に纏う少女は

「了解した。全員皆殺しだ」

と、笑みを浮かべていていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、次の瞬間には彼女らはその者の周囲からは消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『───こんにちは。

 

 

僕の名前は〝クラウン〟。

 

 

様々な創作世界が正史になるように観測する───

 

  

【  摂理(システム)  】さ。』

 

 

 

 

 

『はぁ…はぁ……。…幽、香…さん…は?』

 

逃げ続けた末に、…まるで当たり前と言わんばかりに鷹禾は先回りをされていた。

 

 

 

『ん?あの子?気になるー?それはねぇ〜……殺っちゃった♡』

 

 

 

『………っ…』

クラウンは可愛らしく微笑みを浮かべて返してきた、……鷹禾はその笑みに背筋が凍った。

 

 

他者の負を認知できる鷹禾だからこそ分かるのだ……目の前の存在は〝一切の敵意を持っていない〟。…殺意も、悪意も、何もない。

 

 

鷹禾の能力を知っていて、隠したとしても…そんな理屈は通じない。【誰かを殺したい】、【この人を攻撃したい】…そんな〝意志〟を持っていれば無条件に能力は発動できる…。

 

つまり、敵意も悪意も殺意も無しに、誰かを攻撃したということ…。それは…その行為が当たり前と思っていて、わざわざそんな感情を覚える必要など無いという事を物語っている。

 

 

今まで見てきた人たちとは違う隔絶感に鷹禾は身震いをしてしまう。

 

 

 

『そんでさぁー…君、名前は?』

 

 

『言…わないっ!』

固く口をつぐんでクラウンを睨みつける。

 

 

 

『どうせ、〝おうか〟…でしょ…?』

 

 

 

『………何で…、知って…』

 

 

 

『やっぱり♪…君さぁ、記憶を消すのは狡じゃなーい?記憶を消したからといって、君の異常性が消えるわけじゃないんだよ?』

 

 

うーん、と…頭を振りながらクラウンは続けて口を開く。

 

 

『〝鷹禾〟…ねぇ、言い名前じゃないか。前の世界だと漢字じゃなかったよねぇ。あの、クソキャラ崩壊女に付けられたんだ?ほんと、お前いい加減にしろよ、前の世界でもそうだけどさぁ……本来そいつが言わないような言動をするのは…僕が怒られちゃうんだよ…、〝あの方たち〟はそういうのに敏感なんだから…歴史を変えるなら変えるで、そういうのは辞めてくれない?僕は正直そういうのどうだって良いけどあの人たちは〝このキャラの解像度荒すぎ〟とか言ってくるんだから…。……それでぇ〜…あんまり度が過ぎると僕も切れちゃうからさー…。………っで?僕が君達を殺す理由わかった?でもさ、僕だって冷酷無比の人間でもないよ?だから、死ぬべきじゃなかった人は生き返らせるかもしれないし、なんにも関係ない人は傷付けないさ…。だからさ、早く死んでよ…今は〝特異〟らしいけど…異常になられると、困るんだよね。』

 

 

 

『何…を……言って、…るの…?』

鷹禾は顔を青ざめて、絶句していた。あまりにも饒舌……しかし、その内容が極端に意味不明で…とんでもない恐怖感が鷹禾を襲っていた。

 

 

 

 

『……あー…ごめんごめん。あんまり文字多いと怒られるよね。あ、そうだ…台詞以外の文章消したら…節約できるかな。いやでもそれを消したら消したで面倒くさいか。───っと、また長くなってたよ』

 

 

クラウンはおっと、と…顔を上げると鷹禾に顔を向けた。

 

 

『さ、まずは君を殺させてもらうよ。話は端的に……すぐに終わらせよう』

 

 

 

『……ひ…、っ…』

ゾクリ…と、鷹禾に…途方もなく冷たい何かが込み上がった。この人物の声を聞き、顔を見る度に……背筋が凍ってしまうのだ。

 

 

 

『……んじゃあ…バイバーイ♪』

その場にへたり込む鷹禾の額に、クラウンは指を近づけ、光球を溜めた。

 

 

 

シュン────

 

 

 

『ひょえ?』

軽い切断音と共にクラウンの腕が切り落とされ、クラウンの頭に小さく無機質な槍が突き刺さった。

 

 

 

「……幽香に言われてきてみれば……。お前…、死ぬ覚悟は出来てんだろうな」

 

 

「カチカチカチカチッ!!!」

 

 

 

冷たい怒りを込めた声音で言葉を発す魔理沙と霊夢……そして、

 

「また侵入者かしら?嫌な記憶が蘇るわね」

 

 

八雲紫の三人が立っていた。

 

 

 

 

『あれぇ?あの露出狂、まだ生きてんの?───いや、なるほどねぇ…。負の肩代わりで死という負を肩代わりした…ってことか。』

 

 

当たり前のようにクラウンは頭の槍を引き抜き、舌舐めずりをする。

 

 

 

『…お、お母さん…!霊夢さん…っ…紫さん…!』

おもわず叫ぶが、三人は鷹禾を一瞥もせず…クラウンをじっと見つめる…否、目を離せないのだ。

 

 

 

 

「鷹禾、…逃げろ。コイツ…明らかに普通じゃねぇ」

 

 

「カチカチ…」

 

 

「そうね、ここは私たちに任せて皆の所に逃げなさい」

 

 

 

 

 

『で…っ、でも…』

 

 

 

「足手まといに構ってられねぇって言ってんだよ!わかんねぇのか!?」

 

 

「良いから、マリちゃんの言うことを聞いて上げてちょうだい!」

 

 

 

『………っ…。き、気…を付けてね…!』鷹禾は意を決すると、だんっと足を踏み抜いて森を駆けていった。

 

 

 

 

 

 

『あー…逃げられちゃった。残念無念また来年。って奴だね』

 

 

 

さして残念そうでもなく目の前の〝少女〟は軽口を叩いた。

 

 

 

 

「貴方…何者?」

紫が怪訝そうな目で唇を開く。

 

 

 

『んぅ?何者ー?〝自分でも自分が何と言ったらいいか分からないよ〟…。だってさー…僕の個体名は「クラウン」で、存在理由は創作世界の観測。…何者って一言質問で答えられる存在じゃ───』

 

 

「カチカチ!!」

 

「ああ、そうかよ。長話ご苦労さん。」

饒舌にペラペラと話すクラウンに魔理沙は剣を横薙ぎに払い、霊夢は槍を両手に持ってクラウンに突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『デジャヴ…って、やつかな?』

 

 

「……っ!」

その瞬間──クラウンは逆に霊夢と魔理沙に近づき、手から光が迸った。

 

 

 

「ぐ…っ…。この…力…まさか…」

魔理沙は霊夢を守るように前に出ると、クラウンを蹴り飛ばした。そして、何かを確認するように魔理沙は顔に触れた。

 

 

 

「カチ…カチ…」

霊夢も今のを見て、まるで…過去の恐怖でも思い出すように肩を震わせた。

 

 

 

 

 

『あれれぇ〜…。何で効かないの?僕が使い方ミスった?』

 

クラウンは不思議そうに手を見つめ、グッパッとしていた。

 

 

 

 

 

───マズイ。

 

 

一つ、魔理沙の額に冷や汗が垂れた。

 

 

あの攻撃を自分は知っている。

 

 

幻葬狂──。楽園とやらを目指し、傲慢にも神に成る方法を模索していた女。

 

 

 

アイツの…

 

 

 

『僕が能力を使いたいときはさぁ…。その世界に合った能力を自前で作るか、適当にどっかの世界から能力を選ぶかのどっちかなんだけどさ。……君にはこの能力が一番だと思ったから使ってるんだよ……ねぇ、君に言ってるんだよ?〝偽魔理沙〟』

 

 

 

「………そうか」

魔理沙の出た答えは…あまりにも端的だった。

 

 

『……怒らないの?俺は偽物じゃねぇってさ。』

 

薄く微笑みながら肩をすくめるクラウン。

 

「俺はもう…偽物だろうが本物だろうがどうだって良い」

 

しかし、魔理沙はどこまでも澄み切った様子で…本当にどうでも良さげにしていた。

 

 

「俺は俺だ。俺は霧雨魔理沙で、霧雨魔理沙は俺。それ以上でもそれ以下でもそれ未満でもない。」

 

 

その言葉にクラウンは顔を歪め、うつむくと。頭を掻きむしりはじめた。

 

 

「……あー…。何だろうな。やっぱり苛つくね、…そのキャラが絶対に言わないような言葉を並べられると」

 

 

 

 

 

そうして、両手に光を放出し、続けて口を紡ぐ。

『もう…死ねよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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鷹禾は森を走っていた。

 

 

 

 

怖い、恐ろしい。

 

お母さんがあんなにも狼狽するなんて考えたことも無かった。

 

 

 

走って、走って、走り続けて。ふと、気付いた。

 

 

『き、り…?』

 

 

肩で息をしながら周りを見渡す。

 

そう、周囲にいつの間にか霧が出来ていた。

 

確か、チルノちゃんがホワイトさんと喧嘩した時はこんな風に霧が出ていたような気がするけど、こんなに…濃くなかった。

 

 

それに、そのまま進んでも…ずっと霧がある。

 

 

どういうことだろう。というか、そもそも……

 

 

『すごい…しずか……』

 

そう、とても静かだったのだ。

 

森はいつも、良くも悪くも活気だっていた。

 

 

もしかして、と思い。固唾を呑みこみながらも、悪い予感が頭を巡っていた。

 

 

すると、

 

 

「〜〜〜♪〜〜〜♪〜〜♪〜〜〜〜♪」

 

 

『……?』

 

 

遠くからカシュ、カシュ、と…何かを引きずるような音と、楽しげな鼻歌のようなものが聞こえてきた。

 

しかも、その音源は徐々に明確に聞こえるようになり、前方から段々と近づいて来ていた。

 

 

誰だ…?妖精さんの声は全員分記憶している。間違いなくそれらのどれにも当てはまらない。

 

 

『……っ』

思わずヤバいと、感じた。

 

即座に近くにあった大きい木の根の隙間に隠れ、手を口に当て、息を潜めた。

 

 

そして、

 

 

「〜〜〜♪〜♪〜〜〜〜♪♪」

 

 

音源はすぐ近くにまで来た。

 

カシュ、カシュ、と、何かを地面に引きずり続けている。

 

 

 

そして、「あーあ、街なんてすぐに壊れたから来たのにヨシノちゃんも居ないしつまんなーい」

 

 

明確に女の子の声でため息とともにそう言っていた。

 

 

そこでようやく分かった。彼女は本当に女の子だ。

 

引きずるような音の正体は「鎌」だった。

それも小町さんとは違って鎌の刃の部分が凍っているのだ、触れている地面すらも。

 

 

しかし、もっと気になるのは独り言の内容だ。

 

 

(ヨシノ…?街がこわれた…?まさか、ヴァリアントタウンが……?)

 

お願いだから何かの聞き間違いであってほしい。そんな事を考えていた

 

 

瞬間。

 

 

 

 

「そ れ で あ な た は だ れ ?」

 

 

その少女が視界の端でもわかるぐらい口を笑みの形にして、

 

しかし、全く目は笑わずに、鼻先が数センチで頬に当たりそうなほどの距離で、そう言ってきた。

 

 

 

 

『………』

 

 

心臓が、止まりかけた。

 

 

もっと怖そうな人なんて見たことあるのに。

 

 

ただの女の子なのに。

 

 

なのに、恐ろしくてたまらなかった。

 

 

幽香さんが襲われて、お母さんたちが知らない奴と戦って、今の独り言を聞いて、精神が参ってるのかもしれない。

 

 

すると、少女は震える鷹禾を他所に

 

「なーんだ。〝異形〟じゃないじゃん。つまんなーい」

 

そう言って、距離を取ると、そのまま鼻歌を再開し、鎌を引きずっていた。

 

 

幸い、自分が来た方向ではない。

 

だけど、あの子は明らかに敵だ。

 

お母さんたちに何かあったら、ただでは済まない。

 

 

 

だったら…今自分がするべきことは…。

 

 

 

応援を呼ぶことだ。

 

ここからなら、レミリアさんの所だ…!お母さんとレミリアさんは仲が悪そうだ。それに、レミリアさんは気分屋。

 

だけど、必死にお願いすれば動いてくれるかもしれない。

 

 

少なくとも、自分ができることなんてそれぐらいだ。

 

 

 

僕は何の能力もない、頭も良くないし、力も強くないし、誰かを支えることも出来ない。

 

 

だから、これがいいんだ。助けを求めるしかないんだ。

 

 

合ってるんだ。それで良い、それが最善だ。

 

 

 

「最善で救われるなら苦労はしない」

 

 

 

何か、胸から一つの言葉が浮かんだ。

 

誰の言葉だろう。

 

分からない。

 

お母さんじゃない。

 

紫さんや霊夢さんでも、妖精さんたちでもない。

 

地底のみんなでも、街のみんなでも、ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駄目だ。思い出せない。だけど、もう、分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───……ッッ!」

 

 

そして、鷹禾は〝決意〟をすると、深い霧の中でみなの姿が見えるまで鷹禾は走り続けた。

 

最悪な想像をしつつも皆ならば、ある程度は大丈夫だろう…と、思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

しかし。

 

 

 

 

 

『……お、かあ…さ…ん?…霊…、夢…さん…?紫…さん…?』

 

 

 

 

『あれぇ?帰ってきたの?じゃあ、先に、…君から殺さないとね』

 

 

 

魔理沙は大木に叩きつけられ、その身体には何も力が入っていなかった。

 

霊夢は仮面を壊され、頭から腹部にかけて全身を針槍で串刺しにされていた。

 

 

紫は頭から下は全くの無事だが、口元以外が判別不可能なほどまでに頭蓋をグシャグシャに潰されていた。

 

 

 

 

『大丈夫、君を殺したらちゃんと彼女たちも清らかに殺して上げるよ。ねぇ、〝バグ〟くん。』

 

 

 

 

『………っ!』

鷹禾はクラウンに構わず倒れ伏す者たちの元に駆け寄った。

 

 

 

『…霊夢…さん…っ…紫さん…っ!…!!…』

 

言っても叫んでも、彼女たちはピクリとも体を動かさない…霊夢と紫は完全に絶命していた。

 

 

『ッッッ…。お母さん…っ!』

小さな希望にかけて母親の肩を揺さぶりながら声を掛けると、魔理沙は眉根を寄せながら目をゆっくり開けた。

 

 

 

 

「…お…まえ…。…なんで…きてんだよ…」

 

 

 

 

 

 

「……いい…から…、に…げろ。」

魔理沙は声を出すのも苦しいかのように紡ぐ。そして…また…魔理沙の手は弛緩する。

 

 

 

『……あー、なるほどね。君は彼女たちのセリフを〝応援を呼んでくる〟って勘違いしたのかな?…だけど、彼女たちはただ単に君には逃げて欲しかっただけ。…うーん、哀しいすれ違いだね。そのせいで〝命懸けで守ろうとした人間〟が死んじゃうなんて。ま、応援もどうせこれないけど…さ』

 

その様子を楽しんでいたクラウンが愉楽そうに声を発してくる。

 

 

 

「………み、んな…」

鷹禾は口を戦慄かせ、呟く。

 

 

 

『残念でしたー。いや〜…彼女も可哀想だねぇ。こ〜んな、物わかりの悪い子供を持つなんてさ。紫も霊夢も可哀想だよ、少しも役に立たずに不幸だけ置いてくなんてさ』

 

 

 

「……お、かぁ……さん…」

涙を流しながら、呟き続ける。

 

 

 

『まだ分からないの?君は生きてるだけで害悪なんだよ。存在が罪だし気持ちが悪いの。君は誰も守れないし、誰も救えないよ。ただ不幸を呼んでくるだけ。君がこの世界に来なかったら僕だってこなかったさ。つまり、君が殺したんだよ。みんなみ〜んな、お前のせいで死ぬの。わかるかなぁ〜?わかりまちゅか〜?みんなみんな、君のせいで死んじゃったんだよ?君はね、まだ自然に役割があって気持ち悪くても害悪でも「意味」があるゴキブリとかハエとかよりもね、価値がないの。意味がないの。Are You OK?これで分かるでしょ?』

 

小馬鹿にするように、へらへらと笑いながらクラウンは鷹禾に届くように告げる。

 

 

 

 

けれど、そこで。鷹禾の中でぶつりと、何かが取れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、そうだ。何で忘れていたのだろう。

 

僕は……〝また〟コイツに大切な人を殺されようとしているんだ。

 

 

そして……、それに連鎖するように鷹禾は思い出す。

 

 

 

 

 

「は、……ハハッ…。ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」

 

 

 

 

───笑う、笑う、笑い続ける。

 

魔理沙はまだ瀕死と言うだけ、まだ生きている。

 

霊夢や紫もまだ希望はある…。

 

そして…鷹禾は自覚した〝巡りは2度起きる〟ということを。

 

だから、笑うのだ、目先に希望しか見えないから笑うのだ。

 

 

 

 

 

 

『……やっぱり、君は感情の起伏で特異から異常に成るってことかな?』

 

この奇異的な惨状に、一度体験したことのあるクラウンは特に驚かずにそれを見続けた。

 

 

『さぁどうする?また【無盧無奥】とやらでも使ってくるのかい?〝デート・ア・ライブ〟の世界ではそれでしてやられたからねぇ……。今度は僕も概念系の能力で君を殺すよ』

 

 

 

しかし。一つ…たった一つだけ…クラウンは勘違いをしていた。

 

 

 

 

 

「……僕は……お母さんに友達を殺されたんだ」

誰に言うわけでもなく、鷹禾は一言呟いた。

 

 

何かを理解したように、口を三日月のように裂き、笑みを作る。

 

 

 

「……すこし、借りるよ。チルノちゃん」

そう呟いた瞬間。鷹禾の掌から全身にかけて…冷気が漂い…パキパキと鷹禾を中心に波紋のように周囲を凍らせていった。

 

 

 

 

『は…っ?…どういう…』

クラウンは、目を丸くした。

 

結果、反応が少し遅れたのだ。

 

 

 

「今度は殺す…」

真後ろから少年の声が聞こえた。

 

クラウンは、動揺をする。霧が出ているからといって、移動されて気付けないわけがない。まるで…〝瞬間移動されたように〟

 

 

 

そうして…鷹禾は紡ぐあの人たちから貰った、〝天使〟と〝魔王〟を。

 

 

  

『【 贋造魔女(ハニエル) 】──────

 

    【 千変万化鏡(カリドスクーペ) 】』

 

 

 

 

『【 暴虐公(ナヘマー) 】───────』

 

 

 

 

 

───それは、一振りの『剣』だった。 鷹禾の身の丈はありそうな幅広の刀身。金色に輝く鍔に、漆黒の柄。

 

 

 

 

 

───それは、一振りの『剣』だった。鷹禾の身の丈はある幅広の刀身。漆黒の意匠が施された片刃の大剣。

 

 

 

 

 

 

『…そっ…れは…っ!?』

クラウンが手を前に出しながら、狼狽の声を上げるがもう遅い。

 

 

鷹禾は二つの剣を重ねるように両手でそれらを振り下ろしながら────

 

 

 

 

『【 創世の剣(イェツェールヘルブ) 】…ッッッ!!!』

 

 

 

 

その言霊を叫び、クラウンを消し飛ばした。

 

 

霧は晴れ、鷹禾の視点に存在する〝木々〟と呼べるものは全て無くなった。

 

 

 

『ぐ…っ、が…、あぁ…。』

瞬間、鷹禾はとてつもない痛みを胸に感じ、剣を手放した。

 

 

『いま…の』

鷹禾は瞬間、その力の感触を思い出し、声を漏らす。

 

 

殆ど無自覚だったが、土壇場で出来てしまった。あの人たちの力を。

 

しかし、身体には…途方もない疲労感が溜まっていた。もう足を動かす事も叶わない。

 

 

しかし、鷹禾は笑みを作った…やっと、あの摂理を倒すことができた。

 

 

そして、魔理沙の方を見る…、気絶しているし、ボロボロだけど生きてはいる。

 

紫と霊夢も今の自分なら大丈夫だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『【大噓憑き(オールフィクション)】───僕の傷と疲労を無かったことにした』

 

 

 

 

「…ぇ…?」

目の前から、足音と共に聞こえてきた単語に鷹禾は言葉をなくした。

 

 

 

 

『流石だね、…まさか…僕に二つも能力を使わせるなんて。脱帽ってやつさ』

 

 

目の前の少女は…傷も何も付いていない…衣服にすら傷はなく、ただほくそ笑んでいた。

 

 

『ま、もう…動けないみたいだし、【無盧無奥】って奴も使えないみたいだね。、…先にめんどくさそうなこっちを殺そうかな。』

 

クラウンは踵を返すと、大木に倒れ込む魔理沙たちの方に歩いていった。

 

 

 

絶望が再び思考を支配する。

 

 

「…や…っ、やめ…、て…っ!…ぼ、くなら…どうなっても…いい…から…っ!」

 

喘ぎ、咳き込みながらも、必死に声を出す。

 

 

『……辞めてよ、これじゃあ、僕が悪者みたいじゃん。安心して、ちゃ〜んと、見るも無残に、誰だったけ?って、なるぐらい…惨たらしく殺してあげるから』

 

そうして、凄絶な笑みを作ると、再び魔理沙との距離を詰めていく。

 

 

────駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ。

 

 

コイツは何かする気だ。僕が復活させられない方法で。

 

 

 

鷹禾は…力を振り絞って…這いつくばると、クラウンの足首に手を伸ばした。

 

 

 

『なにぃ?手切り落とすよ』

 

 

「凍符──【パーフェクトフリーズ】」

 

その言霊を紡いだ瞬間。

 

足首からピキピキと、肉体が凍りついていく。

 

 

しかし、一切クラウンは焦ることもなく、嘆息をし。

 

 

『弾幕勝負の能力を、戦闘で使うなよ』

 

そんな鋭い言葉と共に鷹禾は蹴り飛ばされた。

 

 

『やっぱり気が変わった。君から殺すよ』

倒れ込む鷹禾の方に足を向けた。

 

 

『なんかさ、お前って生きてるだけでウザいんだよね。被害者面して、一番の悪はお前なのに』

 

言いながらクラウンはその手に光球を作り出す。

 

 

 

 

 

『……?』

が、しかし。クラウンはその殺気を察知して、振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おイ御意…、折れとは、亜村でくれ…姉のか?」

 

 

 

先ほどまで大木に倒れ込んでいた異形が、立っていた。

 

しかし…それは、素人目でも分かるほどに無理をしている。

 

身体からは血といえるのかも分からない黒い液体が流れ落ち、ビチャビチャと音を立てている。

 

身体はふらふらと震え、度々、崩れ落ちそうになっていた。

 

 

『………もう死に体なのに、…本当に死ぬよ?』

 

クラウンは最後の確認のために口を開く。

 

 

 

「其れが…、…息子……の…まえで…生命を…腹…ない…利幽…に…鳴る…ノ…か?」

 

その言葉にクラウンは内心、息子要素を抜けば異形の霧雨魔理沙っぽい。と、思ったが…どうでもよいと、小さく吐息した。

 

 

『あっそ…、じゃあ…もう死んだら?異形の魔理沙に似た誰かさん』

 

ふらふらと千鳥足の魔理沙の首を掴み上げると、そのまま能力を複数発動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

───光で灼け死ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、閉じた瞼を貫通するほどまでに眩しい網膜を刺すような光に、鷹禾を目が覚めた。

 

 

「……ぁ、あ…ああ………ぁぁぁ…」

 

言葉が出ない。喉が引き絞る。顔が引きつる。呼吸すら…ままならない。

 

それを…現実だと認識したくない脳がある。

 

 

ポタポタと…魔理沙から黒い液体が垂れていた。

 

クラウンの手は…魔理沙の首を掴んだまま、もう片方の手で魔理沙の胸を半回転でえぐった。

 

 

魔理沙もそれに反応を示すこともなく…一度、ピクリと、動いた後。

 

 

もう動かなかった。

 

 

 

 

 

『【大現実憑き(オールリアリティ)】──意外と使えるね。君がどんなに不死身で、ある程度聖滅光攻撃を耐えるとしても。死を在ることにして、【大噓憑き(オールフィクション)】で不死性をなかったことにすれば良い。これなら、彼の肩代わりでも復活させられないしね』

 

くつくつと笑いながら、クラウンは魔理沙を放り投げ、自身の手のひらを見ていた。

 

 

 

「……おか…あ…さん、?」

ようやく、言語が思考に追いつき、言葉が出た。

 

その声にクラウンが反応し、ゆっくりと、振り返ってきた。

 

上機嫌そうに微笑みながら口を開く。

 

 

『あ、起きた?僕って優しいね。ちゃーんと、綺麗に殺しておいたよ。まぁ、君も死ぬから特段君得ではないけど』

 

 

「………」

 

 

『言葉が出ない…、か。まぁ、ソッチのほうが楽だ。さっさと殺して上げるよ』

 

 

そうして、クラウンは近づくと、鷹禾の首を掴んだ。

 

 

『じゃあね、バグくん。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────視界は暗転する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─・─・─・─・─・─・─・─・─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「必殺技ぁ?」

 

 

『うんっ!お母さんに考えてほしいの!』

 

鷹禾は目をキラキラとさせながら魔理沙にとあるお願いをしていた。

 

 

 

「…無理。…無い。…とゆーか、お前はそんなのやる必要もねぇ。」

 

 

『むぅ…。僕だってお母さんを守る時だってきっとあるもん!』

 

頬を膨らませながら猛反発するが、魔理沙は手をひらひらと振って軽くいなす。

 

 

「まぁ、名前を考えてやる程度なら良いぞ?」

 

 

すると、途端に鷹禾の目は輝きに変わった。

 

『ほんと?!やったー!』

 

 

 

『それでそれで?!』

催促するように尋ねると、魔理沙は指を一本立てながらその名前を紡ぐ。

 

 

 

 

 

 

「それは───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「〈己壊虚我輪廻無間獄(ルリエル)〉──〈絶望過負荷世界(マイナスリアルディスパイア)〉」

 

 

 

 

『……がっ…?!』

首を掴んだ少年の口元がほんの少し動いた。それを自覚した瞬間に、クラウンに何かが起きた。

 

 

視界が酩酊し、世界が揺れる。

 

全身が上手く動かない。

 

 

『ぎ…ざまっ…な、にを…っ?!』

 

 

 

「この世界にある全てのを今肩代わりしました。そして、全ての負を、…貴方に今、押し付けました」

 

 

 

 

『な…ん…だと…?』

 

驚愕に目を見開く、クラウンに鷹禾は自身の〝決意〟を告げる。

 

「…前にも…言いましたよね。…僕たちは…生きています。例えそれが〝小説や漫画やアニメの世界だとしても〟……。哀しんで、喜んで、楽しんで、怒るんです。……これは、その人たちの痛みです。」

 

 

 

「巫山戯るなぁぁぁ!!!……クソがぁっ…あの役立たずどもがぁぁぁ!!!!」

 

 

鷹禾が言い終えると、クラウンは大絶叫をしてきた。

 

しかし、何かをする前にすぐに身体は崩壊していき…ボロボロに崩れていった。

 

 

 

 

 

もう鷹禾はクラウンには構わない。たどたどしい足使いで…魔理沙の元まで歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん…なさい…。僕のせいで…」

涙を目からポロポロと流しながら魔理沙の胸に顔をうずめた。

 

 

「……泣くな…よ、鷹禾…」

 

 

「…………っ」

鷹禾はバッと顔を上げた…。しかし、すぐにその期待感の顔は悲しみに歪むことになる。

 

 

 

「…鷹禾、……手、握ってくれる…か?」

魔理沙は薄く、小さく、微笑みを作り上げながら言った。

 

「う…っ…、うんっ…、うんっ…!」

鷹禾は思わず顔を伏せながらも、必死に声を紡ぎ、両手で手を握った。

 

 

 

魔理沙は…もう──目は見えていない。

 

耳もほとんど聞こえない。

 

あのクソ女に何かされた直後に死んだと思ったが、少しだけ猶予が伸びたらしい。

 

分かるのだ自然と。自分がもう助からないことを。

 

 

けれど、不思議と嫌な気持ちではなかった。

 

守れた。守れたのだ。

 

この、バカで健気で純粋で無邪気で無垢で。

 

 

優しい自分の息子を。

 

 

 

 

 

『……ごめん…っ…なさい…っ…。僕の…せいで…僕の…ッ────』

 

自責の念に押しつぶされようになっている鷹禾の頭にポンッと手を当てた。

 

 

目は見えずとも…鷹禾がどんな顔をしているか、おかしいぐらいに分かる。

 

 

 

「……おうか…」

 

 

「…な…に…どうしたの…?」

 

 

「辛い時は、笑え。悲しい時も、笑え…。そんで、笑っても解決しないなら…。周りに相談しろ。お前は〝存在してるだけで価値があるんだ〟救われて、助けられて、支えられて当然なんだよ。俺が保証してやる。」

 

言って、ニッと、笑う。

 

 

まるで。最期を悟ったような人間の言葉に…鷹禾は胸が押し潰されるような痛みが襲う。

 

 

「…いや…だよ…。僕……お母さんと…おわ、か…れなんて…嫌…だよ…」

 

 

 

「…はは…っ、…ありが、とな…鷹禾」

でも、魔理沙は…優しい笑みを作って…感謝を述べてきた。

 

 

「…僕、まだ…なにも…お母さんに…返せて…ないよ……」

 

ボロボロと涙が頬を伝う。それを、魔理沙は笑いながら指で掬った。

 

 

「………もう…貰ってるよ」

 

───出会って、鷹禾が息子になった時に…もう、貰っている。

 

 

だから、もう一度言うのだ。

 

 

 

 「ありがとな…おうか──」

 

 

 

────俺を、俺たちを…人間にしてくれて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉を、皮切りに…魔理沙は言葉を喋らなくなった。

 

 

『………うん…。分かったよ、…お母さん』

 

 

鷹禾は…魔理沙を…抱き抱える。涙は枯れるほどに流れたが……最後にその顔は微笑みに変わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜★〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ありがとう。紫さん』

騒動が終わった数日後。鷹禾はマヨヒガにて、変わらずに笑みを浮かべていた。

 

 

 

「……ごめんなさい…。私たちがついていながら…貴方を…いいえ、魔理沙を守れなくて…」

 

 

 

『ううん。大丈夫です。……霊夢さんとも、皆さんとも…、話は終わったので。』

 

 

 

「それで、本当に別の世界に行くの…?」

 

 

『はい。…大事な事を…思い出せたので』

 

 

 

紫は意を決すと、ゴソゴソとスキマに手を入れ…何かを取り出した。

 

 

『……えっ……これ…』

 

それは…鷹禾の母親───魔理沙が付けていた衣服…穴の空いていない白黒の仮面と、真っ黒な外套を畳んだ状態で渡してきた。

 

 

 

「…あの時の戦闘中、言ってたのよ、『もし死んだら俺の形見は絶対にアイツにやる』って、」

 

 

『………』

鷹禾は感極まって思わず涙が出そうになるが、ズズッと鼻をすすって頭を振った。

 

 

『はいっ!ありがとうございます!』

 

 

そうして、紫は最後に言う。

 

「……もし、いつか…どこかの巡りでこの世界に来たら…〝魔理沙の子供です〟って言いなさい。…きっと…霊夢や皆も待ってるわ」

 

 

『………うん…。分かった!』

 

 

おうかは満面の笑みを紫に向ける。

 

それは、いつも魔理沙に向けていたものと何も変わらない。

 

あの子が自慢していた、笑顔だった。

 

 

そして、おうかは踵を返し。深呼吸をする。

 

 

すると、足先が赤白い光となって、段々と薄くなっていく。

 

おうかは最後に…紫の方を振り向くと、ニッと、ほんの僅かに泣きそうな顔でだけども、妙に〝母親に似た顔で〟笑った。

 

 

 

 

おうかの輪郭は無くなり、それらはすぐに光の粒子となって消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

魔理沙と彼が居なくなった後もこの世界は存続していくだろう。

 

 

悲しみには包まれるだろう。

 

 

……でも、きっと…そこに絶望はない。

 

 

おうかは帰ってくる。

 

 

その日まで、絶対にこの世界は守らないといけない。

 

 

「……行ってらっしゃい鷹禾…。頑張ってね…」

 

 

紫は一言…そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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